ヤンキー山浦(1)
休み時間。
さっそくクラスの鼻つまみ者、ヤンキー軍団がぞろぞろと集まってきた。宮城守は彼等を視界に捉えると、自然に静かに席を離れた。
毎度のことながら見事な逃げっぷりではあるが、内心はドキドキしている。
「人形じゃあ、パシリにも使えないよ。なあ?」
顔のすべてのパーツが大きい、時代劇に出てくる浪人のような顔をしている、ヤンキーグループのリーダー、山浦祐二は人形=命まもる君の顔を覗き込みながら、怖いジョークをとばしている。
その冗談はとりまきの連中のツボにもはまったようで、へらへらと笑っている。そんな仲間の様子をみて、山浦は上機嫌でまもるの頭を片手でわしづかみにしたり、ばしばし叩きはじめた。
(パシリにも使えないよ)
その冗談は全然、笑えないよ。
守はこのクラスにも、そんな人がいたのかな…と考えて胃が痛くなった。
守は暴力をふるう人の気持ちがわからない、暴力は怖いものだ。友達と会話をしていても、山浦達のことが気になって、相槌を打つタイミングがずれていく。
攻撃の対象が自分じゃなくても、いつ火の粉が飛んでくるかわからない。彼等とは無関係であり続けることが重要で、注意が必要だ。
自分じゃなくて良かった。
そんな考えをもっているのは、俺だけではないはずだ。
山浦はまもるの使用方法に従って、まもるを殴ったり蹴ったりしていた。アウトサイドの人達は意外と素直だ。山浦達の行動は上原先生の言うことをよく聞いているとも言えるのだ。少なくとも知らんぷりを決め込んでいる優等生よりは上原を愛しているのだ。
最初はとおまきに見ていた、ヤンキーの女のほうもやってきて
「まーもるってさあ、かっこいい顔してるよ~! 私のお兄ちゃんにそっくりだし、あんまりいじめないでよ~」
きゃは!
と笑って柄にもないことを言った。かわいいところもあるさ。
しかし、ヤンキー女の言葉は無視され、ヤンキーの男達の暴力は加速していく。
「おい! こいつ殴るから、ちょっと押さえとけ!」
山浦の仲間も面白そうに、まもるを羽交い絞めにする。
本物のリンチさながらだ。
それを見て、とりまきも、げらげら笑っている。
体格のいい山浦はパンチを打つたびに、重く鈍い音が教室に響く。まもるはサンドバッグのようにボディを連打される。
でも大丈夫。
人形だから微笑んでいられる。
命まもるの皮膚はポリ塩化ビニールのような感触の耐久性、耐衝撃性に優れた新素材で出来ている。傷がつきにくい。例えば金属バットで殴られても平気なぐらい丈夫なのだ。皮膚の内側は衝撃を吸収するシリコン素材で出来ている。
山浦はさんざん、まもるを殴りつけた後、倒れるまもるに止めを刺すように、その身体を蹴りあげた。まもるの体が宙に浮いて、床にたたきつけられる。その反動で、クラスで一番のお調子者、人形=命まもる君がゴロゴロと転がってきた。
山浦はまもるを、さんざん殴って満足したのか、肩を揺らしながら教室を出て行った。
山浦が廊下に出ると、担任で英語教師の上原に呼び止められた。
「山浦君! 授業もう始まるよ」
「うるせえよ!」
山浦は上原の制止を無視して、廊下を歩いていった。
「牧~!! ブレーンバスター~! 決まったか!」
「フォールだっ!!」
「ワン、ツー、スリー~!!!」
「やりました~!! 牧、引退試合で白星をかざしましたっ!!! まもるっ悔しいっ! 男泣き~!!!」
牧は拳をあげて勝利宣言。
「フォーエバー、フォーエバー、フォーエバー!!」
「まもる! まもる! まもる!」
「いい試合だったぞ~、よくやった! まもる~!」
「いいぞ~まもる~!」
観衆がエールを送る。
宮城守は自分の席で背中を丸めて、うつむいていた。