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煙草一本  作者: 若旦那
初等部編
18/45

17話

「グルオワア!」

 エフィムの金棍棒が一振りされるたびに、ゴブリンの肉塊が量産される。

「キエヤ!」

 ラインが槍を振るうたびにゴブリンの刺殺体ができあがり。

「チェストォ!」

 グライフが剣を振るうたびにゴブリンの首が落ちる。

「アイスストーム!」

 逃げようとするゴブリンたちは容赦なくエリクの魔法の餌食になった。

 エフィムたちはその後も順調にゴブリンたちを狩り続けた。

「何体狩った?」

 エフィムはエリクにたずねた。

「三百体は確実にいってるよ」

「三百か――多いな」

 直截な感想だった。

 だが、確かに多い。迷宮に潜ったのはこれが初めてだが、こんなにも多いものなのだろうか。

「大海嘯か……」

 エフィムは一人ごちた。

 大海嘯の前兆として魔物の動きが活発になるというのがある。

 現状はそれに当てはまるのではないか。

 エフィムは一人思案していた。

 一度皆のところに戻った方がいいのではないか。

「ライン、グライフ」

 エフィムはそう結論付けた。

「一度皆のところに戻ろう。入り口付近に戻れば誰かしらいるだろう」

「いったん休憩かい? 俺は賛成だね、お腹もすいてきたし」

「ラインが賛成なら俺も。いい加減弱いものいじめにも飽きてきてたところだしな」

 二人の賛成が得られると、エフィムは早速踵を返した。

 嫌な予感がする。それも飛び切り嫌な予感が。

 帰途についてから暫くすると複数のパーティが徒党を組んで戦っているのが見えてきた。

 相手はゴブリンだ。手助けする必要はない。

 だがエフィムは鼻をフゴフゴさせていた。

 エリクがそんなエフィムを訝しがって声をかける。

「どうしたのエフィム君。何か臭うの?」

 エフィムはその問いに答えず、依然として鼻をフゴフゴさせていた。

 そして突然金棍棒を抜き放つ。

 これに敏感に感じ取ったのはラインだった。

「エフィム、どっちの相手をしたらいい?」

 エフィムは逡巡した後、言った

「俺とライン、エリクで新手の相手をする。グライフ、悪いがあのパーティ連中の手助けをしてやってくれ」

「了解エフィム君」

「え、て、敵ってエフィム君!?」

 落ち着いて答えるグライフに慌てふためくエリク。両極端な二人だった。

「虫どもだ」

 エフィムは端的に答えた。

 そう、エフィムの鼻は虫の臭いを感知していたのだ。

 エフィムたちはエフィムに先導されるがままに徒党パーティの後背を守るように陣取った。

「エフィム、虫は何体ぐらいだい?」

「さあな。三十匹かそこらじゃないか?」

「なら楽勝だね」

「ああ、楽勝だ」

 二人がそんな会話を交わしていると、カサカサと渇いた音がエフィムたちのほうへ近づいてきた。

 ジャイアントアントの群だった。五十匹はいるだろうか。

「エリク、魔法を頼む!」

「うん! アイスストーム!」

 エリクの魔法により十数匹が氷付けになる。間髪いれずにエフィムは吶喊した。

「グルオアア!」

 エフィムの金棍棒が唸りを上げて振るわれる。

 縦に振り下ろして一匹、横に薙いで二匹。エフィムの金棍棒が振るわれるたびに、ジャイアントアントはその数を減らしていく。

「キエア!」

 ラインも同様だ。神速の突きが繰り出されるたびに一匹、また一匹と穴だらけになったジャイアントアントが倒れていく。

「アイシクルエッジ!」

 エリクも負けてはいない。様々な魔法を駆使してジャイアントアント討伐に協力している。まだまだ魔法を連発できるその魔力は恐ろしいものであった。

「グルオアア!」

 エフィムは金棍棒を振りながら思った。

 やっぱりおかしい。虫どもだってこんなに群を成すものなのか?

 普通は多くても五匹くらいなものじゃないのか?

 じゃなきゃ、低階層すら危なくて養成所の生徒たちは立ち入れない!

