9 祖母の助言
楽しんで頂けたら幸いです。
夕暮れ時、自宅に戻ってきた俺の目の前に飛び込んできたのは、マツリと迦楼羅の二人だった。
俺は首を傾げた。
確か俺はカルラにマツリのことを頼んだはずだ。
、単純にマツリを守ってくれと言う意味だったのが――二人は俺の家(正確には居候として住んでいる家)に入り浸っている。そもそも、ばあちゃんも陰陽師であるからして、迦楼羅に関しては倒されかねないのにも拘らず畳の上に座り込んでいる。
これは如何様なことか、と思ってしまう。
と、思うのが普通だ。
しかし、ばあちゃんは俺の一族の中では最も俺に近い(正確には俺が近い)特性の持ち主だ。
ばあちゃんは妖怪のすべてを悪とは決めつけていない。迦楼羅のように人間と協力的な妖怪がいることを知るばあちゃんは、よっぽどのことがない限り妖怪を始末しようとはしない。
変人、と一族から笑われながらも俺はばあちゃんのそう言った行動を幼き頃から見て育ったため、不可思議とは思わなかった。むしろ、俺に強い影響を与え今の自分の信念、考えを持つようになった。
だから、例え一族が変人とばあちゃんを謳おうが、俺は誇りと尊敬の意を示す。
空を茜色に染め上げる夕日も完全に沈みかけてきたので、俺は仕方がなく家に入る。
「ばあちゃん、ただいま」
靴を脱ぎ、マツリの隣に座ると迦楼羅が話し掛けてきた。
「どうしたんだい、仏頂面で?」
俺は深く溜め息づきながら、
「言わんでもいいだろう?」
「そうかね? 人間言われて初めてわかることもあるはずだが?」
「お前は妖怪だろ」
下らない腹の探り合いに飽き飽きした俺は、頬杖をしながら、
「どうしてマツリがここに居て、どうしてお前もここに居る?」
「守る相手と手を組む相手が、同じ場所にいた方が好都合じゃないかい」
「まあ、確かに……」
言い淀むが、筋の通った言葉に納得させられる。
迦楼羅の言うとおり、同じ場所にいた方が良い。が、こいつは言葉の意味を分かっているだろうか。
「俺は任せるとは言ったけど、家に連れてこいとは一言も言ってないぞ」
「連れてこなくても良いぞとも言っていない」
揚げ足を取るのが上手いな、と思いつつ反論。もちろんこの時点で、反論をしたところで俺に論争で勝利することはできないと悟っていた。
が、何の語りもなしにただ負けを認めるのは、俺の性に合わない。
「ああ言えばこう言う、ガキか迦楼羅」
「認めたくはないけど、お前さんよりも年上だよ」
まあ、そりゃ認めたくないだろうな。
そこで、険悪なムードで会話に入りずらそうに俺たちを見ていたマツリが割って入ってくる。
「活字、そんな話よりもマミーちゃんの所に行って何か分かった?」
「少しだけ進展はあった」
俺はマミーちゃんと話し合ったことを思い出しながら話し始める。
「奴らがどうして妖怪を本気で襲わないかの理由がわかった」
「本当? どんな理由なの?」
俺は咳払いして、マミーちゃんの推測を語る。
「あいつらは自分たちの部下にしようとしてんのさ。あいつらが蘇らせようとしてる妖怪で、力の大きさを見せひれ伏させる。今も昔も変わらない、力の強大な奴に頭を下げさせようしてるのさ」
「キツネみたいだね、そのやり方」
マツリの言葉に眉を顰めた。
言っている言葉の意味がよく分からなかったからだ。
「どういうことだ?」
「ことわざであるよね。強いものに取り入って、自分を強く見せようとすることなんだけど。街で暴れてる妖怪たちは、まるでそれみたいじゃない?」
そう言われればそうだ。
自分の力でもないのに、自分の力に見せようとすること。
張りぼてを本物に見せようとしているかのようだ。
「マツリ、例えが上手いじゃないかい!」
迦楼羅は面白げに笑いながら、マツリの例えを褒めた。
まあ、実際俺も上手いとは思った。ただ、そのことを素直に認めてしまうのは、少々癪に障る。そこまで器の小さい人間ではないのだが。
「まあ、まあそう言うこった。まだ、謎はてんてこ舞いだけどな」
そうだ、まだ謎は残っている。
的確な先手を打つためには、もっと詳しく情報の一つ一つを分析するべきだ。
と、その時だ。
ちょうど、ばあちゃんが夕食を持ってきた。驚いたことに、妖怪であるカルラの分まで儒びされている。
