表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
煙草一本  作者: 若旦那
中等部編
25/45

24話

 そして賊討伐の準備が進められた。

 とはいえ、完全武装でやってきた面々はもしものときのポーションなどを確認するだけだったが。

「エフィム君、準備終わった?」

 エリクがエフィムに声をかける。

 エフィムは鎧をガチャガチャさせながら答えた。

「ああ、ポーションも持ったし準備完了だ」

「よし、それじゃあ行こうか。まだ襲撃からさほど時間も経っていない。連れ攫われた人たちを一刻も早く救出しないと」

 ラインの言葉に三人が頷く。

 今回の襲撃は大規模だったらしく、多数の女性が連れ攫われたとのことだった。

「よし、行くか」

 エフィムたちは村の北側にあると言う廃鉱山を目指して村を出立した。

 村を出て二時間ほど経つと、辺りは鬱蒼とした森に覆われていた。

「ここからはエフィムの鼻の出番だね」

 ラインがエフィムにそう語りかける。

「そうだな、やってみよう」

 エフィムはそういうと鼻をフゴフゴとさせた。

 漂ってくるのは腐葉土の香りと花々の香り、そして多数の人間の臭いだった。

「こっちだ」

 エフィムを先頭に四人は森の中を駆けて行く。

 暫くすると、人間の臭いが強烈なものになっていく。

「近いぞ」

 エフィムは目を凝らしながら言った。

 そこから移動すること暫し、目的のものが見えてきた。

 鬱蒼とした森の奥深くにぽっかりと開いたスペース。そこには四、五人程の者が周囲を警戒している、坑道の出入り口と思しき穴がぽっかりと開いていた

「あそこだ。差し詰めあいつらは門番みたいなものだろう」

「門番か……おいエフィム」

 ゼルブが思案気な顔でエフィムに問いかける。

「俺やお前にとってはあの坑道は狭すぎる。いっそ門番に俺たちの存在を知らしめて中から敵に出てきてもらったほうが楽なんじゃないか?」

 坑道の大きさは人族に合わせてあるのだろう、随分と小さなものだった。

 そのため、ゼルブの提案は魅力的に聞こえた。中に進入するのがラインとエリクだけでは不安が大きい。

「よし、その案で行くか」

 三人は頷いた。

 エフィムは胸いっぱいに空気を吸い込むと、大声を張り上げた。

「グルオオオオオ!」

 そして門番達から姿が見えるように身を隠していた茂みから飛び出す。

「な、何だあのデカブツは!?」

「馬鹿野郎、敵襲に決まってるだろ! おい、鐘を鳴らせ!」

 門番の一人が坑道脇に設置してあった鐘を鳴らす。

「後は出てくるのを待つだけだな」

 ゼルブは人の身長程もありそうなバスターソードを構えながら呟く。

 暫しの間門番達と対峙していると、坑道の方が賑やかになってきた。

「来るぞ!」

 エフィムが大声を上げるのとほぼ同時に坑道からわらわらと人が溢れ出してきた。

「エリク、魔法を頼む!」

 既に詠唱を終えていたエリクは了解と呟いた。

「アイスストーム!」

 氷雪の暴風が坑道から出てきた賊たちを襲う。

「ギャアア!」

「ヒイ! 魔法使いだ、魔法使いがいるぞ!」

 一度に十数人の賊が氷付けとなる。

「よし、吶喊!」

 エフィムの掛け声とともにラインとゼルブが飛び出していく。

「ケエヤ!」

 まず仕掛けたのはラインだった。

 神速突きが賊どもを襲う。

 その度に賊の体には穴が開いて倒れ伏していく。

「ガオルウ!」

 密集隊形を取っている相手の懐深くまで歩みを進めたのはゼルブだった。

 大剣のバスターソードが振るわれるたびに賊の肉塊を量産していく。

 エフィムもそれに続く。

「グルオワア!」

 金棍棒が唸りを上げて振るわれる。

 右に振るって二人、左に振るって四人、振り下ろして五人と数の差を感じさせない暴力の風が辺りに渦巻いていた。

「ば、バケモノだ! 誰か、頭を呼んで来い!」

 賊の一人が叫ぶ。

 バケモノ? お前達の方が人の皮を被ったバケモノだろう。

 賊の一人が慌てて坑道内へと入っていった。

 だが、それを防ぐ術をエフィムたちは持っていなかった。

