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演劇部

 人当たりがいいね、優しいね、気が利くよね、これが周りの私に対する評価。人当たりが良く、優しくて、気が利くことが私の長所だそうだ。

 長所ってもって生まれた資質のこと……だろうか?

 それとも――――

 努力をして手に入れたもの?

 頭が良かったのに、可愛い容姿ではなかった私は、保育園のお遊戯会でお姫様の役をやらせてもらえなかった。星の飾りを頭につけた…神様っていう老人の役だった。

 周りの大人が私を可愛いと言ってくれるわけでもなく、自己主張をしなければ兄弟や従兄のように、親や親戚たちに褒めてもらえなかった私は…子供なりに努力をしていた。

 みんなの言う、私の長所ってやつは、努力をして手に入れたもので、


 人は生まれながらにして、愛や優しさをもっている

 子供は皆、天使だ…。


 なんて話をする人を私は信用しない。だから私は日々、人に愛される努力を怠らない。


「伊佐川晴香―――伊芸明日香、役」

 園田真由子は、いじめっ子役のリーダーの名前を、読み上げる。

 伊佐川晴香は高校一年生のときから演劇部に所属し、演劇コンクールへの出場経験もある。自分の演技力には、それなりの自信があった。

 

 それなのに―――

 また…脇役か…。


 晴香は俯いて、唇をかみしめる。

 晴香は鼻が低く、一重のはれぼったい目をしている。お世辞にも美人とはいえない顔だが、そのかわり…スタイルは良かった。痩せてはいないが―――胸が大きく、腰はくびれていて、脚が長いので――ブスとは呼ばれなような容姿をしている。

 川平聡美はコピー用紙に印刷して、ホッチキスで止めた台本を、一人一人に手渡す。配役は演劇部顧問、上原の判断だ。

 上原は自分の大学の後輩、園田真由子が座長を務める、劇団『浮島ダウンタウンキッズ』に応援を頼み、園田真由子、川平里美、国場タイラの三人は高校生の指導のために、緑が丘高校を訪れていた。

 演劇部の配役が決まるなか…演劇部顧問の上原に呼ばれて、黒板の前に集まったメンバーの中に、宮城守と山内国重の姿があった。

 二人は数日前、廊下に張り出されていた――演劇部の文化祭、スタッフ募集の貼り紙をみて、高校最後の思い出を作ろうと参加したのだ。

「舞台を作るのには――――裏方の仕事も重要です。キャストと連携をとりながら、彼等をサポートしていく大切な係です。みんなで力を合わせて、舞台を素晴らしいものに、していこうね!」

 上原が黒板にチョークで大道具、小道具、衣装【メイク】………と仕事の分担を箇条書きにしていく。

 あとは自分の希望する仕事を決めて、自分の名前を黒板に記入する―――というやり方で役割は決まっていった。

 守と山内は大道具だ。

「舞台を作るといっても、みんな―――わからない事も多いと思うから…文化祭当日まで、みんなをサポートしてくれる先輩を紹介します――――川平聡美さんと国場タイラさんです。何かわからないことがあれば、二人に聞いて下さい」

 上原が二人を紹介すると、二人は軽く頭を下げた。

 守は山内の腕を肘でつついて

「あの人達だよ…例の…進路室の前で会った…」

 小声でささやく。

「げい…じゅつか…ってやつか…」

 山内は覚えたての、言葉のような言い方で返す。守は山内が面白いので、声をたてずに笑った。

 役割分担が決まると、作業を進めるための話し合いだ。タイラと聡美も、それぞれのグループに加わって、詳細を詰める。そんな感じで裏方の仕事の一日目は終了した。


 日曜日。

 守は咲とがじゅまる公園に来ていた。がじゅまるは年中、緑の葉を見ることができる常緑樹で、成長すると20メートルにもなる高木だ。日本では屋久島、種子島以南、主に南西諸島に分布する。沖縄ではキジムナーという精霊が宿るとされる、最もポピュラーな木だ。

