表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも猫な日々  作者: 日野 空
夜兜矢怪談編
8/67

8大鎌男と風使い

 楽しんで頂けたら幸いです。

「――これは……⁉」

 俺は学校に戻ると、驚く光景を目のあたりにした。

 生徒の学び舎である教室が切り刻まれていた。よっぽど鋭利な刃物で切られたのか、太刀筋もそうだが綺麗に壁などが切られている。

 外の境界線である窓際の壁は、全て切り落とされていた。

 その様から、鎌鼬でも起こったのではないかと連想させられる。

「小麦ちゃん、どういうこと?」

 マツリの問いに小麦先生は、いつもとは打って変わって俯きながら応える。

「突然だったんだよ……。桜花祭の準備をしていたら、いきなり教室からとてつもない音が響いて。ここに来てみたら、へんな大鎌を持った奴が切り刻んでたんだよ」

 俺とマツリは表情をこわばらせ、顔を見合わせる。

 先ほど喫茶店での会話でマミーちゃんが『四谷怪談』の中には大鎌を持った奴がいると言っていたからだ。

 驚きで思考が停止してしまったマツリに変わって俺は尋ねる。

「けが人とかはいなかったんですか?」

「ううん。幸い、そう言うことはなかったよ」

 首を横に振って否定する。小麦線先生の返答にホッと安心しならがらも俺は一抹の不安を覚える。

 奴らがここを襲った理由は、ひょっとするとマツリなのではないかかと。

 マツリは莫大な霊力を持っていることを知り、力を得にきたのかもしれない。

だが、ばれるわけがない。このことを知っているのは俺の知る限り、俺の家族とマツリ達いつものメンバー。それに、マミーちゃんのように友好的な妖怪だけだ。みんな信用のおける奴らばかりで、口外するようなことはない。

いや、単純に力が強い波動を感じ取って襲いに来たのかもしれない。正体を知っているなら、直接マツリの目の前に現れるだろうし。

そう考えてから、俺はあることに気が付いた。

「あの先生? 一と由紀は……?」

「二人はちょうど買い出しに行ってもらってるからいないんだよ」

「そうで――っ⁉」

 突如重たい衝撃が俺の体にのしかかった。今にも倒れ伏してしまいそうな圧力を、骨と骨が軋むような音を聞く。マツリも同じように、頭を押さえ必死に圧力に耐えている。

 ――これは⁉

 沈痛な表情のまま、俺はこれが何かを理解する。

 間違いない、妖気だ。

「ちょっ、どうしたのかな⁉ 活字くん、マツリちゃん⁉」

 小麦先生が俺たちの様子の可笑しいことに気が付いた。

周りにいるクラスメイトたちも、心配そうに俺たちを見てくる。

――俺とマツリにだけ妖気を当ててきてやがる!

