文化祭(合奏)
第三音楽室に到着した。ここではE組が合奏団をやっている。
「ミリちゃん、来たよ〜」
「エルちゃん――おぉっ!?」
声を掛けると、振り向いた彼女はぎょっとしたように目を見開いた。
「な、何!? その格好!」
「……」
どこかで聞いたようなセリフだ。
「ほら、うちのクラス、メイド&執事喫茶やってるから」
「あ……ああ、そっか……。へえ……予想以上にヒラヒラ……」
――そりゃあそうでしょうよ、ミリちゃんの家で働いてる本物のメイドさんたちに比べれば。
「やあ……岬さん」
ミリちゃんに向かい、十碧くんはふわりと微笑みかけた。
「来海くんも来てくれたんだ、ありがとう。……」
彼女は、我々二人の格好を交互に見た。
「……なんか、『表敬訪問』って感じだね」
表敬訪問!?
「えっ、どういうこと?」
「ほら、よくあるじゃない。王族が視察とか文化交流とかで市民楽団を訪問したりするやつ」
「……それ、私が『王子様のお付きのメイド』に見えるってこと?」
「というか、そうとしか見えないよ? わざと?」
「違うよ!」
これはそういうコスプレではない。
「え〜、でも二人とも似合ってるよ〜。すっごく綺麗だし! 公務じゃないならお忍び中だね!」
「お忍びだったらこんな格好しないでしょ!」
ていうかミリちゃん、今のはどういう意味だ。よく分からないが、褒めたのか?
「似合ってる……かな? そう言ってもらえると嬉しいよ……クラスの子が一生懸命用意してくれた物だから」
十碧くんは彼女の発言内容を深くは追及せず、照れた表情を浮かべてみせた。その様子に、どこかで女子が黄色い声を漏らしている。
「これは、劇の衣装なんだ。後でまた上演があってね……」
「劇? ――あっ、そっか。D組は『白雪姫』をやってるんだよね。へ〜、ほんとに『王子様』なんだ〜」
(……)
ミリちゃんを誘導して宣伝したよ、この人。
「――来海くん、劇で王子様やるんだって!」
「きゃ〜、観たい! 絶対観たい!」
「場所どこ!? 教室? ステージ?」
二人の会話を聞いていた女子がきゃあきゃあと盛り上がる。釣れたようだ。
(……)
お見事、十碧くん。
「と、ところで、ミリちゃん。次の演奏はいつ?」
「あと二十分ぐらいかな。飛び入り参加も出来るよ〜。やってみない?」
「うん!」
楽しそうだ。やってみることにした。
「来海くんはどうする? やってみない?」
と、ミリちゃんは十碧くんにも尋ねた。
「そうだね……せっかくだし、参加しようかな」
彼がふわりと微笑むと、またどこかできゃ〜と声がした。
私はゲスト用の楽器を見た。和洋いろいろと用意されている。
(んー……)
ちょっと迷ったが、どうせなら普段あまり触る機会のない物にしようと、私は三味線を手に取った。
「篠沢さん……衣装と合ってないよ?」
「い、いいじゃない、別に」
そこまでは考慮しなかった。
十碧くんのほうは、邦楽器には目もくれず、弦楽器とキーボードを見比べて――結局、バイオリンを取った。軽く構え、調子を確かめている。
(……)
異様に似合っていた。
「来海くん……特別ゲスト枠でオーケストラに参加する国賓みたいだね」
「……。それ、褒めてくれてるの?」
「ほ、褒めてるよ! 皮肉じゃないよ!」
別に他意はない。わざと大げさな言い方をして馬鹿にしてなんかいない。
「エルちゃん、こっちね〜」
周囲は何も気づかない。ミリちゃんにも、もちろん十碧くんの圧迫感は届かない。
「ゲストで三味線選んだの、エルちゃんが初めてだよ。弾けるんだ?」
譜面台の前に案内してくれながら、ミリちゃんが尋ねてきた。
「んー……多分大丈夫! やったことないけど!」
「ええっ!?」
『この子』は音楽の才能もある。ちょっと練習すれば弾けるはずだ。
「ま、まあ、楽しんでくれればいいけど……」
やや腑に落ちない顔をしつつ、ミリちゃんは自分のポジションに戻った。右手に琴爪をはめている。彼女が弾くのは琴だ。
(……)
ちなみに、ミリちゃんはいつも通りの制服姿である。
バイオリンの王子様に琴の女子高生、三味線のメイド。そして曲目がベートーベンの『第九』。バラバラだ。
(……仮装オーケストラみたい……)
いや、『仮装』してるのは私と十碧くんだけだが。
「きゃ〜っ、フェアリー・プリンスがバイオリン弾いてる〜」
「似合う〜。かっこいい〜」
「篠沢恵瑠夢が三味線弾いてる……」
「おぉ……メイドが三味線……」
「いや、可愛いよ……可愛いけどさ……」
「……」
我々は浮いていた。
(き、気にしない気にしない)
私は自分に言い聞かせた。少しは周囲の視線に慣れねば。十碧くんや由和さんを見習って。
そう思い、私は三味線を構えた。今は練習に集中することにする。来たからには楽しもう。
――そして、およそ二十分後。
不思議な合奏団による、和洋混合の『第九』が響き渡った。




