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ハザクラ咲く頃 -アルラの門4-  作者: 弓削 結
ハザクラ咲く頃 -アルラの門4-
11/22

第十話

「へぇ、かっこいいじゃん。」

「このモノクロの奴、雰囲気あるね。」

 ポケットアルバムをめくりながら、奈々(なな)といずみが歓声をあげる。

「合唱部も頼もうかなぁ。」とピアノ担当のいずみ。

「それは後輩の担当だから。」

「えー、みやちゃんがいいなぁ。」

「指名料高くつく、とか?」

「そうじゃないけど、やっぱり勉強不足だから。これだって一回ダメ出しされてるんだもん。」

 ね、と都は隣に座る篠原明里(しのはらあかり)を振り返る。

「私じゃなくて部長がね。」アンティークのティーカップを手にしたまま、明里が答える。

「でも西くんに指摘されたのって、自分でも気になったところばっかりだったから。」

 へぇーといずみが感心する。

「西くんって、明里さんに怒られてる印象しかなかったな。文化祭のステージ裏、毎年壮絶だもんね。」

「あれでも今は一応部長だから、見るとこ見てるのよ。」

「それより!都が撮影してる姿見たかったよー。なーんで教えてくれなかったのさ。明里っちも!」

 かちり、と音を立てて明里はカップをソーサーに置いた。

「校庭走ってる人にどうやって伝えるのよ。こっちだってまさか都さんがジャージで登場するとは思わなかったし。」

「だってスカートで転んだら、絶対なんか言われそうだったし。」

「みやちゃん、転ぶの前提なんだ。」

「だって……」

「お待たせ。」

 頭の上から降ってきた声に、フリューゲルで一番広い丸テーブルを占拠していた制服姿の女子高生四人が一斉に振り返る。

「本日のケーキ、レアチーズケーキだよ。」

 いつもと変わらぬ優しい笑顔で、店主の早瀬加津杜(はやせかずと)がそれぞれの前に皿を置いていく。短く刈り込んだ髪と手入れされた髭には白いものが混じるが、その動きはテキパキと無駄がない。

 と、ふんわりと漂う柑橘系(かんきつけい)の香り。

「オレンジソース?」

「じゃなくて柚子(ゆず)の香り?」奈々の疑問に明里も首をかしげる。

「そういえば、冬に柚子たくさんもらったっけ。」都が思い出す。

「うん、同じ木から()ったものだよ。」

「え?じゃあこのジャム、自家製なんですか?」いずみが目を丸くする。

「誰が植えたかわかんないけど、庭に一本だけ柚子の木があってね、さすがに使いきれないしもったいないから煮ておくんだ。」

 都は傍らの窓の外に広がる、手入れされた庭に目を向ける。(へい)に沿って植えられた木は枝葉を伸ばし、片隅に種を()いたハーブ類もぐんぐん伸びている。

「もうじき梅の実の収穫もするから、都ちゃん、お手伝いよろしく。」

「梅干作るんですか?」と奈々。

「梅シロップと梅酒仕込むんだって。」と、都。

「梅シロップかぁ。チビでもできるかしら?」ケーキに舌鼓を打ちながら明里が思案する。

「チビ?」

「妹たち。中学生と小学生。」

「ウチの弟どもはやらないなー。」奈々がケーキを頬張りながら言う。

「必要なら後でレシピ教えるよ。」

「ぜひ。やっぱり暑くなってくると爽やかなもの、欲しくなるのよね。」

「言えた。」

 カラン、とドアベルが鳴る。

「やっぱ、いた。」

 声のするほうを見ると、私服姿の波多野が手を振っている。

 その背後には・・・

「おお!本命登場!」奈々が嬉しそうな声を上げた。

「本命って、何のレースだよ。」波多野が苦笑する。

「それに拝んでも何も出ないぞ。」竜杜も眉をひそめる。

 どこかに出かけていたのか、こちらもジャケットを羽織ったカジュアルな格好である。

「とりあえず目の保養させてもらってますんで。」ぱんぱんと柏手(かしわで)を打つ。

「波多野くん、リュートと一緒だったの?」

「時計屋の前でばったり。おじさん、アイスコーヒーとチーズケーキ。」

 波多野の注文に早瀬は笑顔で頷く。

「篠原も一緒とは珍しい。あ、ホラ。こないだ言ってた演劇部の才女っすよ。」波多野が竜杜に説明する。

「魔性疑惑の篠原明里さん。」

「そんなことまで話したの?」明里が波多野に抗議した。

「それはオレじゃなくて……」

「都から話は聞いてる。」竜杜は笑顔で明里に自己紹介する。

「都さん、そんなことまで話しちゃうんだ。」

「だって隠す必要ないし、波多野くんに言われるくらいなら自分で言ったほうがいいもん。」

「転ぶ時もそれくらい先手打てばいいのにさ。」奈々が溜息混じりに言う。

「それは予測できないから。」

「っていうよりー、予測できたらそもそも転ばないよね。」

「そらそうだ。」

「いずみさんも波多野くんもひどいよ!」

 もーっ、と膨れる都に、皆が親愛を込めた笑顔を向ける。

「それ、例の写真か?」竜杜がテーブルに広げられたポケットアルバムに気付いた。

「あ、うん。演劇部の写真。」

「いいっすよ。木島らしくてらしくない。」

「あたし、結構好きかも。」

 背後で、早瀬が竜杜を呼んだ。

 今行く、と慌てて返事を返す。

「悪い。店が終わったらゆっくり見る。」

 その言葉に都は少し嬉しくなる。

 「次」でも「そのうち」でも「いつか」でもない時間があることに。

 頷くと笑顔で言った。

「あとで、ね。」

                               

                     【完】

えー、ひとまず「ハザクラ咲く頃-アルラの門4-」完結でございます。が、そのまま幕間的な話「コーヒーブレイク -アルラの門4.5-」更新して行きたいと思います。

引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

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