表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルム、エルム  作者: 十枝内 清波
一年生
28/341

招待状

 青い空。輝く波。揺れるクルーザー。

 陸地は見えない。

「……まさか、本当に全部行くとは思わなかったよ……」

 私は呆れて呟いた。

「火星とラスベガス、太平洋の沈没船……」

「新鮮な体験だろ。――おっ、これ、上物だぞ」

 傍らにはクマがいる。奴は、海底で漁ってきた銀製品を楽しそうに仕分けしていた。

 柔らかな髪、優しげな瞳。人間バージョンだが、通常の偽装モードではない。『この子』の兄、『篠沢朔真』の姿だ。

「……悪魔って、銀は苦手じゃなかったっけ?」

「ん? そんなことないぞ。何でそう思ったんだ」

「映画で観たことあるよ。銀の弾丸を撃ち込まれると……」

「あー、アレか。狼男」

「……」

 なぜ知っているんだ。人間の映画を観ているのか、こいつは?

「ま、お前らの空想は的外れなことが多いってわけさ。――ほら、エルム。いいカトラリーだぞ」

 奴は平然と銀食器に触れている。凝った模様のナイフが気に入ったようだ。

 お前らの――『お前ら人間の』。

 クマは自分と人間の区別はするが、人間を嫌っているわけではない。映画などではよく『人間ごときゴミどもが』みたいな態度の悪魔が出てくるが――それも、的外れな空想の一つなのだろうか。

「お前はこっちのほうがいいだろ。今、綺麗にしてやるからな」

 と、クマは銀のティーセットを示した。それは、かなり汚れたり黒ずんだりしていたが、奴がサッと手を振ると一変した。カップもポットも、まるで新品のようにピカピカ光り出す。

「うわ。高そう」

「高いぞ、実際。大事にするなりあえて粗末に扱うなり、好きにしな」

「……」

 いい性格をしている。


 日本に戻ったのは八月下旬だった。

 結構長く留守にしていたが、クマの力か『この子』の家事能力か、部屋には埃ひとつ積もってはいなかった。

(宿題はもう終わってるし、あとは九月を待つだけ……)

 私は食料の買い出しに出掛けた。そして帰宅時、何気なく郵便受けをチェックした。

「……ん?」

 何か入っている。白い封筒だ。

 取り出してみると、表には切手も宛て先の記入もなかった。郵便局経由ではなく、直接投函されたもののようだ。

(……)

 怪しい。

(な、何? 脅迫状? 不幸の手紙?)

 びくびくしながら封筒を裏返すと、そこには『遠藤』と書いてあった。

「……」

 怪文書に署名する人は珍しい。

(『遠藤』って……遠藤さん?)

 私はとりあえず部屋に帰り、食料をしまうと、リビングで封筒を開けた。 中には別の封筒がもう一つ、そして便箋が一枚入っていた。


『篠沢恵瑠夢様。

 来週日曜、十碧様のバースデーパーティーが催されます。ご都合がよろしければ、是非お越し下さいませ。

                   遠藤』


「……」

 もう一つの封筒の中身は、正式な招待状だった。それに目を通し、私は驚愕した。

(トゥール・リュミエールでパーティー!? 正装!?)

 トゥール・リュミエール。いつぞや由和さんが限定ランチバスケットを予約した、有名な一流ホテルだ。

 そこの大広間でパーティー……来海くんっていったい……。

(ていうか、遠藤さん……多分これ、来海くんには無断だよね?)

 あの自称フェアリーが、自分の誕生日にわざわざ私を招待するとは考えにくい。彼に友達が出来ないのを心配する遠藤さんが、黙って気を利かせたのだろう。

 もっとも、来海くんの場合は友達が出来ないのではなく、作らないだけだとは思うが。ボロが出るから。

(……ん?)

 ちょっと待て、遠藤さん。私は来海くんの『友達』か? 私と彼の間にはチョップと人気投票しかないぞ?

(いや、でも……ファンの皆さんとの間には、チョップすらないからなあ)

 それを思えば、まだマシというか、遠慮のない関係ではある。

(うーん……)

 私は迷った。

(トゥール・リュミエールか……由和さんのバスケット、美味しかったなあ……)

 ……。

 私は参加してみようかという気になった。

 遠藤さんの親心(?)を無駄にしてはいけない――決して、一流ホテルの絶品料理につられたわけではない。

 となると。

(正装って……ドレス?)

 学生の正装は制服だが、そんな格好でのこのこ出掛けたら確実に浮いてしまう。

「――クマ、クマ。ちょっと来て」

 ドレスなんて持っていない。

 私は、私の『保護者』に頼ることにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