お姉さんの旦那様は木工・木彫作家
飲んだくれダウンした男子3人をツンツン突くもピクリとも動かず死んだように眠っている。
「午後から森の中探検ツアーに行く予定だったけど、コレじゃ無理だね」
「これからどうする?花南行きたいとこある?」
「行きたいとこって言っても案内役がコレじゃねぇ」
足で黒澤を転がしてみたけどやはり動かない。酔っぱらって帰宅した旦那を玄関にほかっておく妻の気持ちが少しだけわかった二人であった。
「みんなの嫁攻撃には参ったねぇ、なんで私達が嫁になっちゃったんだろう」
「私達と言うより花南じゃない?」
「黒澤は友人としては最高に良い奴だけど、恋人としては絶対にあり得ない」
「確かに花南の恋のお相手ができる人物じゃないね。それより桃ちゃんって言ったっけ?あの子ならお似合いじゃない?」
「あの子、黒澤が妹って言った時に少し悲しそうな顔したの気付いた?」
「うんうん!やっぱり花南も気が付いたんだ?」
桃ちゃんは黒澤の事好きなんじゃない?応援してあげようか?あのトンチンカンは女心と無縁だからどうにかしないと妹のままだよ!でも秋月君はどうする?いやん三角関係はマズイでしょー!花南も加わったらそれこそドロドロよ!私はないないっ!などなど勝手に妄想始まり女子トーク爆裂。
「もしもしぃ……」
誰かに声を掛けられふと後ろを見ると?
げーっ!黒澤君のお姉さまー!
いつから居たのー!どこから聞いてましたー!?
「楽しそうねぇ」
「えっ……いや、その、おほほ?」笑ってごまかす女子二人。
「透は東京でちゃんとやってるみたいで安心したわ、花南さんとは仕事も一緒なんでしょう?」
「はい。毎日先輩にいじられながらも黒澤君頑張ってます、年上のお姉さま方には大人気ですよ」
「昔から男女問わず友達はすぐできる子なんだけど、肝心の彼女って存在がねぇ」
お姉さんはやれやれと言った顔で溜息をついた。
「そんな事ないですよ、黒澤君モテそうですけど?」
「本気で言ってる?」
「……」
しばしの沈黙のあと、プーッ!と三人で吹き出し笑いだす。ルックスが悪いわけじゃないし何故なんだろうね?やっぱりあのお笑い気質がマズイのかしらねー!誰に似たのかしらー!とお姉さんはお腹を抱えて笑ってる。
「花南さんはすっかり透の嫁になっちゃって、ごめんなさいね」
「みなさん本気じゃないだろうし大丈夫です、気にしてませんから」
「なんで花南が嫁になっちゃったんですか?黒澤君がそう言ったんですか?」
「何かにつけて透が花南さんの話をするので本人に会うの楽しみねーって母さんと話してたのを、ばぁちゃんが早とちりして親戚中に触れ回っちゃったの」
「なるほど……」
「一応訂正したんだけどね。こうなったらノリで楽しいからいっか!みたいな?だからみんな知ってて楽しんでるだけ」
(黒澤家の遺伝子おそるべし)
「でも本当に何もないの?あの子いつも花南さんのこと話してくるのよ」
元気にしてるか心配のラインを飛ばすと返事の中に必ず私の事が書いてあり、電話で話せばやっぱり「今日は花南と……」と言う会話になるらしい。
「それは毎日一緒にいて、仕事も同じだから必然的にそうなるだけですよ」
「そうかしら?透が女の子の事をあんなに楽しそうに話すなんて今までなかったの、だからコレは絶対に何かある!と思ってるんだけど、姉のカンってやつね」
(いえいえお姉さん、何もないですからっ!)
「今時こんな田舎に嫁に来てくれる人なんていなくて、どこの家でも嫁獲得は大変なのよ」
「さっきいた桃ちゃんという子は?」
「うんうん!花南より絶対的に農家の嫁が務まりますよ」
「桃ちゃんはないわね、あり得ない」
なぜかキッパリ言い切ったお姉さんだった。大学卒業したらこっちに戻って桃ちゃんと結婚すればいいじゃない?と黒澤に言ったことがあるらしい。
「あの子ったら桃を女としてみた事はないし、これからもないって言いきったのよ」
「そんなの付き合ってみなきゃ分からないじゃないですか?」
「だよねー!幼馴染同士の結婚ってよくある話だし」
「でしょ?私もそう言ったんだけど。じゃ姉貴は俺のこと男としてみれる?って聞くのよー!そんなの無理に決まってるでしょ?生まれた時から姉であり弟なんだから」
「つまり黒澤君にとって桃ちゃんは完全に妹なんですね」
「そういう事。まぁね透には好きな人生を歩んでもらいたいと思ってるの、希望の会社に入社したわけだしココに帰ってこいなんて言うつもりはないのよ?私はね。ただ田舎だと本家の長男はって考えがまだまだあって色々とね……」
「花南が嫁になったらいいなーって皆さんの願望が、宴会に結びついちゃったんですね」
「私も花南さんが透のお嫁さんになってくれたら嬉しいわ、ふふっ」
冗談で笑っているだけだと分かっていても、何と答えたらいいか躊躇している私の心を察したのか?『じゃ私が黒澤家の嫁を前向きに考えまーす!』とまみが手を挙げ何となくその場が和んで笑いに変わった時だった。コトリと襖の向こうで何か音がしたような?気のせいかな……
「さてと私はこれから店に戻るんだけど一緒に来る?」
「お店ですか?」
「旦那は木工・木彫作家なんだけど、森の中でcafeもしてるのよ」
森の中を車で走ること数十分。おとぎ話に出てきそうな素敵なcafeが見えてきた。
「わぁ素敵なcafeですね!」
「妖精がでてきそー!」
「ふふっありがとう。アレね私達夫婦で作ったのよ」
枕木を再利用したセルフビルドのアトリエと展示室にcafe、そしてとても優しそうな旦那様が私達を出迎えてくれた。
「アナター!透のお嫁さんをつれてきたわよー!」
(ココでもやはりそうなるのか……)