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レベル上げ



キクトと恋人のフリを始めて一ヵ月がたった。


向こうから接触してくる気配はない。

様子を伺っている感じはあるので、もうひと押しといったところか。



『まだ恋人っぽさが足りないのかもしれませんよ。私はもっと頑張ってもいいですけど…ミチルさん、どうします?』



とキクトに言われたが、私が努力するのでキクトは現状維持を、と即答でお願いした。



彼は今の時点で相当に甘々で。



『ミチルさん、膝枕してほしいです』

『本当、声も可愛いですね。もっと名前呼んでほしいな』

『またご飯つけてる。…食べてほしいんですか?』

『あなたはそんなに可愛くて私をどうしたいんです。閉じ込められたいの?』



ーこれ以上頑張るって、何がどうなるんデスカ



経験値ゼロのミチルにはすでにだいぶハードルが高かった。


どうにかして自分のレベルを上げなければ。




「レイさん、普段イツキさまとどんな感じだったの?」

「はい?急にどうなさったの」



レイ・ティアードとは何故かその後仲良くしている。


「疑って悪かったわね!」と謝っているとも思えない態度で謝罪に来たと思ったら、「次の講義、同じみたいだから一緒に行ってさしあげるわ!ここ、少し遠くて迷うのよ!」と案内してくれた。親切。


ヤクモがとっていない講義で、迷子になりそうだと心配してたから助かった。



「どういうふうに振る舞ったら、キクトさまにより好意を伝えられるかなあと思いまして」



どうしたらいいのか手詰まりだったので、レイに聞いてみることにした。


己の古傷を抉る行為のような気もするが、他に聞ける人もいない。ユリアに聞いても素直に答えてはくれないだろうし。



「なるほど、そういうことですのね。

わかりますわ、想いが充分に伝わらないこと程もどかしいものはありません」



そういうことにしておこう。



「そうですね、ミチルさんはまずもう少し親密さを表現すべきだと思いますわ」



親密さ。どういうことだろう。



「例えば、何かしてもらうときに『頼み事』ではなく『お願い』という形にするのです」



おお!その手法はキクトもよく使っている!



「あと、淑女たるもの度が過ぎてはいけませんが、少し言葉を崩すと良いかと。はい、と答えるところを『うん』にしたり、『ありがとう』『嬉しい』などの喜びを表す言葉も距離を縮めてくれるワードです」



ほうほう。確かに、恋人同士なのにあんまりきっちりとした敬語で話すのもおかしい。


ユリアとリョウヤも友人のように話しているし。



「最後に。…あまり大きい声では言えませんが、少々身体を密着させるのもひとつの手かと」



寄り添い合った方が恋人らしい、と。

ふむふむ、レイの言うことは的を射ている。



「ありがとう、レイさん!とても勉強になったわ!」

「ミチルさんのお役に立てたなら光栄ですわ」



よし、早速今日のお昼に実践してみよう。

良いアドバイスをもらってミチルはやる気満々だ。



この決意がキクトを暴走させるとも知らずに。





昼。


いつも通りキクトとともに中庭でご飯を食べるが、ポジショニングは変えてみた。

普段は向かい合うか、隣り合っていても多少の距離を置くが、今日はぴったりくっついて座る。

もちろん、食事の邪魔にはならない程度に、だが。


キクトは一瞬びっくりしたようだが、すぐに笑顔になっていたので、密着作戦は成功のようだ。




「ミチルさんが作ってくれる料理は本当においしいですね。毎日食べれるなんて、私は幸せ者です」

「嬉しい!

きっと素材が良いからです、材料を用意してくれている者にも伝えておきますね」



言葉崩し作戦、うまくいった!…のか?なんか違った気がする。


キクトも苦笑いしているし。



「作るの大変じゃないですか?」

「いえ、じゃなくて…ううん、これくらい手間ではありませんよ」



うーむ、難しい。全体的に恋人っぽくない気がする。

慣れればもっと違うのかしら。



「ミチルさん」

「はい?」



なにやらにんまりとしたキクト。


ちょいちょい、と耳を示しながら手招きているので顔を寄せる。

よからぬことを考えている気がするが、逆らったらよりハードルが上がることはもう学んだ。



「努力はわかりますが。ここは『愛情込めてますから』とか『あなたのためですから』と答えないと。


それに、こんなに無防備にくっついて。何をされても文句は言えませんよ?


…上手にできなかったから、おしおきです」



そういうと、キクトはミチルの耳朶をんだ。



「ふあっ!?」



ただでさえ耳は弱くて、囁かれるだけでもくすぐったいのに!



「ちょ、やめっ、…きくと、さまぁっ」



ミチルはキクトの肩を押すが、びくともしない。

されるがままだ。


息も絶え絶えに抵抗するミチルにキクトは煽られるが、さすがにこれ以上は止めておこうと離れる。



というか、続けると自分のセーブがきかなくなりそうだ。

すでに暴走ぎみな自覚はある。



はぁはぁと息を荒げたまま、真っ赤になりながら耳を押さえガードし、もうさせないと言わんばかりに睨んでくる目も潤んでいて。


なんだか余計手を出したくなるけれど、我慢する。





やっと迎えが来たんだから。

まさか、侯爵自らとは思わなかったが。




「ひさしぶりですな、陛下。

話の途中に失礼しますが、伺いたいことがあります」



相変わらず横柄な態度なやつ。


まあ今はそれはいい。

ここからが本番だ。



「久しいなファイ侯爵。わかった、研究室で話を聞こう。ミチルさんは…あれ、ミチルさん?」



ミチルがもたれかかってくる。



やってしまった。

彼女は、キャパオーバーすると目を回してしまうんだった。



どこかにいるのであろうカンナに任せたかったが、ここに置いていくのも不自然だ。


ミチルの無防備な姿を侯爵にさらすのは癪だが。



ー仕方ない、連れていこう。





キクトはミチルを姫抱っこし、迎えに来た者のうち一人にお昼の片付けを任せると研究室へ向かった。

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