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エルム、エルム  作者: 十枝内 清波
一年生
61/341

文化祭(合奏)

 第三音楽室に到着した。ここではE組が合奏団をやっている。

「ミリちゃん、来たよ〜」

「エルちゃん――おぉっ!?」

 声を掛けると、振り向いた彼女はぎょっとしたように目を見開いた。

「な、何!? その格好!」

「……」

 どこかで聞いたようなセリフだ。

「ほら、うちのクラス、メイド&執事喫茶やってるから」

「あ……ああ、そっか……。へえ……予想以上にヒラヒラ……」

 ――そりゃあそうでしょうよ、ミリちゃんの家で働いてる本物のメイドさんたちに比べれば。

「やあ……岬さん」

 ミリちゃんに向かい、十碧くんはふわりと微笑みかけた。

「来海くんも来てくれたんだ、ありがとう。……」

 彼女は、我々二人の格好を交互に見た。

「……なんか、『表敬訪問』って感じだね」

 表敬訪問!?

「えっ、どういうこと?」

「ほら、よくあるじゃない。王族が視察とか文化交流とかで市民楽団を訪問したりするやつ」

「……それ、私が『王子様のお付きのメイド』に見えるってこと?」

「というか、そうとしか見えないよ? わざと?」

「違うよ!」

 これはそういうコスプレではない。

「え〜、でも二人とも似合ってるよ〜。すっごく綺麗だし! 公務じゃないならお忍び中だね!」

「お忍びだったらこんな格好しないでしょ!」

 ていうかミリちゃん、今のはどういう意味だ。よく分からないが、褒めたのか?

「似合ってる……かな? そう言ってもらえると嬉しいよ……クラスの子が一生懸命用意してくれた物だから」

 十碧くんは彼女の発言内容を深くは追及せず、照れた表情を浮かべてみせた。その様子に、どこかで女子が黄色い声を漏らしている。

「これは、劇の衣装なんだ。後でまた上演があってね……」

「劇? ――あっ、そっか。D組は『白雪姫』をやってるんだよね。へ〜、ほんとに『王子様』なんだ〜」

(……)

 ミリちゃんを誘導して宣伝したよ、この人。

「――来海くん、劇で王子様やるんだって!」

「きゃ〜、観たい! 絶対観たい!」

「場所どこ!? 教室? ステージ?」

 二人の会話を聞いていた女子がきゃあきゃあと盛り上がる。釣れたようだ。

(……)

 お見事、十碧くん。

「と、ところで、ミリちゃん。次の演奏はいつ?」

「あと二十分ぐらいかな。飛び入り参加も出来るよ〜。やってみない?」

「うん!」

 楽しそうだ。やってみることにした。

「来海くんはどうする? やってみない?」

 と、ミリちゃんは十碧くんにも尋ねた。

「そうだね……せっかくだし、参加しようかな」

 彼がふわりと微笑むと、またどこかできゃ〜と声がした。

 私はゲスト用の楽器を見た。和洋いろいろと用意されている。

(んー……)

 ちょっと迷ったが、どうせなら普段あまり触る機会のない物にしようと、私は三味線を手に取った。

「篠沢さん……衣装と合ってないよ?」

「い、いいじゃない、別に」

 そこまでは考慮しなかった。

 十碧くんのほうは、邦楽器には目もくれず、弦楽器とキーボードを見比べて――結局、バイオリンを取った。軽く構え、調子を確かめている。

(……)

 異様に似合っていた。

「来海くん……特別ゲスト枠でオーケストラに参加する国賓みたいだね」

「……。それ、褒めてくれてるの?」

「ほ、褒めてるよ! 皮肉じゃないよ!」

 別に他意はない。わざと大げさな言い方をして馬鹿にしてなんかいない。

「エルちゃん、こっちね〜」

 周囲は何も気づかない。ミリちゃんにも、もちろん十碧くんの圧迫感は届かない。

「ゲストで三味線選んだの、エルちゃんが初めてだよ。弾けるんだ?」

 譜面台の前に案内してくれながら、ミリちゃんが尋ねてきた。

「んー……多分大丈夫! やったことないけど!」

「ええっ!?」

 『この子』は音楽の才能もある。ちょっと練習すれば弾けるはずだ。

「ま、まあ、楽しんでくれればいいけど……」

 やや腑に落ちない顔をしつつ、ミリちゃんは自分のポジションに戻った。右手に琴爪をはめている。彼女が弾くのは琴だ。

(……)

 ちなみに、ミリちゃんはいつも通りの制服姿である。

 バイオリンの王子様に琴の女子高生、三味線のメイド。そして曲目がベートーベンの『第九』。バラバラだ。

(……仮装オーケストラみたい……)

 いや、『仮装』してるのは私と十碧くんだけだが。

「きゃ〜っ、フェアリー・プリンスがバイオリン弾いてる〜」

「似合う〜。かっこいい〜」

「篠沢恵瑠夢が三味線弾いてる……」

「おぉ……メイドが三味線……」

「いや、可愛いよ……可愛いけどさ……」

「……」

 我々は浮いていた。

(き、気にしない気にしない)

 私は自分に言い聞かせた。少しは周囲の視線に慣れねば。十碧くんや由和さんを見習って。

 そう思い、私は三味線を構えた。今は練習に集中することにする。来たからには楽しもう。

 ――そして、およそ二十分後。

 不思議な合奏団による、和洋混合の『第九』が響き渡った。



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