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ハザクラ咲く頃 -アルラの門4-  作者: 弓削 結
コーヒーブレイク -アルラの門4.5-
22/22

第八話 フリューゲル(後編)

「来たようだね。」

 窓の外を見ていた早瀬(はやせ)が呟いたのを合図に、竜杜(りゅうと)は外に出た。

 入り口を降りたところで、園村百合(そのむらゆり)が気付いて会釈(えしゃく)する。

 今日は黒スーツでなく、シャツワンピースにレギンス。そして隣にいる真っ白な髪の小柄な老婦人に合わせてゆっくりした歩調であった。

「先日はありがとうございました。」

「お待ちしていました。段差があるので足元に気をつけて。よかったら手をどうぞ。」

 あらまぁ、と老婦人は目を丸くする。

「こんな若くて素敵な方がいらっしゃるなんて。」

「おばあちゃん、言ったでしょ!このお店の三代目さんだって。」

「だって百合ちゃん、ハンサムとは言わなかったじゃない。」

 そんな祖母と孫のやり取りを聞きながら、竜杜は二人を中に案内する。用意したのは店の一番奥、庭を近くに見ることのできるテーブル。

「お天気でよかったわ。お庭がとっても綺麗。」老婦人はにっこり微笑む。

 カーテンを開け放した()き出しの開き窓の向こうには、刈り込まれた緑の芝とハーブを植えたささやかなコーナーを見ることができる。

 早瀬がメニューを渡しながら自己紹介をすると、老婦人は「お世話になります」と頭を下げた。

「この子が無理言って、ご迷惑おかけしまして。」

「迷惑だなんて……こちらこそわざわざ来ていただいて、きっと先代も喜んでます。」

「本当に……この子が急にフリューゲルに行こう、なんて言い出すものだから、何(たくら)んでるの?ってしつこく聞いたんです。そうしたら無理なお願いをしたっていうじゃないですか。」

「だって……」と園村は唇を尖らせる。

「食べてみたかったんだもん。」

「あなたは本当に小さいときから食べることが好きよねぇ。」

 いいじゃない、と膨れる女子大生に早瀬は微笑む。

「では早速、ご用意しますね。」


 そっと(みやこ)はカーディガンの(そで)をずらす。

 波多野(はたの)も左腕のスポーツウォッチに目を落とした。

「例のお客さん、フリューゲルに来てる頃だな。」

「うん。気に入ってもらえるかな。」

「完成形、美味(うま)かったから大丈夫だって。それより今日も栄一郎(えいいちろう)さんが作るの?」

「ううん。人が多いとお客さんも落ち着かないから遠慮するって。昨日マスターとずっと打ち合わせしてた。」

 そうか、と頷く。

「しっかしさすがに梅雨(つゆ)明け……あちーな。」波多野はかぶっていたキャップを外すとばたばた(あお)ぐ。

 夏休み直前の日曜日。写真部恒例の撮影会の今年のテーマは「動物園」。企画した二年生を中心に顧問も交え、思い思いのグループになって移動しながらカメラを構えている。都と波多野も後輩たちと一緒に互いにレンズを向け合ったり、動物や風景を撮影して楽しんでいた。

木島(きじま)、長袖きつくない?」

「あー、うん。でもこの天気だと、確実に日焼けじゃなくて火傷(やけど)になっちゃうから。」

「木島、肌弱そうだもんな。」

「っていうか、学習能力が足りないって(さえ)さんに怒られる。」

 何かに夢中になってひどい目を見るのは小さい頃からのこと。そのため昨夜の天気予報を見た時点で「動物園なんてなーんにもないんだから気をつけなさい!」と冴に釘を刺されてしまったのだ。

「どっちもすげー、らしいや。」波多野が笑う。

 と、

「先輩たち、移動ですよー。」

 背後からの声に二人は振り返った。

 首からコンパクトカメラを下げたショートパンツ姿の女子が、(てのひら)をメガホンの形にして「行きましょう!」と叫んでいる。

 二人が慌てて合流するとショートパンツの女子、一年生の三池祐美(みいけゆみ)が都の隣に並んだ。

 都と箕原亜衣(みのはらあい)の写真展示を見て入部を決めたというカメラ初心者で、まだコンパクトカメラ専門だからか、都の無骨(ぶこつ)なカメラを珍しそうに覗き込む。

「都先輩のカメラって、古いんですよね?」

「知り合いがくれたの。去年まで使ってたの壊れちゃったから。」

 都は肩にかけていた、栄一郎から譲り受けたフィルム仕様の一眼レフを持ち上げる。だいぶ使い勝手が慣れてきたのと、今まであまり使わなかったレンズの練習も兼ねて今日の撮影会に選んだのだ。