 頭ねえ。誰が俺自慢のパーティメンバーを殺せるって言うんだよ。

 死ぬのはお前達だ。

 エフィムたちの戦闘は始まったばかりだった。

「ケエヤ!」

 坑道からでてきた賊をあらかた倒し終わった後、ラインが賊の一人の両足を打ち抜いた。

「ギャアア! いてえよぉ!?」

「連れ去った村人はどこにいる?」

 エフィムがその賊に尋ねる。

 賊は痛みで顔を真っ赤にしながら言った。

「お、奥だ、一番奥に牢を作ってそこに――」

 賊が話し終わる前にエフィムの金棍棒が賊の頭を押し潰す。

「よし、それじゃあ救出に行こう」

 エフィムがそういって坑道に向かおうとしたそのときだった。

「ギャア!」

 賊の一人が坑道内から放りだされてきたのは。

「なんだ?」

 放り出された賊を叩き切って、ゼルブが呟く。

 エフィムも肩をすくめて見せた。

「分からんが、凄い精の臭いだ。さっきまでお楽しみの最中だったらしい」

 そんなことを話していると、坑道の奥からずしりと巨体が姿を現した。

 赤褐色の肌、額に生える一本の角、エフィムより頭一つ分小さいが巨大な体躯。その手には巨大な斧。

 オーガだった。

「騎士団でも攻めてきたのかと思えば、冒険者じゃねえか。こいつらにやられるなんて、運のない子分どもだ」

「運のないのは貴様だと思うがな」

 エフィムはあたりを見渡していった。

 五十人はいたであろう賊どもは皆亡骸に成り果てている。

「後はお前がこいつらの仲間入りをするだけだ」

「ほざけ小僧! 殺せるもんなら殺してみやがれ!」

 賊の頭はそういうと一番手近にいたエフィムに斬りかかる。

「俺と力比べをしようとは――!?」

 エフィムは金棍棒で頭の攻撃を受け止めたが、ぎりぎりと押し込まれていく。

「っぐ! ――貴様、それは魔道具だな!?」

 エフィムの問いに頭はニヤリと笑って見せた。

「ああ、筋力増加の付与魔法が詰まったな。ほれほれ、耐えられるのは何時までかな」

 そんなエフィムの窮状を見て、エリクが魔法を唱える。

「ファイアーボール!」

「――おっと」

 しかし、それは頭にかわされてしまう。

 だが、そのお陰でエフィムは窮状から脱出できていた。

 すぐさまラインとゼルブが駆け寄って来る。

「厄介な相手だな」

「ああ、凄い力だ」

 エフィムとゼルブが話あっている間に、頭は逃げようと後退していた。

「アイシクルエッジ!」

 それに気が付いたエリクが魔法を放つ。

「俺が中距離から仕掛けるから、エフィムとゼルブは両脇から挟撃してくれ!」

「おう!」

「分かった!」

 ラインが頭目掛けて神速突きを繰り出す。

 それに併せてエフィムとゼルブが両脇から斬りかかる。

「――ぬう!」

 何とかエフィムとゼルブの攻撃を斧で受け止めた頭は、しかし先ほどのように押し込めることは出来なかった。

 エフィムとゼルブの二人の怪力の方が勝っているのだ。

 ラインがゆっくりと槍を構える。

「――クソッタレめ」

 頭がそう呟くのと同時に、ラインの槍が胸を貫いていた。

「これで全部か」

 エフィムの呟きに皆が頷く。

「後は坑道内から攫われた女性達を助け出すだけだね」

 そこでエフィムはエリクを見遣った。

「エリク、中にいる女性たちは散々酷い目にあっている。男の俺たちが行くよりも女性のお前が行ったほうがいいだろう。頼めるか」

 エリクは力強く頷いた。

 その後、傷付いた女性達をエリクが励ましつつ、村へと戻るのだった。

 村では老人と生き残った男衆が首を長くして帰りを待っていた。

「ありがとうございました冒険者様。お陰で多数の命が助かりました」

「いや、当然のことをしたまでだ。感謝するなら、傷付いた女性達を労ってやってくれ」

 エフィムは老人にそう返した。

「いやはや、尤もなことで。何もない寒村ですが、どうぞ今日は一泊していって下され」

 エフィムたちはそういう老人の言葉に頷いた。

「ありがたい。ご好意感謝する」

 エフィムたちは村で一泊した後、馬車に乗って王都へ帰ることとなった。


何でも受け付けております

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