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ヒーロー、始動



ーー時は二ヶ月ほど遡る




イツキは王城に来ていた。



自分がミチルのために何ができるのかを考えていたが、そもそもミチルが何をしようとしているのか知らないことには結論は出ようがないことに気付いた。



とにかくそばで支えてやりたいと思っていたが、ユリアやリョウヤの口ぶりからしてきっとそれだけでは足りない。



俺が学院に行っている間ミチルは何をしていたのだろう、と考えたところで彼女は王城に頻繁に通っていたらしいことを思い出す。


ずっと王妃修行のために来ていたのだと思っていたけれど、もしかして違うのかもしれない。



ミチルが国に仕える気でいるのはわかっている。

ということはその頃王城でやっていたことも、たぶん国のこと。



となると、訪ねる相手は一人しかいない。



「国王陛下、イツキさまがいらっしゃいました」

「通して」



返事はしたものの、カズサは入室してくるイツキに目もくれず執務を続ける。

その間イツキは臣下の礼をし、頭垂れたままだ。


実の息子とはいえ養子に出た身、しかも相手は国王。

イツキから口を開くことはできない。



「イツキ、やっときたんだね」



しばらくしてカズサの声がすると、目の前の床に影がさした。

いつの間にそばまで来ていたのか。



「もっと早く来ないか、バカ息子ー!!!!」



スパァン!



頭上に何かが降り下ろされる。

痛いわけではないが、音が派手で驚く。



「っ、何するんですか!」

「バーカバーカ、このヘタレ!

これはハリセンって物だよ、ミチルが教えてくれたんだ。あげないよ!」

「いりません!」



ふーんだ、と顔を背ける元父ちちと、まともに話が出きるのか不安になってきた。



「あの、お聞きしたいことがあるのですが」

「わかっているよ、ミチルのことだろう。

申し訳ないけど、イツキには話したくないんだ」



カズサの眼差しは今まで見たことないくらい鋭い。

それだけ重大なことなのか。そんなものにミチルが関わっているなら、余計助けになりたい。



「だって、だって…


ミチルのしようとしてることを話したら、ミチルがイツキのこと大好きで大好きで仕方ないって勝手に伝えるようなものなんだよ!?


そんなヒドイこと、私にはできないよ!」



できないと言いつつもがっつり口にしてるように聞こえたが。



というか。



「ミチルが、俺のことを好き…?」



カズサはいったい何を言っているのだろう。

ミチルが好きなのはリョウヤではないのか。



「そうだよ。お前が何を思ってミチルを振ったのか知らないけれど、それでもミチルはお前のことを思ってずっと動いてるんだよ」

「…ちょっと待ってください、話が見えません。

まず、俺はミチルを振った覚えがありません」



というか、告白された覚えもない。


カズサはやっぱりね、と納得したかのような顔だ。

何がなんだかイツキにはまったくわからない。



「まあ過ぎたことだし、そんなことはどうでもいいよ。気になるなら直接ミチルと話すことだね。


お前が聞こうとしていたのは、ミチルが何をしようとしているのか、だろう?」



本人に「お前は俺が好きなのか」と聞けというのか。なんて無茶な。


要するに、本題以外のことは喋らない、ということだろう。全然納得いかないが仕方ない。



「ミチルはこの国に入り込んだサピエの手先を排除するつもりだよ。正式に官吏になったら外交官としてサピエに遣わし、リーディングで向こうの内部事情を洗い出してもらう予定だった」

「それは、もともと父上が進めていたものではないですか!わざわざミチルがサピエに入り込まなくとも、すでにこちらのものが潜伏しているでしょう!」


「ミチルから協力したいと言ってきたんだよ、イツキのために、とね。

ミチルが手伝ってくれれば手っ取り早いし私としては助かるし」



俺のため…?



ポカンと間抜け面をしたイツキに、カズサは仕方ないなと説明してやる。



「そう、お前のため。お前が、この国で穏やかに暮らすため。

イツキは考えたことないのかい?何故あんなにも母親に遠ざけられるのか」



それは、俺が読人で、嫌われてるから。



「まさか、単に読人だから、とか思っていないだろうね。私がそんなくだらない差別をする人間を妻にするはずがないだろう。


サピエの阿呆貴族どもは読人とみたら利用することしか考えない奴らだからね、あわよくばイツキをサピエに連れ帰ろうとしている。

お前は私に似て見目も良いからね、いったい何をさせる気なのかは考えたくもないが。


私とヤヨイを離縁させて、イツキをサピエに引き取るつもりなのさ。どうやって離縁させるつもりかは知らないけど。

ヤヨイはね、万が一離縁したとして、間違ってもイツキが自分に着いてきたいと言わないように、嫌われようとしたんだよ。

まあ、お前が城に居づらくなるようにサピエの手先たちが工作していたから、余計関係が悪化したんだけど。


ヤヨイは見張られているから、お前に事情を説明するわけにもいかなかったんだよ。

私は、お前が自分で気づかない限りは話すつもりもなかったしね」



そんな事情があったなんて考えもしなかった。

カズサの言う通り、俺はなんてバカなんだろう。



「ミチルはヤヨイの本心に気付いていたし、城にいるサピエの手先がイツキの居場所を奪おうとしていることもわかっていた。


イツキがミチルと婚約してフローディア家に入ればその間に私が片付けてしまえばいいと思っていたけど、そうもいかなくなったから、『ならば私が城を綺麗にします』とミチルは名乗り出たんだ。


リョウヤと婚約しておけば城を出入りするのも不自然ではないからと、二人は仮に婚約しただけ。ミチルの心はいつもイツキに向いていたよ」



いったい、俺とミチルの間にどんなすれ違いがあったのだろう。そんなにも思われているなんて、まったく知らなかった。



「結局今ミチルには、サピエを根本的に建て直すための手伝いをしてもらっているよ。王座に座るべき人を国に帰すべくね」

「王座…キクトか!」



カズサは良くできました、と言わんばかりに微笑む。



「そう。ただ、彼を国に帰すだけじゃ阿呆貴族たちが残ったままになるから、そっちはナナキに任せているんだけど…

ミチルの助けになりたいというなら、キクト王がサピエに着いたら速やかに治世につとめられるよう、ナナキと一緒にサピエで動くといい。ナナキはまだ国境にいるから、全力で馬を走らせれば四日で着く」



か弱い少女が、想う人が、ここまでしてくれているのに自分が何もしないわけにはいかない。



「行きます。王命をください」



もう一度姿勢を正し臣下の礼をとる。



「ロイスタリア王として命じる。ナナキと共にサピエへ侵入し、内密にキクト王を補助せよ。政治を荒らし民を虐げるサピエ貴族に容赦はいらない」

「はっ!謹んで拝命いたします!」




ミチル、もしお前がまだ俺を想ってくれているのなら。


すべてが終わったあとに話を聞かせてくれないか。

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