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ヤンキー山浦(3)

 山浦は午後の授業をサボって、屋上で寝ていた。気がついたときには、もう放課後になっていた。

 山浦は朝から最高に機嫌が悪かった。普通にしていても怖い顔が、機嫌が悪いせいでもっと怖い顔になっていた。いつも一緒にいる連中も、どす黒いオーラを感じて、とばっちりはご免だと近付かないようにしていた。そんなに機嫌が悪いなら、学校を休んでくれよと誰もが思ったはずだ。やはりヤンキーといえども出席日数は気になるのか?

 山浦は結局、午後の授業をサボった。

 山浦は目が覚めてもすぐに立ち上がらず、校舎の壁にもたれるようにして座った。朝に感じていた、だるさはなくなって、少し頭が軽くなってスッキリしていた。

 のんびりと空を眺めると、西の空に飛行機が飛んでいるのが見える。離れたところから見ると、ずいぶんノロノロ飛んでいるように見える。

 子供の頃、将来は何になりたいかと義父に聞かれた。いろんなことに興味があったから、考えあぐねて答えることができなかった。

 中学三年のときに

「高校を卒業したら、家をでなさい」

 と義父に言われた。

 山浦は義父の言うことに対して、何も答えなかった。たいしたことではなかった、自分でもそうするつもりだったからだ。

 山浦はのろのろと立ち上がり、首を左右に振る。9月半ばとはいえ屋上はかすかに風もあり、体は冷え切っていた。

 山浦は屋上を出て階段を下り、廊下に出ると校舎はひっそりとしていて、人の気配を感じない。放課後でもおかしなくらい静かだと感じた。

 薄暗い廊下を歩いて、自分のクラス2年1組の前を通り過ぎるとき、誰もいない教室の隅の席に人形=命まもるが座っているのが見える。

 廊下側の窓越しに見える、まもるは暗く沈んでいるようにも見える。暗い表情でうつむいて、口を真一文字に結んでいる。

 山浦は得体のしれない気持ち悪さを感じた、久しぶりの感触に胃のあたりが重くなる。

 …気持ちわりい。

 心の中で何かがどんどん大きくなる。

 山浦は教室に入り、ふらふらとまもるに近づいていった。


「どうして泣いているの?」

 子供の頃の自分が見える。

 日に焼けた少年が、泣きながら道を歩いている。子供サッカークラブの青いユニフォームを着た少年が、赤い顔をして肩を震わせ、しゃくりあげるように泣いている。

 山浦が小三まで入っていたサッカークラブのユニフォームだ。

「どうして泣いているの?」

 声がして顔を上げると、紺色のセーラー服を着ている中学生くらいの女が顔を曇らせている。

「誰かにいじめられたの?」

 山浦少年はうるんだ目をした女の顔をキッと睨んだ。

 この女は見たことがある、学校帰りに通る公園でよく一人で、めそめそ泣いている根暗女だ。

「どうして泣いているの? 誰かにいじめられたの?」

「…ちがう、俺は泣いてないよ」

 山浦は小さな腕で、ごしごしと乱暴に涙をぬぐって、声を振り絞るように女に答える。

「泣くことは悪いことじゃないのよ」

 ―――何、言ってんだこの女?

「泣きたいときはたくさん泣いていいの、男の子だからって泣くのを我慢しなくていいんだよ」

 女はかすれた声で泣くように言った。女は腰をかがめて、自分の顔を山浦の目線の高さに合わせた。

 女の青白い頬に黒い髪がかかる。

「私には、あなたの気持がわかるの、だって…あなたは私なんだもの…」

 女は子供の山浦に手を差し伸べる。

 山浦は

「うるさい!!」

 と叫んで、女の細い腕を払いのけると

「俺は泣いてなんかいない! 俺をお前なんかと一緒にするな!!」

 山浦は目を吊り上げて、叫んだ。

「俺はお前が嫌いだ、泣き虫の根暗女のくせに!」

 女は驚いて、唇を震わせている。目に涙をいっぱいためて、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。

「どけよ! 根倉女!!」

 女は何か言おうとして口をパクパクさせた。

「お前なんかと一緒にするな! 俺はいじめられてなんかいない、俺は強いんだ!」

 山浦は女の脇をすりぬけて、家に向かって走った。

 俺は弱くなんかない。

 弱くなんかないんだ!

 弱虫じゃない!!

 俺は強いんだ!!


 頭痛がさらにひどくなった、イライラする。

 山浦は椅子に座って、俯いている守に近づくと、制服の胸元をつかんで持ち上げる。

 まもるを床に叩きつけるように放りなげた。

 仰向けに倒れたまもるを見据えて、力任せに踏んづける。まもるの顔や胸を、硬い靴底で何度も踏んづける。山浦はまもるを、かかとで何度も踏みつけて、踏みにじった。


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