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意志



今朝、恐ろしいことをちちに告げられた。



『リョウヤ、お前とフローディア家次女ミチルとの婚約決まった』



ミチルと言えば、兄イツキの愛する人だ。

僕も親しくしているし、妹のように可愛がってはいるが。


なにがどう転んで僕との婚約になるのか。

そんなことが兄に知れたらいったいどんな目にあわされるかわかったものではない。



父に告げられた時点でそれは決定事項なのだろうけど、どうしても納得がいかず直ぐにフローディア家に使いをだしたところ、お昼過ぎにミチルと会うことになった。



そうして今目の前にいる彼女は、いつも以上に儚く見える。そんな彼女は舌ったらずないつもの声で、けれどはっきりと言った。



「私、リョウヤさまと結婚するつもりはありません」



やはり。



「だろうね。ミチルは、兄さんのことが好きなんだろう?今からでも父に変えてもらえるよう僕から頼もうか」

「…それは、おやめください。イツキさまとはもう関わらないと決めたのです」



いったい何があったというのか。

あの兄は、読人のくせに肝心なところで読み間違えるところがある。

普段は力を抑えているから常人並になるのは仕方ないけど、生い立ちのせいか思い込みで別の方向に解釈してしまうのだ。


きっと、なにか思い違いをしている。



「リョウヤさまにお好きな方ができたら解消いたしますから、どうかそれまで」

「そうしたら、ミチルはどうするつもりなの」


「読人として私ができることを、私にしかできないことを、いたします」



そう言いきった彼女の目には意志がこもっていた。

その視線の先にあるのは、王城。



「…そっか」

「大したことはできないかもしれませんが」

「そんなことはないよ」



憔悴しきった彼女の姿を見て、婚約のことで深く傷ついてるのは読人じゃない僕にだってわかる。


なのに、それでも彼女はイツキを支えようとしていて。

引いては国のためになるそれを止めることは、いつか王になる者として許されないのだろう。



折れることなくひたむきに伸びようとする姿がいじらしい。いつかその自重に負けてしまうんじゃないかと不安に駆られる。



彼女は僕を頼る気はないのだろうけど、それでもこっそり手を差しのべるくらいは許されるだろう。



「よし、わかった。でも、僕に好きな人ができなかったらちゃんと結婚してね」

「ええっ!それは…どうでしょう」

「どうもこうもないよ、ミチルは僕の婚約者フィアンセなんだから。これから、よろしくね?」



彼女の髪をひとふさとり、キスをする。

僕がミチルに贈るのは、親愛のキスだけれど。



「手始めに、様付けをやめようか」



きっと兄さんは悔しがる。





後日兄さんにも事情を聞こうとしたが、なんと彼は学院に入学し、寮に入ってしまったということだ。



逃げたのか!ミチルの方がよっぽど男らしいではないか。


そうして、王城にミチルが頻繁に通ってくるようになってもイツキと顔をあわせることはなく。



自分も学院に入学できる歳になるとリョウヤはすぐさま入り、イツキの尻を叩きに行くが、そこで運命の出会いを果たす。


ユリアと二人でイツキを焚き付けるが間に合わないままに、ミチルは眠りについてしまった。



僕とユリアという歯止めが学院に入っていなくなってから彼女は余計に無理をし、それがたたって今まで以上に体調を崩し寝込みがちだったと知らされたときのショックは大きかった。



なぜこんなにも空回るのか。



ミチルが眠ってしまって生きた心地がしなかったのはイツキだけではないのだ。






「ここが、研究棟」

「見慣れないものがたくさんあるわ」



ミチルが編入してくるのは夏の休暇があけてから。

その前からこうやって構内を案内してほしいとお願いされたのは、たぶん下調べ。


本当に、ミチルは伸びることをやめようとしない。




「ミチル」



なあに、と振り向く彼女にもうあのときのような憔悴の色は見えない。

けれど、咲かせようとしているのは大輪の花。彼女がその重みに耐えられるか不安なのは変わらない。



「ちゃんと、僕の手をとってね」

「なんのこと?ダンス?」



確かに廊下でもこれだけ広かったら踊れそうね、とステップを踏むミチルの髪は、窓から入る日差しを受けてきらきら輝く。


こうやって彼女はヒラリヒラリと差し出される手をよけてしまう。けれど。



「なんで早速一人で踊っちゃうのさ」

「まあ、失礼いたしました、王子さま。ちゃんとリードしてくださる?」

「もちろん」



あの日のように、彼女の髪をひとふさ手にとりキスをする。




もう、一人にはしない。


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