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煙草一本  作者: 若旦那
初等部編
6/45

5話

食事は戦争だ!

 夕食の時間になったが、エフィムはぼーっとしながら目の前の惨劇を眺めていた。

「おばちゃん、俺カツサンド二個!」

「私はラーメン定食!」

「俺もラーメン定食で!」

「あ、おいこら、何割り込んでんなよふざけんな!」

「うるせー早いものがちだ! 俺日替わり定食大盛りで!」

 戦争といわれた気分が漸く分かってきていたエフィムであった。

 食堂はまさに戦場の有様を呈していた。

 誰も彼もがカウンター席に集まり思い思いの食事を要求している。

 新一年生の入る余地など無いようなものだ。

 外食にすべきだったかとエフィムが頭を悩ませていると、見知った声が聞こえてきた。

「あ、エフィム君。ヤッホー」

 振り返ってみてみればエリクか一人で歩いてきているところだった。

「凄い状況だね」

「ああ、リリー教師の言っていた戦争の言葉が確かに当てはまる」

 二人で暫くその様子を見ていたが、一向に人気がなくなるということは無かった。

「しょうがない、行くか」

「うん、待ってたら全部なくなっちゃいそうだしね」

 エフィムとエリクは二人して人ごみの中に吶喊していった。

 数分後――。

「何とかとんかつ定食は死守できたな」

「僕の方は駄目だったよー。代わりに日替わり定食にしちゃった」

 食事を載せたトレイを持った二人が人ごみの中から出てきた。

「どこで食事を取る?」

 エフィムはエリクにそう問いながら辺りを見渡した。

 皆が思い思いのところで食事を取っているが生憎と食堂内のテーブルはすべて埋まっているようだった。

「残念ながら食堂内には空きは無いみたいだ」

「なら外で食べようよ。エフィム君座る場所ないでしょう?」

 エフィムは自分の体格を思い出した。確かにエリクの言う通り自分が座るとなれば相応の椅子が必要となる。もし華奢な椅子に座ってでもしたら椅子の方が壊れていしまう。

 教室ではリリーが持ってきてくれた椅子のおかげで事なきを得たがここではそうもいかない。

「そうするか」

 見遣ってみれば、食堂に隣接している中庭でご飯を食べている生徒もちらほらといるようだった。

 しかし異世界に来てまでとんかつやラーメンなどという単語を聞くことになるとは思わなかった。

 バイキング制という言葉も須らく一人のシェフが考え出したのだというから、そいつは間違いなく転生者だろうとエフィムは益体も無いことを考えながら中庭へ向かっていった。

「しかし、バイキング制といっていたわりに注文制だったな。何故だ?」

「それはね、バイキング制は朝食時だけだからさ」

 見知らぬ声が後方から掛けられた。

「うん? 誰だ、お前は?」

 エフィムが振り返るとそこには見知らぬトカゲ男が立っていた。

「これは失礼を。私は食堂で働いているカバンと申します。一通り嵐が過ぎ去ったのだから休憩を取ってこいとこれを」

 カバンはそういってカツサンドらしきものを持ち上げて見せた。

「そうだったのか、ありがとう」

 エフィムは親切にも教えてくれたカバンに向かって頭を下げる。

「はは、いいって事だよ。それよりも私も同伴させてもらってもいいかな」

「勿論、なあ、エリク」

「ご飯は沢山の人と食べた方がおいしいから僕も構わないよ」

 三人で適当な場所に腰を下ろし、食事を始める。

「……美味いな、ここの食事は」

 エフィムは誰に聞かせるでなく呟いた。

 とんかつ定食のカツは衣がさくさくで中身はジューシーというもので主食の米とよく合う味となっていた。

「本当だね、これで無料だって言うんだから驚きだよね」

「冒険者たる者最期の時まで美味しい食事を、がモットーだからね、うちの食堂は」

 聞けば迷宮に潜る際の弁当作りも行っているといるという。

「一番のハードワークじゃないか? カバンさんはよく我慢できるな」

「ああ、私も元冒険者上がりでね。ちょっとでも後輩達の役に立てるなら嬉しいもんだよ」

 何故冒険者を辞めたのかと問おうと思って、エフィムは止めた。

