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「いた。あそこの髪が短めの女性であってる?」

「そうね、スージ村の被害者にいたはずだわ」



ミチルは今、ユリアとともにサピエの国中のあちこちを訪ねて回っていた。

以前サピエに誘拐されていったロイスタリア人を探すようにナナキに指示されたためである。



ほとんどは今回の事件で捕らえられた貴族たちのところで働かされており、ミチルはその人たちを保護しリーディングして本人かを確かめるまでが最初任されていたことだった。


市井で暮らしている者については追ってキクトやリクが調査し、ロイスタリアに連絡をしてくれるはずだったのに、どこからか前にイツキの心を覗いたことがバレたらしく、ナナキに『罰だ』と仕事を任された。



どうしてこれが罰になるのかがわからないが。

確かに人の心を読み続けるのは大変だけれど。


むしろ、イツキと距離をおけるからミチルは助かった。

そろそろその仕事も終わってしまうのが残念なくらいだ。




行方不明者のリストはペンシル家に保管されてあったので、ユリアに持ってきてもらった。

そのリストには誘拐された日時、場所、その人の特徴や年齢が記されており、なんと彼女はそれすらも暗記してしまっているので、一緒に人探しを手伝ってもらっている。


それが必要になると気付いていたらしい。

やっぱり、ミチルの考えはばれていたのだろう。





リョウヤとナナキも護衛に一緒に来ていたが、今は領主に呼び止められ、カンナもいるから平気と二人を置いてきて、接待を受けて(犠牲になって)もらっている。


サピエにはロイスタリアより読人差別が強く残っているが、さすがにどこからどう見ても高貴なミチルと、ガタイも良く名の知れたナナキにあからさまな差別をするものはいなかったし、今頃領主はしっかりゴマをすっているだろう。




「私は帰りません。家族がいますし、仕事もあるので」



彼女は誘拐犯のもとから逃げ出してこの街にたどり着

き、孤児として保護された。


そして村の青年と結婚し、もう子供もいる。



「わかりました。では、サピエに正式に戸籍を登録します。その後サピエ国王より慰謝料が、ロイスタリアからは支援金が届けられると思いますので、その際はどうかお受け取りください」




書類に了承のサインをもらい、戸籍登録用紙にも記入してもらう。


この世界はひとつの言語しかないため、サピエとロイスタリアの言葉も文字も同じだが、誘拐された人の中には文字の読み書きができない者もいた。


この女性は美しい文字を書いている。

ロイスタリアにいた頃に学んだのだろう。


ミチルはじーっと見つめていると、女性はそれに気づき微笑む。



「街の人たちに読み書きを教えているんです。この街も識字率はあまりよくないから…。国からいただけるお金でちゃんとした学校みたいなものができたらいいなーって」



すごい。


この人は不運な境遇にも負けず、立ち向かい、そこで自分のやるべきことを見つけている。


ミチルはイツキのためにと今まで頑張ってきたが、それももう終わった。

しかも、結局はイツキ本人の力で片付いてしまった。



自分がこれからどうしたらいいのか、どうしたいのか、まったくわからなくなってしまっていた。



何かを察したユリアは自然にミチルから会話を引き継ぐと、和やかに会話を続けた。




女性が書き終えた書類を受け取り、その日泊まることになっている宿にむかうと、談話スペースにはすでにナナキとリョウヤがいた。



「あら、早かったわね」



ユリアがそう言うと、リョウヤは苦笑を返す。



「さすがに疲れてね」

「あのじいさん、『ぜひ孫を愛娼に』とかすすめてきやがった!ロイスタリアじゃ考えられん!」



サピエはロイスタリアとは違って、一夫多妻制をとっている国だ。愛人を囲うのもよくある話らしい。



「しかも、その孫っていうのがレイとちょっと似ててさ。『ちゃんと幸せ考えてやれこのスットコドッコイ!』ってナナキが怒っちゃって」

「あー、レイちゃんに会いたいなあ、愛しい我が娘~」



ソファにだらしなく横になり、置いてあるクッションに抱きつくナナキ。




そして、ミチルはふと思う。


とっくにロイスタリアへと帰ったイツキは、今はレイと一緒にいるのだろうか。



ミチルの表情が暗くなったのをみたナナキは、クッションの影からニヤッと笑う。



「なんだ、ミチルもイツキに会いたくなったか」



リーディングしたわけでもないだろうに、この先生は本当に人の考えをよく読む。



「いえ、別に…。レイさんに申し訳ないですし」

「ん?なぜそこにレイがでてくる」



ナナキは本気でわかっていないらしい。

さっきはスバッと人の考えを当てたくせに、なぜこうも言いたくないことは言わせるのか。



「私がイツキさまをお慕いしているのは、恋愛的な意味でだと、先生もわかっているでしょう。イツキさまの側にいればその想いを隠しておくことはできません」

「いや、だから、隠さなくてもいいんじゃないのか?」



うんうん、とユリアとリョウヤも頷いている。

なんでよ!さっきは領主を批判してたのに!



「結婚している方に、そんな不貞、できるわけないじゃないですか!」



ミチルははあ、はあ、と肩で息をする。



いつもなら倒れないかと心配して誰かが支えに来てくれるが、今は沈黙がおりるばかりであった。



「ミチル…ごめん、誰が結婚しているって?」



瞳をパチクリとさせながらナナキが聞いてくる。



「そんなの、レイさんとイツキさまに決まっているでしょう!」

「ええーっ!?そんなこと聞いてねえぞ!どういうことだ!」

「お、落ち着いてくださいナナキさま!ミチルもよ!」

「そうだよ、ミチル。どこからそんな話、聞いたの?」



誰から『聞いた』?

いや、誰かから聞いたわけではない。



ミチルがそう思ったのはーー



「え、だって、イツキさまはティアード家に婿養子に」

「ただの養子だ」


「左手の薬指に指輪がしてあって」

「あれはティアード家のものならみんなつけている。封蝋の代わりになるやつだ」


「レイさんが、『私のイツキさま』って!」

「あいつは姉しかいなくてずっと兄が欲しかったんだよ。イツキが養子に来て一番喜んでいた」



「昔、心を覗いたとき私を拒否していました!」

「それは、ミチルはリョウヤとできてると勘違いしてたのと、親友が姿を消していて落ち込んだのとを拗らせてただけだ」




な、なんということでしょう。

すべてが勘違いだったではありませんか。





みちる、事実は小説より奇なり、ってこういうことかしら。

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