勇者になって魔王倒してこれで王女様と結婚できる!と思ってたら悪役令嬢になってました
「グガァアアアアアッ‥!!お、おのれ勇者めッ!」
「これで終わりだ魔王!くらえっ!」
聖剣にありったけの魔力を込めて魔王に向けて振り抜く。戦士により外傷を負い魔法の攻撃によりダメージを受け聖職者の呪文により魔法を封じられた魔王に成す術は残されていない。
俺の魔力により光輝く刀身が魔王の身体の身体を切り裂いた瞬間女神の加護により浄化が始まる。魔王の身体は少しずつ光の粒子となり消えていった。
やった、やったぞ、ついに魔王を倒したんだぞ!
俺は確かな手応えを感じで咽び泣く。本当に辛い旅だった。火の中水の中雪の中嵐の中、魔王を倒すのに必要な装備とやらを集めながら向かってくるモンスターを千切っては投げ千切っては投げ、経験値を稼ぎながらやっとここまで来たのだ。最後の方なんて人が住む村とかなかったから野宿の連続でゆとり世代の俺にはキツかった。現世でもやしっこと呼ばれた俺がこんな過酷な旅を完遂させたなんて涙が止まらなくなるよ。いやもう本当に辛かったんだ。もちろん道なき道を行くという意味で肉体的にもキツかったけど精神的にはさらにしんどかった。なぜなら、
「よくやった勇者!ついに魔王を倒したな!」
「まあ、魔王に烈火炸裂弾を撃った僕のおかけでもあるけどやったじゃん勇者」
「おめでとうございます勇者様。使命を果たされまして女神ヘレネス様もさぞお喜びでしょう」
そういって俺の仲間達が近寄ってくる。戦士は筋肉ダルマな典型的な脳みそ筋肉系ダンディ騎士で、魔法使いは顔面ごと爆発すればいいと思うレベルのイケメンナルシスト天才魔導士で、聖職者は女神を信仰し過ぎていっちゃっている女神オタクな美青年司祭だ。この愉快すぎる仲間を見てくれるだけで俺の苦労がわかってもらえるだろう。どいつもこいつも我が強すぎて俺のいうこと聞かないしもう散々だ。
戦士は隙あらば鍛練時間があれば鍛練暇がなくても鍛練という筋肉馬鹿で、はははっ、勇者殿。強さはいくらあっても邪魔になるものではありませんぞ?さあ!一緒に鍛練を積みましょう!と朝昼晩引っ張りまわされ鍛練という名のイジメを受けた。腕立て伏せが10回もできない俺に腕立て100回!腹筋100回!町の外周10周!はいもうワンセット!とか鬼畜だろう。いつも途中でぶっ倒れてました。でも戦士のおかげでちょっぴり身体が引き締まって筋肉がついたからこれでモテるようにならないかなって期待してる。まあ戦士に比べたら紙のように薄っぺらい胸板だけどな!
魔法使いは自分大好きなナルシストで常に鏡を3枚は持ち歩いていて戦闘が終わる度に自分の顔に傷がないかチェックしている。この美しい顔に傷がついてしまえば世界の損失だから気を付けねばならないってのが口癖だ。滅べよイケメン。ムカつくのはこんな性格なのに女の子にモテることだ。顔がいいことに加え地位も名誉も金もある宮廷魔術師様なのだから当然ですね。世界は理不尽だ。
聖職者は女神様のためなら命だって惜しくないッ!という若干ヤンデレ入った女神オタクだ。毎日100回以上女神に祈りを捧げ、女神の神託を受けて勇者となった俺に好意的だ。同じ女神ヘレネス様の僕として仲良くしましょうと言っている。別にこいつのことは嫌いじゃないけどシモベ仲間認定はやめてほしい。なんか俺がドMっぼく見えるじゃんか。
というわけでこの個性豊かな仲間達のおかげで俺の精神は多大なダメージを受けたのだがその根源はこいつらではない。ある要因があれば俺はこいつらがいようと耐えられた。
俺の精神をここまですり減らした要因、それは
…パーティーに女の子がいないことだ。
おかしいだろ!勇者のパーティーメンバーといえばお色気ムンムンなお姉様系戦士とちょっと小生意気なツンデレ系魔法使いと優しくておっとりした清楚系僧侶と相場は決まっているだろ!勇者になれば可愛い女の子とイチャイチャしながら旅できると思ってたのに女の子率ゼロってどういうことだよ!ハーレム展開を期待してただけに裏切られた効果のせいでダメージがクリティカルヒットになりました。なんで女の子がいないの?癒しが欲しいと落ち込んでいると魔法使いに世界一美しい僕の顔を見られるのに何をいってるの?と言われた。うん、殺意が沸いたわ。思わず魔法使いに聖剣を向けようとしたのは仕方ないことだろう。
そんなわけで彼らと共に魔王を倒しに行くのだ勇者よ。と仲間を紹介されながら王様に言われた時は本気で勇者やめようと思ったんだが結局俺は勇者をやっている。何故かって?隣にいた王女様が可愛かったからですがなにか?
