12話
さてどうなる
翌朝、四人は定位置の窓際の席に座って今日の予定を話し合っていた。
「今日はどうする~?」
真っ先に声を発したのはエリクだ。こういう場では彼女が仕切ることが多い。
「そうだな、やはり討伐系クエストか?」
エフィムの言葉にラインとグライフが頷く。
「そうだね、折角許可証もあることだし、低難度のものを受けてみたいね」
「ゴブリン討伐とかが丁度良くあればいいな」
ゴブリン討伐はメジャーな低難易度討伐クエストである。迷宮の外にでてきたゴブリンを討伐するというもので、大体の冒険者がこれで始めての魔物殺しを体験する。
魔素は地上にも存在するのか、倒して暫くするとゴブリンたちは消えてしまう。その現象を目の当たりにするのも大体がこのクエストであった。
「とにもかくにも、クエストを受けに行ってみないと始まらんな」
エフィムの言葉に三人が頷いた。
とはいえ時刻はまだ七時三十分。クエスト受けられるクエスト受注所が開くまでにも時間がある。
ふむ、朝食後の一服と行くか。
エフィムは衣服のポケットから煙草を取り出した。目ざとく見つけたのはエリクである。
「あ~、エフィム君、それ煙草?」
「ああ、昨日酒保で見つけてな。懐かしくて吸ってるんだ」
懐かしいのが前世の爺ちゃんだってことは分からんだろうし、これでいいだろう。
エフィムは内心で受け答えに齟齬がないか確認しながらマッチに火をつけた。
煙を胸いっぱいに吸い込み、吐き出す。それだけでエフィムはちょっと強くなれた気がした。
「随分美味しそうに吸うじゃないか」
そういって煙草を興味深げに見るのはラインだ。
グライフは煙が苦手なのか手でパタパタしている。
「実際旨いからな。吸ってみるか?」
エフィムはそういって煙草を差し出した。だがラインは何か思うところがあるのだろう、苦笑いを浮かべて手を振った。
「いいよいいよ。それに高価なものなんだろう? エフィムが吸いなよ」
確かに煙草は十本でワンセットだった。高価な嗜好品といえば高価な嗜好品だ。
「それじゃあ、遠慮なく」
朝のひと時はこうして過ぎ去っていった。
さて、時は移りクエスト受注所である。この養成所の生徒達は冒険者ギルドの出張所的扱いを受けるこの受注所でクエストを受注、完了報告を行う。
「誰か迷い犬の捜索手伝ってくれない~?」
「おーい、ここに置いてあったポーションしらねえか? 飲みやすいように改良を加えてみたんだが」
「しゃわしゃわする……何このポーション」
「混雑しているな――」
エフェムは受注所の状況を見て呟いた。基本的に養成所での座学は入学から三、四ヶ月程度で終わるため主な活動場所がこの受注所に移動する。そのために非常に混雑しやすい状況が生まれていた。
養成所側でも受付を増やしたりと対応は行っているのだが、追いついていないのが現状だった。
「お~、昨日より混んでるね」
四人の中で唯一の受注所経験者エリクがそういう。
「毎日こんななのかい? これじゃあクエストに行く前に気疲れしちゃうよ」
「邪魔くさいな、とっととクエスト受注しようぜ」
ラインとグライフが言う。
エフィムもラインたちの意見に賛成だった。こんな場所はさっさと切り抜けるに限る。
「クエストはね、あれ、あの大きな板に張ってある依頼書を取って受付に持っていくんだよ」
エリクが受注所内に設置されている依頼書案内板を指差す。基本的にクエストは紙に書き写された物が案内板に設置される。生徒達は自分の受けたいものをその中から選び取っていくといった風だ。
「エフィム君大きいから取ってきてよ」
エリクが言う。
大きいからって……確かに大きいけどなぁ」
「何を選んできても文句は言うなよ」
「何でもいいよー、この盛況具合じゃ討伐系クエストなんて残ってないだろうし」
エリクの言葉に背中を押され、エフィムは案内板の前までやってきていた。
そこには雑多なクエスト受注票が張られている。エリクの言ったとおり、討伐系クエストは残っていないようだった。
「何々……迷い猫の捜索……ポーションの原材料集め……ろくなのがないな」
案内板には所謂お使い系クエストと呼ばれる類のクエストしか張っていなかった。エフィムの呟きどおりろくなものがない。
お、これなんかよさそうだ。