 奥歯を噛みしめ、かすれた声で、

「舐めた真似しやがって!」

怒りと、苦々しさを含め呟く。

「か、活字くん……?」

「小麦先生! マツリを頼みます!」

「え、どういうこと、活字くん⁉」

 喧嘩を買いに行くんです、と心の中で呟いて走り出した。




 近づくにつれ体が鉛のように重たくなってくる。

 これだけの圧力には、普通の陰陽師は耐えることはできないだろう。俺でさえこの姿でなければ、立ってはいられないだろう。

 この姿に感謝しながら、その思いに鞭を討つ。

 ――ったく、複雑な心境だぜ。

 ――感謝はするべきなのかどうか迷うぜ、この状況は。

 俺は精神だけは強く保ち、廊下を走り続ける。

 圧力が放たれている場所は体育館からだ。体育館の扉を蹴り飛ばすかのように開けると、壇上に悠然と佇む妖怪の姿を見つけた。

俺は猫目を鋭く細め、強く睨みつける。

「ヨォ……テメェがこの街の大将か?」

 凶器に満ちた声。

 大鎌を持っているところを見ると、マミーちゃんが言っていた妖怪だ。フードマントを纏い、フードの下からは赤く光る眼光が見える。

「残念だがこの街には大将はいねぇよ、四谷怪談」

「……やっぱり知ってるか」

「建物を壊しやがって、何が目的だ?」

 俺の問いに、鎌男は壇上の端に座り込み言う。

「そうだな……今日の所はお前が目的だ」

「俺が……?」

 ということは、こいつらの目的はマツリではなかったということだ。

「俺が目的なら、別にそれ以外は関係ないだろ‼ 俺以外の奴らに手を出すな‼」

 怒声ともいえる言葉に、鎌男は可笑しそうに笑いながら尋ねてきた。

「グハハハッ! お前、可笑しな奴だな!」

「どういうことだ?」

 眉根を顰めながら聞き返す。

「そりゃそうだろ。半妖でも妖怪には変わりはねぇ! 妖怪になりたいからその姿になったんだろう? なんたって、捨てたはずの人間に味方をする?」

「それは……」

 俺は言い淀んだ。

「ひょっとしてその姿になったことに関係があんのかァッ!」

「――ッ!」

 鎌男の追及で、脳裏にはあの日のことが思い浮かぶ。

 三年前のあの光景が。

 今にも、はかなく消えてしまいそうなアイツ。

 そんな、アイツを俺は泣きながら説得して救おうとした。

 俺やマツリ、小麦先生を救いながら、自分はどうでもいいと言うアイツを救おうとしたんだ。アイツが良くても俺たちは納得できない。

 友達なんだ。

 仲間なんだ。

 例え自分の意思で選んだとしても、誰かを救って自分は消えるだなんてことが許されるはずがない。

 だから、俺はあの言葉を言ったんだ。


――お前は死なせない!

 ――絶対に蘇らせてやる!

 

そう。

 約束したんだ。

 俺が半妖になったのは――、

「俺は人間とか妖怪だとか関係ない! 守りたいものを守るだけだ! だから、今はここに立っている!」

 俺の言葉に鎌男は残念そうに呟く。

「そうかい……できれば仲間にしたかっただがな、その調子じゃ無理そうだ。だから――」

 刹那。

 壇上に座り込んでいた男が俺の目の前に現れた。

「お前はここで始末させてもらう!」

 大きな鎌が横なぎに振るわれた。

「――っ⁉」

 俺は咄嗟に後ろに飛びのき、鎌をギリギリの所で躱す。

 後方に跳んだ瞬間、俺は見た。

 鎌男が口元に笑みを浮かべていたことを。

 そのまた、次の瞬間。


確かに避けたのにもかかわらず、来ているパーカーに裂け目が入る。


 ――どういうことだっ⁉

 鎌の長さを見てもどう考えても、俺の元にまで届かない。

 妖術を使うにも、妖力の流れを感じなかった。

 術の正体を探るまもなく、続けての斬撃が俺の喉元に向って振るおうとする。

 そこで、さらに不可思議な事象が起こった。

「っ⁉ どういうことだ⁉」

 まだ鎌は振るわれてもいないはずなのに、俺の喉の皮を一枚切り裂いた。咄嗟のことに驚きながらも、第二撃を躱すために俺はまた一歩飛びのいた。

 俺の目の前を大鎌とともに風が舞う。

 さっきのように後から斬撃が飛んでくると思い大きく跳んだせいで、体育館の外に地面に転がるように飛び出す。受け身もとらずに飛び出したせいで、地面に叩きつけられる。痛みをこらえながら入り口付近を見ると、またしても可笑しな現象が起きていた。

