34話
そして、御前試合当日。
コロッセウムには急遽貴賓席が設けられ、そこに勇者御一行が座ることになった。
「やっぱり慣れないや」
呟いたのは中央に座る優男だった。
黒髪黒目の、どこにでもいそうな青年だ。
「あたしだって慣れないわよ。だからあんたも我慢しなさい」
その青年に喋りかけているのも、黒髪黒目の少女だった。
気の強そうな顔立ちをしていることを除けば、彼女も普通の少女だった。
「そんなことより、初代勇者の血縁がこの養成所にいるのは本当なんだろうな?」
二人のじゃれあいを横目に青年へ問いかけるのは同じく黒髪黒目の戦士然とした男だ。
勇者のパーティであった。
「うん、間違いないよ。女神様からご神託があったんだ」
勇者は手に持っている小さな板状の何かを操作しながら答える。
「ほら、これ」
そしてその何かを二人に見せる。
それだけで二人は納得して見せた。
少女が呟く。
「しかし神様と会話が出来るスマートフォンなんて、変なチートよね」
「しかし、お陰で俺たちは出会えた訳だから、チート様様だろう」
「あはは、でも便利だよ。次に大海嘯がおきる迷宮検索なんかも出来るし、自分のステータスだって弄れちゃうんだから。これが無かったら今頃俺は死んでるよ」
勇者はそういって朗らかに笑って見せた。
それにつられて笑うのは戦士然とした男だ。
「まあ、俺たちみたいに何か別のチートを与えられたわけじゃないからな」
「それもそうね。事前に説明もなかったんでしょう? 女神様から」
「うん、気付いたらこの国にいて、いきなり『勇者様』だもの。びっくりしたよ」
そんな話をしている三人の前で、熱戦が始まろうとしていた。
「レディースエーンドジェントルメン! 今日は待ちに待った勇者様への御前試合です!」
コロッセウムの中央に中等部の男子学生が立つ。
「今回はより迫力ある試合として武具はすべて本物を使用させていただいております! 相手を殺さずに倒すのも技量のうち! 一体誰が勝ち上がるのか!? 目の離せない熱戦の数々になろうかと存じます!」
それにしてもノリノリである。
「それでは皆様、暫しの間お待ち下さい!」
場所は移り、出場者控え室。
多数の生徒が犇めき合っていた。
「数が多いな――」
エフィムの呟きに反応したのはラインだ。
「しょうがないよ、御前試合だからね」
「しかし、相手を殺さずに叩きのめすってのは至難の業だな」
呟くのはゼルブだ。
エフィムも重々しく頷きながら、自らの相棒である金棍棒に目をやる。
武器破壊が主な使い方になるだろう。
その点ラインは飄々としたものだった。
「俺の槍は速いからまあ、楽っちゃ楽だよね」
そんなことまで言う始末であった。
「ほざけ、接近されると何もできん奴が何を言うやら」
「接近されなければ何の問題も無いでしょ?」
じゃれあう二人は放っておいて、エフィムは最終チェックをした。
金棍棒よし、プレートメイルよし、後は――煙草だな。
エフィムが煙草を取り出すのと同時に、その名を呼ばれた。
エフィムは構わず火をつけた。
さて、煙草が吸い終わるまでに片付けますかね。
エフィムはそう思いながらコロッセウムへと向かっていった。
「おい、出てきたぞ」
戦士然とした男が勇者を叩く。
「ちょっと待って、今調べるから――」
「あの体格……キングオークね」
「ああ、相手のゴブリンにゃ可哀想だが、勝負は目に見えてるな」
二人が話を咲かせている間にも勇者は一人スマフォを弄っていた。
「――彼だ」
その呟きに反応したのは少女だった。
「はあ? だって彼、人族じゃないじゃん」
男も会話に混ざる。
「いや、勇者の血統が途絶えてるなんて言ったが、実は亜人と交配してたのかもしれないぞ」
「オークと人族があ? 勘弁してよ」
「でもほら!」
勇者が二人にスマフォの画面を見せる。
そこには確かに勇者の血族との文字が入っていた。
「会いに行こう」
勇者はそういうと立ち上がった。
「おいおい、まだ試合の途中だぞ?」
「そうよ、それに一応あたし達がメインなんだから中座って言うのも――」
そんな二人の声を後ろに勇者は歩き出していた。
場所は移り、控え室。
控え室は一種の狂乱状態に陥っていた。
何せ勇者がいきなりやって来たのだ。
興奮するなというのが無理がある。
「あれが勇者様ねえ、優男にしか見えんが」
率直な感想を漏らしたのはゼルブだった。
「でも凄い闘気だよ。俺よりは間違いなく強いね」
ラインも続く。
「ふむ、何の用だろうな」
エフィムの言葉に反応するかのように、勇者はエフィムたちのほうへ歩みを進めてきた。
「エフィムさんですね?」
そして、あろうことか勇者に声をかけられてしまう。
「ああ、そうだが、一体何の用で?」
しかしエフィムは動じない。強靭な精神力ゆえだった。
「どうか俺たちのパーティに入ってください」
頭を下げる勇者。その行為に控え室が騒然となる。
「おいおい、頭を上げてくれないか――騒がしくて敵わんな、場所を変えよう」
エフィムはのそりと立ち上がると控え室を後にした。
勇者もそれに続く。
着いた先は食堂だった。
「ここならゆっくり喋れるだろう」
「はい、エフィムさん」
エフィムが定位置に座ると勇者もそれに倣い椅子に座る。
「それで、何で俺なんだ?」
「それはですね、これをご覧になって頂ければ――あれ?」
勇者はスマフォを取り出すが、画面を見るなり素っ頓狂な声を上げた。
エフィムはエフィムで混乱していた。
あれ、スマートフォンだよな? 何で勇者があんなものを?
エフィムは意を決して聞いてみることにした。
「それ、スマートフォンだよな?」
「え、ええ、そうですが――って、分かるんですか!?」
勇者は心底びっくりしたような声を上げた。
「勇者様、因みに名前を伺っても?」
「伊藤雄治、いや、ユウジ・イトウの方が分かりやすいですか?」
トリッパーか! だからあんなもの持ってるんだな。
エフィムは一人納得して見せたが、着いていけないのは雄治の方だった。
「エフィムさん、エフィムさんってもしかして、転生者……?」
「ああ、そうだ」
「――そうだったんですか。いや、これで何の気兼ねなく話をすることが出来ますよ」
そういって雄治は莞爾と笑うのだった。




