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煙草一本  作者: 若旦那
初等部編
9/45

8話

そろそろ物語が動き出すやも

 ピピピピピピという電子音でエフィムは目を覚ました。

 時計に目をやれば時刻は六時三十分。

「どれ、着替えるか」

 エフィムは一度大きな伸びをすると、衣装箪笥から新しい服を引っ張り出した。

 今日の朝の食事は何にしようかとエフィムは悩みながら食堂へ向かっていた。

 そこで見知った背中を見つける。

「ライン、おはよう」

 その声に振り返ったのはラインだった。朝風呂上がりなのか水滴が所々についている。

「やあエフィム、おはよう。これから朝ごはんかい?」

「ああ、そういうお前も?」

「その通りさ、一緒にいくかい?」

「是非も無い」

 二人は並んで食堂に入った。

 エフィムは適当にトレイに朝食を積み上げていく。

 対するラインは小奇麗に並べていく。

「エフィム、朝からそんなに食べるのかい?」

 ラインは山と積まれたエフィムの小皿を見て呆れ気味に言った。

「昨日の朝食で分かったことがある」

 エフィムは大真面目な顔で言った。

「俺には小皿は小さすぎる」

 ラインは大声で笑い始めた。

「た、確かにエフィムの体からすればそうだよね」

「――何も笑うことは無いではないか」

 エフィムは憮然とした表情を作りながら定位置となった窓際の椅子に座った。

「頂きます」

 挨拶を唱和して食べ始める二人。

 食事中は終始無言だ。

 男二人の食事なんてそんなものである。

「ご馳走様でした」

 挨拶を唱和して二人は食堂を出る。

「エフィムはよく朝からあれだけ食べられるね」

「そうか? あれでも八分だぞ」

 二人は会話をしながら教室へと向かう。

「今日の講義は筆記用具持参だけど、エフィムは持ってないね」

 ラインは不思議そうな顔をしている。

 それに対してエフィムの顔は自信ありげだ。

「昨日で大体初等部で習う事について目処が立ったからな。あれぐらいならノートをとらなくても大丈夫だ」

「エフィムはキングオークなのに頭も良いね。オーク種は全般的に身体を動かす方が得意なのに」

 ラインは感心しきりだ。リザードマンもどちらかといえば身体を動かす方が得意である。羨ましいのかもしれない。

「本を読め、本を。そうすれば自ずと知識も増える」

 二人がそんな話をしていると慌てた様子のエリクが教室に滑り込んできた。

 時刻は八時二十五分。ギリギリの時間だ。

「う~、よかったあ。間に合ったよ」

「エリク、おはよう。今日はえらく遅かったな」

 声をかけたのはエフィムだ。

「それがさあ、昨日の鍛錬で疲れちゃって寝坊だよ! お陰で朝ごはん食べられなかったよー」

 エリクは昨日三十周かそこらでリタイアしていたはずである。

「あれ位で疲れて寝坊じゃ、暫くエリクは朝食抜きだね」

 苦笑いを浮かべつつラインが言う。

 それに対してエリクはうげぇという表情だ。

「勘弁してよぉ。筋肉痛で腿がパンパンなんだよ、僕」

「走って居ればその内慣れるだろうよ」

「そうそう、三ヶ月もすれば余裕だって」

 そこで始業の鐘が鳴った。

「よーしガキども席に着けえ」

 時間ぴったりにリリーの登場である。

 また昼にと挨拶を交わしてそれぞれが席に着く。

「さて、今日は魔物の話だったな」

 リリーは思案するように隻腕でその身を抱いた。

「よし、それじゃあまずは魔物とは何かから始めるとするか。

 リリーはチョークを持って黒板に文字を書き始めた。

「魔物とは迷宮内に生息するバケモノどもの総称だ。主な構成要素は魔素と呼ばれる迷宮内にしか存在しないエネルギーになっている。この魔素だが実はよく分かっていない。確かなのは魔物は倒して暫くするとこの魔素に戻ってしまい、姿形がなくなることだ。稀に魔素以外の物質を落とすこともあるが、これが収集用クエストなどで欲しがられるドロップ品になる。専ら魔物は姿形はあたしらとそっくりだ」

