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4 さよならとしろあと

 こうして冬夜のゲームライフは幕を開けた。まずは最初のクエストである、墓地の蜘蛛退治を終わらせる。戦闘自体が初めてという本当の初心者を基準にしたクエストは、多少はアクションゲームに慣れのある冬夜には易しかった。村長から受けたクエストなどものの10分とかからず終わってしまった。

 最初のクエストを終えると順繰りにお使いクエストが発生する。それらをこなしていくと、やがて村人からのクエストは来なくなった。チュートリアルがすべて終了したのだ。リアルの日数にしても僅か三日ばかりのことだった。


 村人からのお使いクエストは、最終の、王城へ向かうものだけが残った。ここは国の端にある田舎の村という設定で、プレイヤーは最後に村から追い出されてしまう。次の舞台は王都だ。だが、うかうかとこれを間に受けると、例の若葉狩りの連中にカモられておしまいになる。ゲームのセオリーでは、最後のクエストは無視して、先にサブストーリーを進めることが得策とされていた。サブストーリーを進めるには少しばかりレベルが足りないので、冬夜は引き続きで墓地の蜘蛛を殺し続けていた。


『トウヤ、そろそろお別れを言わなきゃいけない時期が来たわ。』

 いきなり妖精NPCが切り出した。


 冬夜は思い当たる節で胸のポケットからステイタスカードを取り出して確認する。思った通り、レベルが10に到達していた。自動的にイベントが発動したのだ。

 プレイヤーとNPCとの間には親近感が生まれているものだとして、実際を無視してプログラムは組まれている。唐突に始まったお別れイベントは冬夜を少し驚かせた。妖精にはまだ感慨も何も持ってはいないつもりだったのに。


『アナタはもう立派な冒険者よ、元気を出して。わたしも寂しいけれど、もう帰らなくてはいけないの。今までありがとう、トウヤ。またいつか、出会える日を心待ちにしているわね。』


 しんみりと言われると、さすがに少し悲しいような気持ちがしてくるのが不思議だ。チュートリアル妖精は、プレイヤーがチュートリアルクエストを全て終了させると居なくなってしまう。いちいち解説を入れてくる煩わしさに、早く返してしまおうと躍起になってクエストを消化してはいたが、実際に別れるとなると一抹の寂しさを味わうものなのだと知った。

『さようなら、トウヤ。』

 付きまとっていた小さな光は、ふわりと踊るように距離を置き、そのまま飛び去った。

「さよなら、か。」

 柄にもないセンチメンタルを、首を振って打ち消した。プログラムに踊らされてしんみりするなど滑稽だ。このゲームを始めて、ほんの三日目のことだ。なのに、なんだかもっと長い間、あの口やかましい妖精が隣で喚き立てていたような懐かしい感慨がある。再び、冬夜は首を振った。


「さて、予定通りに行かなきゃな、」


 休めていた手を再び動かし、地味な蜘蛛狩りの作業へ戻る。ここまでは計画通りだ。

 墓地を含めた廃墟フィールドは初心者向けの場所ということで、特別にPK不可の設定が敷かれている。あまりに早くからPKを許していたのでは、プレイヤーがゲーム世界に居つかないせいだった。村や都市を含めた貴重な中立地帯の一つだ。ここでまたせっせとレベルを上げ、ついでにどこか大手のギルドに渡りを付けて加入する、これが冬夜の立てたランクアップの計画だ。廃墟の城はそのままダンジョンで、即席で新人だけのパーティを組んで攻略することが主流だった。他にも勧誘目的のギルドが常に募集を掛けていたし、どこか就活会場に近い空気を醸している。

 何匹の蜘蛛を殺しても遅々としてレベルが上がらなくなったと気付いて、冬夜は河岸を変える気になった。レベル10から先は計画的に狩場を変えて行かねば効率が悪いことも承知していた。いよいよ城のダンジョンへ。ソロの活動は終わりを告げ、これからは新人のパーティ募集にせっせと通うことになる。気の合う仲間が見つかれば、一緒にギルドを立ち上げてもいいなと冬夜は計画外の可能性にも思いを寄せた。


 行く手には暗雲が低く垂れこめている。陰気な要素に満ち満ちたフィールドが広がっている。枯れ果て尖った木々ばかりが生え、墓石はどれもこれも歪み崩れ苔むしている。カラスの鳴き声が響き、雷鳴が遠く不気味に近付いてくる。小高い丘の先まで墓地は続き、墨色の空をバックに城の廃墟が黒く浮かび上がっていた。

 廃墟となった城跡のダンジョンは、まるで幽霊屋敷のようだ。出て来るエネミーもゴーストが主で、救いは初心者用のごく弱い連中だという点だけだった。四六時中薄暗く、厚く覆う黒雲は常に稲光を宿して低く唸っている。雷鳴は遠く決して落ちてこないが、時折、小雨が思い出したようにぱらついた。雰囲気は満点で、不気味な城が稲妻に照らされている。

 くるりと冬夜は反転した。暗雲に閉ざされるフィールドを背に、今来た道を振り返った。太陽は高く小さく南国のように輝いている。白い小路が続く先には地中海沿岸の小都市。もう一度反転した。遠く雷鳴が響いている。小雨が降り出し、冬夜の頬を雫が叩いた。

 冬夜は皮肉な微笑を片頬に浮かべる。フィールドチェンジの境目はお気に入りの場所だ。ほんの目と鼻の先に真逆の光景。一歩を踏み出すだけで現れる別のページ。作り物の世界を思い出させる、この妙チキリンが喜ばしかった。


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