エフィムはその中から比較的まともそうなのを選んで三人の元に戻っていった。
「商会の護衛任務?」
「ああ、比較的まともな依頼だと思うがどうだろうか?」
グライフの怪訝そうな問いにエフィムは答えた。
「俺は構わないけどよ、大丈夫なのか?」
グライフは尚も言い募る。
何が大丈夫なのだろうか。
「グライフ、何が大丈夫なんだ?」
エフィムの問いにグライフは言いづらそうに口を開いた。
「商会の護衛って言ったら、荷馬車だろう? 賊に襲われる可能性があるかもしれない。お前ら、人間殺せるか? 亜人種でもいいけどよ」
衝撃的な発言だった。同族を殺す。それはカリスエにおいてもタブーとされる行為だ。だが、荷馬車が襲われれば守るために相手を殺さなければならない。必然的に生まれるジレンマだ。
「俺はそういうの覚悟完了してるからよ、多分平気だ。でもお前らはどうだ? 冒険者になりたくてここにいるんだろう?」
グライフの問いに暫くの間三人は口を開けなかった。
だが、やがて時は訪れる。
「――僕、やるよ。本当に賊の人が襲って来たらどうなっちゃうか分からないけど、僕も殺す覚悟って奴、胸に刻み込んでいく」
意外にも一番最初に口を開いたのはエリクだった。だが、虚勢を張っているわけではない。身体は若干震えているが、意思の強い瞳がその本気具合を伝えていた。
「俺もあるよ。ビネール流槍術は力なき民を守る技だ。悪党どもをのさばらせておく理由がない」
ラインも続いた。三人の視線がエフィムに集中する。
しょうがねーな。こんな時に特典の世話になるとはよお。
「何の心配をしてるんだ? 俺はエフィム・フォン・トォバだぞ? 今更賊の誅滅程度で引き下がる男だとでも思っているのか? 見くびってもらっては困る。俺は何者にも怯えも竦みもしない」
エフィムの内心は言葉通り凪いでいた。こんなことで厄介になるとは思わなかったが、特典の強靭な精神力というのが思いのほか作用しているのかもしれなかった。
「それでは、出してくるからな」
エフィムはクエスト受注票を握り締めながらいった。
時は過ぎ、その日の昼のことである。クエストの始まりだった。
エフィムはプレートメイルを着込み、金棍棒を肩に背負っていた。既に歴戦の戦士の風格である。
ラインとグライフはそれぞれの獲物を持ち、皮鎧を着込んでいた。一般的な冒険者の装いである。エリクはといえば、魔力増幅のタリスマンが装着されている杖を持っているだけの軽装だ。
「本日は当商会の護衛を引き受けて下さりありがとうございます」
そういって頭を下げるのは瘦身の男性だ。年の頃は三十台半ばほどだろうか。温和な顔つきをした優男だ。
護衛対象の荷馬車は五台。それに対して護衛が四人なのだから吝嗇家なのだろう。顔つきに似合わずけちな男だ。
「それでは時間もありませんし、出発することといたしましょう」
男に促され、四人は出立することにした。
目的地は王都から二つほど離れた街だという。街道は整備されていて賊が出る可能性は低い。
一番鼻の効くエフィムが一番先頭の荷馬車に付く。次いでグライフ、ライン、最後尾にエリクといった編成であった。
「エフィム君、血の匂いとかはしないか?」
尋ねてきたグライフの問いにエフィムは首をふる。
「血どころか人の匂いもさっぱりだ。案外楽なクエストになるかも知れんぞ」
「そうだと願っているよ」
旅程は三日。護衛は始まったばかりだった。
結局その日は賊の襲撃もなく無事に終わった。
「緊張するね~」
夕食時、呟いたのはエリクだ。
それに同意を示すようにエフィム以外の二人が頷く。
「何時賊の襲撃があるか分からないからな、気を抜いていられる時間が少なくて気疲れするよ」
「俺はエフィムの鼻頼りだから結構楽だが、やはり緊張するな」
どうやら緊張していないのはエフィムだけらしい。
「俺は緊張なんてしていないがな」
エフィムの言葉に三人は苦笑いを浮かべた。
「それはエフィムが強いからだよ。何時も羨ましく思ってるよ、その精神力の強さには」
「ああ、それに完全装備だからな。エフィム君一人で賊の二十人や三十人倒せそうだ」
グライフの言葉に四人は笑いあった。
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