23話
賊討伐は養成所生徒が案内板仲介ですむものではなかった。
本来は騎士団の仕事だったのだが、遠方過ぎたり、逆に近しいと、出征費用分国庫に負担をかける。
その為、冒険者などは重宝されていた。腕っ節一つで迷宮を踏破しているのだから賊如きに遅れを取ることはないとされ、その見立てどおり数十人程度の賊であれば容易に殲滅できた。
これに目をつけた騎士団は数十人程度の小さな賊は冒険者に任せるスタンスを取ることとなった。
今回エフィムたちが請け負った賊討伐もそんなものの一つだった。
場所は王都から馬車で三日かけて着く、ひなびた寒村であった。
場所は受注所内、受注書の控えを見ながらエフィムは一人思案していた。
――五十人規模の賊か。それに寒村からの依頼で報酬も安いな。どうりで誰も取っていかないわけだ。
「しかし、何だって賊討伐を選んだんだい?」
ラインがゼルブに問いかける。
尤もな問いかけだった。他の依頼の方が報酬は高いし、何より人殺しをするわけじゃないので妙な感情も湧くわけではない。
だがゼルブはラインの問いかけに鼻で笑って見せた。
「決まっているだろう? 俺はオーガ、人食い鬼の亜人種だ。その血が囁くんだよ。もっと人を殺せってな具合にな」
エフィムはその答えに苦笑いを浮かべた。
「ゼルブ、そこは隠さなくていいぞ。貴族たるもの領民の幸せを願うことに変わりはない。高貴たるものの義務だからだろう?」
エフィムの言葉にゼルブは顔に渋面を作ってみせた。
どうやら図星の類だったらしい。
ラインが驚いた表情を作る。それだけ意外だったのだろう。
「エフィム、ライン、貴様たちにだってあるだろう」
ゼルブが言う。
「俺たち前衛組みは皆貴族だ。民を苦しめる存在がいたのならこれを排除するのは当然の義務だ。小娘と何があったかは聞かんが、賊程度に参っていたら仲間の死なぞ乗り越えられんぞ」
仲間の死。重い言葉だった。だが正論だった。
賊程度で参っていたらカバンのような人生を過ごすことになっているに違いない。
それはとても悲しいことだ。
折角の冒険者と言う肩書きを捨てねばならない。
「それもそうだね。民の安寧を守るのが貴族の義務だ。放り出しちゃいけない矜持だ」
ラインが思いを改めて述懐する。
「ビネール流槍術は民のための技だ。ゼルブ、思い出させてくれてありがとう」
褒められ慣れていないゼルブは暫しの間身体を震わせていた。
「受注してきたことだし、何時出発する?」
エリクが尋ねる。
答えるのはエフィムだ。
「馬車の手配などもある、明日からにしよう」
エフィムの言葉に三人は揃って頷いた。
そして翌日、手配した馬車を用いてエフィムたちは目的地へと旅立った。
今回は御者が怯えて手配できなかったので、エフィムやラインなどが順々に御者の真似事をしていた。
「いやあ、それにしてもオーガやキングオークがパーティにいると存在感が桁違いだね」
ラインが語りかけてくる。
鋼の鎧にに、巨大なバスターソードを装備したゼルブ、例の如くプレートアーマーを装着した、金棍棒のエフィム。
並んで座っているだけでも威圧感が凄まじい光景だった。
「作戦はどうするんだ?」
ゼルブが尋ねてくる。
「うーむ、五十人規模だと魔法使いがいるはずだ。そいつを先に倒してしまわないとな」
賊は規模によって構成要因が多岐に渡る。
以前は皆近接戦闘主体だったが、五十人規模にでもあれば魔法使いや弓やクロスボウを持った賊がいても不思議ではない。
「尤もな意見だ。だが、接近するまでが骨だぞ」
ゼルブの言葉に、エフィムは莞爾と笑ってみせた。
「うちのお姫様は魔法に長けているからな。そこまで心配はないんじゃないかな?」
ラインが言う。
対してゼルブは訝しげな表情を浮かべた。
「そこまで言うのなら信じるが、あの小娘はそこまで熟練した魔法使いなのか?」
エフィムとラインは苦笑いを見せながら、馬を操っているエリクを見遣る。
「破壊魔法に治癒魔法、何でもござれなお転婆だ」
「そうそう、範囲魔法なんかが得意な子でね。重宝してるよ」
エフィムとラインの弁護に、ゼルブは押し黙ってしまった。