 最初に大鎌を振るった時は、僅かなタイムラグの差で逃げ機目の斬撃がどこからともなく俺喉元に向ってきた。ならば入口の扉も切り裂かれているはずだ。

 だが、入口の分厚い鉄板に裂け目が入ることはなかった。

「どういうことだ……?」

 理由がわからないが、このまま地面に倒れているわけにはいかない。俺は飛び上がるかのように起き上がり、グラウンドに向った。

いくら緊急事態でも、校舎を壊すわけにはいかない。

鎌男は俺の後を追い、グラウンドに向ってくる。先ほどのように急に俺の目の前に笑われないところを見ると、奴らもあまり騒ぎだてることは望んでいないようだ。

俺もそれは望んではいないが、このまま大鎌で切られるのもごめんだ。

となると、俺は仕方がなさそうにポケットから長方形の紙を数枚取り出した。それを握りしめ、呪文を発す。

「我を守れ――《雷来》!」

 俺は握りしめた札を前方に投げる。次の瞬間、札から電流が生じ、地を這うように広がっていき鎌男を襲う。

 鎌男はその攻撃を軽々と避けた。

 だが、俺もその程度の動きは見透かしていた。今のは元々威力が低い。陰陽師としての初歩の技だ。俺の目的は最初から次手にある。

 最初から鎌男が飛び上がるのは予想済みだ。俺は飛び上がり、鎌男に向けて札を投げる。

「《雷来》!」

 今度こそ雷が鎌男を襲う。

「グアッ!」

 電流が体中を駆けまわり、呻くように喚いた。

「《迅雷》!」

 さらに俺は続けざまに術を発動する。

 札から雷が飛び出し、鎌男を突き刺すように細く針の形状に伸びていく。鋭さを増した雷は鎌男の身体を突き刺し、そのまま身動きを封じる。

 俺は着地と共に再び地を蹴って飛び上がった。

 そして、数枚の札を右手首に巻きつけ術を発動する。

「《轟雷拳掌撃》!」

 右手に雷を纏わせる。

 俺はそれを身動きが出来ずにいる鎌男に向っていき、兜空強く拳を叩きつけた。

 しかし、

「――なっ!」

 突如として、俺の目の前から鎌男が消える。

 電撃を纏った拳を叩きつける瞬間、俺の目の前から姿が消えたのだ。

思考が追いつかず漠然とする俺の背後から、横なぎに鎌が振るわれる。

 ――やべぇ!

 心の中でそう思いながら、どうにか間一髪、斬撃を避けきった。

「ほォーう! 今のはその身体のおかげだな」

 敵の言うことなど勘に障るので認めたくはないが、奴の言う通りだ。今の箱の半用の力があったから避けることが出来た。

 生身の身体ではあそこまで俊敏な動きはできなかっただろう。

「お前こそさっきどうやって避けたんだよ?」

 俺は強がりとばかりに、先程のことを尋ねた。

 もちろん答えてくれるとは思わない。

 そう前述のとおり、これは強がりなのだから。

 はっきり言って、俺の方が劣勢だ。

「さあ、どうやってだろうな。それにしても、十分な強さだ。敵にしておくにはもったいないな」

「本当にそう思ってるのか?」

「俺は嘘を吐かないからな」

「そうかい。けど、お前の味方にはならないし、見逃さない。ここで、倒させてもらう」

「あァ……?」

 俺は指を鳴らした。

 それと同時。鎌男に向って蛇のような動きをしながら電撃が迫る。

「な、んだっ⁉」

 鎌男は驚愕の表情を浮かべながら飛び上がる。

 俺は鎌男の反応に満足げに笑う。

 この電撃は一応と思って仕掛けておいた、罠用の札だ。

「決める!」

 電気の波を避けるために飛び上がった鎌男に向って札を投げつけた。投げつけた札から鎌男の眼前で爆発が起こり、吹き飛ばされる。

 爆発の威力で地面は吹き飛ばされ、隕石が落ちた後のクレーターが出来上がる。少々、威力がありすぎたと思ったが、下手に手加減をしていたら面倒なことになる。

 ――倒したか……。

 土煙が治まり、俺は様子をうかがうために爆発弛手に歩み寄る。

「なっ、いない⁉」

 俺は驚きの声を漏らした。

 クレーターには奴の姿が見えない。どんなに威力が高くとも、跡形もなく吹き飛ぶほどではない。

 なら。

 一体。

 どこに。

 止まりかける思考だったが、突如再起する。

「ヨォ、どうしたか?」

 背後からの声。

 俺は構えもとらず振り向いた。

 そこには多少のダメージは負っているものの、平然と電柱の上に鎌男が立っていた。

「あの程度の攻撃で、俺がやられたと思ったか……?」

「悪い、思った」

 正直言うと、アレはいつもの必勝パターンなのだ。

「なにっ⁉」

 鎌男は自分が予想していた言葉とは違うことを発したため、表情を一気に変えた。シリアスムードから一転して、コミカルパートだ。

「お、おい! ここは普通もっと別のことを言うだろ!」

「だろうな! だがな、俺はそのフラグを折る!」

「……、」

 唖然とした表情を見せる鎌男。どうやら、こういった対応はできないらしい。

「大体さぁ、そんな口を噤んで沈黙! みたいな行動をとってたまるか! 俺は素直に認める!」

「たちわるっ⁉ え、なにさっきまでのシリアスパートは?」

「さあ、これからコミカルパートの始まりだ」

 無茶苦茶な会話に着いて行けない鎌男をほっといて、俺は構うことなく話を続けた

鎌男はどうすることもできずあたふたとしている。

「っち、今日の所はこれくらいにしておいてやる!」

 鎌男は大鎌を肩に担いで、そそくさと逃げ去っていく。

 ――どうやらうまくいったな……。

 俺は安堵のため息を吐きながら、策が上手くいったことを喜んだ。

 あんな風に言えば、大抵の奴は興が削がれて去っていくだろう。ああいう戦闘好きならなおさらだ。

 正直な話。あのままやり合っていても、勝算は低かっただろう。実力的にではなく、武器の差でだ。今日は札をあまり持って来ておらず、使える回数が限られていたからだ。

 そんなことも含め、俺は安堵のため息を吐いたのだ。

「さてと……」

 俺は髪を掻きながら思う。

 爆発でできたクレーターをどうしよう、かと。




 俺がマツリたちの元に戻ったのは、三十分後の事だった。

 俺のせいでできてしまったクレーターは、分身を作ってどうにかこうにか元に戻した。爆音で人が集まっていたので、痛い視線を背中に浴びながら修復する羽目になったのは言うまでもない。

