表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/22

小劇団

「夢が叶わなかった――チャンスを掴めたと思ったのに…私だめだった…。また一からやり直しだ。私は…私は、これからどうすればいいのだろう?」


「彼女…結局夢がかなわなかったって、駄目だったのよ」

「夢?」

「私、彼女のこと、とっても嫌な女だと思ってたけど…彼女の友達から夢が叶わなかったって聞かされて、彼女もいろいろ大変なんだなって思ったら、彼女のこと何とも思わなくなった。どうでもよくなっちゃったの」

「彼女?」

「人がさ…不幸だって聞くと安心するよね。ほら、よく不幸な人同士で寄り集まってさ、宗教とかってそんな感じよ。不幸な人の中にいると安心するの。自分より劣っている人を見て優越感にひたれるもの、ねえ…あなたもそう思わない?」

「私は、その人のことを知らないよ」

「知らなくてもいいの…聞いてちょうだい!」

「君は彼女のことを知っていても、本当はよく知らないよ」

「そうよ! だからどうしたっていうの?」

「私と君は違うよ。私は誰かを基準にして自分の価値を決めたりしないもの、人は関係ないんだ。本当は君もそれを…」

「うるさい…」

「え?」

「あんたよ…あんただって! 不幸なのよ! 自分は違うみたいな顔を、しないでちょうだい!」

「何?」

「女のくせに…男みたいな顔で、長い間、恋人もいない女よ。家族もいない哀れな…ひとりぼっちじゃないの?!」

「一人だって? そう、君には一人に見えるさ、恋人を見つけると一人の愛にがんじがらめに縛られて――身動きが取れなくなってしまうよ。私は一人より――たくさんの人からもらう愛を選んだ。好きな人もいるんだよ、君も含めてね…」

「何を言ってるの?!」

「君はこれまで幸せが、どんなことか知ろうともしなかった。不幸の中に居続けて…………………………………………なんだっけ?」

「トンネル」

「トンネルでしょ…」

「もーっ! やだ! やだ!  やだ!!!」

 ワーっと、国場タイラが奇声を上げて、手に持っていた台本を放り投げる。

「こんっなの、やってられないよ!!」

「こら! 勝手にやめるな!」

「いて!!」

 男の中では平均的な身長の、国場タイラと同じくらいの身長のつり目のスレンダー美女が、タイラの薄茶色でゆるい癖っ毛の頭を、丸めた台本でぽかっと叩く。

「あっ」

「ノンセクシャルの舞台女優ってなんだよお~、この設定~!!」

 タイラは唾を飛ばして、劇団の演出家で脚本家の園田真由子に抗議する。

 ぐー。

「あっ…また鳴った」

 ポニーテールの黒髪を揺らして、川平聡美はぐーっと鳴った自分のお腹をてのひらで押さえる。

「休憩しようか」

 真由子がため息交じりにつぶやくと、劇団員達が一斉に動き出す。

「やっぱり変だよお、この話~」

「しのごの言うな!」

「だってえ~」

 タイラはいつもこうだ。協調性にかけるタイラが劇団を、辞めないで続けていけるもの、家族みたいに言いたいことを言い合える仲間がいるからだ。

「みんな、おやつあるよ」

 のっぽの男が手にお菓子を抱えて持ってくる。

「私、ポッキーがいいっ!」

「ねえ、このポテチ開けていい?」

 床にお菓子や飲み物を広げると、みんなで車座になってお菓子をつまむ。

「さんぴん茶飲みたーい」

「コップあるよ」

 こうやって練習の合間に集まって意見を交換したり、個人的な話をしたりするのだ。

 怒られて戻ってきたタイラも話に加わる。

「ちぇ…俺はあっちのあーいうのがやりたくって劇団に入ったのに」

「ねえ、あっちのあーいうのって?」

「アクションでしょ」

「アクションか…」

「うちでもやったらいいじゃん」

「そうだよね」

「結界とか張るのやろうよ! てぃーち(いち)、たーち(に)、みーち(さん)、ゆぅーち(よん)…」

 聡美が手印を結んで九字を切る。もちろん適当にやってる。

「そんな、おたくっぽいの嫌だよお」

 それを見て、しのぶが顔をしかめる。丸顔のせいで太って見えるのが悩みの種だ。

「あれは数を数えてんじゃないよ。臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前『のぞめる兵、闘う者、皆 陣列ねて、前を行く』密教の護身法でちゃんと意味があるんだよ」

「ふうーん、詳しいんだね」

 聡美が感心してうなずく。総一郎は見た目はどこにでもいそうなひょろっとした若者だが、博識で頼りになるお兄さん的、存在だ。

「でもタイラの気持もわかるよ、俺も子供の頃Eレンジャーの隊員なれると信じていたよね」

「Eレンジャー? Eレンジャーみたいなのもいいけど…時代劇とかでもいいんだよ」

 タイラは立ちあがって時代劇のような、殺陣たてを披露する。見よう見まねにしては上出来だ。

 みんなが車座になっているとき、稽古場の隅のほうで、携帯で誰かと話をしていた真由子の電話が終わったようだ、皆の居る場所に近づいてくる。

「タイラ! 聡美! 高校生に演劇の指導することになったから、私についてきて」

「へっ?」

「えー!!」

 二人が選ばれた理由は、時間に余裕があるからだろう。タイラは大学生で、聡美は仕事が早い時間に終わるパソコン講師だ。

「大学の演劇サークルの先輩なのよね、断れなくって」

 はにかんでも可愛くない鬼座長、真由子を前に…

 決定した辞令に逆らえない会社員のように、首を縦に振るしかない、タイラと聡美だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