 人にはそれぞれ過去がある。余りに踏み込んだ質問は避けるべきだ。

「カバンさんはもう冒険者には戻らないんですか?」

 しかしその配慮も同伴者であるエリクによって粉々に打ち砕かれた。

 カバンはその質問に苦笑いを浮かべていた。

「私は冒険者に向いていなかったらしくてね。仲間の死を乗り越えられなかったのさ」

「仲間の死って、す、すみません無遠慮な質問してしまって」

 エリクは慌てて頭を下げた。

 それをカバンは手で制する。

「いいさ、気にすることでもない。そこらじゅうに転がってる話の一つだよ」

 カバンはそういいながらカツサンドにかぶりついた。

「うん、我ながらいい出来だ」

 カバンはそういって笑みを浮かべた。

 その自画自賛に若干だが場の雰囲気が和らいだ。

「ご馳走様」

「僕もご馳走様!」

「お粗末さまでした」

 暫く後に三人は全員が夕飯を食べ終わっていた。

「そういえば、君達は新一年生だよね?」

「はいそうです! ピッカピカの一年生ですよ」

 元気よく応えたのはエリクだ。こういうところで前世の記憶が邪魔をする。

 歳相応に振舞えないのだ。

 まあ、そのお陰で神童だ何だと持ち上げられたのだが。

 エフィムは内心もやもやしていた。

 だが、幸いなのはこの世界では十歳でも十二分に大人の対応が出来ることだった。

 何せ前世と違って医療技術が発達しているわけじゃない。

 平均年齢は五十歳と短い世界だ。否が応でも大人にならざるを得ないのだろう。

 また、亜人種は人族と違って発達具合が違う。それがこの奇妙な空間を作り出しているのだろう。

 エフィムはカバンと話し合っているエリクを見ながらそう推測していた。

「へえ~、それじゃあ五十人ぐらいで食堂を回しているんですね」

「ああ、私は揚げ物担当と言った風に役割分担をして回しているんだよ」

 エリクの凄いところはああいって相手の懐にするりと入っていってしまうところだろうか。

 気が付けばすっかり日も落ちて月が顔を見せていた。

「おっと、流石に長居しすぎたね。私はそろそろ食堂に戻るけど、二人はどうするんだい?」

 カバンが若干慌てながら尋ねてきた。

 多分清掃なども役割分担しているのだろう。

「僕達は――」

「ここで解散しますよ」

 エリクの言葉を遮ってエフィムは宣言した。

「え~、もっとお話しようよ」

 エリクは不満気だがエフィムは早く横になりたかった。

 今日一日で色んなことがあったからそれの整理もしたかった。

「ははは、まあ、無理するんじゃないよ。明日からは本格的に扱かれるだろうから、英気は養っていた方がいい」

「今日は色々とありがとうございました」

「ありがとうございましたー」

 二人の挨拶を後にカバンは去っていった。

「それじゃあ、俺たちも戻るとするか」

「……うん、エフィム君がそういうなら」

 まだ不機嫌そうなエリクを引き連れてエフィムは食堂を後にした。

「ふ~、疲れたな」

 今日の出来事を振り返りつつエフィムは自室でくつろいでいた。

 本来は二人で一部屋となっているのだが、キングオークには手狭に過ぎるということでエフィムの部屋は一人部屋だった。

 その配慮に感謝しつつ、エフィムは今日の出来事を日記帳に書いていく。

 日記をつけるのは最早薄れてしまっている現代知識を書き留めるために始めた作業だったが、何時しかそれがライフワークとなっていた。

「――友人が一人出来ました。長耳族のエリクという少女です」

 ブツブツと呟きながら日記をつけるのは不気味だったが、最早習慣と化しているエフィムにとっては関係の無いことであった。

 日記帳はすべて日本語で書かれている。解読できるものがいるとすればそれはエフィムと同じ転生者だけだろう。

 エフィムは書き終わった日記帳をばたんと閉じた。

 そして着替えるまでも無くベッドに飛び込んだ。人間用のキングサイズのベットだ。

「今日はいろいろなことがあったな」

 エフィムは今日という日を振り返って一人ごちた。

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