嫁はどっちだ!?
お茶でもどうぞと座ったテーブルには「お漬物」がどどーんと並んでいた。お茶に漬物の組み合わせって?とそこへホカホカしたおまんじゅうも出てきた。「お漬物」に「おまんじゅう」確かに甘いものが続けば塩辛いものが美味しいと感じるだろうけど、何とも不思議な組み合わせだと思っていると。
「うっわー!この白菜漬けおいしいっ!うちのおばあちゃんと同じくらい美味しい!」
「だろ?我が家の漬物は天下一品なんだぜ」
(まみは違和感なく食べている?と言う事はこれが普通なのか)
どれどれと私も漬物に手を出してみる、美味しい!こうなるとコノ渋い緑茶が更に美味しく感じる。こんな食べ方初めてだわと感心して一人モクモク食べていたら
「あははっ!花南がこんな顔して物を食べているとこ初めて見た。ばぁちゃんの漬物どう?」
「あっ、うん、凄く美味しい」
「よかったー!っておぃまみ!そんなに漬物と饅頭ほおばっていたら昼飯が食えなくなるぞ」
「大丈夫、ご飯は別腹だから」
開け放たれた広縁から5月の新緑の澄んだ空気が居間に入ってくる。遠くで小鳥のさえずりが聞こえ時折サワサワと何かが駆け抜ける。そして仲間たちの笑い声……みんなとココに来て本当によかった!こんな穏やかな気持ちになれたの初めて。
都会育ちでギスギスした家庭に生まれ育った私には何もかも新鮮で、こんなに豊かな自然に囲まれた田舎もいいもんだなと心から思えたのだった。
スーッと襖が開き『こんにちは』と、とても可愛らしい女の子が両手にお皿を抱え更なる漬物を追加しに入ってきた。
「ばぁちゃんがコレも持って行けって」
「わぁ美味しそう!コレもおばぁさんの手作りですか?」
まみと二人で両手いっぱいに抱えているお皿を受け取ると、女の子は恥ずかしそうにコクンと頷いた。
(高校生くらいかな?大人しそうなかわいい子)
「桃、来てたのか?」
「透兄ちゃん、お帰りなさい。みなさんようこそいらっしゃいました」
「コイツは隣の家の『桃』、俺の幼馴染で妹みたいなもんなんだ」
黒澤が私達にそう説明すると少しだけ女の子の目が揺らいだ……がすぐに「お兄ちゃんがいつもお世話になっております」と丁寧に頭を下げニッコリと微笑んだ。
(ん?なんだろう、一瞬悲しそうな目をしたよね)
「ところで何で桃がきてんだ?しかもエプロンつけて」
「お母さんがね、お兄ちゃんの家で宴会始まるから手伝いに行きなさいって」
「宴会は夜だし4人しかいないんだから手伝いなんて大丈夫だよ?」
「うーん……たぶん、そろそろ宴会になると思うよ?」
ふふっと笑いながら意味深な言葉を残して桃ちゃんは台所に戻っていった。秋月君は奥ゆかしい桃ちゃんが気に入ったらしく?黒澤に紹介しろと頼み込んでいる。二人の会話を聞いていると、どうやら桃ちゃんと言う子は小さい頃から『透兄ちゃん』と慕い、何をするにもくっついていた女の子で黒澤にとっては本当に妹的な存在のようだ。
ぎゃいぎゃい騒いでいる二人はほっておこうとテーブルに座りなおすと?いつのまに現れたのかハクがちょこんと藤咲君の膝の上に……
(えぇーっ!座ってる!ネコって座るの!しかも背筋ピーンとしてるし)
びっくしてじーっと眺めている私をチラリとみてハクはフンッ!と不機嫌そうに鼻を鳴らし、顔をまた前に向けた。まるでテレビでも見ているかのように。
≪ネコが座ってテレビみちゃ悪いかよ?オレはちまと違って行儀がいいんだ≫
「だよねー ハク君は紳士だもんねぇ」
(まみ、アンタ誰と話してんのよ……)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「透ー!嫁はどこだ?」
「透ー!都会から嫁さん連れてきたって?ちゃんと紹介しなさいっ」
「透ー!でかしたぞっ、これで本家も安泰だ!」
『はぁーい私でーす♪』とニコニコして手を揚げそうなまみを制する、この手の方々に冗談は通じない。さらにややこしい事態を招くだけだ。
「だから違うって!誰だよこんな噂を流したのは、ばあちゃんだろー」
到着早々の真昼間から黒澤家では『透が嫁を連れてきた』と題し大宴会。次々とやってくる「嫁はどっちだ!」の声にもいい加減慣れ、台所でばたばたしているお母さんたちを手伝おうとすると、お姉さんは『今回は』お客さんなんだから座っていてちょうだいといい『主役なんだから座っていてね』とお母さん……その横でニコニコしながら桃ちゃんが「ねっ?宴会が始まるって言ったでしょう?」と微笑んでいる。
あぁ、なぜ誤解が解けないんだ!!