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思うままに



「ミチルさん、ほっぺにマッシュポテトのかけらがついてますよ」

「えっ、本当ですか」



ミチルはあたふたと鞄から鏡を出そうとする。



「こっち向いて」

「はい?」



す、と伸びてきたキクトの手が頬を拭う。

そして彼の指がミチルの唇にあてがわれ、ミチルは反射でそれをはむっとくわえる。

そこについていたマッシュポテトのかけらを口に含むとゴクンと飲み下す。



ななな、なにやってるんだ私!

てか、この人もなんてことしてくるんだ!



「ふふ、真っ赤。可愛いですね」



昼。

キクトは朝に言っていた通り、ミチルのもとへオレンジを届けに来た。

ついでに一緒にお昼を食べようと、中庭に来ていた。



いつ誰に見られてるかわからないから、二人きりだと思っても恋人のフリは欠かせない。


こんなに積極的だと思ってなかったミチルは、戸惑いアワアワしている。

はたからみるとまさに付き合いたての初々しいカップルだ。



するとそこへ、今日はそれぞれ違う講義をとっていて朝会ったきりだったユリアとヤクモ、そしてリョウヤがやって来た。




「お初にお目にかかります、サピエ国王。ロイスタリア国第二王子、リョウヤ・ロイスタリアと申します。どういうことか教えていただけますか」



ーやっぱり聞かれるわよね




先日キクトと話し合った結果、やはりこの件についても三人には隠すことにした。



見張りの読人にリーディングされても困るし、何より過保護な彼らは絶対止めてくる。


しかしこれはもう決定事項なのだ。

昨夜のうちにカズサにも了解をとったし、家にも伝えてある。




ミチルの隣には微笑んでいるキクト。

その向かいに静かに彼を見据えるリョウヤ、ユリア、ヤクモがいる。



リョウヤには気付かれそうで怖い。


さすがにミチルが単身で研究棟に忍び込んでキクトを連れ出して、力押しでサピエまで連れて帰るつもりだったとは考えないだろうけれど。



バレたら相手は王様だという遠慮もなく「サピエ王お一人でお帰りください」とか言いかねない。



さあ、うまく誤魔化せるだろうか。



ミチルは心配でたまらないが、キクトは慌てることなく静かに、三人と対峙した。




「はじめましてリョウヤ王子、私はサピエ国王キクト。

特に込み入った事情はありません。

私がミチルさんを好きになってしまったというだけの話です。先日気持ちを告げて、恋人になっていただきました」


「…そんなの、信じられないです」



ユリアも疑いの目をむけている。


まあ、それもそうだろう。

キクトの現状についてはみんな知っていることだ。

ミチルを利用しようとしてるのではないかと思わないわけがない。



「信じてもらえなくとも、私がミチルさんを想う気持ちは本物です。私は、ミチルさんが愛しくてたまらない」



そう言いながらミチルの肩を抱き寄せる。



ーは、恥ずかしい!こういう設定にしたのは自分達だけども!



ミチルは今まで、誰かに恋愛的な意味で「好きだ」とか「愛してる」と言われたことがなかった。(本当は鈍くて気付かなかっただけだが)


そのためこういう言葉に免疫がなく、嘘でも演技でもなく心臓がバクバクして血がのぼり、白い肌がにわかに真っ赤になる。



「私が彼女を求めれば周りにはたくさんの思惑が生まれることは確かですが、それでも。私は彼女を必要としている」



リョウヤはキクトの目をじっと見つめる。

キクトも瞬きもせずにその目を見つめ返す。



「…わかりました。

ちゃんと、ミチルを守っていただけますか?」

「もちろん、この身に代えても」



「ミチル。ミチルは幸せ?」



ユリアはミチルに問いかける。

ミチルはキクトから離れ姿勢を正す。



「ええ、幸せよ。私はキクトさまと一緒にいたい」

「…なら、口は出さない」




たぶん、信じてはいない。

でも、ミチルたちに引くつもりがないこともわかったらしい。



ミチルはふう、と息を吐いた。



「嬉しいな、堂々とミチルさんと一緒にいれるなんて」

「キクトさま」



キクトはミチルの髪に優しく指を通す。



「く、くすぐったいです…」

「えー、もっと触っていたいのに。だめ?」


「こらー!イチャイチャ禁止!するなら二人のときになさい!」



ユリアはまだ納得がいっていなかったけれど、ミチルのしたいようにさせようと思った。



ヤクモはというと、もとから彼はミチルを守りたいとは思っていても婚約しようとまでは考えていなかったため、これはこれでいいかな、という気分だった。


むしろ姉からの重圧プレッシャーがなくなるから気が楽になったかもしれない。



リョウヤもとりあえず見守ることにしたらしい。




「おや、お許しがでましたよ。二人きりになるのが楽しみだな」



ミチルの額に軽くキスをし、髪から手を離す。

鼻唄でも歌い出しそうなくらいキクトの機嫌はいい。



これから、こんなにもノリノリな彼と恋人のフリをしなければならないのかと思うと、心臓がもつのか心配だ。




早く、向こうから接触してきてくれるといいのだけれど…





ミチルの思いもよそに、彼女はしばらくこの状況に置かれることとなる。

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