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エルム、エルム  作者: 十枝内 清波
一年生
43/341

大イチョウ

「瞳の色はメラニンの量で決定する。メラニンが多ければ黒、少なければ緑、更に少なければ青、完全に欠乏すれば赤……血液の色だな」

「じゃ、吸血鬼の瞳が赤いのは理に適ってるんだ?」

「……。それもそうだな」

 昼休み。高等部の中庭で門叶くんに遭遇した。本日の交信相手は医学読物らしい。

「メラニン色素は、紫外線によるダメージから目を守る。そのため、メラニン量の少ない瞳のほうが眩しく感じるそうだ」

「じゃ、吸血鬼が太陽を見て『眩しいぃっ!』って叫ぶのは理に適ってるんだ?」

「……。普通の人間も、太陽を直視すれば眩しがると思うが」

 それもそうか。

(……何でこんな話をしてるんだろう……)

 自分でもよく分からないが、軽く挨拶を交わして、気がついたら現状に至っていた。

「君は吸血鬼が好きなのか?」

「いや、そういうわけじゃないけど」

「古い民話などではよく屍喰鬼と混同されているな。例えば……」

「いやいや、詳しく語らなくていいから!」

 怖い話になりそうだ。

(――ん?)

 その時、私は視界の隅に知り合いを見つけた。

 ミリちゃんだ。

 次は移動なのだろうか。教材らしきものを小脇に抱えている。

 と――ふいに、彼女は立ち止まった。

(?)

 よく見れば、ミリちゃんの顔の横辺りに一本のヒモが垂れ下がっている。一見、蔓のような植物の一種に見えなくもないが――。

 目で辿ってみると、出どころは二階の窓らしかった。

(……)

 怪しい。

「?」

 が、ミリちゃんはその出どころも確かめず、いきなりヒモへ手を伸ばした。

(!)

「ミリちゃん、待って! 罠だよ!」

「え?」

 咄嗟に叫んだが――遅かった。ミリちゃんの手は、クイッとヒモを引いていた。

 バババババッ!!

 途端、ヒモの出どころの窓から、何やら黄色い物体が噴き出した。

「ぎゃあぁあああっ!?」

 条件反射のようにパッとホールドアップし、ミリちゃんは教材を落っことした。

(――蝶!?)

 噴き出した大量の何かは、黄色い蝶の集合体らしかった。その塊はぶわっと窓から飛び出すと、狙ったようにミリちゃんの頭上へ降り注ぐ。

「ひょえぇえええっ!?」

 ミリちゃんはパニックみたいに両腕をぶんぶん振り回し、黄色い蝶の雨を掻き乱した。

(――ん!?)

 ふいに――蝶が、割れた。

(へっ!?)

 窓から飛び出した瞬間、それは確かに『蝶』の形をしていたが――落下の途中、どの蝶もパッと四つに分かれ、ヒラリと舞った。

(――イチョウ!?)

 地面に落ちてみると、それは大量の、イチョウの葉の形に切られた黄色い紙だった。

 ――バサッ!

 最後に一枚、特大サイズの『イチョウ』が舞って、黄色い雨は止んだ。

「……」

 ミリちゃんは呆然と足元を見下ろした。

 おしまいに降ってきた『大イチョウ』にはお相撲さんの切り絵が付いていて、イタズラっ子のように笑っている。

「――あっははははは!」

 陽気な爆笑が響いた。

 二階の窓から、黒茶色の髪の少年がひょいと身を乗り出す。

「エルちゃん、見てた〜?」

「……リューくん……」

 彼は、呑気にこちらへ手を振ってくれた。

「……」

 ミリちゃんは降り積もった『イチョウ』を払いのけ、先ほど落っことした教材を拾い上げた。

 直後――彼女はクワッと豹変した。

「リュウゥゥゥッ!!」

「エルちゃん、またね〜」

 ドドドドド!!

 二階へ続く階段を求め、ミリちゃんは来た道を逆走していった。

 リューくんも窓からひょいと引っ込んだ。

「……」

「……」

 あっという間の出来事だった。

 後には私と門叶くんと、降り積もった『イチョウ』の山が残された。一見、本物の落ち葉のようだ。

(そういえば、この前……『今度、チョウチョの作品を見せてあげるね〜』って言ってたなぁ……)

 約束を守ってくれて嬉しいよ、リューくん……。

(――ん? でも今、ミリちゃんが通りかからなかったらどうしてたんだろう?)

 ……いや、リューくんはミリちゃんのスケジュールを把握してるから、彼女の通過時刻の見当はついたはずだ。しかし、私に今の作品を見せるつもりだったのなら、ここに私とミリちゃんが揃うタイミングを狙わねばなるまい。不発覚悟で待ち伏せでもしていたのだろうか。

 ――あるいは。

(直接、私に仕掛けるつもりだった?)

 ……あり得る。

 とりあえず、校内で怪しいヒモを見かけたら、むやみに引っ張らないようにしよう……。

 今後の注意事項を胸に刻み、ふと横を見ると、門叶くんが『イチョウ』の山を凝視していた。そのまま、彼は口を開く。

「――ギンナンは好きか? 篠沢さん」

「ええっ!?」

 他に言うことはないのか!?

 しかも、質問しておきながら答えを待たず、彼は続けた。

「屍喰鬼といえば、こんな民話を読んだことがある。呪われた姫君が毎夜、屈強な兵士を一人ずつ……」

「詳しく語らなくていいってば!」

 そこへ戻るのか!? せめてメラニンへ戻ってくれないか、門叶くん!

(……何でこんな話をしてるんだろう……)

 自分でもよく分からないが、気がついたら現状に至っていた。



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