「これで最後ぉ!」

 エフィムは最後の一匹に金棍棒を振り下ろした。

 ジャイアントアントは頭を潰され、暫く足を動かしていたがそれも止まる。

 エフィムたちの勝利であった。

「つ、疲れるね――」

 ラインが呼吸を乱しながらいった。

「本当だよ、魔力が空になりそうだよ」

 額に汗してエリクが同意する。

 余裕そうなのはエフィムだけだ。

「何だだらしのない。帰ったら自主鍛錬だな」

 エフィムの言葉にラインは苦笑いを、エリクは渋面を作った。

「そうだね、鍛えなおさないと」

「ライン君たちはいいよね。僕なんか魔力だよ!? 鍛えようがないよ」

 魔力は先天的な素質である。天稟の才と言っていい。大体の種族が生まれながらにして決まった量の魔力を持って生まれれてくる。

 その後は年齢による増加しか見込めないため、魔力を鍛えることは実質不可能だった。

「エリク、実際のところ魔力はどれほど残ってる?」

 エフィムは一番の懸念事項を聞いた。エフィムたちのパーティが強力無比なのは、前衛の三人の実力もあるが何より後衛のエリクの魔法のお陰と言うのも否めなかった。

「え? う~ん、そうだなぁ……もう一回同じような戦闘はきついかな」

 エリクが疲れた顔で言う。

 見ればラインも未だに息を整えている。

 ジャイアントアントとの戦闘はそれほどまでにパーティを疲弊させていた。

「お~い、こっちも終わったぜ」

 徒党パーティの協力にいっていたグライフが戻ってきた。

「うお! すげえ数の蟻どもだな」

 グライフは近づくなりそういった。

 確かに全長二メートル前後の蟻の屍骸が五十匹だ。

 驚くのも無理はない。

「よし、ならあちらのパーティと合流して撤退しよう。どうにも迷宮の様子が変だ」

 エフィムの言葉に三人が首をかしげる。

「変ってエフィム、これが迷宮の普通なんじゃないのかい?」

 ラインが尤もなことを言う。

 何せエフィムたちが迷宮に潜るのは今回が初めてだ。

 通常の状態を知らないエフィムたちにとって見れば、今回が異常であるかどうかの判別をつけることが出来ない。

 今回が異常であるかどうかも、所詮はエフィムの勘でしかない。

 どうする? 勘でしかないが俺の推論を言ったほうが良いか?

 エフィムは逡巡した後、結局は打ち明けることにした。

 パーティの理解を得たかったのだ。

「俺の推論だが、今回の迷宮はやはり変だ。魔物やモンスターが活発すぎる」

 エフィムは持論を語った。

「ゴブリンの群や五十匹もの虫の群れなんかが自由に闊歩する低階層だぞ? こんなところ危険過ぎて養成所の生徒たちを派遣できると思うか? 無理だろう?」

「でも、だから僕たち初等部には迷宮系クエストなんかが降りてこないんじゃないの?」

 エフィムはエリクの言葉に舌を巻いた。

 確かにそう考えれば納得がいくかもしれない。

 迷宮とは危険な場所だ。だから中等部の学生が優先してクエストを受けられる。

 一度でも迷宮に潜ったことがあればこの違和感を伝えることが出来るのに――。

 そこでエフィムはアッと声を出した。

 いるじゃないか、迷宮に潜ったことのある奴が!

「ライン! ライン、思い出してくれ。ラインがここに放置されたとき、こんなにもモンスターや魔物たちは活発だったか?」

 エフィムの言葉にラインはハッとした表情になった。

 それから暫く思案気に首を捻っていたが、何かを思い出したように手をぽんと叩いた。

「いや、こんなじゃなかったね。もしこんなに活発だったら俺は生きて出られなかっただろうね」

 やっぱり迷宮は変なんだな。確信がもてたぞ。

「ほら皆、俺の言ったとおりだろう? やはり今回の迷宮は普段の迷宮と違ってどこか変なんだ」

 エフィムの言葉にラインが力強く頷く。

「俺があっちのパーティ達と交渉してくるよ」

 グライフが言った。そんなグライフにエフィムは頭を下げる。

「すまん、助かる」

「おいおい止せって。仲間だろ?」

 グライフはそういうとまた来た道を戻っていった。

「俺たちは撤退の準備をしておこう」

 エフィムたちはいそいそと準備に取り掛かった。

「お~い、了解だとさ」

 準備が終わり、周囲を警戒していると、そんな声が聞こえてきた。

 見れば、十数人の生徒達を引き連れてグライフが戻ってきていた。

「よし、そうと決まれば早速行こう」

 エフィムを先頭に十数名の生徒達が撤退を開始した。

 途中で戦闘はなく、無事に入り口付近にまで戻ってこられたエフィムたちは目を見開くこととなる。

 そこには大多数の生徒が既に戻ってきていたのだ。

「これは一体――」

 言葉に詰まっているエフィムたちに近づく影があった。

「オー、お前ら、無事戻ってこられたか」

 リリーだ。

「リリー教官、これは一体……」

「ああ、不思議に思うのも無理はないよな」

 リリーは頬をかきながら言った。

「魔物やモンスターの数が多すぎて皆ばてちまったんだよ。今撤退準備中」

「ああ、そうだったんですか」

「そういうこった。お前らも疲れただろう? 休め休め」

 結局その後、全パーティが帰還してくるまでエフィムたちは足止めを食らうのだった。

「よーし、全員揃ったな! 帰るぞ!」

 そして、全パーティ帰還完了後、王都までの帰途に着くことになった。

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