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ヤンキー山浦(4)

 山浦はぜえぜえと荒い息をする。

 山浦は荒くなった呼吸を整えて、床に寝ている状態のまもるを見た。ブレザーの制服のシャツのボタンが取れかかっている。

 まもるのぼろぼろになった姿を見て、さっきまで感じていた激しい怒りはどこかにいってしまって、そのかわりに一人で取り残されたような寂しさを感じた。

 山浦は全身の力が抜けて、まもるの横に腰をおろす。


 ガキの頃の俺は泣いていた。

「祐二! お前のお父さんは本当のお父さんじゃないんだって、俺のお母さんが言ってたよ!」

 サッカークラブの一学年上の野郎だ。

 色黒で歯並びが悪くて前歯がガタガタだった。頭にきた俺は、そいつをぶん殴って…何度も殴って、そいつが泣いても、俺は殴るのをやめなかった。

 まわりで見ていた仲間は誰もケンカをとめなかった。奴も泣いていても最後まで謝らなかった。

 クラブを途中で抜け出した俺はなきながら、家に向かって歩いた。親父のことを言われて自分が傷つかないように、相手を傷つけた。

 ケンカの相手を殴っても、心の痛みはなくならなかった。心が苦しくて、涙をこらえきれずに泣きながら歩いた。

 ケンカに勝っても自分が弱い人間のように思えて、心の傷をどうやってふさげばいいのか、わからなかった。


 今思えば、何にそんなに傷ついたのだろう。

 山浦の頬に涙が伝う。


 親父のことが好きだった。

 子供の頃、飛行機を見るのが好きで、飛行場近くの埋め立て地にある公園に、よく連れて行かれた。弟が生まれて、その下に妹が出来てからは親子二人で出掛けることはなくなった。弟は年が離れていたぶん、俺になついてよく一緒に遊んであげた。

 弟はいい子だ。今でも弟を嫌いになることはできない。子供でも親父が本当の父親でないことは、理解していたので、親父が俺にかまわなくなったのは、しょうがないことだとも思っていた。

 山浦は、どんどんあふれてくる涙を、もう我慢する気にはなれなかった。自分が何で泣いているのかもわからない。

 ただ記憶の断片の何かが、心の傷をえぐったのだ。


 山浦は泣きはらした目で、うなだれて鼻を啜った。

 顔が鼻水と涙でくしゃくしゃだ。

 守はそんな山浦の前でにこにこ微笑んでいる。

 さっきまで、めちゃくちゃに殴られていたので制服は、よれよれになっていて、それでもまもるはいつもと変わらない人を安心させるような顔をしている。

 山浦はそっと、まもるの体に触れてみた。人形だから温もりはないはずなのに、触れてみると温かい。

 山浦はまもるを背負って壁のあるほうに連れていき、壁を背もたれにするように、まもるを座らせて、自分の体をまもるの体に、くっつけるようにして座った。


「俺はさ、これまでいろんな奴を傷つけたよ。いらいらしているときはさ、まわりの人間に八つ当たりをすればよかった。気に入らないやつは、ぶっ飛ばせばよかったし…それを悪いと思ったことは一度もなかた。弱い奴が悪いだろ、だからやられるんだ。俺はお前にムカついて、お前を殴ってよ、そしたら急に悲しくなって…変な感じだな。なんかお前は俺に殴られてもにこにこしてるし…俺はすげえ泣いてるし…」

 山浦は制服のシャツで涙をぬぐった。

「…本当はこれを言いたいときもあったなって思ったよ。ごめんなって…ごめんな、殴ってごめん…まもる」


 山浦は友人のような人形の顔を見た。まもるは教室の黒板を、まっすぐ見据えるようにして、穏やかに微笑んでいる。


 山浦は我ながらアホだと思い、目をつぶった。また涙くみそうになって、唇をかみしめる。

 薄暗い教室、山浦の隣でまもるの笑顔がきらきらと輝いていた。

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