29話
どんな集団でも、統率者が現れると戦術を駆使したりなど殲滅するまでの難易度は跳ね上がる。
これは魔物の群にもいえるようで、オークたちも擬似的なパーティを作り、前衛組みを苦戦させていた。
また、厄介なのはその数だった。
二百に上ろうかというオークの群れは扇形に陣形を取り、徐々にだが生徒達を包囲しようとしていた。
だが、その密集隊形も不利に働く場合がある。
魔法使いの存在だ。
「ファイアーストーム!」
「アイスストーム!」
「サンダーストーム!」
三色の魔法が次々と着弾する。
その度に十数匹、多い場合では二十数匹のオークが倒されていく。
密集隊形ゆえの弊害だった。
前衛組みにとっては密集隊形ゆえの圧力から有利に働くが、後衛組みにとって見れば標的が集まっているので狙わなくとも敵を殲滅できる。
問題は後衛組みの魔力だったが、戦端が開いて幾許もたっていない。
戦闘は養成所生徒達に有利に進んでいた。
その戦況を見て取ったのか、手近なオークを斬り殺しながらゼルブが口を開く。
「なあ、わざわざ俺たちが頭を潰す必要性があるのか? 小娘達魔法使いどもに任せていれば楽な戦闘になると思うんだが」
ラインも続く。
「そうだね、現状を見る限りじゃその通りだ」
「ファイアーストーム! ……もう、簡単に言ってくれちゃって」
魔法を撃ち終わったエリクが膨れっ面になる。
そう楽な作業でもないのだろう。
エフィムは不満気なエリクの頭を撫でてやった。
そうしながら言う。
「確かに楽だろうが、後衛組みばかりに負担をかけさせるわけにもいかん。それに――」
エフィムは紫煙を燻らせながら鼻を鳴らした。
「増援だ。指揮者の周囲には集まる習性でもあるのかもな」
エフィムが顎で指し示した方角――即ちキングオークの後背から更なる光点が迫ってきていた。
ゼルブが忌々しげに呟く。
「飴にたかる蟻かよ」
エフィムはその例えに豪快に笑って見せた。
「蟻退治なら手馴れたもんだ」
その台詞に三人は苦笑いを浮かべた。
先ほどのジャイアントアント殲滅を思い浮かべたのだ。
「さあお喋りはここまでだ。頭を潰しに行くぞ」
「了解。エリクはここに残って俺たちを援護してくれ」
「了解だよー」
「さてと、走るか」
ゼルブの呟きと共にエリクが詠唱を開始する。
「紅蓮の炎よ、劫火の雨よ、我が行く道を切り開きたまえ――フレイム・バン!」
炎の雨がエフィムたちの前方にいたオークたちを焼き払う。
その数は五十匹にも上ろうかという大魔法だ。
エリクがどうだといわんばかりに指を鳴らす。
「ほお! 小娘の奴やるじゃないか」
「うん、お陰で大将まで道が開けたよ」
ゼルブとラインが囁きあう。
エフィムも同感だった。
エリクの奴、何時の間にこんな魔法を身につけたんだ?
だが、お陰でオークキングまでの道が出来た、ありがたい!