「アタシも今度お古のフィルムカメラもらうんです!写真部に入ったんだーって言ったら、伯父さんが昔のくれるって。」

「ほんと?三池さん、トイカメラ買おうか中古買おうか悩んでたもんね。」

「今日は間に合わなかったけど、来たら先輩見てくれますか?きっと使い方わかんないから。」

「わたしで役に立つかなぁ。」

「だってアタシちょー初心者ですよ。インスタントカメラも使えなかったくらい。それにアタシ、都先輩と亜衣先輩いなかったら写真部なんて入らなかったし、そしたらぜーったいつまんない高校生活だったもん。」

「写真部、楽しい?」

「たのしーです!こうやってみんなで撮ったり、いろいろ教えてもらったり。だから先輩にはいっぱいありがとうございます!」

 まっすぐ言われて面食らう。けれど悪い気はしなかった。

「三池さんの役に立てたなら、ちょっと嬉しいかも。」

 都の言葉に三池は笑顔になる。

「アタシ、挨拶(あいさつ)とお礼はちゃんと言いなさいって言われてきたんですよ。でも、それがうっとおしいって言われたこともあって、だからそう言ってもらえるとすっごく嬉しい。」

「わたしは逆に言葉が足りないって言われるから、三池さんのこと見習わないといけないかな。」そこまで言って、ふと、あることを思い出す。

「みやちゃーん!見てみて!」

 先に次のエリアに着いていた同じ三年生の箕原亜衣が、紙切れをかざしながら駆け寄ってきた。

 覗きこんだ三池が目を丸くする。

「わー、モノクロだ!えーしかもすっごく広い!」

「もしかして亜衣ちゃん……ピンホール()持ってきたの?」

 おう!と亜衣はVサインをしてみせる。

「もー、今日天気いいから数秒で撮れるよ。」

「へー、これがピンホールで撮った奴かぁ。あれ?でも現像、どうしたんですか?」三池が写真をひっくり返す。

「それね、インスタントカメラのフィルム。」都が苦笑する。

「そ!インスタントカメラのピンホール版!」

「うわー、マニアックなの好きかもー。写ってるのもマニアックですよね。ハシビロコウ。」

「おお、一年生わかってるじゃん!」

「ハシビロコウ?」今度は都が首をかしげる。

「動かないので有名な鳥。」

「じゃあ次は、ハダカデパネズミとかどーですか?」

「おおっ!いいねぇ。ほらみやちゃんも行くよー」

「わ、わたしも?てかその、何とかネズミって……」

 そんな調子で走り回り、早目の夕刻にターミナル駅で解散したときにはすっかり夏の撮影を満喫していた。

 皆と別れ、いつも使っている路線に乗り継ぐ。

「ごめんね波多野くんまで付き合わせて。」

「うんにゃ。竜杜さんに言われなくても、オレも早く帰るつもりだったし。」

「やっぱり、言われてたんだ。」

 まぁね、と波多野は頷く。

「それ抜きにしても、明日じいちゃんに会いに行くから、さくっと帰るつもりだった。」

「施設にいるんだっけ。」

「千葉だから頻繁に会いにいけねーけど。」

「おじいさんって、波多野くんに写真教えてくれたんだよね。」

「家にいっぱい残ってるぜ。昔の写真。建て替える前の店とか都内の風景。車とかめっちゃ古くてちょっと感動する。」

「それもすごいね。」

「うん。じいちゃんはそんなつもりなかったと思うけど、写真の記録性ってすんげー力あるって実感する。それ見るとオレもこんなの撮りたいなぁって思うんだよ。けど本気で取り組むと難しいや。」

「意識し始めると、何が真ん中にあるんだろうって悩むんだよね。」

「わかんねーからいっぱい撮るし、いっぱい撮るから面白いってのもある。」

「そこまで考える余裕は……ないかも。なんか最近、目の前のもの撮るのでいっぱいいっぱい。」

「演劇部はハードル高かったな。けど最近の木島の写真、オレ結構リスペクトしてるんよ。うさぎ亭のホームページも『あ、木島の写真』ってわかるし。」

「ってあれ、もう見たの?」

 そんな調子で写真談義をしていると降りる駅まであっという間だった。

 送っていくという波多野の申し出を断り、都は通いなれた商店街を急ぎ足で通り抜ける。けれどフリューゲルの近くに来ると歩みを止め、カメラのレンズキャップを外した。フィルムを確認し、絞りとシャッタースピードを調整する。

