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煙草一本  作者: 若旦那
初等部編
15/45

14話

強引強引

 エフィムたちは初めてのクエストの達成報告に来ていた。

 受注所は今日も混雑している。

「クエストの完了報告をしたいんだが」

 エフィムは受付をしている男性職員に話しかけた。

「はい、それではクエスト受注票の控えをご提出下さい」

「これだ」

「はい、コーラル商会の護衛任務ですね。少々お待ち下さい」

 受付の男性はそういうと奥に引っ込んでしまった。大方原本の確認と報酬を受け取りにいったのだろう。

 暫くすると男性職員が戻ってきた。

「確認が取れました。報酬の金貨二枚です」

 金貨一枚が銀貨十枚と等価であるため、一人頭銀貨五枚の報酬だった。命を賭けたやり取りをした割には安く感じてしまう。

 しかし、元々お使いクエストなのだから報酬はこんなものである。もっと高額のクエストを受注したければ一人前の冒険者になるか中等部へ進学して迷宮系クエストを受注するしかない。

「確かに受け取った」

「はい、またのご利用をお待ちしております」

 頭を下げる男性職員を後ろにエフィムは三人の元へ戻っていった。

「報告と報酬、貰ってきたぞ」

「幾らになったんだい?」

 尋ねてきたラインに結果を報告する。

 そうすると、皆が皆微妙な表情になる。

 先ほど俺が思ったことでも感じているのだろう。

「少ないね。あんなことまでしたのに――」

 エリクが呟く。あんな事とは賊の討伐だろう。確かに命のやり取りをしたことを含めれば安い報酬かもしれない。

「しょうがなかろう。元々は単なるお使いクエストだ。報酬が高い方だと思わねばやっていられん」

 エフィムはいった。お使いクエストで金貨二枚なら報酬は高い方だった。銀貨五枚や中には銅貨の依頼もあるのだ。そう考えれば破格の報酬である。

「それもそうだな。賊の方だって、覚悟を固めるいい機会だと思ってやらなくちゃあよ」

 グライフがエリクのほうを見ながらそういう。

 エリクは賊との戦闘以降沈んだ空気のままだった。人を殺したことをまだ気に病んでいるのだろう。

 エフィムたちも何とか励ましてやりたかったがこればかりは自分の力で立ち直るしかなかった。

 そんな時だ。受注所中に響き渡るほどの大きな渇いた音がした。

 見ればエリクが自分の頬を叩いている。

「お、おいエリク」

 エフィムは戸惑いながらも声をかけた。

 そこで渇いた音は止むことになる。

「うーし、復活完了! ごめんね皆、心配かけちゃって!」

 そこには何時もどおりのエリクがいた。どうやら空元気というわけでもなさそうだ。

「――エリク、もういいのかい?」

 声をかけたのはラインだった。その声には柔らかな響きがあった。

「うん、もう大丈夫。僕に足りなかったのは覚悟なんだね。それを皆が教えてくれた。いつまでもしょぼくれたまんまじゃいられないよ」

 エリクはそういって何時ものように笑ってみせた。

「エリク、よく立ち直ったな。正直もう少し引っ張るかと思ってたんだがな」

 グライフが頬を掻きながらいう。いいすぎた自覚でもあるのか少々ばつが悪そうだった。

 そんなグライフにエリクは首をふる。

「ううん、違うの。僕がへこんでたのはもっと上手いやり方があったんじゃないかなって思ってただけ。人を殺しちゃったのはショックだったけど、そっちはもう平気なの」

 エリクはいった。

「不思議だよね。殺した直後は凄くショックでご飯も喉を通らなかったのに、三日も経てばもう平気な感情になってる。これが覚悟が固まるってことなのかな」

「エリク――」

 エフィムは少々乱暴にエリクの頭を撫でた。

「わ、わわ!? 何々、どうしたの!?」

「仲間の成長を喜んでいるんだ。そうだぞエリク。それが覚悟が固まるっていうことだ。その思いが賊たちへの手向けになる」

「そうだね、成長したってことだからね。今日はお祝いをしようか」

 ラインの言葉に二人が頷いた。エフィムとグライフだ。

「そうだな。俺たちの魔法使いの成長を祝って食堂に行くか」

「賛成だな。偉大なる大魔道師殿の誕生を祝ってな」

「もう、恥ずかしいからやめてよー!」

 エリクの悲鳴を後に四人は受注所から食堂へと移動したのだった。

「今日は俺たち三人の奢りだ。好きなだけ飲んでくれ」

 エフィムはそういって赤ワインをエリクの前にだした。

「えへへへ、何だか悪いなぁ――ご馳走様です」

 エリクはそういうと赤ワインに口をつけた。

「俺たちも頂くとするか」

 エフィムの言葉にラインとグライフは頷いた。