 そこでチョークを置くと、リリーはエフィムを見た。

「生徒エフィム、ちょっと立て」

「はい」

 エフィムは何が何やら分からないが立ち上がった。

 リリーがエフィムの傍に寄ってきた。

「魔物があたしらにそっくりなのも諸説紛々だ。一説には魔王と呼ばれる存在が地上を支配した暁にあたしらの代わりとして用意してあるってのもある」

 リリーはエフィムの隣に来た。

「キングオークはオーク種の親玉としてよく迷宮内に出没する。困ったことにここまで魔物も進化しているとあたしらと同じように喋りやがる。生徒エフィム、同士討ちは困るよなぁ?」

「勿論です」

「そういう時は瞳を見ろ。魔物とあたしらを区別するのは瞳の色だ。亜人種といっても瞳の色はあたしらと同じだが、魔物は違う。真っ赤な瞳の色をしている。いいな、瞳の色だぞ。遠くからでもランタンで照らしたような真っ赤な色をしている、一目で分かるはずだ」

 座って良いぞと促され、エフィムは再び席に着いた。

「魔物は専ら亜人種の姿をしていることが多い。有名どころがゴブリン種、オーク種だ。これの理由も不明だが間違っても同士討ちだけは避けろよ。後は怨み辛みだ。仲間を殺されたからといって亜人種を憎むのは間違っている」

 リリーは再び教壇に立った。

「魔物を怨む余りに亜人種を攻撃してくるなんてのは頭の逝かれた思想だ。巷にゃそんな宗教もあるから気をつけるんだぞ」

 はーいと生徒達から返事が上がる。

「さて、それじゃあ魔物の話に戻るか。迷宮には主がいると昨日の講義で言ったな」

 エフィムは一人重々しく頷いた。

 迷宮の主。倒しても倒しても復活する魔物たち。世界は謎に満ち溢れている。

「この主だが、専らは人族と同じ形をしている。おまけによく喋りやがるから小煩いことこの上ない。こいつらの瞳の色も例によって赤いから分別は直ぐにつく。ただ、何と言っても魅力的なのはこいつらが落とすドロップ品だ。迷宮の主たちは必ず高価なドロップ品を落とすようになっていやがる。これが目当てで冒険者をやっているようなもんだ。なんせものによれば一月は食うに困らない額の品をドロップするからな。ただ、当然初心者が束になっても敵わないような強さだからいきなり大物狙いなんてのは避けろよ」