そりゃだってふわふわの金髪に青い大きな瞳を潤ませた美少女に、お願いです。この世界を救ってください勇者。って言われたらはい!よろこんで!以外にお返事はないだろ?我ながら単純だとは思うが仕方ない、男は美人に弱い生き物なの。本能なんだからどうしようもないことだよね!
俺、この戦いが終わったら王女様と結婚するんだ。ぶっちゃけ王女様と結婚できるんじゃないかという下心でこの旅頑張ったんだけど大丈夫だよね?世界を救った勇者とお姫様が結ばれるのは王道だよね?いけるいけるなんとかなる。だって俺は世界を救った英雄だもん。王女様だって俺に惚れるだろうたぶん。
城に戻ったら魔王を倒したことを報告して王女様に求婚しよう。そのために俺は精神を疲弊させながらここまで頑張ったのだ。俺は持っていた聖剣をしまい仲間に声をかけ魔王城の外に向かって歩き出す。さあ、俺の物語はここから始まるんだ!
「グッ、ガァ、っ、それで勝ったつもりか勇者よ!全ての魔物を統べる長として貴様をそのまま帰すわけにはいかん!」
突倒、倒したはずの魔王の声が聞こえてきて振り向くと光の粒子の中に首だけの状態で浮かぶ魔王の姿があった。え、倒せてなかったの?しかも首だけの状態だと?なにアレこわいと驚いていると魔王はパカリと口を開き高笑いをした。
「グハハハハッ!勇者よ!貴様から希望を奪ってやる!受け取るがいい!貴様の最大の願いが叶わなくなる呪いをなっ!!」
その言葉とともに魔王の口から黒いレーザー光線のようなものが発射された。聖剣もしまわれており完全に不意をつかれた俺はその黒い光をモロに浴びてしまう。
うわわわわっ!ヤバい!これは絶対にヤバい!魔王が最後の力を振り絞って出した攻撃がヤバくない筈がない!まともに食らったけど効果は何だ!?直接ダメージがないということは毒か!?だけれど俺の毒耐性はマックスだぞ?と思ったところでカクンと身体から力が抜ける。あれ?と思ったところで瞼が重くなっていく。こんなところで意識を失えば取り返しのつかないことになるのは目に見えているのに身体は思うように動かない。俺の意識は闇に落ちていく。
「!?おい、勇者!せっかくここまで来たのにこんなところで倒れる奴があるかよ!起きろ勇者! くそっ、よくも勇者を!許さないぞ魔王!!」
「なっ!?そんな冗談面白くないぞ勇者!世界で一番美しくて華麗な魔法使いである僕が認めた男が倒れるなんて許さない!!だが疲れたなら暫くそこで寝てればいいさ。その間に僕が魔王を倒してやるッ!だから絶対に意識を保っていろ!!」
「勇者様!??女神に選ばれし貴方がここに消える運!あるはずがありません!!待ってて下さい勇者様。同志の危機に立ち向かうのが仲間というものです!魔王を倒し貴方を救ってみせます!!」
瞳は完全に閉じられ視界には何も映らなかったが仲間の声は聞こえてきた。我が儘で自分勝手でいつもあいつらには振り回されてきたけど俺達の間にはきちんと絆があったらしい。俺を気遣い魔王に立ち向かう声を聞いて胸が熱くなる。旅したり鍛練したり喧嘩したり女神について諭されたり、しんどかったけど何だかんだいって楽しかったよ。仲間たちとの思い出で脳裏を駆け巡る。あれ?これってひょっとして走馬灯?俺って死ぬの?