 ファインダーを覗きレンズに手を添え、指先に力をこめる。


「リュート!」

 看板を取り込もうとアプローチに降りて来たところで声をかけられた。

「お帰り。」

 小走りに駆け寄る都の姿に、竜杜は笑顔を向ける。

「撮影会、どうだった?」

「楽しかった!」

 門扉(もんぴ)を閉め、閉店の札をかけると都を店の中に迎え入れる。

「マスターは?」竜杜が扉を施錠(せじょう)している間、都は店内を見回した。

 照明は一部消してあるが冷房が利いているので身体がホッとする。

「先に母屋(おもや)に戻った。栄一郎さんと笙子(しょうこ)先生がコギンを連れてきてくれたから。」

 今日は冴も出かけるというので、朝、栄一郎と駅で落ち合ってコギンを預け、ドラゴンシッターを頼んだのだ。

「冴さんも仕事終わったからこっちに来るって。休みの日まで人と会うなんて、仕事好きだよね。」

 荷物をカウンターの椅子に置きカーテンを閉めるのを手伝う。

「そういやさっき、フリューゲル撮ってたのか?」

「気付いてたの?」

「都の気配はすぐわかるから。」

「気配って悪霊じゃないんだから。」ぷくっとむくれる都に竜杜は笑う。

「悪い意味じゃない。むしろいい意味だ。」

「大丈夫だったでしょ?」

「ああ。」

 竜杜は都の顔にかかった髪を指先でそっと払う。くすぐったさに、都は思わず肩を竦めた。

「ようやく……」

「うん?」

「普通のお付き合いって感じがする。」

「普通じゃなくて悪かったな。」

「それはそれでいいけど、こうやって会いたいときに会えるのいいな、って。」

「それは否定しない。」

 竜杜は都の細い肩を包むように抱き寄せる。

「汗、かいたよ。」

「気にしない。」

 行き場を探して彷徨(さま)っていた都の手が、彼の広い背中をきゅっと掴む。

 目を閉じて、ごく自然に唇を重ねる。

 それはお互いを確認するような、優しく、長い口付け。

 最初はどんな顔をしていいのかわからず戸惑うばかりだった。けれど今は、自分が感じたとおり受け止めればいいことを知っている。

 顔を見合わせ、そっと笑みを交わす。

 たったそれだけのことなのに、ひどく嬉しいと感じる。

「暑かっただろう。今、何か作る。」

「じゃあ、あれ!この間つくってくれたアールグレイのティーソーダ。」

「了解。」

 カウンター席に座り今日の出来事を話しながら待っていると、目の前に琥珀(こはく)色のグラスが置かれた。添えられたミントの鮮やかな緑が目にも涼しげ。そして口に含むと冷たい紅茶とミントの香り、いつもより多めにいれたシロップの甘味が身体に染み込んでいく。

 都がクールダウンしている間、隣に軽く腰掛けた竜杜が園村百合の顛末(てんまつ)を話してくれた。

 結論から言えば、園村百合も彼女の祖母もフレンチトーストにはご満悦だった。

「おばあちゃんの言うとおり、美味しかった~。」

「ええ。あのときと同じでとても美味しかったわ。ごちそうさま。」

 ありがとうございます、と早瀬は頭を下げる。

「でもレシピを探すの、大変だったでしょう。」

「それが実は、うちのオリジナルではなかったんです。」

 それを見抜いたのはリカーハタノの一人息子、波多野大地(はたのだいち)だった。

「オレが小学校一年か二年のときかな。うちのじいちゃん骨折して入院して、そのときにうさぎ亭のじいちゃんがお見舞いに持って来てくれたんだよ。病院食じゃ飽きるだろって。ばあちゃんが洗濯かなんかしにいってて、オレはじいちゃんのそばにいたんだ。それでうさぎ屋のじいちゃんが、大地くんも食べな、って。すんげ、美味かったから覚えてたんだよ。」

 そうね、と答えたのはレストランうさぎ亭の看板娘の笠木比奈(かさぎひな)

