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入社初日と素敵な仲間達

「本日よりお世話になります宇佐美花南うさみかなです、よろしくお願い致します」


退屈な新入社員研修も終わり今日から配属先のシステム本部に出勤となった。入社したN社は第一希望ではなかったので自分としては不本意な就職だったが希望通りシステム部配属となったので、クヨクヨせず前向きにこの会社で頑張っていこう!と決意を新たに出迎えてくれた課長さんに深々と頭を下げた。


黒澤透くろさわとおるです、よろしくお願いします」


一緒に頭を下げて横にいるこの男、入社試験のグループ面接で一緒になって以来なぜか気が合う仲間の一人と言う位置づけとなり奇跡的に配属部署まで一緒となってしまった。


「課長の篠崎です。これから君たちの活躍を期待してるよ。よろしくお願いします」


『こちらこそよろしくお願いします!』


「で、君たちは廣瀬班に入ってもらう。こいつがリーダーの廣瀬だ」


穏やかで優しそうな課長さんの横にはスラリと伸びた長い手足に、高級そうなスーツを嫌味なく着こなしている世にいうイケメン男子?でも何だか冷たい感じのする人が立っていた。


黒澤と2人で廣瀬さんに向き直り「よろしくお願いします!」と頭を下げるも?廣瀬さんは「あぁ」と言ったきり背を向けツカツカと歩き出してしまったのだ。困った私達は課長さんに救いのまなざしを向けると?


「あはは、アイツは無愛想なヤツだが人間は出来てるから大丈夫だよ、安心してついていくといい。頑張れよ!」


『ほら行きなさい』とでも言うように課長さんはあごを廣瀬さんの方に向けて苦笑した。私達はペコリと課長さんに頭を下げて慌てて廣瀬さんの後を追いかけたのだった。


「お前たちのデスクとマシンはこれだ勝手にいじってくれて構わない。重要なパスについては後日説明する、社内使用については研修で説明された通りだ理解してるな?」


「はい」


「これが今抱えている内容の資料、こっちが昨年度うちの班が担当した主なシステムの資料だ」


廣瀬さんの指差した机の上には、大量の資料やファイルが積み重ねられていた。


「この資料全てに目を通し、今後どんな流れでどう仕事していくのかを理解しておけ」


「はいっ!」


「同時に俺たちが今どんな状況で、それぞれがどう動いているのかも勝手に観察していろ」


「勝手にですか?」


思わずそう声に出てしまった。


(うわっ!眉間にシワよったわ。新入社員押し付けられてめんどくせ~オーラ全開って感じ?)


