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2.会いたくて (2日目)

 ~(子爵領内の本邸にて)~



「ヒューお兄様!」


 辺境伯領から王都の方向に馬でほぼ1日のところに有る、我がレイヴン子爵領。

 そのレイヴン子爵邸の執務補佐の部屋に飛び込み、相手を見つけると同時にその胸に抱きつく。


「え?!」


 その相手、ヒューお兄様は、乳母のマリアの息子で私より7つ年上の、いわゆる乳兄弟。マリアはレオンお兄様の乳母でもあるから、ヒューお兄様はレオンお兄様にとっても乳兄弟になる。

ちなみに、ヒューお兄様は、レオンお兄様より2つ年上。


「よかった!ヒューお兄様、居た!」

「ジュリア?」

「お願い!助けて!」

「は?」


 2年前までは辺境伯領で父の補佐をしていたけれど、今は子爵領で仕事をしていて、滅多に会うことはなくなっていた。

王都と辺境伯領を繋ぐ街道に位置する子爵領は、連絡や交通の要所。だから、子爵領でお父様の代理を務めることは、お父様からの信頼の証でもあり、ヒューお兄様にとって名誉でもある。

それでも、2年前、ヒューお兄様が赴任するとき、私は大泣きした。ずっと傍に居たヒューお兄様が居なくなってしまうのが淋しくて悲しくて苦しくて……。しがみついて大泣きして、「行っちゃ嫌だ」と言うことさえできないぐらいに泣き喚いた。


「結婚させられてしまう!」

「な!?」

「結婚なんて嫌よ!」

「!」


 そして今、久しぶりに再会したヒューお兄様に抱きついて、私はまた泣いている。思ったようには言葉を言えず、ひたすら「ヒューお兄様」と繰り返しながら。今回は、寂しさや悲しさ以上に、苦しさが大きすぎるほど大きくて……。






「……そんなにも結婚するのは嫌かい?」


 かなりの時間泣き続けて、私が少し落ち着いた頃、ヒューお兄様から出た質問にビクリと体が震える。


「嫌よ!」

「どうしても?」

「なんで? なんで、そんなこと言うの?」


 静かな口調から、ヒューお兄様も既に事情を知っていることが分かる。


「どうしても嫌なんだね?」

「嫌だって、さっきから言ってるでしょう?!」


 最初の質問には更に強く抱きついたけど、その口調の静かさに心が冷える気がした。


「……分かったよ。子爵には俺からも話す。だから、母が迎えに来たら帰るんだよ?」

「ヒュー……お兄様?」


 そして、以前のように抱きしめてはくれなかったことに、なだめるために片手を私の頭にのせているだけなことに気づき、血の気が引くのが自分で分かった。



「一人で馬で来たんだろう? 相変わらずお転婆だね。さぁ、ほこりを落として、泣いて腫れた目を冷やして。」

「……はい。」

「どうせ、ろくに食事もとらずに駆け通したんだろうから、後で軽食を届けさせるよ。だから、それを食べたら休みなさい。もう今日は夜遅いからね。」

「……はい。」


 拒絶こそしていないものの、受け入れる気は無い……そういうことなのだ。






 そして、翌朝の朝早く、私は子爵邸をった。マリアはもう近くまで来ているから、こちらからも出発して合流することになったのだ。




「私は、お嬢様が居なくなったと聞いたと同時に子爵様に言付けを残して出発しましたから。」


 予想外の早い到着に驚く私に、再会したマリアは笑顔で答える。こんなにも早くて、眠ったのか、無理してないかと問うと、ちゃんと途中の宿で休んだから大丈夫だと言う。


「あの状況で、お嬢様のあの状態で、となれば行動は決まってますからね。」

「……ごめんなさい。」


 生まれた時から私を知ってるだけに、私の行動パターンはしっかりつかんでいる。


「今ごろ、ウチのバカ息子は辺境伯領に入ったあたりでしょう。お嬢様を保護すると同時に自ら飛び出してますからね。」

「……ヒューお兄様に会ったの?」


 当然のように、息子であるヒューお兄様の行動も分かってるみたい。


「会わなくても分かります。」

「……。」


 いつもなら喜んで聞くヒューお兄様情報も、今は少し胸が痛む。と言いつつ、今なお、喜んでる部分も有るのだから、ホントに重症。

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