「確かにうちのおじいちゃん、卵が余ると作ってくれたわね。」

「比奈ちゃん、それ作れるかい?」

「できるけど……今?」

 できれば、と早瀬は頷く。

「あー、でも材料が……」

「卵と牛乳の他にいるものあるかい?」

「パンとハチミツかしらね?パンはハザマベーカリーさんに焼いてもらってるうさぎ亭(うちのみせ)用のパンで……」

 あれ?と栄一郎が声を上げる。

「もしかして、ハチミツって……あれ、ですか?」

 ああ!と比奈は手を叩く。

「そう、こないだのあれ!美味しかったでしょう?」

 早瀬が怪訝(けげん)な顔をする。

 あっ!と都も思い出す。

冬月庵(とうげつあん)さんの自家製ハチミツ?」

「えっ?」早瀬は一瞬豆鉄砲を食らったような表情をした。

 が、次の瞬間、脱兎のごとくカウンターの裏に駆け込むと古びたノートを持って戻ってきた。

 慌てて付箋(ふせん)のついたページを開く。そこには鉛筆書きで「パン、卵、牛乳、バニラエッセンス、甘味」などの材料のほかに「うさぎ、ハザマ、冬月庵」といった名前も書き込まれていた。

「てっきり、商店街の連絡のメモか何かだと思っていたんだけど……」

「うさぎ亭でレシピ教わって、冬月庵でハチミツ分けてもらって、ハザマベーカーリーのパンを使ったってことかな?」横から覗いた栄一郎が翻訳する。

「確かにうちの祖父と冬月庵のおじいさん、それに先代のフリューゲルのマスター、囲碁仲間でよく顔合わせてたし……」比奈も思い出す。

「それに大地くんのおじいさんも含めて、皆さん呑み仲間だったからね。酒の席で聞いた話を親父がメモしたのか……まったく……」早瀬はため息をついた。

「ややこしい書き方してくれたよ。」


「でも味が昔と一緒かどうかなんて、わかんないじゃないですか。」園村百合が不思議そうな顔をする。

「それは、当時うちに熱心に通ってくれた常連さんに確認しました。湘南のほうで喫茶店をやっている方で、三十年前、店を開くときにメモした記録が出てきたんです。」

 店の厨房を借りて栄一郎がつくったフレンチトーストを一口食べるなり、時司堂(ときじどう)の店主、小川はうーんと声を漏らした。

「懐かしいな。これ」

「じゃあ。」

「うん。竜杜くんに電話をもらってから思い出したんだ。わたしも昔再現しようとしたことがあったんだけど、なるほど、これは再現の難しいレシピだ。材料がこんなに限定されるとはねぇ。」

 その後小川の記録を参考に盛り付けを再現、その場で写真に収めてきたことはあえて話さなかった。

 けれど今までの話で園村は十分恐縮(きょうしゅく)したらしい。

「軽いノリで面倒なお願いしてすみませんでした。」

「でもそのおかげで幻のメニューを再現することができました。」

「あら?幻なの?」

「ええ、聞いた話によると、ここで出していたのは本当に一時だけだったようです。」

「じゃあ私はとても運がいいのね。二度もいただけるなんて。百合ちゃんと店長さん、それに皆さんのおかげだわ。」

「おばあちゃん……」

「それに店長さんとお父様、両方のコーヒーもいただけて。きっとおじいちゃんがあの世で悔しがってるわね。そういえば、あなたのコーヒーはいただけないのかしら?」最後の言葉は竜杜に向けられたものだった。