『ガハハハッ!その呪いは如何様にしても解かれない!勇者よ!お前の願いはけして叶わないのだ!』
薄れていく意識の中魔王の声が響く。そして俺の意識は完全に闇に落ちたのだった。
***
「エリーナ、お前には失望したぞ」
目の前にいる金髪のイケメン野郎が怒りを露にしながらそういう。そしてそのイケメン野郎の後ろにはハニーブラウンの可愛らしい容姿を持った女の子が震えながら隠れている。馬車を降りて校舎に向かう途中呼び止められこの場に留まらされたため俺達のことは衆目に晒されていた。
怒るイケメンと震える女の子、そしてその後ろに一歩に引いて立ち並ぶ美形の取り巻き達を見て俺は遠い目をする。ああ、どうしてこうなったのかと。
魔王を倒した俺は気が付くと柔らかなベッドの上に横たえていた。初めは仲間が連れ帰ってくれて何処かの宿屋で手当てしてくれたのか?と思ったが周りを見渡すとかわいいらしい装飾に溢れた女の子の部屋のようで首を傾げる。
なんで女の子の部屋で寝ているんだ俺?まさか倒れた俺を可愛い女の子が看病してくれるという王道展開がついにきたのか!?と期待したのは一瞬、着せられていたドレスのようなヒラヒラした服と顔の横から垂れる青色の髪に慌てて鏡を探して覗き込むみとそこには海のように深い色の髪と輝くような金色の瞳を持つ女の子が映った。目元がちょっときつめだけど笑うとかわいいだろうと思えるクーデレな感じの印象を受ける。
守ってあげたい系の女の子も好きだけど気が強い女の子も大好きだ。こんな女の子がいたら間違いなくアタックするぜ!と思うのだが俺が動くと鏡の中のその子も動く。そっと鏡の中のその子に触れようと手を伸ばすと俺の指が鏡に触れる。つまり鏡の中の女の子は俺自身なのだ。おいおいおい。これってどういうことなの?なんで俺ってば女の子になっちゃっているの?俺は生まれた時から平凡顔の男の子だったよ?え、本当にどうなっているの?
そっと股の下に手をやると俺の息子様がおなくなりになっている。そして胸にはたわわに実ったおっぱいがついている。女の子は好きだけど女の子になりたいとは1度も思ったことがないぞ?これってどういう状況だよ。わけわからん。
ふと、思い浮かぶのは魔王の最後の言葉。『お前の最大の願いはけして叶わないのだ!』とか叫んでいたけどまさかのアレですか?俺の最大の願いは王女様と結婚することだから、それが出来ないように女の子にしちゃったんですか?おい、ふざけんなよ魔王!俺がなんなのためにあんな辛くて苦しい旅を頑張ったと思っているんだ!?全ては女の子にモテモテになって王女様と結婚するためなんだぞ!?なにしちゃっているの?ホント何してくれてるの?最後の足掻きにしても悪辣すぎるだろこれ。俺の希望を返してくれ!
俺はベッドに突っ伏して泣きじゃくる。せっかく目の前にクーデレ雰囲気の可愛い女の子がいるのにそれが俺じゃあ意味ないよ!女の子と恋愛したい!王女様と結婚したい!
一通り泣きわめいた後でむくりと起き上がり部屋の中の探索を始める。泣いてたって仕方ないし取り敢えずこの身体が何者であるか調べてみよう。異世界来たときから順応性には定評がある勇者なんです俺。
あたりを見渡すとベッドサイドに備え付けられた小さな机に手紙と小瓶に入った液体が置いてある。女の子の手紙を読むなんてドキドキしちゃ、ゲフンゲフン。気が進まないが状況を把握するために中を見る。そこにはこんな内容が書かれていた。
『リリアーヌ嬢か来てから殿下は私に対して見向きもしなくなった。全てにおいて私は放置してリリアーヌ嬢とばかりイチャイチャしやがる。滅べリア充!私みたいな面白味のない女と一緒にいるより可愛く可憐なリリアーヌ嬢の方が素敵だって?お前の婚約者となったせいで寝る間も惜しんで自分を磨いてきた私によくもそんなことが言えるな!毟るぞゴラッ!そりゃ貴族の責任から逃げてへらへらしているリリアーヌ嬢の側はさぞかし楽だろうよ。そんな常識知らずを嫁にしてどうするつもりなんだよ。国が滅ぶぞ?ああ!もう!知らん!あんな馬鹿王子のことなんてもう構ってられるか!私は寝る!起こすな!byエリーナ・スコッシェル』
俺は読み終わった手紙を無言で閉じる。凄い強烈な内容だった。人の手紙を読んではいけないとよくいうけどその通りだね。おかげで女の子がお花とお砂糖でできているのではないと知ってしまったよ。俺は生涯2度と勝手に人の手紙を読まないと誓います。
まあとはいえ、読んだことにより知ることのできた情報もあった。この身体の持ち主の名前はエリーナ・スコッシェル、状況は正確にはわからないけど婚約者と揉めてふて寝することにしたらしい。ということはこの身体の持ち主の意識はそのうち戻るな。そしたら俺はどうなるんだろうと思っているとふと机に置かれた小瓶が目につく。そうだ、これもあったんだ。この小瓶の中身はなんだろう?
