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災禍ノ獣  作者: ef-horizon
【災禍】ノ呼ビ声
6/20

記憶ノ欠片が告げる【世界】




 ―――――呪いは身体を蝕む。


「ぐぅううううう……!」


 三日後。


 退院してから、朝一番に訪れるのは、妹の声でも朝の陽ざしでもなく、腕の鋭い痛みだった。


 腹の底を抉られるような痛み。


 鋭い吐き気。


 歩くたびに胃腸が鷲掴みにされているかのような感覚を覚える。


 加えて頭の中は、いつも意識が明滅していた。


 ぱちぱちと眼の前が光で弾けた。


 その度に意識の底で、記憶の断片が浮き上がって、瞼の奥を横切って言った。


 その度に、胸が締めつけられた。


 ユキ。


 俺の大切な幼馴染――――


「お、お兄ちゃん……」


「……」


「やっぱり病院戻る?」


「――――家は留守にできない」


 病院には戻れなかった。


 問いただす必要があった。


 彼女――――紫苑院夕紀に。


 彼女はなぜ俺を殺そうとしたのか。


 なぜ、俺の前で泣いたのか。


 なぜ、俺に助けを求めたのか。


 そして、君は―――――


「……父さんたちはいつごろ帰ってくるんだ?」


「うーん……わかんない。今日も帰ってこないと思う」


「……」


 ――――違和感。


「昨日、帰ってきたか?」


「ううん。電話があって、今日は会社に泊るって」


「その前は?」


「その前も」


「その前は?」


「その前も」


「ずっと前から?」


「うん」



 ――――お前は、父の顔を知らない。



「母さんは?」


「同じ会社に勤めてるよ?」


「ずっと?」


「うん」



 ――――お前は、母の顔を知らない。



 なら彼らは、誰だ。


 ここは、どこだ。


 本当に、【俺】の家なのか?


 それとも―――――


「……行くよ」




 ――――それとも、まだこの世界が真実に満ちていると、考えているのか?




 右目は何も見せない。


 ただぼやけた視界を映すだけ。


「あ、お兄ちゃん、お弁当忘れてる!」


「――――お前が作ったのか?」


「ううん、お母さんが作ったんだと思う。朝起きたらもうお弁当リビング置いてあったから」


「朝ごはんも?」


「うん」


「そうかよ……」


 記憶の断片が戻り始めている。


 それと時を同じくして、記憶と現実とがずれていくかのように、世界にひずみが走り始める。


 この世界は本物か?


 俺の記憶は本物か?


 ここはどこだ?


 俺は―――――





 ――――ユウ君……一緒に帰ろうッ。






「ユキ……」


 確からしいものはなかった。


 それでも信じたいものはあった。


 その真実を手に入れるために、俺は学校にもう一度足を運ぶ。


 彼女に会うために―――――



 













 真実はこの世界にはない。


 旧き【神】がこの宇宙を滅ぼそうとした瞬間、それは消えさった。


 そして旧き【神】は深淵と共に潰えた。


 残ったものは森羅。


 そして、人。


 この世界には、なにもない。


 なればこそ、人は足掻く。


 さぁ、我が主よ。


 やがて【原初の災禍】は、世界を暴き始める。


 お前の魂と共に、世界をむき出しにする。


 お前は宇宙と向き合えるか?


 魂は強く拍動を始めている。


 そして、その【慧眼】が世界の終わりを告げるだろう。


 さぁ、構えよ。


 お前の【敵】は、近い。






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