 戻ってみると一と由紀も買い出しから戻ってきていた。

 戻った俺の姿を見て、マツリたちが驚いた。

 俺は体育館から飛び出した時に地面を転がったため、服に土がまとわりつき汚れている。それにパーカーが裂けている。

 まあ、心配されても仕方がない。

 クレーターを作り出すほどの爆音も鳴り響聞かせているのだから。

 とりあえず俺は騒ぐみんなを落ち着かせて、体育館で起こったことを告げた。

「――と言うわけだ。はい、これで状況説明は終わり! いやー、危なかった」

「ほんと、無事でよかった」

 心配するマツリに、心配してくれてありがとうな、と言葉をかけて、

「つうか、お前の方こそ大丈夫か? あれだけ強い妖気に当てられたんだ、まだ全快じゃないだろ?」

「心配しなくても良いよ。ちょっと、頭痛がしただけだから」

 そうは言っても、声が少し震えているし、顔も青ざめている。もう今日はこれからのことを話したら、無理をさせず連れて帰った方が良い。

 そう判断し、俺は小麦先生の顔を見た。

「さて、これからですけど――桜花祭は中止した方が良いですよ」

 もう、そうするしかない。

 あの鎌男一人でさえ手に余るのだ。

 残る二人も俺一人では対処することは難しい。とくに、この桜花祭の準備で森がっている時期に暴れられたら、被害が拡大するに違いない。

 だが、大人である小麦先生の言葉に俺は驚いた。

「残念だけど無理だね」

「どういうことですか? 俺の話を聞けば、やめざる負えないでしょう?」

「そうしたいのは、やまやまなんだけど。ほら、大人の事情もあるから……」

 言い淀みながら応える小麦先生。それだけでは意味が分からない俺に、由紀が補足する。

「この桜花祭には毎年、かなりの経費が掛けられています。だから、それを無駄にしたくないんですよ」

「それなら、確かに大人の事情だわな」

 納得したように言う一に俺は、

「それで納得されたら困るんだがな」

「小麦ちゃん、どうにかならないの?」

 マツリの問いに小麦先生は首を横に振った。

「無理無理。一介の教師だよ? そんな権限はないよ!」

「どうにもならないか……」

 落ち込みなら呟くマツリに、俺はしかたがねえよ、と慰めの言葉を掛け。俺は考えをめぐらす。

 せめてもう一人、戦える奴がいればどうにかなる。

 俺には切り札がまだ残されているからだ。

 ただ、それは使うことはかなりリスキーなことなのでなるべく避けたい。が、それを使わなければ一人で対処することはできない。

 良い考えを浮かばせることを悔やみながら、頭を抱えている時だった。

 一陣の風が吹き荒れる。窓を閉めているのにもかかわらず吹く風の中に俺は、見知った妖気が混じっていることに気が付いた。その予測を確信に変える出来事が起こった。

 風がやみ、背後から俺の名を呼ぶ声が聞こえる。

 そこにいたのは敵ではない。

 色鮮やかな着物を優雅に着こなす女性は、紛れもなく俺の知り合いだ。扇子を口元に当て、もう一度俺に声を掛ける。

「私が手伝ってやるよ、活字」

 俺の妖怪側での知り合い――風使いの迦楼羅がそこにいた。




「ど、どうしてお前がここにいるんだよ⁉」

 俺たちは驚きのあまり尋ねた。

 カルラは面倒臭そうに説明する。

「決まってるだろ。『四谷怪談』を倒すためさ」

 そう言うカルラに俺は、訝しげな視線を送った。

「どうした? そのうさん臭そうな目は?」

「いや、俺からじゃなくて自分から頼みに来るからさ……」

「だよな。俺もそう思うぜ、活字」

 なるほどと言う顔を作って、カルラは薄ら笑った。

「そりゃいつもなら、お前さんから頼みに来るだろうけど。今回ばかりはことが大きすぎるから、私の方から出向いたわけさ」

 ことが大きすぎる? 俺はその言葉を疑った。実力だけでも比べたら、そんじゃそこらの妖怪たちよりは上だ。

 あの鎌男一人なら、十分こいつだけで倒せるだろう。どうにかして一人ずつ相手取っていくことを考えれば、俺に協力を求める理由は何処にもない。

 一体こいつは何を考えているのだろうか……。

「心配しなくても、宝を横取りしようとか考えてないよ」