小瓶を手に取り軽く中を振る。中には淡いピンク色の液体が入っているがどんな効果をもたらすのかは見た目ではわからない。幸いなことに俺の勇者としてのスキルは魂に依存するらしく、聖剣は無いものの今まで通りスキルを使えるらしいので鑑定を使ってピンク色の液体を調べてみた。
名称:真実の眠り
レア度:SSR
効果:この薬を飲んだ者を眠りにつかせ、眠りを妨げるあらゆる干渉を阻害する。一口ごとにおよそ1ヶ月眠りにつかせる。ただし、真実愛するものの口づけがあれば目覚めさせることができる。
最上級レア度のアイテムじゃないかと思って見ていたがその効果も中々凄い。その薬を口にすると眠り姫のように誰にも干渉されない眠りにつくことができるのだ。引きこもりには是非とも欲しいアイテムですね。誰にも邪魔されずに惰眠を貪ることができますよ。
まあアイテムの効果がわかった時点でエリーナさんがどうなったのか想像つきますな。きっとこの薬を飲んで眠りについたのだろう。つまり最低一か月はこの身体は俺が好きにしていいということだ。女の子の身体を好きにしていいというフレーズを聞くとエロいこと想像しちゃうんだけどそれって俺が童貞だからじゃないよね?健全な一般男子なら全員当然思うことだよね?視線を下に向けるとスイカがふたつお胸に実っているのだけどさすがに触れるのはやめておこう。人としてそれはやってはいけない気がする。
さて、現状はだいたい把握できたけどこれどうすればいいんだろう。俺がこうなった原因はおそらく魔王が最後に放った呪いのせいなんだけどどうやって戻ればいいの?いつまでもこの身体にいるわけにもいかないしそもそも俺は男に戻りたいの。そして国に帰って王女様にプロポーズしたいんだって。だが、今のところいい案も浮かばないし取り敢えずはエリーナさんと同じように生活を送ろうと思って制服に着替えて馬車で送られ学校に行ったら上記のようにイケメン軍団に取り囲まれてこうなった。ちょっと、色々展開速すぎだろ。俺、さっき魔王倒したとこなんだぞ?
「リリアーヌ嬢に対する数々の暴言と乱暴な振る舞い、そのことを私はけして許しはしない。エリーナ、貴様との婚約を破棄する!」
「え、あ、はい。」
イケメン野郎(おそらくエリーナさんの婚約者である王子)にそういわれ俺は気の抜けた返事を返す。婚約破棄されようが俺エリーナさんじゃないし本物のエリーナさんはふて寝しているし答えようがない。
だが俺のそんな返事が気にくわなかったらしい、イケメン王子は眉を吊り上げると声を張り上げた。
「なんだその態度は!反省の色が見えないぞ!」
「だって、そんなこと言われてもよくわからないし」
「あまつさえこの場に至っても己の罪を認めないのか!優しきリリアーヌの情に付け込んでどこまでその厚顔を晒すのだ!貴様がそこまで意固地になるというならば形だけでもリリアーヌに謝らせてやる!」
そういってイケメン王子が目配せすると取り巻きの男たちが近づいてくる。たぶんなんだけど無理やり押さえつけて土下座でもさせるつもりなんじゃないだろうか。美人に傅くことはあっても男なんかに下げる頭は生憎持ち合わせていない。それにそもそも俺自身がリリアーヌちゃんに何か悪いことをしたわけではないしこの身体の持ち主であるエリーナさんもたぶんリリアーヌちゃんをイジメていないと思う。だってリリアーヌちゃんイケメンの後ろに隠れてやめなよーとかいいながら口元笑ってるんだもん。この身体になってから女の子の裏の顔を知ってばっかりだな。できればそんなもの知りたくなかったから損した気分だ。
とにかく俺に謝るつもりはない。普通の女の子なら抑え込まれて力づくで従わされてしまったかもしれないがこれでも一応俺は勇者だ。聖剣も男としての身体もなくなっているが勇者としてもスペックはちゃんと持ったままだ。俺の鍛え上げた紙レベルだった筋肉は巨乳にシフトチェンジしなさったのでここはスキルで応戦する。ストロングと唱えると身体中から力が沸いてきた。このスキルは自分の力を数倍にしてくれる効果があって本当に昔からお世話になっている。異世界トリップした当初は銅の剣持っただけで生まれたての小鹿のようにプルプル震える脆弱な肉体しかなかったからこのスキルがなかったら何の武器も持てなかったよ。
そして俺は手を掴んできた青色の髪の男の手を振り払い力任せにそいつを投げ飛ばす。いきなりのことでろくに受け身も取れずそいつは地面に叩きつけられて気絶した。ふっ、脆弱な奴だのう。
反撃したことで動揺したのか動きを止めた左側の赤い髪の男に足払いをしてバランスを崩したところに殴り飛ばし地面に沈める。それでそいつは動かなくなったので俺の後ろにまわっていた男に振り向きながらみぞうちに肘鉄をいれてやる。そしたらガバッと肺の中の空気を出して倒れたので戦闘終了です。うん、弱かったな。はじまりの町にいるスライムレベルで弱かったぞこいつら。まあトリップしたての俺よりは強そうだったけどな。あれ?じゃあ俺ってスライム以下?
