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「僕たちはフローディア侯爵に挨拶してくる。訓練修了証明っていう兄さんの記述が必要な書類があるはずだから、見ておいて」

「ミチル、またあとでね」



二人がいなくなり、途端に静かになった。

気まずい。



「書類見してくれるか」

「あ、はい」



布団の上に広げていた資料の中から、リョウヤが言っていたものを探す。見つけて手を伸ばすと、ちょうどイツキの手と重なる。

驚いて引こうとしたが、先にギュッと握られてうごかせなかった。


倒れて微熱も出ていたのか、ほてった手に添えられたそれは昔のままひんやりとしていて気持ちいい。


そして、物理的な温度の奥にある暖かなものも変わってなくて。

ミチルは、イツキのこの暖かさが大好きだった。

柔らかい毛布でくるむように、大事に思ってくれていることが伝わってくる暖かさ。


これが嘘だなんて思いたくなかった。



心臓が落ち着かない。余計熱が上がりそうだ。

赤くなっている自覚のある顔を見られないようにそむけつつ、恐る恐る声をかける。



「あの、イツキさま?」

「ミチルは、リョウヤと再び婚約するつもりはないんだな」

「そうお答えしたはずです」

「そうか。なら、もう遠慮することはないな」



いつの間にかベッドに腰かけていたイツキに、うつむいていたせいで顔にかかっていた髪をかきあげられる。

頬に手を添えて上を向かされる。



なんだなんだなんだ!



頬に当てられた手には確かにあの指輪の感触があって、まさかそんなことされるはずないと冷静に判断する自分と、もしかしてと期待してしまう自分がいて。



「たとえミチルが俺を必要としていなくても、俺はしたいようにすることにする」



『ミチルが俺を必要としていなくても』?


どういうことだ。

私は彼と出会ってから、その存在に依存し続けているのに。

会えなくなってからだって、何をするにも原動力は全て彼で。



「ミチルはやりたいことがあるんだろう、だから邪魔はしない。けど勝手に傍にいさせてもらう。代わりにだって喜んでなる。ただ、嫌ならそう言ってくれ」



彼は何を言っているのだ。問い返したいけれど、そんな場合じゃない。



ちゅ、と耳元にキス音が響く。



ますます顔を赤くするミチルにイツキは満足そうに微笑みながら、髪におでこに頬に、軽くキスをしていく。



次は…?と思ったところでノックの音が響く。


イツキはスッと離れ、何事もなかったかのように椅子に腰かけ、書類に目を通していた風をよそおう。



「ミチルさま、リョウヤさまとユリアさまがお戻りになりました」

「お通しして」



助かった。心臓が壊れるかと思った。



「あらミチル、顔が赤いわ」

「…熱が、上がってるみたい」

「ふうん?」



そう言いながらチラリとイツキを見やるユリアには気付かれているのではないだろうかとヒヤヒヤする。







「兄さん、どう思っているんですか」



ミチルの家を出た帰りの馬車。


リョウヤはイツキの真意を知りたかった。


ミチルとは婚約を解消してしまったけれど、そのまま結婚してもいいと思うくらいには好きだった。

本当に愛する人を見つけて、それは親愛の情だったとわかったが、それでも大事な存在であることにかわりはない。

もちろん兄のことも大事に思っている。


だから、二人には幸せになってほしいのだ。



「なにがだ」

「とぼけないでください、ミチルのことです。彼女は、生涯不犯を貫くつもりのようですよ」

「そうらしいな、お前のせいだ」

「何言ってるんです、どう考えたって兄さんのせいでしょう」



呆れた目を向けてくる弟は本当に可愛くない。

何よりミチルに呼び捨てされているのが気にくわない。



「俺は、ミチルのことを愛している」



急に本心を語りだした兄に驚き息をのむ。



「ミチルが眠っていた一年、生きた心地がしなかったよ。目を覚ましたと聞いて、もう傍から離れるものかと誓った」

「なら、妻にしてしまえばいいじゃないですか」

「俺は、ミチルが望まないことはしない」



欲求を抑えられずに散々触ったあとなので何だが。

けれど、ミチルも嫌がっているわけではないようだった。真っ赤に頬を染める姿が可愛くて、潤んでいく目が蠱惑的で、どうにも歯止めがきかなかった。

あのときちょうど二人が帰ってきてよかった。



「わかりました。ミチルが望めばいいんですね?」

「やめろリョウヤ。お前が口を出すと話がこじれる」

「さっきからホント何を言ってるんですか」


「イツキさま、リョウヤ」



ずっと静かにしていたユリアが、美しく聖母のように微笑みながら口を挟む。

その表情は何かを企んでいるときのもので。



「皆さん勘違いしているようですけど、ミチルと婚約できるのはなにも王家だけではなくってよ?」






「はくちっ」

「あらミチルさま、先程からくしゃみが止まりませんね。風邪も召されてしまいましたか」

「どうかしらね…」



一応、とカンナに手渡された薬を飲み下す。


変な噂されてなければいいのだけど、と考えながら上掛けに潜りこむと今日のことを思い出す。


ダメだ、頭が沸騰する。



「…カンナ、私今日はもう寝るわ」

「それがよいでしょうね。では、失礼します」



そうはいっても眠れそうにない。

と思っていたが、薬が効いてきたのか瞼が重くなる。





みちる、選択肢がある乙女ゲームが羨ましいわ。

病弱令嬢はどうしたらいいかわかりません。

イチャイチャさせたった。今は反芻している。


この言い回し好きです。流行ったのはちょっと前なんですかね。

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