いくら迦楼羅が妖怪と言っても、俺たちと同じようにお腹は減る。妖怪のことを知りつくしているばあちゃんは、だから迦楼羅のぶんも持ってきたのだ。
「さてと、夕飯にするかい」
各々皿を手に取り、おかずを取り始めた。ばあちゃんは基本的に、夕飯はなんピン化料理を作って、それを好きな様に取らせるスタンスを取っている。
誰でも気兼ねなく食べれるようにと、の事だ。
「ばあちゃん、どう思う?」
俺はばあちゃんに今日あったことと、分かったことをこと細かく話した。これ以上、自分たちだけで考えることに限界が来ていたからだ。それに、亀の甲よりも年の功とも言う。
「そうだねぇ……活字が一番知りたがってることはなんだい?」
「そりゃ、俺たちを襲う理由だよ」
そうである。
結局の所そこがわからなければ、手の打ちようがない。
「その謎を解こうと思ったら、奴らがしていることよりも私たちがどういった行動をとっているかを考えた方が良いと思うね。ほら、噂を広めればどうなるとか」
「うわさを広めたらどうなる……? そういえば、全然考えてなかったね、活字」
俺は首肯で返事をしてみせる。
マツリの言うように、俺はその点を考えてなかった気がする。いや、そう言ったことはもっと最初から考えるべきだった。
噂が広まるとどうなるか――そういえば拝借していた資料にそんなことが描かれていたような気がする。
俺は食事を一旦止め、倉庫の中に駆け込んだ。埃が層のように積み重なり、叩き落とせば宙に漂うことも気にせず俺は一心不乱に探す。
「あった!」
俺は資料を持って、家の中に戻る。
「ちょっ、埃被ってるよ」
マツリの言葉も気にせず俺は、資料をめくり全員に見せた。
「これだよ、コレ!」
「白! おい、白!」
俺は叫んでいた。
あの日、どうすることもできなかった状況の中で。
目の前には、雪のように白い毛並の猫――白は妖怪だ。
俺は白を救おうと考えを巡らす。
だけど、一つしか思いつかなかった。
「だめじゃ。お主がいつ元に戻るか分からん」
そう言う白だったが、俺は必死に説得した。
「分かった。なら、お前の考えに乗ってやる。ただし――」
白はこう言った。
「無茶はするな。自分を犠牲にするな」
そう言った。
俺の瞳を真っ直ぐと見つめて。
果たして今の俺はこのことを守れているだろうか。
俺は――自分の答えを言おうとした瞬間目が覚めた。
いつものように、マツリの拳によって。
翌日の朝。
俺とマツリ、迦楼羅の三人は朝早く家を出た。
「うぅ……眠い」
昨晩。あることがわかった俺は、それのことについてもっと調べるため蔵にこもったのだった。
さすがに二日続けての徹夜はきつかったが、眠気との代償にこれまでの謎がわかったのでイーブンと言ったところだろう。
瞼をこすりながら、俺は春の野風が吹く歩道を歩く。まだ冬の季節の名残が残る風だが、それでも春のにおいを乗せて吹く風は気持ちがよかった。
こういう日は昼寝をするのが一番なんだけど、そう言うわけにもいかない。小麦先生たちに会って調べたことを伝えなければならない。
「それにしても、迦楼羅には見習わせられるよ。陰陽師の家に上がり子だけでも十分すごいことなのに、夕飯までいただくんだもんな」
「そんなに感動することでもないよ。昔、似たようなことをやったことがあるしね」
こいつの昔というのは、数年単位ではない。おそらく何百年も前の話だ。
「でもさ、妖怪と普通に会話してる私たちも十分異常だけどね」
俺はマツリの顔を見て「それをいうなよ」と呟く。
マツリの言うように、俺たちは一般人ではあっても普通ではない。ただ、マツリの言葉を一つ言い返させてもらえば、異常ではなく異質だと言いたい。
異常な能力を持っているのでなく、異質な器――言い換えれば考えを持っているのだと思う。
元々、俺は陰陽師と言う特殊な立場で行動していたため、それほど違和感など抱かない。マツリや小麦先生、一も由紀たちはそういった異質さを持ったのは、少なからず俺の影響だろう。慣れと言う、土台を俺が作り出したための結果だ。
「でもさ、これが普通なんだよね」
マツリは不意にそう呟いた。
「どんなに人がおかしく見ていても、私たちからしたらごく当たり前のこと過ぎて普通にしか見えないんだよね」
「その考えは私に当てはまるねぇ」
