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観測点上のアリア

作者: 妹ラリスト

「2212年7月7日午後21時。ポイント66より観測データを送信します」


 少女は一人、誰もいない草原の上でポツリと呟いた。

 群青から藍にかけた深い青系のグラデーションの一面に、きらびやかな星々。

――あれはアルタイル。少し離れたところにベガ。デネブは……ああ、あった。

  今の季節だと……あそこに掛かる星の線路。ミルキーウェイ。


――そういえば、銀河鉄道の夜ってのを、いつか誰かに教えてもらった気がする。

――その時はピンと来なかったけど、きっとミルキーウェイを走っているんだわ。


 よく澄んだ夜空は星がいっぱい。

 “アリア”と名付けられた少女は、この場所から見る景色が好きだった。

 もう、何年も何年も、ずっと見てきた景色のはずなのに――。

 それでも、アリアの感情回路はこの空を見る度に高鳴りだすのが分かる。


 どうやらアリアのソレは、もしかしたら壊れているのかもしれない。

 データを観測し、送信するだけのヒューマノイド・インターフェイスとして生み出された彼女達は、実に人間らしく、だがしかし、気持ち悪いくらい精密に作られていた。

 食事は摂るし、トイレにだって行く。ソレは、人間社会になじむために作られた機能。

 当然、感情も例外ではない。彼女たちの感情はまさしく人間のそれであった。

 “感動”という形で蓄積された情報も、学習を通すことで次第に“当たり前”に切り替わるのだ。


 だが、アリアは違った。

 

 ポイント66に配置されたその時から今この瞬間に至るまで、彼女は澄み切った一面の星空に感情を揺り動かされ続けた。

 人間的であるように、されど人間としての第一線を超えないようにと設定された感情回路は、今も彼女の中でクリーニングされ続けている。

 ただ、他の子たちより少し、消し去る割合が多いだけだ。


 それはきっと、幸せなことなのかもしれない。


「2212年7月7日午後21時10分。ポイント66より観測データを送信します」


 彼女は、データ送信時以外に言葉を発することはない。何をするでもない。ただただ空を見上げ続けているだけだ。

 晴れの日も、雨の日も、雪の日も……。


 人間的に精密に、と彩られた感情回路は、きっとアリアにとってもう必要の無い機能なのだろう。

 だが、少し壊れたソレがあったからこそ、彼女が今も狂わずデータを送信し続けられる。

 

 アリア以外の観測点少女は、あまりにも人間らし過ぎたため、既に自らの機能を停止している。

 この現実は、孤独感を理解できるモノには、少々荷が重いのだ。

 この世界で残っている観測点は、もはやアリアしか居ないのだ。


 アリアのソレは今もクリーニングし続ける。感動を無くさないために。

 他の少女たちが苛まれた孤独感に押しつぶされないように。


「2212年7月7日午後21時20分。ポイント66より観測データを送信します」


 アリアはつぶやく。もはや観測者がいない地球のどこかに向けて。

 アリアはつぶやく。既に仲間がいなくなったことにも気づかず、観測点上で。


――嗚呼、あのミルキーウェイを走る、銀河鉄道にはカムパネルラが乗っているのね。

――私もいつか、乗ってみたいわ。


 アリアは今も独奏曲(アリア)を詠い続ける。

 大好きな星空を眺めながら。


「2212年7月7日午後21時30分。ポイント66より観測データを送信します」

言い訳。


おそらくこれを書いてた15分間が物書き人生で最も清らかな瞬間だったのではないかと。

今現在、脳内がおぱんつに浸食された自分を戒めるための作品として残しておきます。

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