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6 ターゲット

 このゲームはプレイヤーの多くがPKを経験していたが、賛同派が多いわけでは決してない。プレイヤー同士の殺し合いなどは避けたいと思う穏健派も多数居たし、運営の方でも配慮しないわけではなかった。タイトルの売りである以上PKの機能制限には消極的だが、セーフティは張られている。同じギルド所属のプレイヤー同士はPK不可の選択が出来たし、通信一つでエリアチェンジが可能となる助っ人機能も付けられている。

 ただし、不可侵を結ぶことが出来るプレイヤーは同じギルドに所属しているという条件が必要だったし、多くのギルドは入るためにも条件を設けている。レベルがカンストしていること、などという無茶振りも多い。だから多くは最初の村に居座って、気の合う仲間を揃えてから自分たちでギルドを作り、自分たちの身を守った。PKに関して賛同派と反対派はいがみ合い、根の深い問題をも孕んでいる。ルールを主張する賛同派とモラルを盾にする反対派の構図があった。ギルドは二人居れば作ることが出来たが、冬夜と、その相棒はギルドを作らなかった。


『モラル? それって何処の特産品ですか?』


 ニヤニヤと、身を隠した茂みの中からターゲットに狙いを定め、冬夜は合図を待っている。狙うのに都合良く、飛び降りるのにも都合のいい具合に枝を茂らせた中低木が、フィールドには至る所に生えている。運営の配慮にGJだ。

 ちょうど廃墟ダンジョンとは逆の方面へ向けて村から出るとサバンナのような乾いた大地が広がっている。黄色く立ち枯れた草原に、まばらに生える低木。群れで暮らす小動物がこの地のエネミーだった。違う方面へ行けばまた違うフィールドがあり、この近辺を上空から見下ろせばさぞやカラフルな事だろう。


 二人が狙ったのは、ソロの男性プレイヤーキャラクターだった。中身はどうやら女性のようだが、そんな事は知ったことでない。どういう趣味だかいかつい男キャラに扮して、騎士っぽい装備で小動物を狩っている。最初の村で買える中では上等の装備だ。

 知人か何かは知らないが、少しばかり名の知れたギルドに在籍し、最近は村から離れたフィールドでレベル上げをしている様子だ。こういう後ろ盾のあるプレイヤーは、通常、若葉狩りには狙われない。ギルドからの報復がなにより怖い上に、いつ助っ人が飛び込んでくるかも知れないからだ。けれど、逆に言うなら、これほど狙い目の獲物もまた居なかった。二人の論理に掛かれば、の話だが。

 この危険なゲーム世界で、新人がたった一人で行動していても差し障りない理由は至って簡単だ。バックに付いているギルドが強いからだ。新人から追い剥ぎで得た物より確実に、報復で奪われる物のほうが大きい。けれど、そんなものは関係ない、とアキラは言った。


「馬鹿だねー、隙だらけじゃん。」

 口の中だけで言葉は外へ出ない。冬夜はじっと木の上で息をひそめ、前方の、がら空き状態の無防備な背中に標準を合わせ続けている。どうせ助っ人を呼ぶだろう、何度か話をした事のあるあのギルドのマスターは、この時間ならいつでも居る。すっ飛んで来るに違いない。

「でも、意味ないしな。俺とアキラと一撃づつ、二撃で決めてやるよ。」

 薄笑いのまま、アーチェリーの弦は中段階に引き絞られて静止した。

 この後にゲーム古参の強者に殺されても、首尾としては上出来だ。こちらの経験値は減らないし、盗られて困るような物は最初から持っていない。さらにアキラの理論は、冬夜の上を行った。上級プレイヤーと戦えば、例え瞬殺されたとしても良い経験になる。本気で掛かる事の少ない最強クラスと、ガチで戦える機会は滅多にないから、と。二人の目的は目下のところ、経験値だけなのだ。

「マジ、戦闘種族だな、アイツ。」

 苦笑を洩らす。と、別の茂みからアキラが突撃を仕掛ける姿を見た。

 一気に引き絞る弓手。アキラと出会ってから、短時間のうちに狙撃手になった。視線の先には人間の背中があり、視界の隅に映る鋭利な鏃の先とを直線で結んでいる。視界が微妙にブレるのは仕様だ、ピントが合った瞬間が、すなわちクリティカル距離という事だから。冬夜の視界がクリアにターゲットを映した瞬間、指先が動く。限界にまで絞られた弦が一瞬で矢を撃ち出した。

 驚き、狼狽えるターゲットの背中に、会心の一撃が襲い掛かる。タイミングはぴったりだった、減算なしの最大攻撃力が上乗せされた一筋の軌跡。先に遠距離攻撃が届き、ターゲットが仰け反る。その腹にアキラが渾身のタックルでランスの先端をぶち込んだ。


 二人に襲われたプレイヤーキャラは、装備の一切をその場に残して消えてしまった。アキラはそのままの勢いで通り過ぎ、少し離れた場所で停止した。身構えたまま、油断なく周囲を窺っている。狙撃手が樹木から飛び降りて急ぎ合流した。背中合わせの陣取り。二人は無言で息をも殺して待ち続けた。

 二人とも緊張の面持ちでいるのは、新たな敵の出現に備えてのことだ。助っ人機能で救援を呼んでいたら、すぐにでもエリアチェンジで出てくるはずだ。周囲の木々に注意を払い、狙撃を警戒する。射程からは外れているはずだが、どちらとなしに喉を鳴らす。唾液を嚥下した。最悪、テスト版から居るという有名な騎士に戦闘の手ほどきを受ける事を覚悟していた。

 何名が駆けつけるかは解からない。二対複数の戦いに備え、死角が多くなる茂みからは離れている。狙撃手は通常樹上から降りないものだろうが、なにぶんこちらは二人きりだ、敵の数を把握出来ない場所に展開されるのは拙い。二人はさらにじりじりと移動し、開けた草原で迎撃体勢を整えた。

 心臓の音を聞きながら、冬夜はアーチェリーを即座に撃ち出せるように構え、周囲に視線を配っていた。相棒であるアキラとはちょうど互いの背中を預ける格好。彼女も無言で耳をそばだてている。

「……どうやら、来ない、みたいだな。」

「連絡する間もなかったかな。」

 ふぅ、と安堵の息を吐いたのは同時だった。


 ようやく緊張を解き、身構えた武器を下ろす。ギルド間の通信網を使用されていたなら、すぐに誰かが駆けつけるものだ。先ほどのプレイヤーは、一瞬の出来事に為す術もなかったという事だ。

「よしっ、そうとなれば貰うモン貰ってズラかろうぜ!」

 冬夜が声を上げた時には、すでにアキラが一足お先と現場へ走っている。我先にという慌てぶりで地面に散らばるアイテム類をかき集め始めた。

「き、汚ねぇ!」

 慌てて走り寄り、アキラが手を伸ばしていた木製の盾を横合いから奪う。この時ばかりは仲間内でも遠慮無しの醜い争奪戦だ。いつリベンジであのプレイヤーが戻ってくるかも知れず、また助っ人など引き連れていたなら危険度が跳ね上がる。一刻も早く、この場を離れるべきなのだ。

「よしっ、目ぼしいモンは盗った! 逃げるぞ!」

 自身やアキラの装備からPK狩りの上級者と勘違いしてくれた可能性もあるにはあるが、ぐずぐずしていて良い事など何一つないから、二人は慌ててその場を後にした。

 初めての連携狩りは巧くいった。カードを確かめると、冬夜はLv22になっている。

 チョロイな、と思っていた。この時は。


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