 皆が思い思いの弁当を広げる。

「しかし、今日も討伐系クエストはなかったんだろう?」

 口を開いたのはエフィムだ。

 エフィムがクエストの完了報告を行っている間に皆に案内板を見てもらっていたのだ。その収穫の話であった。

「うん、なかったね。迷宮系クエストも右に同じ」

 ラインが代表して応える。

「こうなると、これからの目標も変えていかないといかんな」

 エフィムの言葉に三人が重々しく頷く。

「こうなりゃしかたねぇ。各自でお使い系クエストをこなして金を貯めて、その時が来るまで備えるのが一番じゃねえか?」

 グライフが意見を出す。

「そうだね。ポーションとか回復系のアイテムも必須だろうし、それが一番現実的かな」

 ラインが同調する。

「それじゃあ、暫くの間は単独行動でいいか?」

 エフィムが皆の意見をまとめに入る。

「寂しいけど、それが一番よさそうだね。僕もそれでいいよ」

 一人赤ワインを煽っていたエリクも同意を示す。

「よし、それじゃあ決定だな。皆、時が来るまで達者でやれよ」

「おう、そういうエフィム君もな」

「そうだね、報酬を全部煙草に使わないようにね」

「いったなこいつめ」

 その日から皆の孤軍奮闘が始まった。

「迷い猫の捜索か~、やってみようかな」

 エリクは地道系クエストを黙々とこなす日々。

「猫ちゃ~ん、こっちだよ~」

 今日も今日とて猫を探す日々。

「む、畑を荒らす害獣退治か。槍術の訓練に丁度いいかも知れんな」

 ラインは主に住民からの苦情系クエストをこなしていた。

「おお、何かと思えば猪ではないか。今夜は猪鍋だね」

 ラインはラインで民のためならと汗を流し。

「何々、剣術の指導を願いします?」

 グライフは自分の特技を発揮できるクエストを受注していた。

「違う違う。下半身と上半身が別々に動いてる。連動させるんだ、いいか、見てろよ」

 グライフらしからぬ優しい指導で物議をかもし。

 そしてエフィムは――。

「よーし、オーライオーライ」

「フンヌ!」

 城壁の改修作業をしていた。

 エフィムは自分がキングオークであることを生かし、その怪力を発揮できるクエストを主に受注していた。

「あんちゃんがいれば百人力だなあ、おい」

「そんな事はないだろう」

「いやいや、お前さんの仕事ぶりはまさにそうだって」

「そう褒めてくれるな、面映い」

「よーし、あんちゃん、これが今日の日当だ。明日も頼むぜ」

 現場監督から日当を貰い、エフィムはホクホク顔で寮へと戻っていった。

 風呂上り。

 エフィムは自室で一服していた。

 考えるのは何故自分が賊の頭領に末期の一服を許したのかだ。

 情けをかける理由はなかったはずだ。何せ相手は賊。他人を殺しその金品を奪うのを生業としている悪党ども。

 しかもその首魁である。

 俺は何故あんなことをしたんだろうか。

 俺は何故あのやり取りで爺ちゃんを思い出すんだろうか。

 俺は深い思考の闇に落ちていった。

 そこでふと思い至る。

 爺ちゃんの最期だ。

 末期の際まで煙草のみだった爺ちゃんの最期の台詞。

『こんな悪党でも煙草ぐらいは許してくれるよな』

 そう、確かこういい残したはずだ。

 爺ちゃんは悪党だったか?

 答えは否だ。

 だが、今際の際に残した台詞だ。

 何か意味があったはずだ。

 そして俺はその意味を知っていたはずなのだ。

 俺はもう大分薄れてしまった幼少期の記憶を思い出す。

 何か、何かあった筈なのだ。

 そこであっと俺は声を上げた。

 あった。確かに爺ちゃんは大悪党だ。

 爺ちゃんが幼少期に語ってくれた自分語り。

 その中で爺ちゃんは言っていた。

 自分独りだけが生き残ってしまったと。

 爺ちゃんは赤紙を貰った徴集兵だった。厳しい訓練を仲間と共に乗り越えていった先が南方戦線。

 爺ちゃんはそこで病に罹り戦場を離脱。所属していた部隊は玉砕、爺ちゃんだけが生き残ってしまった。

 爺ちゃんは死ぬ間際までそのことを悔いていたに違いない。だから自分のことを悪党などと呼び蔑んでいたのだ。

 爺ちゃん、爺ちゃんは大悪党だ。

 異世界に来てまで俺の心に残っている。

 煙草一本吸っている間だけ。

 その間だけは爺ちゃんのような人間になりたかった。

 だから、悪党にでも煙草ぐらいは、と思ってしまったのだろう。

 我ながらお爺ちゃん子な理由だ。

 だが、それでもいい。

 煙草一本。

 それぐらいは許してやってもいいよね、爺ちゃん。

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