ヤンキー山浦(2)
「うぃーす」
「おー来た、来た」
「つまみとビール買ってきました」
「おー、サンキュー」
山浦はコンビニのレジ袋の中から、発泡酒とイカソーメン、スティックチーズ、唐揚げを取り出した。
学校が終わる頃、中学のときからつるんでいる先輩から電話がかかってきた、悪い遊びをする仲間だ。先輩に買い物を頼まれて、アパートに来るように命じられた。
山浦は自宅に戻って着替えを済ませてから、コンビニに買い出しに行った。最近はスーパーでもコンビニでも年齢確認が義務付けられているが、私服では絶対に高校生に見えない山浦だ。コンビニの店員はレジの年齢確認ボタンを押させると、さっさとレジ袋に商品を詰めて、手渡してくれた。
山浦はヤンキーグループの中では、成績は悪いほうではなかったため、家から近い普通科のある公立高校に通うことができた。三人の先輩のうち二人は、中学を卒業して、しばらく、ぶらぶら遊んでいたが、今は解体工事を請け負う業者で働いている。もう一人は工業高校へ進学したが結局、中退して、その後、通信制の高校へ通っている。
最近は一人暮らしの先輩のアパートに集まって、花札やトランプを使って賭けごとをして遊ぶことが多い。
「先輩、オレ、金無いんで、割り勘でお願いします」
山浦は申し訳なさそうに話を切り出し、三人の先輩を見た。
三人のうち二人は微妙に視線をずらし、とくに何も聞かなかったような顔をしている。坊主頭で鼻の下に口ひげが生えている、小男の先輩が、尻のポケットに手を伸ばし財布をとる。
「あー、俺さあ前の分の貸しあるから…今日それ返すよ」
先輩は財布から千円札を取り出して、山浦の前に置いた。
山浦は眉間にしわをよせる。
貸しの分と今日の買い物の分を合わせると、一万円近くはある。先輩はわかっていても、わざとそれをやっているのだ。
山浦はイライラして声を荒げる。
「ちょっと待って下さいよ、それ全然足りないですよ」
「なんだよ! ケチケチしてんなあ、お前もバイトしてんだろ…」
不平不満を口にする先輩を相手に山浦は
「それ、まとめて返して下さい」
と告げる。
先輩は不機嫌に、出したお金を財布にしまった。
山浦の表情がゆがむ。
先輩の一人が手札を配りはじめて、山浦の前にトランプのカードが重なっていく。
こいつらは何で…ちゃんと金を払わないんだ…。
山浦はイライラしながら、配られた手札をとる。
掛で負けたら、きっちり払わされて、勝ったら、勝ったで支払いをごまかそうとする。
ふざけんな! くそ坊主!
嫌なら会わなきゃいい話だが、切っても切れない、切りにくいのがヤンキーの縁の不思議。 先輩は怖い、
でも…ここが居場所だと感じているのか?
ヤンキー山浦。
山浦は家に帰ると部屋にカバンを放りなげて、キッチンに向かった。
キッチンとダイニングがカウンターで仕切られた、セミオープンのキッチンで山浦の母親が食器を洗っていた。
「お母さん、牛乳なくなったよ」
母親の横で、山浦の六歳、年下の小学生の弟が空になった、牛乳パックを小さくおりたたんでいた。
山浦が近付くと顔をあげて、ぎこちなく「お帰り」と言い、山浦の弟は二階の自分の部屋にあわてて戻っていった。
「二万だしてよ」
山浦は自分より三十センチは背が低い、母親の目の前に手をだす。
「いきなりそんなお金ないわよっ!」
息子の要求に母は金切り声をあげて、顔をゆがめる。
「じゃあ、今あるぶんでいい。出せよ」
母親は、しぶしぶシステムキッチンの引き出しから財布を取り出して、財布の中にあるお札を全額、山浦に手渡した。
キッチンのすぐ横のリビングでは、義父がぼんやりとテレビで西部劇を見ている。話は聞こえているはずだが、知らん顔だ。無視をしているというよりは、興味がない。そんな態度はいつものことだが、今日は無性に腹がたった。
山浦は息子を見ようともしない義父をひと睨みしてから、母親からむしり取ったお金をポケットにねじ込んで、二階にある自室に戻った。
山浦は黒の上下のスウェットに着替えて、ベッドに転がる。仰向けになってしばらく、ぼんやりと天井を眺めていた。
アルコールを飲んだからだろう、まだ体にだるさを感じている。
隣の部屋から、かすかに笑い声が聞こえる。弟とその下の妹は二人で一つの部屋を使っている。
まだ起きているのか?
あいつらは仲がいい、そりゃそうだ、父親も母親も同じだからな。
あいつらが生まれたときも俺は家族だったよ…。
山浦は上体を起こして、オーディオに手を伸ばしCDの再生ボタンを押す。それから横になって静かに瞼を閉じた。




