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煙草一本  作者: 若旦那
中等部編
33/45

32話

 魔王復活から、半年が過ぎた。

 その間、色々なことが起きていた。

 先ずはモンスターや魔物の跳梁。

 その他にも治安の悪化から来る盗賊団の増加。

 世界は混迷に包まれていた。

「どうにかせねばならんな」

 場所はサイヤーン神聖王国の王都。巨大な城の中枢だった。

 呟いたのは王である。

「はい、今宮廷魔法使いに召喚の儀の準備を整えさせているところです」

 その言葉に王は若干顔を曇らせる。

「勇者召喚の儀か――うまくいくのだろうな」

「二百年前には成功しております。心配はないかと」

「そうか……」

 王は力なくうな垂れた。

「だれぞ勇者召喚なしで魔王を討伐してくれるものはおらんのか」

「残念ながら。勇者の血統も既に尽きていますから、異世界から救世主を呼ぶより仕方がないと」

 側近の言葉に王は弱弱しく頷いた。

「勇者の存在に期待を寄せるしかないか」

「はい」

「しかし、大海嘯に魔王の復活。一体世界で何が起きているというのだ」

 王の言葉に返事はない。

 側近が言葉につまったためだ。

「まあよい、それよりも各国と連絡が取れたか?」

「はい、滞りなく」

 王はまた思案気に俯いた。

「何としても民の犠牲は少なくしたいものだ。会議で揉めねばいいが……」

 王は魔王復活の知らせを聞いて主要な国々に会談の申し込みを行っていた。

 せめて国が直轄管理する王道だけでも治安維持が出来なければならない。そのための会談だった。

 さて、所は移り冒険者養成所である。

 中等部の受注所は珍しく混雑していた。

「みんなー、護衛クエスト取って来たよ!」

 元気そうにエリクが声を上げる。

「なになに、一般の冒険者と共同でか」

「うん、今はどこも大変みたいだから、僕たち冒険者におはちが回ってきたみたい。依頼内容はジョゼール共和国のやんごとなきお方の道中護衛だってさ」

 その言葉に三人は一斉に顔を顰めて見せた。

「あれ? 不味い内容だった?」

 エリクが不思議そうに問う。

「不味いも何も、つい二十年前に戦争を起こした国だよ? 亜人蔑視が酷いところだとも言うし、もうちょっと考えて欲しかったな」

 ラインが説明をする。

 それを聞いてあちゃーっという顔を見せるエリク。

「でもしょうがないじゃん、めぼしい依頼は皆取られちゃってたんだし」

 その言葉に肩を落とす三人。

「やっぱり、魔王復活の影響かな、この混み具合」

「そうじゃねえか? 今じゃ王道を歩いてたってモンスターや魔物に遭遇するご時勢だ、ソロパーティで迷宮に潜るのなんざ自殺行為とまで言われてるらしいぜ」

 ラインとゼルブが現状を嘆く。

「愚痴愚痴言っても仕方あるまい。このクエストを正式に受注しよう」

 エフィムの鶴の一声で四人は護衛クエストを受注することとなった。

「なになに、場所は冒険者ギルド前に集合、後は馬車で移動か」

「旅程は二十日ほどって書いてあるね。国境から警護するのかな」

「ったく、自前の騎士団でも連れて来いよな」

 未だに愚痴愚痴言うゼルブは放っておいて、エフィムたちは準備を済ませた。

 そして護衛クエスト当日、エフィムたちは冒険者ギルド前にいた。

 一般の冒険者と顔合わせである。

「やあ君たち。君たちが養成所の生徒達かな?」

 話しかけてきたのは未だ二十代と思しき青年だった。

 端正な顔つきをしており、金髪が風に揺れている。

 身長は百八十センチほどだろうか、商家の若旦那を連想する優男だった。

「はい、そうです」

 エフィムが代表して答える。

「よかったよ、間違えたらどうしようかと冷や冷やしてたんだ」

 エフィムたちは完全装備で立っていた。

 確かに、養成所の生徒達と言うよりただの冒険者といったほうが無理もないかもしれない。

「僕の名前はフィラルド。今回の護衛クエストでリーダーをやらせてもらうことになってる。以後宜しく頼むよ」

「はい、了解しました」

 四人の声が唱和される。

 そうこうしている内に馬車が三台到着した。

「じゃあ皆さん、馬車に乗り込んでください。