 丁度ここで午前の講義を終了する鐘がなった。

「よーし、それじゃあ今日はここまで。午後の鍛錬は現地集合だからな、遅刻はしないよーに」

 リリーはそういって教室から出て行った。

 さて、待ちに待った昼食の時間である――エリクにとって。

 カツ重、幕の内弁当、日替わり弁当と三種類の弁当がエリクの目の前には鎮座していた。

「午前中はお腹がなりっぱなしだったからね。食べるよ、今日の僕は」

 そんなエリクにエフィムとラインは苦笑いを浮かべていた。

「あんまり食べ過ぎて腹を壊すなよ」

「午後の鍛錬で動けなくなっても知らないよ、俺は」

 二人の苦言もどこ吹く風のエリクは弁当を食べながら言った。

「二人は鍛錬余裕だから良いけどさ、僕は全然なんだよ? せめてお腹一杯食べて精力つけなきゃやってられないよ」

「余裕というわけでもないんだがな」

「日ごろの鍛錬の賜物だよ」

 苦笑いを浮かべつつ、二人も昼食を食べ始めた。

「うーん、お腹が痛いよう」

 エリクの言葉にエフィムはそれはそうだろうと思った。

 結局エリクは用意した弁当を完食、唸っている現在に至る。

「ほら言わないことじゃない。午後の鍛錬はどうするの? 休む?」

 ラインが優しい言葉をかけるが、エリクはそれを跳ね除けた。

「お昼ご飯の食べすぎで鍛錬休んでたら二人と益々差がついちゃうじゃないか。頑張って出るよ僕は」

 そういいながらもお腹を抑える仕草は滑稽以外何者でもなかった。

 さて、午後の鍛錬である。

 エフィムとライン以外は昨日と同じメニューをこなしていた。

 二人はといえば、双方共に長柄の木の棒を持って向かい合っていた。

「二人はどうやら基礎体力に不備は無いようだからな。実技訓練をしてもらう」

 リリーはそういって二人に近寄ってきた。

「審判は私がやる。勝敗は戦闘不能と私が判断した場合か相手が参ったというまで。徒手空拳になっても戦闘続行は可能だ。何か質問は?」

「俺からは特にありません」

「俺もです」

 リリーはそんな二人を見て満足そうに微笑んだ。

「いい闘気だ。其れでははじめ!」

 エフィムは獲物を構えるラインを見て内心舌を巻いていた。

 実戦訓練など今回が初めてだが、素人が見ても分かるほどに隙が無い。

 八歳で迷宮に置き去りにされたと言うのも頷ける。

 二人の間にはそれだけの経験の差があった。

 流石は串刺し公の実子というわけだ。内政ばかりやっていた俺とは下地が違う。

 エフィムは素直に負けを認めることにした。

 現段階ではエフィムがラインに勝てる見込みは薄い。

 それならば胸を借りるつもりで向かっていかなきゃならない。

「グルオオアア!」

 エフィムは叫び声を上げると気合一閃獲物を横に振りぬいた。

 しかしそれは簡単に受け流されてしまう。

 それにもめげず縦横無尽に獲物を振り回すエフィムだったが、その悉くがいなされ、かわされ、受け流される。

 そんな攻防が十数合も続いたとき、エフィムの目にも留まらぬ速さで繰り出された突きがエフィムの喉元に突き出されていた。

「――参った、俺の負けだ」

「勝ちましたよ、リリー教官」

 二人の間にある壁が如実に現れた瞬間だった。

「よーし、いいぞライン。流石の長柄捌きだ。それに引き換え――」

 リリーはエフィムを見遣る。

「エフィム、お前の戦い方は魔物には有効だろうが人間相手にはちょっと不向きだな」

 エフィムもそれを痛感していた。

 何せエフィムの獲物は金棍棒である。細かな戦い方ではなく相手を粉砕するための武器だ。必要なのは技術ではなくて力。そういうものだった。

「リリー教官、もう一本お願いします」

「おう、一本といわず何本でもやれ。どうせあいつらがばてるまであたしも暇だ」

「ライン、頼むぞ」

「任せといてよ」

 その日、結局エフィムはラインから一本もとることができなかった。

 その日の夕食時、話題は自然と鍛錬のものとなっていた。

「凄かったねライン君。エフィム君の竜巻みたいな攻撃を全部いなしちゃうんだから」

 エリクがラーメン定食をすすりながら言う。

 応えるラインは苦笑いだ。

「あれでも内心はひやひやしてたんだよ? なんせ当たったら骨が折れそうな攻撃ばかりだったからね」

「――その点は申し訳ない」

 から揚げ定食を食べながら頭を下げるのはエフィムだ。

 因みにとんかつ定食を食べているのは今日の勝者ラインだ。

「だが打ち合ってみて分かった。俺はラインの足元にも及ばん。これからは毎日実技練習だろうから、指導のほどよろしく頼む」

 そういって頭を下げるエフィムにラインは照れくさそうに頭をかいた。

「父に槍術を教わっているときは何故こんなものをと思っていたけど、今日始めて習っていてよかったと実感したよ。こちらこそ、明日からよろしく頼むね」

「僕も早く実技練習したいな~。魔法をどっかんどっかん撃ちたくて仕方がないや」

 エリクの物騒な発言にはエフィムもラインも苦笑いだった。

「そのためにはまず基礎体力だね」

「ああ、今日は何周走れたんだ?」

 二人の言葉にエリクの表情が暗くなる。

「やっぱりお昼の食べすぎが祟ったみたいで、二十八周。まだまだだよ」

 その言葉に食堂に笑い声が響いたのだった。

 夕食後、エフィムは自室で日記も書かずに金棍棒を持ち上げていた。

「やはり対人戦で苦労をするか……ヤバン兄さんに剣でも教えてもらえばよかったな」

 エフィムはそう一人ごちた。

「――やるか」

 エフィムはそう呟くと部屋の中で素振りを始めた。

 目標はラインから一本取ること。

 この日からエフィムの秘密の特訓が始まった。

ご意見ご感想ブックマーク、受け付けております。どうぞ作者に養分を

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