「道が閉じる前に突っ込むぞ!」
「おお!」
「了解!」
二人の返事を後ろに聞きながら、エフィムは走る。
だが早くも目の前の道は閉じようとしていた。
「グルオワア!」
エフィムはそれを阻止せんと金棍棒を振り回す。
その度にオークが一匹二匹と倒れ伏していく。
その開いた隙間に後続の二人が押し入る。
「ケエヤ!」
「グアアア!」
そしてその二人が作った隙間にまたエフィムが押し入る。
これを交互に繰り返しながらエフィムたちは進んでいった。
そして直近に炸裂する魔法。
「おいあの小娘、俺たちごと焼き殺す気じゃなかろうな!」
ゼルブが豪快に笑いながら言う。
つられて笑いながら言うのはラインだ。
「だとしたらゼルブのせいだね! 怨むよ俺は!」
エフィムも自然と笑っていた。
「そうだな! みなゼルブのせいだ!」
三人は笑いながら突き進む。
そしてその時は訪れた。
「なぜ我らの進軍を阻むのだ」
その声は前方から聞こえてきた。
紫黒色の毛に口唇から伸びる二本の牙。
体毛に違いこそあれ、オークキングだった。
その身はボロボロのプレートメイルに覆われ、手には巨大なロングソードが握られている。
歴戦の勇者の風格があった。
「おい、本当に喋りやがるな!」
ゼルブが手近なオークを斬り殺しながら言う。
「本当だね! それに強そうだ!」
ラインがオークを刺し殺しながら言う。
「それはお前達が罪無き民を殺すからだ!」
エフィムは言葉と共に猛然と殴りかかった。
しかしそれはするりといなされてしまう。
「民? 民ならばここにいるではないか」
オークキングは周囲のオークたちを指差す。
「それはお前も含めて魔物って言うんだよ!」
今度はゼルブが斬りかかる。
ゼルブの剣技の妙か、今度はいなされずに剣と剣がぶつかり合う。
「魔物? 魔物とは蟻や狼どものことであろう」
「なら貴様は何だ!」
ラインが突きを放つが、ゼルブとの鍔迫り合いを放棄して後方へ飛びずさるキングオーク。
槍は虚しく空を切った。
オークキングは泰然と言い放った。
「我らは魔族。魔王様の民である」
「魔王、だって?」
ラインがいぶかしみながら問う。
「左様、魔王様である。おお我らが王よ、御身は何処!」
「ッへ、何の話かと思えば大昔の話じゃねえか」
ゼルブが毒づく。
エフィムも同感だった。
腕は立つようだが頭の中は二百年前のままか、世話無いな。
「ゼルブ、ライン、下らないお喋りはここまでだ。ゼルブ、先ほどみたいに鍔迫り合いに持ち込めるか?」
オークを叩き潰しながらエフィムが問う。
同じくオークを斬り殺しながらゼルブが答える。
「ああ、造作もねえ」
「なら頼む。その隙に俺が吶喊して動きを止める。止めはライン、お前だ」
「了解したよ」
刺し貫いた槍を引き抜きながらラインが答える。
「よし、いくぞ!」
「グアアアアア!」
咆哮一閃、ゼルブがグレートソードで再びオークキングと鍔迫り合いに持ち込む。
「グオルウア!」
そこにエフィムが吶喊する。
先ほどと同じように後ろに飛びずさろうとするキングオークだったが――。
「グオオアアア!」
「ぬう――」
ゼルブがそれをさせない。
エフィムは金棍棒を置き捨てると、その巨漢で下半身目掛けてタックルを打ちかました。
それに足を取られ、転倒するオークキング。
「これで仕舞いだあ!」
そこへラインの槍が突き出される。
胸を刺し貫かれたオークキングはそこで果てるのだった。
「ふう、何とか終わったねえ」
ラインが統率の乱れたオークを刺し貫きながら言う。
「ああ、梃子摺らせやがって」
同じくオークを斬り殺しながらゼルブが続く。
エフィムは先ほど置き捨てた金棍棒を取りに戻るため、進路の邪魔になるオークを殴り殺していた。
もうこの頃になるとオークの群の第一波は壊滅状況にあり、第二波に向かって魔法が放たれているところだった。
粗方周囲のオークを皆殺しにすると、エフィムはやっと拾えた金棍棒を肩に担いで、面甲を跳ね上げた。
そして、煙草一本取り出すと、マッチで火をつけた。
煙草一本分強く在れればそれでいい。
そんな思いと共にエフィムは東の空を顧みた。
空はもう白んじていた。
その後は統率者のいなくなった第二波を壊滅させ、余勢を駆り騎士団と合流。
魔物の群を殲滅して終わりだった。
どうやら、あのオークキングが迷宮の主だったらしい。
確かに、一対一なら勝てるか危うい相手だ。
リリーにはよくぞやったと褒められたが、苦笑いで返すしかない三人だった。
何せ、誰が欠けていても勝てる相手ではなかったのだから。
帰ったら久しぶりに自主鍛錬でもするか、と思案するエフィムだった。
評価ポイントが入ると泣いて喜びます。




