高校教師の恋(1)
失恋で死ぬことになるとは、思わなかった。臼井道長はそう思った。生まれてから28年、俺は本当に女にモテていなかったのだと気が付いた。
小6のとき男としての本能が芽生えてから、好きな女子には積極的にアピールしてきたつもりだ。優しく接して、話を聞いてあげたり、ときにはお願い事もちゃんと聞いてあげた。自分からデートに誘うこともあった。
顔も不細工ってほどでもないし…頭も悪くない。
俺は高校教師だ。
いわゆるエリート。
でもまあ…スタイルが悪いのは自覚があったから、服には少し金をかけていいのを着ることにしていた。太らないようにも気をつけた。最近、少し腹が出てきたが服でなんとかごまかせる。
つまるところ俺は…自分ではまあまあイケてると思ってたんだ。
「え…カフェ…いいよ、じゃあ臼井がおごってね」
テーブルに肘をついていた彼女は、甘えた声で言うと、上目遣いに俺の目を見つめ返した。
彼女が目を伏せる度に、マスカラを塗ったまつ毛にドキッとさせられる。斜め前髪の顔を包むような、ボブヘアが小さい顔をより小顔にみせている。
小柄だが色白で肌が透き通るように白い、同級生だけど22、3くらいにしか見えない童顔だ。今日は体のラインがはっきり出るレモン色のセーターに白いふわふわのシフォンスカートで、その服はアイドルのような可愛い彼女によく似合っていた。
大学のゼミの飲み会だ。
社会人になってからも、年に2、3回くらいは、こうして集まったりしている。
「臼井って、おしゃれだよね…このシャツも可愛い~、似合ってる!」
「ああ、これよく行くセレクトショップで買ったんだ。今度一緒に行こうよ!」
彼女はにっこり笑って頷いた。
首を少し傾けて、小動物のような瞳で俺を見つめている。
かわいいな…。
俺は彼女との未来を想像する。
――はじめてのデート。
――はじめての夜。
――彼女へのプロポーズ。
両親には、どんな風に…紹介しよう。
「私さあ~あの人と気が合わないんだよね、あの顔みると…なんかムカつくし…ゼミの飲み会にも来ないでほしいよ」
彼女はゼミの仲間内で癒し系美人と評判の、長身の女を見た。両脇に男がいて、身振り手振りをまじえて楽しそうに話している。
「さっさと結婚して、子供でも産めばいいのに~」
その女は昔から人気があったが男みたいな話し方の女で、俺にはどこが癒し系なのかわからない…と常日頃から思っていた。
俺が冷めた目で、その女を見ていると、俺の視線に気づいたのか、こっちに顔を向けて女は、にこっと微笑んだ。
それを見た隣に座る愛する彼女が、その女から…さっと視線を外すのを見て、彼女の敵だと心得た。俺は…無表情で女を見つめ返す。
バカ女め! 俺はお前を軽蔑しているんだ。
敵は不思議そうに首をかしげていたが、すぐに顔を背けて、また周りに連中と楽しそうに話しはじめた。
「私、今度はカクテル飲みたいな。ねえ、臼井のコップも空いてるよ。次、何飲む?」
彼女はドリンクのメニューを開いて、俺に見せる。
白い頬がキラキラ輝いている。
彼女は天上より舞い降りた…天使だろうか?
彼女は可愛い。
――結婚したら……新居はどこにしようか?
初めてのデートの日は、映画やドライブではなく、
彼女の家の近所の、居酒屋だった。
二人で美味しい料理を食べながら、おいしいお酒を飲んだ。楽しい時間だった。お酒が入って、彼女の頬や首、鎖骨の辺りが、ほんのり赤く染まっている。
胸が熱くなって、ぎゅっと締まるような感覚に襲われる、彼女に触れて抱きしめたくなった。
店の外に出ると、夜の冷えて湿った空気が、体の熱を奪っていく。
「うわぁー! 寒い~!」
彼女は甲高い声をあげて、体を縮めてコートの前を両手で合わせる。
胸の鼓動が、速くなった。