「俺たちは週末納期を1本抱えている。つまり今お前たちに構っている余裕は一切ない。よって週末まで質問は受け付けない、自己解決しておけ」


「自己解決って?わからないままでいい。間違った情報を取り入れたままでいいと言う事ですか?」


黒澤がバカみたいに元気よく手を挙げて質問すると、冷たい目の奥がキラリと光り少し呆れた様子でワントーン下がった廣瀬さんの声色が低く響いた。


「お前の自己解決方法はそういう事なのか?」


「あっ……いえ、でも質問は受け付けないって言うし、どうしたらいいのかなぁと思いまして」


この状況で少しヘラッとしながら廣瀬さんに言いかえす度胸は大したもんだわと思いながらも、心の中で『いいぞ黒澤!』とエールを送った。


「疑問点があった場合、それをレポートにして俺の机の上に置いておけ」


「レポートって手書きって事ですか?」


「……」


これ以上廣瀬さんのお怒り山の噴火レベルが上がらないうちに、私は慌てて「はいっ!わかりました」と答え黒澤を制した。


「それと今週は定時になったらさっさと帰れ、今のうちに定時で帰宅できる喜びを噛締めておくんだな。以上だ」


それだけ言うと廣瀬さんは沢山の資料を脇に抱えフロアを出て行った。何が起きたのかわからなくポカーンとしていたら少し離れた所にいた数人が声をかけてくれた。


「ははっ、廣瀬のやつ相変わらずだなぁ。びっくりしただろ?」


「あっ…いえ」


「まぁなんだ、マジ俺たち今週はハードだからさ勘弁してくれよな?質問は俺が答えてやるから遠慮なく声かけろよ?」


「はい、ありがとうございます。これから宜しくお願いします」


その後廣瀬班の人が一通り挨拶にきてくれ、ペコペコ頭を下げながら心の中で『よかった!変な人ばかりじゃないみたいだ』と心底ホッとしたのだった。


「なぁ花南?あの人なんなんだ?俺達は邪魔だからこれ読んで大人しくしてろってことかよ?俺ちょっと腹立ったかも」


新入社員押し付けられてちょー面倒!とか思ってんじゃねぇの?俺達に仕事教える気とかサラサラないって感じだよなぁ……とブツブツ文句を言う黒澤君を尻目に、私は机の上にある資料にザッと目を通した。


「そうでもないみたいだよ?」


「えっ!?」


揃えられた資料は完璧なものだった。私達が疑問に思うであろう事案に対しては解決方法が記載してあったり細かく手が加えられ説明されていた。週末納期を抱えているという事はとてつもなく忙しいのだろう、なのに私達の為にこれだけの資料を用意してくれたんだ。


(人は見た目じゃわからないって本当だわ……)


言っている意味が分からないとでも言うようにポカーンとしている黒澤を相手にせず、私は黙々と資料に目を通し始めた。時折周りに目を配り様子を伺ってみたり、さり気なく先輩たちのマシンの画面を後ろから覗いてみたりして配属一日目を終えたのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「それでは28年度入社、第一回同期会!今いる仲間と定年まで何百回と開催されることを願いかんぱーい」


『かんぱーい!』


それぞれが隣の人たちと和やかに乾杯。私の周りにはごく自然にこの4人が当たり前のように集まってくる。


「定年まで、俺はこの同期会の幹事をやり続けるぜ!みんなついて来いよぉ」


この乾杯の音頭をとったのは秋月大地あきづきだいち、ゲームでパーティ組んだら真っ先に敵に向かって切り込んでいくタイプ。


「グループ面接での仲間5人が揃って入社。しかも全員同じ本社勤務だなんて凄い偶然、というより奇跡ですよね」


物腰柔らかな落ち着いた感じの好青年が藤咲智昭ふじさきともあき


「思い出すよなぁー、俺ら全員内定とれたのは花南のお蔭だよな!俺なんてあの時あがっちゃって何言ってたんだか全然おぼえてねーもん」


不思議な物体で明るさだけは天下一品、ちょっと頼りなさそうな男。そうこれが配属が一緒の黒澤透くろさわとおる


「だよねぇ、私なんて待っていた時からドキドキして頭真っ白でどうしていいか分かんなくて、泣きそうだったのを花南に助けてもらって何とか通過できたんだもん!ね~花南ぁ♪」


そう言いながら私の腕に抱きついてきたフワフワ女子。底なしの優しい心を持っていて思いっきり斜め上行動をとる甘えっこの青山まみ。


「別に私は自分の為にしただけであって、黒澤を受からせるためにしたんじゃないわよ。まぁまみはどうにかしないと全員落ちる事になりそうだったから必死だったけどね?」


「わぁーん花南大好きぃ♪」


甘えて寄り添ってくるまみの頭をよしよしと撫でながら、これから私の社会人としての人生がどうなるのか?楽しみでありちょっぴり不安でもあった。でもこの仲間たちと一緒なら乗り越えていける!そんな気もしていたのだった。


あっそうそう、私の説明がまだでしたね。

冷静沈着。ついたあだ名がクールビューティ。T大工学部主席卒の将来有望なキャリア街道まっしぐらと陰口叩かれていてもビクともしない鉄の心の持ち主……らしいです。

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