そう簡単には信じられないのだろう。
「まあ、こればかりはエリクの本気を見てもらわんとな。
「そうだね」
「――それもそうだな。折角の仲間だ、疑ったら神に怒られる」
ゼルブはそういって御者台へ向かった。
エリクと交換して手綱を握るのだろう。
「なあライン」
「なんだい、エフィム?」
「ゼルブとは、どうだ?」
エフィムの問いにラインはきっぱりと答えた
「いい男だよ。羨ましいぐらいさ」
エフィムはそんなラインを眩しいものを見るような目付きで見遣った。
「仲のよかったグライフと別れたばかりだったから正直、不安だった。でもお前が手放しで褒めるのなら安心だな」
エフィムは昨日強引に仲間に引き入れたゼルブを皆がどう思っているのか知りたかったのだ。
それが意外と好評価だから安心したのだろう。肩から力を抜いた。
「後の問題はエリクとの相性だが、意外にはまっているな」
「ああ、実は仲がいいらしいよ。意外だよね」
エフィムたちが談笑をしていると、疲れた表情のエリクが入ってきた。またやりあったのだろう。
「あ~、腹の立つ奴だわ」
「どうしたんだい? またゼルブとやりあったのかい?」
「そうよ、ゼルブの奴! 何度言っても小娘呼ばわりを止めないんだもん」
エリクは憤懣やるかたなしと言った感じで座り込んだ。
そこからはエリクの愚痴を滔々と聞かさめるはめになったエフィムとラインだった。
旅は順調で、三日目にして目標の寒村に到着することが出来た。
「とりあえず今日の宿を探すか?」
「うん、そうだね。拠点は確保しとかないと」
「しかし、このような寒村に宿屋があるか?」
話しこんでいると、村の方から一人の老人がやってきた。
人より一段低い背に、暗褐色の肉体の色からゴブリン種であることが窺い知れた。
「もし、もしかして賊討伐に来て下さった方々ですか?」
老人の言葉にエフィムは首肯した。
その反応に老人は目に微かだが涙を浮かべながら言った。
「どうぞ、私の家へ。状況を説明いたします」
老人は着いてきなさいと村の奥の方へ入っていった。
エフィムたちも後に続くが、寒村の内情は酷いものだった。
まず、破壊された住居に道端で倒れ付している男性。
そして恐ろしいものを見るような目付きでこちらを伺っている少数の女性達。
既に略奪にあっているようだった。
村の一番奥、一際大きな建物に老人が入っていく。
エフィムたちもそれに続く。
屋敷の中はめちゃくちゃに荒らされている状況だった。
「これは――」
言葉に詰まったエフィムに老人は微笑んで見せた。
「先ほど略奪に来たばかりでしてな。散らかっている所だが勘弁して下さい」
そういうことならと各々が座って話を聞くことになった。
「そう、あれは丁度一年ほど前のことでしたかな。荒くれ者の集団が村の北側にある廃鉱山をねぐらにしたのは」
老人はそういうとほとほと疲れたという風にため息をついて見せた。
「奴らが現れたところからこの村が標的にされましてな。女は連れて行かれる、男衆は殺されるというの現状ですわ。冒険者様、なにとぞ村をお救いしてくだされ」
そういって老人は頭を下げる。
ここまで話を聞いていたラインが義憤に燃えていった。
「安心して下さい。俺たちが来たからにはもう賊どもの好きにはやらせませんよ」
ラインの言葉に他の三名が頷きあう。
「話は決まったか? それじゃあこれから糞どもを叩き潰しに行かないとな」
好戦的な内容を喋るのはゼルブだ。
義侠心にあふれた男であるだけに、最早戦いに思いをはせていた。
それにラインも続く。
「確かに悪党どもをのさばらしておく必要はないね。エフィム、行こうか」
二人はやる気満々だった。
エフィムはエリクはどうだろうか? と思い見遣った。
そこには意志の強い瞳を輝かせたエリクがいた。
「うん、エフィム君行こう。悪党には悪党らしい最期をだね」
そこには初等部の頃顔を青白くさせていたエリクの姿はなかった。
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