「いわれりゃ、お前もどうかしてるな」
迦楼羅もまた妖怪サイドから見ればおかしな存在だ。人間――ましてや陰陽師と平然と会話をしているのだ。
それをいうとマミーちゃんもそうだろう。いや、それだけではない。この街の妖怪全てだろう。
俺はこの街の妖怪たちとは仲がいい。
「おかしいか……でもさ、こういう風に仲良く話せるようにしたいんだ、俺は」
「活字……」
顔をほころばせながら俺の顔を見るマツリ。
対して、迦楼羅というと、
「あっははは! 面白い子だねぇ! あんた、自分の立場を分かってるのかい?」
「立場ねぇ……」
こいつの言う立場とは、陰陽師の件だろう。
確かに俺の一族――陰陽師は、迦楼羅たちをために動いている。妖怪たちを悪と決めつけ、自分たちを善とする。
社会的に言えばあまりいいとは言えない。
だが、陰陽師たちとってこの考え方が普通だ。
俺は別の精神を抱いているが、彼らは日常のように受け入れている。それゆえに、ばあちゃんと俺は仲間の間では、可笑しいな連中として見られている。
彼らにとって妖怪は悪だとしても、ばあちゃんと俺にとっては大事な友達だ。時には助け合い、時には助けられ、持ちづ持たれずの存在――友達として暮らしている。
全ての陰陽師に理解されないかもしれない。だとしても、一人ずつ理解してくれればいい。
そう言う風に広めて行ける自信はある。
それは――こういう風に俺の周りにはこいつらがいてくれるからだ。
「大丈夫、出来るよ」
マツリの声に励まされ、俺は学校にへと進める歩みを速めた。
家を早く出た所為かまだ教室には誰も来ていなかった。
扉を開け、荷物を棚の上に置くと壁に背を預けて一息入れる――のだが、先程から奇妙な違和感を感じた。
「静かだね」
マツリの言葉で俺の違和感の正体を知った。いつもはうるさい教室がこうも静かなのだ、感覚が違ってもおかしくない。
あれだけ騒がしい教室も、人がいなければこんなにも静かなんだなと思ってしまう。
「まあ、人が一人いるかいないかで変わるけどな」
「……?」
俺は視線を前側の入口へと向けた。
見知ったシルエットがそこにはあった。
「いやっほーい、みんな! おはようなんだよ!」
今教室は八十デシベルぐらいうるさくなったと思う。
俺とマツリと迦楼羅(話の為に学校の中に来て貰っている)の三人は、同時に着かれたようにため息を吐いた。
そんな俺たちの様子にも構わず、笑い続ける小麦先生。
まったくあさっぱから騒がしい人だ。
まあ、それがこの人の良いところなのだが。
「小麦先生……朝から元気ですね」
「私の取柄はそれだけだからね」
んんっ⁉
まさか、この人俺の心の中を読んだんじゃないだろうな。疑惑の目を向けるも、小麦先生は笑うだけで本音が見えてこない。
今分かったことだけど、この人色々なことを話す割に表情の奥、心の内が全く読めない。よくよく考えたら、この人心理戦が強いんだよな。
一昨日の喫茶店でのこともそうだ。最終的にはこの人の言葉で高級ヒレ肉を食べてしまったのだ。
ということは、小麦先生に似てきているマツリもこんな感じになるのだろうか。
「それはそれで、恐ろしいな」
「どうしたの?」
俺の呟きを聞いたマツリは首を傾げながら尋ねてきた。
「ははは、何でもねぇよ」
俺は適当に誤魔化した。
話すと面倒なことになるのは目に見えている。
鉄拳が飛んでくるに違いない。
「本当に何でもない? なんか、顔が青ざめているけど?」
「ああ、大丈夫だ!」
まだ尋ねてきそうだったが、ちょうどいいタイミングで教室の戸が開いた。
「わりぃ、遅れた!」
「すいません、皆さん!」
そう言って教室には行って来たのは、一と由紀の二人だった。
昨日の晩悪いと思ったのだが、朝早くに学校に来て貰うように頼んだのだ。全員に話すべきことがあるためである。
「大丈夫! 俺たちもさっき来たところだから!」
「そう、言われるとさらに申し訳ない」
「そ、そうですね……」
どうやら二人は、俺の言葉を違う意味で受け取ったようだ。
俺は本当に気にしていない。
が、ここでさっきの言葉を言ったら、日本人は普通二人と同じ意味合いで受け取る。
日本語って難しいな、と思いながら苦く笑う。マツリは俺の表情から考えていることを読み取り同じように苦く笑った。
