休み明け
「九月ってつまらないね……」
「えっ、そう?」
「だって、人気投票の記事が出ないだろう? 八月は集計されないからね」
「……」
君はそれだけを楽しみに生きているのか?
昼休み。私は学園敷地内の雑木林で、来海くんと一緒にお弁当を食べていた。
(……何でこうなったんだろう……)
自分でも分からないが、偶然遭遇して、気がついたら現状に至っていた。
「七月分は発表されないの?」
「それは九月分との合計で出るんだ。七月は集計期間が短いから」
「あ、そうか」
期末試験に終業式。七月の登校日数は多くない。
(……)
来海くんは今日も麗しかった。
ふわふわの淡茶色の髪が、木洩れ陽を浴びてキラッと光る。目が合えば、儚げにふっと微笑んでくる。
「……。あの、気色悪いんだけど。何でフェアリーモードなの?」
「気色悪いたぁ何だぁぁっ!」
――どしっ!
九月初のチョップを喰らった。
「お前、俺を誰だと思ってやがる! 学園一の美少年、フェアリー・プリンスだぞ! その俺様に向かって何たる暴言を!」
「ああぁ、痛い! 久々だから余計に痛い!」
私は頭をさすった。
「うぅ……まさかとは思ったけど、やっぱり本性が治ったわけじゃなかった……」
「俺は病気じゃねえぇっ!」
――どしっ!
九月二回目のチョップを喰らった。
「お前、俺を何だと思ってやがる! 学園一の好感度、誰にでも愛されるフェアリーだぞ! その俺様の外面の良さに文句をつける気か!」
「文句はありません! 来海くんの人当たりの良さは尊敬してますぅぅっ!」
これは本心だ。普段の完璧なフェアリーっぷりは尊敬に価する。
ファンをきちんと騙してあげるのも、スターの優しさだという。私はファンではないので、その優しさを適用されないらしい。
「ちっ……人がせっかく練習してたってのに」
「れ、練習?」
私は面喰らった。
「長い休みの後は、同じ時間帯でも太陽の角度とか変わってるからな。休み前との誤差を把握しておかないと、うまく発光できない」
「ええ――っ!?」
そこまでするか!?
「す、凄いね。UFOに太陽エネルギーを集めてる宇宙人みたい」
「何だ、その例えはぁぁっ!」
――どしっ!
エイリアン・チョップを喰らった。
「宇宙人たぁどういうことだ! 俺はフェアリーだ! 異論は認めねえぇっ!」
「異論はありません! 来海くんは陽光を身にまとう妖精のようですぅぅっ!」
私は訂正した。
(うぅ……同じ強さで叩かれてるのに、痛くなくなってきた……)
慣れてしまったのか、私?
どうやら自分も、休み前との誤差――というか、休み前の感覚――を把握しつつあるようだ。
「ふん。分かればいいんだ、分かれば」
今度の例えは気に入ったのか、来海くんはやや機嫌を直した。
(……結構、単純……)
たとえ私の言葉でも、称賛されれば嬉しいのだろうか。
来海くんはいつものサラダもどきをつつきつつ、再び儚げモードに切り替えた。食事中だし、キラキラも控えめなので、さすがに今は鏡を使っていないと思われる。
ということは、これは姿勢と角度だけで光っているわけか。何というか、達人芸だ。
「……でも、来海くん。初めて行く場所ではどうしてるの? 太陽はまだしも、屋内だと照明とか、それぞれ違うでしょ」
「そうだね。なるべく下見するようにはしてるんだけど……」
下見!?
「でも、照明のパターンなんてある程度決まってるから。よほど奇抜な場所じゃない限り、即興でも何とかなるよ」
「……舞台俳優みたいだね」
プロの役者は、劇場やステージごとにスポットライトのクセや角度を把握し、魅せ方を変えるという。その点、来海くんはプロのフェアリーだ。
……自分で言っておいて何だが、『プロのフェアリー』っていったい……。
「――ああ、そうだ。博物館に行っておかないと」
ふいに、彼は小首を傾げた。澄んだ瞳が、太陽光をまともに反射してキラッと光る。
「わっ!?」
ちょうど来海くんの顔を見ていた私は、その光に直撃された。
「ちょっと、急に光線発射しないでくれる? 目が焼かれたよ、今」
「光線じゃねえぇっ!」
本性モードに切り替わった。
にも関わらず、ふわふわの淡茶色の髪が、澄んだ瞳が、キラキラキラッと激しく不自然に輝いた。
「これのどこが光線だぁっ!」
「いやあぁ、眩しい! あっ分かった、今は鏡を使ってるでしょ!? でもどうやってるのか分からないぃっ!」
一流の手品師は、タネがあること自体は隠さない。タネはあると明かした上で、それでも観客に具体的な仕掛けを見抜かせないという。その点、来海くんは一流のフェアリーだ。
……自分で言っておいて何だが、『一流のフェアリー』っていったい……。
「ふん。お前に見抜かれるようじゃおしまいだ」
私の反応に自尊心をくすぐられたのか、来海くんはキラキラ光線を止めてくれた。
「それはともかく、博物館……今、何やってたっけ? 篠沢さん、覚えてる?」
「えっ!? えーと、確かボトルシップ展……」
「ああ、それなら前にもやってたな。照明も同じ感じかな……でも、一応……」
自称フェアリーは何やら思案を始めた。
(……)
この人も、陰で努力しているらしい。
プロの一流スター並みに。




