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新しい友達!

 秋の穏やかな晴れた日、宮城守は窓際の後ろから二番目の自分の席に座り、空を流れる雲を眺めていた。

 さっきまで太陽を覆い隠していた大きな雲が風に流されて、朝の穏やかな光が守の頬をなでている。

 雲のように風の流れに逆らわず、当たらず障らず、大きなものに逆らわず、ことなかれ主義で生きてきた。これからもそんな人生を貫いていきたい。

 容姿は普通、家は中流家庭、成績は良いと普通の間くらい、部活はしていないが大学進学のために、放課後は学習塾に通っている。情熱とは無縁、大学も頑張らずに入れるところで十分だ。何事も普通が一番。高校生活を穏便に過ごすこと、それが俺のの願いだ。


 ガラガラと教室のドアが開く。担任の上原先生が人体模型に似た顔の、ブレザーの制服を着た、人と同じくらいの大きさの人形を抱えている。

 その人形を引きずりながら、教卓の前までくると、教卓の前に人形を立たせた。

「おはようございます!皆さん今日からクラスに新しい友達が加わることになりました。本人はお人形で言葉はしゃべれないから、私がかわりに自己紹介をします」

 上原はさっと移動して、人形の背後にまわる。

「はじめまして!命まもるです。みんなを社会悪でもあるイジメから守るお仕事をしています。僕の職場は学校のみんな

がいる、このクラスです! 僕のことは命くんと、呼んでください。よろしくお願いします」

 上原は人形の後頭部を乱暴にぐいっと押して、頭を下げさせると、もとの位置に戻った。

 もうすぐ四十歳とは思えないくらいのアホっぷりで、美人なだけに残念だ。

 上原は人形の肩に手をまわして、人形の肩を抱くように、横に立つ。

「この人形は、ストレスが溜まったときに、殴ったり、蹴ったり、罵ったりして使います。みんなのストレスが溜まらないようにしてくれる人形だから~仲良くしてあげてね」

 上原の声が弾んでいる、なんだか楽しそうだ。

 さっきまで命くんとか、新しい友達とか呼んでたわりには、あっさり人形扱いされている、命まもる君だ。

 命君は…、

 殴られたり、蹴られたり

 されるの??

 俺と――同じ名前じゃん?!

 っていうかファーストネームは『まもる』なの? 

 俺、いじめられない??

 急に不安が押し寄せてくる。

 でも待って…守、冷静になれ…俺のを『守』と呼ぶやつはクラスにいない、それぐらい存在が希薄な俺だ。

 額に汗をかきはじめた守は、焦るなと自分に言い聞かせる。

 言ってることが、あべこべの上原はひと仕事、終えましたと言わんばかりに、爽やかに微笑んでいる。その横には微笑みの貴公子というニックネームが似合いそうな人形=命まもる君。人形だから、ずっと同じ顔だ。スマイルのバッジと同じで、この顔を見ていると幸せな気持ちになりますってことなのか…?

 体半分の内臓が露出している人体模型の人形にそっくりだが『命まもる君』は学校の制服を着ていて、全身はちゃんと皮膚で覆われている。そしてにこにこ微笑んでいる。

 クラスのみんなの反応は…微妙。上原の寸劇にちゃちゃを入れることもなく、黙っている。それぐらい教室には非現実的な世界がひろがっていたのだ。

「命くんの席は一番後ろの、ゴミ箱の横の席だから…、ちょっと誰か運ぶの手伝って、この子四十キロあるんだって。ほら、足持って」

 先生と生徒で死体を運ぶような感じで、クラスの隅の席に運ばれて行く。 守の後ろの席だ。

 守はさっきから変な汗がとまらない。

 焦る守の気持ちとはうらはらに、命まもる君は、いじめられっ子の特等席のような場所に座らされて、にこにこと微笑んでいた。

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