俺とマツリの様子の可笑しさに気が付いた、一と由紀は訳も分からず首を傾げてる。
「どうした? まだ怒ってるのか?」
「いいや、違う!」
深刻そうに尋ねる一に、俺は首を横に振った。
何のことか分からず首を傾げ続ける二人を見て、迦楼羅が可笑しそうにに笑った。
「な、なんだよ! マジで気になるんだが!」
「そ、そうですよ! なんか置いてけぼり食らったみたいでいやです!」
「まあ、一言で言えば日本語って難しいなってことだ」
それでも理由が分からず首を傾げる。まあ、さっきのことは忘れたみたいなので、俺は話を本題にへと移すことにした。
「さーて、昨日分かったことを話すぜ」
「――つまり、僕にしようとしてるから本気で妖怪を襲わないわけかな?」
説明の前段階として話したことを、確認するように小麦先生が尋ねてきた。
俺は首肯で肯定する。
「僕にすることはいいけどさ、僕にして何がしたいんだ?」
「さあな、考えられるとすれば力を持ったグループを作りたいとかじゃないのか」
「そんなに簡単なことなんですかね?」
由紀の疑問に俺はすぐに答えることが出来なかった。
俺自身いまいちそう言うことは分からないので、先程の一と由紀のリアクションと同じように首を傾げた。
そんな俺に代わって答えてくれたのは、妖怪である迦楼羅である。
「まあ、由紀の意見もそうだけど活字の意見も間違っちゃいないね。妖怪ってのは気まぐれだからね」
「だな、お前も何考えてるのか分からないもんな……」
「悪かったねぇ」
睨みつけられ俺はたじろいだ。
そんなに機嫌を損なうことを言ったか?
「さて、話の続きをしようかねぇ」
そう言って、迦楼羅は話を続けだした。
「本来妖怪ってのは悪意の塊だ。そんな奴らがすることと言えば、マンガじゃないけど世界征服とかだろうねぇ。でも、さっきも言ったけど妖怪ってのは基本的に気まぐれ、予測もできないことをするかもしれない」
「迦楼羅姉さんは、どう思ってるんですか?」
由紀の『どう思ってる』というのは、迦楼羅が今回の妖怪は前者か後者かと言うことだろう。答えるのに少し考えてから、迦楼羅は真剣な表情で答えた。
「そうだねぇ……由紀と一たちが調べた――」
「私も調べたよ!」
いつも以上に頬を膨らませる姿を見て、俺たちは笑った。
「小麦ちゃん……後で由紀から聞いたんだけど、ずっとコンビニから買ってきてたものを食べてたらしいよね」
「あと、小麦先生? 今、シリアスパートなんだけど……?」
「知るかっ、そんなもん!」
――まったく、仕方がない人だ。
強かな態度に気圧され俺は渋々、迦楼羅の顔を見た。俺の意図――というか思い――を理解した迦楼羅は頷いた。
「ごほん、まあ、雪と一と小麦の三人が調べた中に『私は蘇る。お前たちは蘇った時の餌だ』って言ってたじゃないか。そのことから考えるに――」
迦楼羅はいったんそこで言葉を切って一拍置いた。
「間違いなく、後者だろうね。世界っていう規模じゃないだろうけど、ここら一帯を牛耳るとかだね」
「……、」
半ば予想できていただけに、そこまで驚くことはなかった。
ただ、深刻になっている現状に黙り込んだのだ。それは、あのいつもせわしく笑っている小麦先生もだ。
このまま黙っていても話が進まないので、俺は口を開いた。
「でだ、そこで疑問っていうか謎が出てくるよな」
「謎ってなんだ?」
一の問いに俺は、単刀直入すぎたか、と思い俺は説明をし始める。
「まあ、とりあえず奴らの目的は簡単に言うと、迦楼羅が言うようにここら一帯を支配することだ」
「ふむふむ」
理解したように納得する一。
他のみんなも話について来てこれているようで、安心して俺は話を続ける。
「じゃあ、奴らはどうして人を襲う? 別に支配したいのなら、中途半端に襲うんじゃなくて大物を一体でも支配下に置けばそれで済むはずだ」
「……なにか、そこに別の意味があるってことか」
俺は頷いた。
俺が皆に言いたかったのはこのことである。
「それで、だ。そのことに疑問を持った俺は、今日も待った徹夜で調べたんだ」
「オオーッ! 活字くん珍しく働いてるね!」
「珍しくだと!」
俺は眉根をきつく近づけ怒鳴る。
だいだいだなぁ! いつもいつも、事件に巻き込まれているのはあんたのせいなんだ!
