26話
あけて翌日、エフィムは何時通り六時十五分に目を覚ました。
魔道式時計のアラームを止めて、いそいそと着替える。
そして、寝起きの一服。
ピリリとした舌を焼く感触がたまらなかった。
紫煙を胸いっぱいに吸い込み、吐き出す。
たったそれだけの行為が自分を強くしてくれている。
エフィムにはそう感じられた。
「さて、朝飯でも食いに行くか」
煙草をもみ消すと、エフィムは食堂に向かった。
食堂でも何時もどおりにトレイに小皿を山ほど載せると、定位置に向かった。
「よお、相変わらず早いな」
エフィムは食事を取っているゼルブに声をかけた。
「そっちこそ早いじゃねえか」
エフィムは苦笑いを浮かべながら席に着いた。
ゼルブが早起きしているのは鍛錬のためだった。
手に出来た無数の剣だこはそれによって作られたものだ。
ただ、努力している姿を他人に見せたくないらしく、早朝の時間に行っていると言う。
何とも変わった奴である。
エフィムはそう思いながら朝食を摂り始めた。
朝食を摂り終えると、食後の一服の時間である。
ゼルブがご相伴に預かるのも何時もの光景と化していた。
ゼルブが口を開く。
「なあエフィム、昨日の話どこまでが本当だと思う?」
昨日の話とはエリクが持ち出した大海嘯についての話だろう。
確かに眉唾物の域を出ない話だ。
魔物の活発化だって森林の迷宮に限ればさほどでもない。
初等部の頃のように歩けば魔物とぶつかると言うわけでもないのだ。
「正直、噂の域を出ない眉唾物の話だと思っている」
「だろう? 俺も昨日はああいったが、自分自身でも信じられん」
二人で紫煙を燻らせながらエフィムは思う。
どうか嘘であってくれと。
二人で教室に行くと、教室前の掲示板に人がごったがえしていた。
何故だろうか、嫌な予感がする。
二人は頷きあいながら掲示板の前に立った。
人族よりも身長が高い二人にはその文字がはっきりと読めた。
『大海嘯発生のため中等部学生は講堂に集結のこと』
「エフィム、こいつは――」
ゼルブがどこか呆然とした声を上げた。
「ゼルブ、お前の説が正しかったのかもな」
エフィムはもう用はないとばかりに講堂に向かって歩みを進めた。
講堂に行く途中でラインたちとも合流した。
「あれ? 教室に行くんじゃないのかい?」
ラインが不思議そうに尋ねてくる。
「あー、もしかしてサボり? 駄目だよ、今日はお話を聞かなくちゃ」
エリクも続く。
二人はまだ教室に行っていなかったのだろう。
ゼルブが言った
「大海嘯が発生した。俺たちは講堂に集結せよだとさ」
ゼルブの言葉に二人は暫しの間絶句していた。
「二人とも、ショックが大きいのは分かるが、呆けている場合じゃないぞ」
エフィムはそんな二人に声をかけた。
「講堂へ行こう。話しはまずそれからだ」
三人を引き連れてエフィムは講堂へ向かった。
講堂には中等部と見られる学生達がしわぶき一つせずに整列していた。
エフィムたちもそれに倣い整列する。
暫くすると、講堂の壇上に一人の老人が現れた。
ディソバン・コーラル、校長だ。
「皆のもの、よく臆せずに集まった。先ずはそれに感謝を」
ディソバンはそういうと頭を垂れた。
「さて、本題に移ろう。本日未明、王都より二日ほど離れた岩室の迷宮で大海嘯と類似した現象――即ち魔物の攻勢が確認された」
岩室の迷宮とは王都に二番目に近い迷宮である。森林の迷宮しか出入りを許可されていない育成所の生徒達にとっては馴染みのない迷宮である。
「王は即座に騎士団の投入を決定。今頃は熾烈な戦闘が繰り広げられておることじゃろう。わしらは騎士団の後詰として戦闘に介入する」
後詰――即ち騎士団への助力だ。
「出発は現時点でもって直ぐ。宿舎前に馬車を用意してある。諸君らの健闘を祈る。解散!」
その声に弾かれたように生徒たちは動き出した。
エフィムたちもである。
「準備が完了次第同じ馬車の前に集合と行こう」
エフィムの言葉に三人が頷く。
エフィムは自室に戻るとガチャガチャと鎧を装着し始めた。
そして、兜を装着する。
後は金棍棒を持って馬車に乗るだけの段階になって、エフィムは落ち着くために面甲を跳ね上げ、煙草に火をつけた。
紫煙を胸いっぱいに吸い込み、吐き出す。
ただそれだけの動作で心が落ち着いていく。
どうやら俺も想像以上に緊張しているらしい。
しかし、不安や恐れはない。
特典の強靭な精神力のお陰だろう。
「さて、行くか」
俺は煙草をもみ消すと皆のところへ向かった。
「おらーお前ら、馬車に乗り込め! 魔物は待ってちゃくれねえぞ!」
怒声を張り上げているのはリリーだった。
その直ぐ傍に完全装備の仲間達がいる。
「あ、エフィム君!」
エリクがエフィムの存在に真っ先に気付き手を振る。
「おう、すまんな、待たせた」
そういって三人を見渡す。
ラインは鋼の槍にジャイアントアントの外皮を用いた鎧を着込んでいる。
ゼルブは例によって巨大なバスターソードと鋼の鎧だ。
エリクが一番様変わりしているだろう、ショルダーガードにマントをはおらせ、耳と杖だけでなく真新しいガントレットにもタリスマンを装着した姿はまさに魔法使いそのものといえた。
「よし、行くか」
エフィムの言葉に次々と馬車に乗り込んだ。
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