43話
階段を下りきると、荒涼とした大地が広がっていた。
「ここか」
呟いたのは庄治である。
その手には巨大なバスターソードが握られており、何時でも戦闘に入れる状態だった。
「人っ子一人いないな」
続くのはエフィムである。こちらは金棍棒を肩に担ぎ余裕の表情だ。
「皆、奥の方に行ってるんだろうね」
雄治が言う。
「私達も急ぎましょう。魔王を討伐しなきゃ」
「了解」
皐月の言葉に三人が唱和する。
四人は進んだ。
しかし、進めど進めど荒涼とした大地以外見えてくるものはない。
これはおかしいとエフィムは鼻をフゴフゴさせた。
「む――雄治、こっちだ。こちらから魔物の臭いがする。得体の知れない奴の臭いも一緒だ」
「分かった、行こう皆」
「了解」
エフィムに先導されていくと、そこには魔物の群と格闘する冒険者たちの姿があった。
「何の群だありゃあ」
庄治の呟きにエフィムが答える。
「キングオークの群だ。魔王様の迷宮は魔物も特別製らしい。見ろ」
エフィムは群の中心を指差した。
そこには毛色の違うキングオークが一匹指揮を取っているようだった。
「ハイオークだ。とうに絶滅した種だと聞いていたが、ここでは現役らしい」
「そんなことより援護に入るわよ!」
皐月が駆け出したのに慌てて付いて行く三人。
「おお、勇者様だ! 皆、勇者様が加勢に来てくれたぞ!」
冒険者側のリーダーと思しき男がいち早くこちらの接近に気が付いて声を張り上げる。
「おお、本当だ!」
「勇者様だ!」
口々に声を張り上げる冒険者たち。
「どうだ戦況は?」
エフィムの問いにリーダーが苦みばしった表情で答える。
「芳しくありません。キングオークが群れるだなんて見たことありませんよ。どこも似たような感じで、魔法使いに頼ったり、徒党を組んで抵抗してるのが現状です」
「それなら私の出番ね」
自信満々に答えたのは皐月だった。
「退いてなさいよ――フレイムストーム!」
無詠唱で紡がれた魔法は炎の竜巻となってキングオークの群を焼き尽くす。
「こいつは凄いな」
感嘆の声を漏らすエフィム。
「へへん、どんなものよ」
胸を反らす皐月。
残ったのは僅か数匹のキングオークとハイオーク一匹だけだった。
「ここからは俺たちの役目だな」
庄治がそういうと吶喊する。
それに続く雄治とエフィム。
「オラア!」
庄治が気合の叫び声と共にキングオークを両断すれば。
「シャア!」
雄治が片手剣で見事に首を切り落とす。
一方のエフィムと言えば、ハイオークの両足を砕いたところだった。
「魔王はどこだ?」
エフィムの問いにハイオークは答えた。
「魔王様はお城にいらっしゃる」
「――やけに素直に答えるな」
「隠したところでどうにもならんからな」
「城へはどう行けばいい」
「ここより徒歩一日かければ辿り着けるだろうよ」
「――情報感謝する。望みは何だ?」
「介錯を頼む」
そういうや、ハイオークは片手剣を掴むと深々と己の腹に突き立てた。
「ま、魔王陛下――万歳!」
ぐしゃりと、脳漿が飛び散った。
「長々と話してたが、収穫はあったかよ?」
庄治が近づいてきて問う。
「ああ、大収穫だ。行こう、皆に話さねばならない」
エフィムはそういうと、雄治も引きつれ冒険者たちのところへ向かった。
「ヒール」
そこでは丁度皐月が冒険者たちの治療をしているところだった。
「皆、聞いてくれ」
エフィムはこれ幸いと先ほど得た情報をその場にいる面々に語った。
「城ですか……」
冒険者のリーダーは思い当たる節があるのか、腕を組んで唸りだした。
「俺の鼻では流石に探知できん。何ぞ思い当たる節があるのか?」
リーダーは若干の戸惑いを覚えつつ語りだした。
「ええ、伝言なんですが、東北東を目指せと先行組から言われてまして」
「東北東か、どっちだ?」
「あちらです」
リーダーが何も無い荒涼とした大地を指差す。
「徒歩で一日だったな」
「キャッ」
庄治が皐月を抱きかかえる。
「走れば半日ですよね、エフィムさん」
そんなメンバーの態度を見て、エフィムは苦笑いを浮かべた。
「よし、走るか」
その言葉と共にエフィムたちは駆けだした。
「おい、おまえ等、勇者様に続くぞ!」
後ろからは冒険者たちがエフィムたちに続けと駆け出していた。
そこからは早かった。
途中途中で見つけた冒険者たちを糾合して魔物の群は皐月の魔法で殲滅。
進むごとに率いる冒険者の数は増えていった。
「なあ皆!」
エフィムはパーティメンバーに声をかけた。
「何ですかエフィムさん!」
雄治が代表して応じる。
「壮観だとは思わんか!」
エフィムは後方を指しながら言った。
パーティメンバーたちも各々が振り返る。
「確かにエフィムの言うとおり壮観だな!」
庄治が笑いながら言う。
「上から見たら、雄治、あんたを先頭にした小魚の群みたいでしょうね!」
抱きかかえられながら皐月が言う。
「皆、俺たちを希望に集まった連中だ! 何か声をかけてやれよ!」
エフィムの言葉に、雄治は照れ臭そうに笑った。
「柄じゃないよ!」
「そんなことはどうでもいいんだよ! 何か一声かけるだけでいいんだよ!」
「う~ん、それじゃあ――皆、魔王城まであと少しだ! 皆の力を頼りにしてるぞ!」
「ウオオオオオオオオ!!」
大歓声が後方から上がった。
「雄治! それでいいんだよ、それで!」
エフィムが豪快に笑いながら言う。
「雄治、エフィム、お喋りもそこまでだ! 見えてきたぜ、敵の本丸がよお!」
庄治の言葉に目をやれば、確かにそこには城の影が見えていた。