 馬車は総勢十四人の冒険者たちを乗せて国境へ向けてひた走った。

 行きの旅程ではモンスターや魔物、賊に出会うこともなく順調に日程を消化していった。

 そして国境付近に差し掛かるとそこには既に豪奢な馬車が到着していた。

 周囲には馬車の護衛だろう、六人ほどの騎士が警護している真っ最中であった。

 フィラルドが真っ先に馬車から降りて、豪奢な馬車へと近寄っていく。

 何やら二言三言交わしたところで、フィラルドは馬車から離れた。

 それと同時にゆっくりとだが馬車が前進を始める。

 最終的に先頭二台と殿一台と言う形式で馬車は王都へ向かうこととなった。

 警護をしている騎士達もそれぞれが馬に乗り馬車へと追随する。

「誰が乗ってるんだろうね、あの馬車」

 馬車の中で呟いたのはエリクだ。

 それに対しての三人の反応は顔を顰めるといった具合である。

「六頭立ての馬車を使う人間なんて限られている。王族だ」

 エフィムは苦々しげにそう答えた。

「じゃあじゃあ、あれには王様が乗ってるの!?」

 エリクが素っ頓狂な声を上げる。

「王様とは限らないぜ小娘。王族に連なるもの全てが対象だからな。王子や姫かも知れん」

 ゼルブが答える。

「しかし、やっぱり妙だね。王族を態々冒険者に護衛させるなんて」

 ラインが言う。

 尤もな話だ。

 だがエフィムは勿論全員がそれに答える術を持ち合わせていなかった。

 馬車は不思議を乗せてひた走る。

 だが、帰りの旅程は行きほど順調には進まなかった。

 旅程十五日目のことである。

「なに、王道が封鎖されている?」

 フィラルドが告げた言葉にエフィムは苦々しげにそういった。

「ああ、どうやら大海嘯もどきがまた起こったみたいでね。参っちゃうよ」

 大海嘯もどきとは、魔物の大量発生を意味している。

 魔王復活から度々起きるようになった現象で、その規模は大海嘯に次ぐものとされている。

 閑話休題。

「騎士団が殲滅作業中らしくてね。それまではこの王道は通行禁止らしい」

「裏道を使うんですか?」

「使いたくはないんだけどね、先方も遅れるわけにはいかないの一点張りで」

 こうして馬車は王道をはずれ、裏道を経由して王都に向かうことになった。

 そして王都まで後二日の距離に迫った日のこと。

 エフィムの鼻が敵を探知していた。

「全員止まれ!」

 エフィムの大音声に馬車に随行していた騎士達が他の馬車を止まらせるために動き出した。

 そして全員が止まった時に、フィラルドが駆け寄ってきた。

「エフィム君、どうしたんだい?」

 フィラルドの問いにエフィムは鼻を鳴らして答えた。

「人間の臭いがする。それも百じゃきかない位だ」

「賊か――」

 フィラルドは思案気に首を傾げて見せた。

「しょうがない、走り抜けよう」

 出た案は無謀極まるものだった。

「しかしフィラルドさん、もし馬車の馬を狙われたらお仕舞いですよ」

 そのエフィムの言葉にフィラルドは笑って見せた。

「僕のクランメンバーは殆どが魔法使いでね。なに、賊が出たら目に物見せてあげるよ」

 再び馬車が移動を開始する。

 そして暫くの後。

「ファイアーストーム!」

「アイスストーム!」

「サンダーストーム!」

 次々と馬車から放たれる魔法に賊は右往左往していた。

「強行突破ここに極まれり、だね」

「ああ、まったくだ」

 殿の馬車内で三人は苦笑いを浮かべていた。

 エリクは自分も負けじと窓から魔法を放っている。

「これでも食らえ! フレイム・バン!」

 劫火の雨が賊たちに降り注ぐ。

 随分とあっけなくエフィムたちは窮地を脱出していた。

「こういうのも楽でいいな」

 呟いたのはエフィムだ。

「ああ、だが一人ぐらいは斬り殺したかったな」

 物騒なことを言うのはゼルブだ。

「まあまあ、偶にはいいじゃないか楽をしても」

 それをたしなめるのはラインだった。

「僕は働いたからもういいや」

 そういうエリクに苦笑いで返す三人だった。

 結局馬車は何者にも遮られることなく王都へ到着するのだった。

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