その度に俺は働かされているのだ。珍しくじゃない。断じてだ。
「アンタのせいでいつも徹夜してんだよ、コンチクショウ!」
「まあまあ、落ち着きなよ。カルシウム取った方が良いよ」
「なに話を逸らしてんだ!」
と徹夜のせいで純血した眼で怒鳴るが俺を相手にしようとしない。
今にも殴り掛かりそうな俺に、ポンとマツリが肩を叩いて囁いた。
「……無駄だって。自分の事にはうるさいけど、周りの人の話は聞かない人だってわかってるでしょ」
マツリの言葉に頷づきざる負えない。
小麦先生は極端だ。
自分の言い分は聞かせようとするくせに、周りの人の話を聞き入れようとはしない。だからこそ、今回のこの事件を無理やり頼まれたのだ。
仕方がない。マツリの言葉で落ち着きを取り戻した俺は、ため息を一つ吐いて今のことをチャラにした。
本当ならばもっと言いたいことがあったのだが、それはまた別の機会にしておく。
「えーっと……話を元に戻すとだな。どうして奴らは回りくどい真似をすかってことだ。ここまで理解したか?」
「うん、わかったよ、活字」
マツリ以外の全員が頷いたところで俺は、本題へと入る。
「昨日分かったってことって言うのは、その理由なんだよ。実はな――奴らは、噂で力を強めてるんだ」
「噂で力を強める? どういうことだい?」
迦楼羅の問いに俺は、口元をにやりさせる。迦楼羅がこういったことを尋ねてくることは少ないからだ。
「皆も小説とかで聞いたことがあるかもしれないけど、言葉には力があることを知ってるよな」
俺の話に一番最初に答えたのは、やはり――というべきか、こういったことがゲームの要素として入っているものを良くやる小麦先生だ。
「知ってるよ! 確か言霊でしょ!」
俺は頷いて言葉続ける。
「で、その言霊は言葉に宿る力だってさっき言ったよな。奴らはその言霊を己の力に加えることが出来る」
「ど、どうしてそんなことが出来るんですか?」
「どうしてそんなことができるか――それは奴らが、噂や伝承で生まれた存在だからだな」
『――ッ⁉』
俺を囲む全員が驚いた。
まあ、無理もないか。
噂で妖怪が生まれるなど想像もできないからな。
陰陽師である俺でさえ、今までこういうタイプの妖怪にあったことがないのだ。
「じゃ、じゃあこの噂は誰かが作ったってこと?」
マツリの疑問に俺は首を横に振った。
「それは、半分正解で半分違う」
「半分? どういうことなんだい?」
「昨日さらに調べてわかったことなんだど、ある蔵書の中で昔同じようなことが起きてるんだ」
俺は昨晩見つけた、蔵書に掛かれていたことを思い出しながら語る。
「江戸時代ぐらいに一度同じことが起こってるんだ。そして、それをやっていた奴らの名は――『よつやかいだん』」
「えっ⁉」
各々それぞれの反応を見せる中、俺は平然と話を続ける。
「でも、それは奴らが生まれた理由じゃない。あいつらが生まれたきっかけってのは、間違いなくこれだな」
俺はある資料をカバンから取り出した。
それは昨日見たものだった。
「奴らの正体は『夜兜矢怪談』さ」
みんなの顔が衝撃の色で塗りつぶされた。
読んで頂きありがとうございました。