「自分はまだ見習いなので。」

「では次に来たときのお楽しみね。」

「それまでに練習させますよ。」と、早瀬。

「次って……」言葉の意味に気付いた園村が目を丸くする。

「おばあちゃん……じゃあ。」

「欲なんてもうないと思ってたけど、こんな場所があるとわかってしまったらだめね。」苦笑しながら店内を見回す。

「不思議ね。おじいちゃんと来たときから時間が止まって、そのまま待っててくれたような気がするの。」

「あたし……最初に来たとき初めてなのに初めてじゃないような気がした。」

 孫娘の言葉に祖母は微笑む。

「それに、百合ちゃんの花嫁姿も見ないと。」

「それは……ずーっと先だと思う。でも、入社式は絶対大丈夫!」

「そんなもの行きませんよ。」

「でもでも、手術受けてくれるんでしょ?」

「ええ。神戸に帰ったら病院の予約するわ。」

「やた!」


「そっか。前向きになってくれたんだ。」よかったぁ、と都は胸をなでおろす。

「都のおかげだ。」

「わ、わたしは別に。今回は波多野くんと比奈さんがいたから解決したんだし……」

「それは都が声をかけて、父親が話を聞いた結果だろう。」

 それに、と竜杜は帰り際、老婦人が言った言葉を伝える。

「あなたからお礼を言っていただけるかしら。孫娘に声をかけてくれたお嬢さんに。それがなければ、今日ここに来ることもなかったでしょうから。」

「だから、都に、どうもありがとうって。」

「そ、そんな……」なんだか居心地が悪くて身をよじる。

 と、都は突然思い出す。

「そだ、お礼!」

「え?」

「わたし、リュートにちゃんとお礼言わないと!」

「今回の件はむしろ俺が……」

「そうじゃなくて!」言いながら竜杜と向かい合うよう、横向きに座り直す。

「去年のこと。っていうか、正確には一年前のこと。」

「一年……前?」

「うん。その……今日使ったカメラ、栄一郎さんにもらったお古なの。それで撮影してて思ったんだけど、もしリュートと知り合わなかったら、このカメラわたしのところに来なかっただろうなって。リュートと知り合ってから沢山人と会うようになって、そういうの苦手だったけど、でも今はそれも楽しくて。それに今日の撮影会も楽しくて……だけどそれはわたしが生きてるからなんだ、って思い出したの。」そこまで言って照れたように首を傾ける。

「去年は契約のこととか、冴さんとのこととかでいっぱいいっぱいで言えなくて、それにこの先また忘れちゃいそうだから、今のうちに言っておくね。」

 顔を上げ、まっすぐ竜杜を見る。

「一年前、助けてくれてありがとうございました。それと、わたしの命……繋いでくれてありがとう。」

 思いもよらない言葉に、竜杜は一瞬呆然とする。

「いまさらでホントごめん。えと、リュート?」

「あ、いや……そんな風に言われたら、俺もちゃんと言わなきゃいけないな。」

「何を?」

 竜杜は背をかがめると、都の耳元に顔を寄せ何か囁く。

 その言葉に都の顔がみるみる赤くなった。

「な……なんでっ……今までそんな風に言ったことないのにぃ!」

 にっこりと竜杜は微笑む。

「都が言ってくれたからお返し。」

「わ、わたしそんなこと……」言いかけて「あ!」と思い出す。

「だってだって!あれは二日酔いで寝るって言ったから!それとも嘘だったの?」

「二日酔いも不調でうたた寝したのも本当だ。でも声は聞こえてた。」

「黙って聞いてるなんてずるい!」

「じゃあ今の言葉、取り消すか?」

「それは嫌っ!」

「じゃあ……」

 都はむーっと口を尖らせ、困ったように上目遣いに竜杜を見上げる。

「も、もう一度言ってくれたら、今度は冷静に聞く。ああ!でもおっきい声じゃなくていいから!」

 吐息のような笑みが漏れる。

「わ、笑うことないでしょ!」

「笑ってない。」

 頬に触れる優しいキスの感触。

 その後に続く言葉を、都は目を閉じて受け止めた。

「俺も、都のこと……」


【コーヒーブレイク 完】

 お付き合いいただき、ありがとうございました。

 コーヒーブレイク ―アルラの門4.5― これにて完了です。そしてシリーズ全体の半分が完了いたしました。

 二人の出会いからここまで、リアルに投稿始めて一年が経ってしまいました。書くのが遅いのは仕方ないとして、ひとまず予定通りに終わらせることができて一安心しております。とはいえ、やっぱりフリューゲルは書きたい描写が多くて文字数が増えてしまいましたね。読みにくくてすみません。

改めてみると全体的に情報量が多くて、ネット連載する体裁じゃないのは自覚しています。だからこそ、読んでくださった方々に改めて感謝。

 本当は裏設定はいっぱいあるし、エピソード的には周りの方々のもいっぱいあるんですけど、それはあくまで裏ってことで。

 そして次の話ですが、少し間があきます。目標としては二〇一三年一一月に立ち上げを予定。進捗状況は活動報告にてお知らせしていきます。

 タイトルは「夏夜に想う冬星の ―アルラの門5―」。

 残り半分、また一年かかるかもしれませんが、どうにかゴールまでたどり着くよう気合入れてがんばります。また目に留めることがあったら、そのときはよろしくお願いいたします。

最後にご面倒とは思いますが、感想や評価をいただけたら嬉しく思います。

ありがとうございました!

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