39話
一昼夜馬車を走らせると、巨大な洞窟が姿を現した。
「トォバ様、あれが熱砂の迷宮です!」
随行する騎士が言う。
周囲には何も無い辺境と呼ぶに相応しい場所だった。
「馬車はあるか!?」
俺の問いに騎士は暫く前方を見遣ったが、首を横に振った。
「壊された残骸があるのみです!」
道は一本。
行き違いにはなっていない。
とすると、まだ迷宮の中か?
「お前たち、周囲を探してみてくれ! それ次第では俺が迷宮内に入る!」
「了解いたしました!」
さあ、どうなる?
馬車を停めて待つこと暫し。
「トォバ様、発見いたしました! 勇者様です!」
騎士の一人が駆け寄って来る。
よし、外にいたか!
「全騎戻り次第向かう!」
そして全十騎が戻ってきた。
「よし、先導してくれ!」
「了解いたしました!」
騎士の先導で馬車を走らせること暫し後。
「あちらです!」
騎士の言葉に馬車から身を乗り出し確認する。
すると確かにそこには雄治たち勇者パーティがいた。
周囲には負傷したのか、倒れている騎士の姿もあった。
「雄治! 無事だったか」
エフィムは馬車から降りると、雄治たちに駆け寄った。
「あ、エフィムさん! 来てくれたんですね」
「ああ、迷宮の主も仕留めたぞ」
まあ、と言って続ける。
「魔王の居所は分からなかったがな」
「そうでしたか……すみません、取り逃がしてしまって」
すまなそうな顔で言う雄治。
責任を感じているのだろう。
だがエフィムは豪快に笑って見せた。
「気にするな。パーティメンバーだろう」
「そういって頂けると助かります」
エフィムが周囲を見渡すと、皐月が負傷した兵にだろう、治癒魔法をかけてまわっていた。
その数十人。同数の護衛だったのだろう。
「雄治たちは馬車に乗れ。護衛の兵は騎馬に乗せよう」
「はい、助かります」
そこで近寄ってくる影があった。
庄治だ。
「おお、エフィムじゃないか。丁度よかった、立ち往生していたところだったんだ」
そういって快活に笑う庄治。
「おお、庄治。姿が見えなかったが何をしてたんだ?」
「いやなに、周囲の警戒と、逃げ出した馬がいないか一応の確認をな」
そういって頭を掻く庄治。
どうやら庄治は気の回る人間らしかった。
「まあ、とにかく馬車に乗ってからだな、話は」
「ああ、助かるぜ。おい皐月!」
庄治が皐月に声をかける。
「ヒール――あら、エフィムじゃない。助かったわね」
口々に助かったと言われると面映いものがあるな。
まあ、馬車も壊れて、馬にも逃げられていれば当然か。
「兵たちは騎馬に乗せて俺たちは馬車に乗ろう。話たいことがあるんだ」
エフィムはそう言い残すと馬車へ乗り込んだ。
程なくして馬車に乗り込んでくる三人。
馬車はゆっくりと動き出した。
「それでエフィムさん、話とは?」
真っ先に口を開いたのは雄治だ。
エフィムも答える。
「ああ、迷宮の主に聞いた話なんだがな」
そこで皐月が嫌そうな顔をする。
はて、なんだろうか?
「皐月、どうかしたのか?」
エフィムの問いに皐月は忌々しげに答えた。
「迷宮の主の話なんて与太話じゃない。聞くだけ無駄よ」
「ふむ、そう言われてもな。どうやら大海嘯を治めてまわるだけじゃ魔王には到達できなさそうな話だったんだが」
エフィムの言葉に雄治が反応する。
「それってどういうことですか?」
「ああ、迷宮の主が言っていたんだ。魔王の居所を我ら程度が知るはず無かろうやってな」
その言葉に思案気な表情をする雄治。
「――初耳ですね、その言葉」
庄治も続く。
「ああ、俺も迷宮の主からそんな言葉は聞いたことが無いぞ」
皐月だけが押し黙っていた。
「皐月、皐月は聞いたことあるかい、そんな言葉」
皐月は憮然とした表情で答えた。
「ないわ。有用な情報も話すのね、迷宮の主って」
「エフィムさん、詳しくお話を聞かせてもらってもいいですか?」
雄治の問いにエフィムは頷いた。
「勿論だとも」
エフィムは迷宮の主とのやり取りを話した。
「我ら程度ねえ」
庄治が呟く。
エフィムが言う。
「これは推論なんだが、もっと上位種の迷宮の主がいるんじゃないのか? そしてそいつらは魔王の居所を知っている」
「可能性は高い話ね」
皐月が呟く。
庄治が言う。
「なあ雄治、そのスマフォで何か分からないか?」
庄治の問いかけに雄治はスマフォを操作することで応えた。
「う~ん、上位種、上位種ねえ……」
結果は芳しくないようで、雄治の眉間に皺が寄る。
そこでアッと雄治が声を上げた。
「どうした?」
エフィムが問う。
「いえ、そう言えば最近人型の迷宮の主に会っていないと思いまして。。もしかしたら、人型の迷宮の主が上位種なんじゃないかなあと思って」
人型か、俺は会ったことがないな。
「雄治たちは会ったことがあるのか、その人型に」
その問いに三人は頷いた。
「一回だけですけどね」
「俺が叩き切ったんだよ」
庄治がすまなそうに言う。
「今思えば、きちんと話を聞いてやればよかった」
「しょうがないじゃない。こっちには大海嘯をどうにかしなきゃって頭しかなかったんですもの」
確かに仕様の無い話だ。
だが、光明らしきものは見えてきた。
人型の迷宮の主。キーマンは多分そいつだ。
「なあ雄治、その人型の迷宮の主をピンポイントで探せないか?」
俺の問いかけに雄治は暫くスマフォを弄っていたが、力なく首を横に振った。
「駄目ですね。次の大海嘯が起きる迷宮は分かるんですけど、主の種類までは」
「そうか――なら、虱潰しにいくしかないな」
馬車は王都へ向けてひた走る。




