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煙草一本  作者: 若旦那
中等部編
29/45

28話

エフィムとラインは先ずはリリーに状況を説明しに行った。

「オークの群れはもう殲滅か。相変わらず仕事が早いな」

 リリーは感心したように言った。

「リリー教官、それよりも虫と狼が迫ってきてます」

 ラインが言う。

 それを聞いた途端リリーの表情が険しくなった。

「騎士団の囲いが破られたか……?」

 リリーは呟く。

 現状騎士団が魔物たちを押し込めているところだった。

 そうであるのにこのモンスターの襲撃である。

 どこかで囲い込みに失敗したと考えるのが普通だった。

「エフィム、どっちから来る?」

 リリーの言葉にエフィムは馬車団の先頭を指差した。

「三年たちか、なら大丈夫だろう」

 リリーはあからさまにほっとした表情を作った。

 それほどまでに一年と三年では地力に開きがあった。

 それも当然で受注してきたクエストの数がまず違う。

 潜ってきた修羅場の数も同様だ。

「数は分かるか?」

 リリーの言葉にエフィムは頷いた。

「二百から三百ほど。大群です」

「一二年を援護に向かわせるか」

 リリーはよしと呟いた。

「おらーガキども! 三年たちのほうからモンスターの大群がやってくる! 準備が出来た奴から援護に向かえ!」

 リリーの叫び声を聞いた一二年生たちは我先にと先頭方面へと向かって駆け出していく。

 そんな中、先頭方面で幾つもの光球が夜空に打ち上げられた。

 ライトの魔法だ。

「お、どうやら三年たちも気付いたらしいな」

 どうやらそうらしい。

 エフィムは面甲を跳ね上げて煙草を取り出した。

 それを銜えると、マッチで火をつける。

「それではリリー教官、俺たちも行って来ます」

 エフィムの言葉にリリーは頷いた。

「おう、行ってこい」

 エフィムとラインも駆け出した。

 暫くの間駆けて行くと、剣戟の音が聞こえ始めた。

「じゃあエフィム、虫の方は頼んだよ」

 ラインがそういって迷宮狼たちの方へ向かって加速する。

「おう、任された」

 エフィムは煙草を吐き出すと面甲を下げ、ジャイアントアントの方へ向かって加速する。

 そして到着するやいなや金棍棒を振り下ろす。

 乾いた音と共に頭を潰されたジャイアントアントは動かなくなった。

「フン、俺を殺したきゃこの三倍は持って来い」

 エフィムは轟然と言い放つと、次々とジャイアントアントを潰して回った。

 そこからは単なる作業のようなものだった。

 金棍棒を振り上げては振り下ろし、振り上げては振り下ろし。

 その度にジャイアントアントの屍骸が量産されていく。

 そんな作業を数十分も続けていた頃だった。

 エフィムの鼻に嗅ぎ慣れた臭いと嗅ぎ慣れない臭いが漂ってきたのは。

「オークと……なんだこの臭いは」

 エフィムは思わず顔を顰めた。

 それほどまでに異質な臭いだったのである。

 臭いの源へと目を遣れば、また赤い光点がちらついている。

 魔物たちだ。

 それも先ほどの比ではない数の魔物たちだった。

 少なく見積もっても二百はいるだろう。

 オークの臭いからしてオークの群れだろうが、この異質な臭いは何だ?

 噂に聞くキングオークとでも言う奴か?

 エフィムは思案しながらジャイアントアントを潰し続ける。

 幸い他の生徒達の奮戦もあってジャイアントアントの数はもう残り僅かとなっていた。

「よおエフィム、大活躍だな!」

 ジャイアントアントを斬り潰しながら声をかけてきたのはゼルブだった。

「蟻どもじゃあ最早役者不足か!」

 そういいながら豪快に笑うゼルブ。

 エフィムも笑いながら答える。

「お前にとってもそうだろう!」

「違いない!」

 それから暫くしてジャイアントアントの殲滅は終わった。

 そしてそれは迷宮狼の殲滅も意味していた。

「やあエフィム、大活躍だったみたいだね」

 声をかけてきたのはラインだ。

 直ぐ後ろにはエリクもいる。

「わあ、こんなに潰したんだ」

 エリクが感嘆の声を上げる。

 エリクが声を上げるのも無理はない。

 何せエフィムだけで八十匹ほどのジャイアントアントを始末していたのだから。

「虫をいくら潰したところで自慢にはならん。それよりもだ――」

 エフィムは前方に目を遣った。

 そこでは既に三年生達とオーク達が戦端を開いていた。

「あっちから妙な臭いがする」

「あっちって、あのオークの群?」

 エリクが不思議そうに尋ねてくる。

「ああ」

 エフィムはそういうとオークの群れへ向かって歩き出した。

 他の三人もそれに続く。

「妙な臭いって、どんな臭いなんだい?」

 ラインが尋ねてくる。

 しかし、俺は言葉に詰まってしまった。

 妙な臭いは妙な臭いとしか言いようがないからだ。

 だが幸いにも、その答えは自然とやって来た。

「キングオークがいるぞ! 気をつけろ!」

 三年の誰かが叫んだ言葉だった。

 俺は目を凝らして赤い光点を見遣る。

 そうすると、その中に一回り周囲より巨大な体躯を持った者がいるのに気付く。

 俺は鼻で臭いをかいだ。

 ――あいつだ。

「あのキングオークから漂ってくる臭いだ」

 俺の言葉に三人が臨戦態勢を取る。

「どうするんだ、エフィム」

 ゼルブが尋ねてくる。

 俺は面甲を跳ね上げ、煙草を銜えた。

 そしてマッチで火をつける。

 紫煙で胸を一杯にしながら答える。

「頭を潰して後は何時もどおりに殲滅だ」

 おう、と三人の声が返ってくる。

何でも受け付けております。

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