「は?」
俺が取り巻きどもをあっさり地面に沈めるとイケメン王子は口を半開きにして呆然としていた。そりゃ見た目は可憐な女の子が成長期の男の子たちを片っ端から吹っ飛ばしたりしたらそりゃ言葉も出ないわ。でもまあなんていうか中身は勇者なんです。
「えっと、もういい?」
「ひっ!」
俺がそういいながらイケメン王子の方を向くとリリアーヌちゃんが小さく悲鳴を上げた。ガタガタ震えながらイケメンの後ろに隠れるリリアーヌちゃんはガチで怯えているように見える。そんなに俺のことが怖かったのかな?なんか女の子に怯えられるとかショックだ。大丈夫だよリリアーヌちゃん、俺女の子には優しいから。
「やめろエリーナ!これ以上リリアーヌを傷つけるような行為は許さないぞ!」
「ジェイス様っ!」
イケメン王子がリリアーヌちゃんを庇うように腕を広げる。それに対してリリアーヌちゃんがうっとりした表情でイケメン王子を見返している。ちょっとイラッと来ましたね。俺は女の子には優しいけれど男には厳しいんですよ。特にイケメンとか滅べよと本気で思ってます。だいたいイケメンどもが女の子のハートを独占しているから俺みたいなフツメンがリア充になれないんだよ。というわけでエリーナさんという婚約者がいながらリリアーヌちゃんとイチャイチャしているイケメン王子には一切容赦いたしません。パーではなくグーで、拳を握りしめフルスイングで腕を振りぬく。
「うるせえんだよ!目の前でいちいちみせつけてくんじゃねえ!モテない俺に対する当てこすりかこの人生勝ち組顔面偏差値60代野郎!くらえ!一般男子の遠吠え!!!」
「なっ!?ぐはぁ、ぶへァっ!!???」
俺の拳はものの見事にイケメン王子の顔面にめり込み軽く3mは奴を吹き飛ばした。イケメン王子は地面に倒れこみしばらくピクピク痙攣していたがやがて動かなくなった。ちゃんと手加減したし殺してはいないと思うけど間違いなくあの綺麗なお顔は3倍ほどに腫れ上がることだろう。ははっ、ざまぁ。
さて、これで残るはリリアーヌちゃんだけどなったけど別に何かする必要はないだろう。さっきも言ったけど俺女の子に手をあげる趣味はないのです。それに、えっと、なんていうかリリアーヌちゃん上も下も大洪水の大惨事だしこれ以上何かするのは可哀想です。きっとイケメン王子がぶっ飛ばされたのが怖かったんだろうけど、うん。まあ、アレだ、御愁傷様です。
取り敢えずくるっと周りを見渡すと倒れた取り巻きと集まっていた野次馬がヒッと息を飲む姿が見えた。いやいや、俺は別に誰彼構わず襲う猛獣じゃありませんよ?ただ、ちょっとイケメンが嫌いなだけの一般的な勇者です。
俺はその場ではぁーとため息をつく。魔王倒してリア充生活が始まると思ったら女の子になっているしなんかとんでもない1日だった。まあ、とにかくいつまでもエリーナさんの身体にいるわけにはいかないし元の身体に戻る方法でも探しに行くか。何処にいこうかなー。取り敢えず魔王をもう一度ぶっ飛ばしてみようか。
この時の俺は知らなかった。魔王が全てを掛けたこの呪いの強さを。実はエリーナさんは眠っているのではなくて俺の身体と入れ代わってしまっていたのだということを。ついでに中身がエリーナさんだと肉体が俺でもかっこよく見えるらしく王女様が中身がエリーナさんの俺にすっかり惚れてしまっていることなんて知らなかった。
そして見た目は美少女になったことでかつての個性豊かな仲間たちとひと悶着起きるなんてことはふっ、この世の悪をひとつ滅ぼしたぜと浮かれる俺は全く知らなかったのだった。