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ハザクラ咲く頃 -アルラの門4-  作者: 弓削 結
ハザクラ咲く頃 -アルラの門4-
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プロローグ

「花なんて咲いてないよ。」

「桜は春の花だからね。」

「今は?」

「夏の少し前。」

 むー、と男の子は考える仕草をする。

「もう二ヵ月ほど前だったら、間に合ったかもしれないな。」

「それ、来るのが遅かったってこと?」

 その真剣な表情(かお)に祖父は苦笑する。

 すとんと腰を落とし、子供と目線を合わせて首を振った。

「遅くなんかないよ。葉桜(はざくら)も綺麗だろう。」

 そう言って小さな肩を抱き寄せ、公園の片隅で枝葉を伸ばす老木を見上げた。

 けれど男の子は首をかしげ、

「だって葉っぱだよ!」

「桜はね、花が散ってから一斉に葉が芽吹くんだ。」

「花と一緒じゃないの?」

 ああ、と頷く。

「これから明るい季節になりますよって、知らせてるんだろうね。だから花が散った後も『葉桜』って名前があるんだ。」

「でも、やっぱり花が見たかったな。」

「だったらお父さんに言って、今度は春に来なきゃならないな。」

「そしたらまた連れて来てくれる?」

 もちろん、と優しい笑みが答える。

「本当?約束、忘れない?」

 そうだな、と思案する。

「忘れないようにおまじない、するか。」

 そっと小指を差し出す。

 けれどその意味がわからず、男の子はきょとんとする。

 仕方なく手を取ると、自分の小指と小さな小指を絡ませる。

「約束はこうするんだよ。指きりげんまん……」

 その口上を、男の子が追いかける。

 そしてもう一度。

「うそついたらはりせんぼんのーます。」

 きっと意味は理解していないだろう。けれど(そら)んじてみせる笑顔はどこか誇らしげだ。

「約束だよ。」

「ああ、竜杜(りゅうと)とおじいちゃんの約束だ。」

 その言葉に満足して頷くと、男の子はもう一度、そびえる桜の木を見上げた。

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