 守と咲は12時に待ち合わせをして、芝生の上にレジャーシートを敷き、その上で咲の作った手作り弁当を食べていた。

「文化祭の準備の時、塾はどうしてるの?」

「――――うん………俺と山内は大道具だからさ―――土曜日だけ行ったりすればいいんだ…演劇部の人達よりは通わなくて、いいんだよ」

 守は三角に握られた、おむすびを頬張る。おにぎりの種類は、鮭と油味噌の二種類だ。

「昨日―――初めて集まったんだ」

 守はステンレス製の携帯マグに入った、お茶を飲む。

「うち文化祭と体育祭、一年ごとに交互にやるから、咲は今年が初めての文化祭だよね?」

「うん! 後夜祭、楽しみにしてるんだ。私のクラスカフェやるんだよね、メインのメニューが、カレーとおでんなの!」

「カレーとおでんは、可愛くない!」

「カレーは可愛いよ!」

 咲が守の肩を叩き、二人は声をあげて笑った。

「普通はすうぃーつとかでしょ?」

「あ! そういうのか…んー、じゃあ…提案してみよっかな!」

 守は山内を真似て、覚えたての単語のようにスイーツを、わざとたどたしく言ってみる。最近、守と山内との間で流行っている言葉遊びなのだ。

 守の変な言い方に、咲もにこにこ微笑んでいる。

「メイド服とか着るの?」

「私、作る人だから白シャツにジーンズで、エンジ色の頭巾とエプロンだよ」

 守はイメージしてみる…。

「黒のジーンズ?」

「ううん、普通のブルージーンズ」

「ふーん――――――可愛いかも…」

 咲にはメイド服よりも、似合っているようにも思えた。

「時間、空いてるとき行くよ」

「うん」

 二人は心地よい春の光を体いっぱいに浴びて、のんびりした午後の時間を過ごす。守がポータブルオーディオプレーヤーのイヤホンを、咲に耳に付けてあげて、最近よく繰り返し聴いている曲を、咲に聞かせる。

 二人の距離は咲の首に息がかかるほど近くなっても、今は自然にしていられる。守は二人で過ごす時間を愛しく思うようになっていた。


 (このまま時間が止まってしまえばいいのに…)

 なんてくさい台詞を思い出す…元ネタは何だ? テレビドラマだろうか?

 しかし…あれは本当のことだったんだな…。


 守は恋に溺れて、流されて生きていく…自分を妄想する。


 うーん無理!!


 男はそうも、いかないぜ、


 何しろ…生活かかってくるからな…。


 以前この公園で山内が東京の大学へ、進学すると言ったときのことを思い出した。一瞬ぎくっとして、それから理由を聞けなかった。

 山内が何故、突然進学先を東京にしたのか――――今も、その理由がわからない。山内も俺の心情を見透かしているのだろうか…山内が話を切り出したとき…わざとらしく無視した。あの日以来、進学先のことについて、山内からは何も言おうとはしない。

 守は頭の後ろに組んだ腕を枕にして、仰向けの姿勢で空を流れる雲を見ていた。

「よく聞くとロックの歌詞って…めちゃくちゃなの、あるよね」

 体育座りで目を閉じて、歌を聴いていた咲が耳から、イヤホンをはずす。


 (がむしゃらに走って辿り着いた、そびえる壁。 近づくと自分だけが通れる道があった。

  Go Ahead 人生はたやすい。 Go Ahead 困難は錯覚)


「その歌、気に入った?」

「うん、ノリがいい曲だよね」

「俺は歌詞も気に入ってるの! ライブにも行ったことあるけど、超~、良かったよ!」

「へえ、私も行きたい!」

 咲が無邪気な笑顔を見せる。

「次のライブは、一緒に行こうね」

「―――うん」

 守は起き上がって、咲に向かって微笑んだ。

 咲も笑顔になる。


 卒業したら…俺と咲はどうなるんだろう?

 このまま、ずっと一緒にいられたら…いいのに。

 

 守は手を伸ばして―――――咲の手をぎゅっと握りしめた。

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