「じゃあ、何が目的だよ?」

「そこまで私が信じれないのかい? かなり傷ついただよ」

 どこぞの誰かさんたちみたいに泣き真似を始めるカルラを無視して、一方的に話を続ける。

「で、ことが大きいってどういうことだ?」

「うん、聞きたいかい?」

「当たり前だろ」

 俺の言葉にカルラは口元に鎌男と同じような笑みを作りだした。何か考えているなこいつ、と思いながらも言葉の続きを促す。

「聞きたいなら、協力することだね」

「取引のつもりか?」

 俺はマツリらの顔を見た。

 ――仕方がないよ。

 ――そうだよ。

 ――手を組むしかないだろ。

 ――解決のためです。

 表情から気持ちを読み取り、俺は深くため息を吐きながら、

「わかった。手を組もう」

「交渉成立だ。さて、聞きたがってることを教えてやるよ」

 薄く微笑みながら、迦楼羅は話し始めた。

「私が知ってるのは、奴らの最終的な目的だね」

「最終的な目的ってなんです?」

 由紀が首を傾げながら尋ねる。

「奴らの目的はある妖怪を蘇らせることらしい」

「妖怪を蘇らせる? 創意ばそんなことを言ってたけど、蘇らせて何がしたいの?」

「奴らはその妖怪を従えるつもりなんだ」

「――なっ⁉」

 俺たちは驚愕の事実に硬直した。

「ほ、本当なのかな⁉」

「間違いないよ。奴らの周りを探って得た情報だからね」

 また危険なことを、と思った。

話を進めるために、一は理由を尋ねた。

「で、でもそんなことをして一体何の意味が?」

「さあね。とにかく奴らは妖怪の復活を狙ってるのは間違いない」

「復活ねえ……」

 みんな今の話で納得しているが、俺は釈然としない部分があった。それは、どうして人と妖怪を襲うのかと言うことだ。

 結局の所、その謎が解けていない。

 復活させるだけなら、別に襲う必要はない。俺はうっすらと、それがすべての謎を解く鍵だと感じていた。

「なあ迦楼羅、目的がそれならどうして人を襲うんだ? べつに蘇らせることが目的なら、人を襲う必要はないだろ?」

「そこは私も謎でね。あんたに想像しに来たんだけど、アンタにもやっぱりわからないか」

「悪かったな」

 皮肉下にそう言ってやると、センスで口元を隠した。どうせ今の様が面白くて笑っているのだろう。

「まあ、そこは後で考えるとして……俺はもう一回マミーちゃんの所に行ってきますね。今の話を一応伝えておこうかと思いますから」

 あれから少ししかたっていないが、何か新しい情報が飛び込んできているかもしれないし行ってみる価値がある。

 俺はその場を離れる前に、迦楼羅の顔を見て言った。

「悪いけど、マツリのことを頼むわ。こいつ、さっきの奴に妖気をだいぶあてられて、ふらふらだから」

「だ、だいじょうぶだよ!」

「そう言うと思ったよ」

 俺は額に凸ピンをみまうと、倒れそうになるマツリの腕を掴んだ。

「今にも倒れそうなんだから、無理すんな。じゃあ、後のことはよろしく、迦楼羅」

「任せときな」

 俺は三人をその場に残して、再びマミーちゃんの元に向った。




「いらっしゃいませ!」

 本日二度目の来店にも拘わらず、マミーちゃんは営業スマイルで来店者に声を掛けた。

 俺はカウンター席に座り込み、先程の話を始める。

「――というわけなんだ」

「なるほど。奴らの目的はそれか……」

「ああ……」

 お冷の入ったコップを手に取り飲み干す。

 そうしてから、俺は話題を変えた。

「なあ、何か情報は入ったか?」

「バカか。そんなに早く情報が手に入るわけがないだろう――と言いたところだが、今の話で分かったことがある」

 俺はカウンターに手を置いて、詰めかけるようにマミーちゃんに尋ねる。

「お、おい、何がだよ⁉ 教えろ、教えないさい、教える――うぎゃ!」

 俺はいきなりカウンターに叩きつけられた。俺は痛む鼻のあたりを押さえながら、マミーちゃんを軽く睨みつける。

「落ち着け! ったく、うるさい奴だ!」

「うぅ……分かったよ……。で、何がわかったんだ?」

 今度は落ち着いた口調で尋ねる。

「生姜っこで習う算数と一緒で簡単だ。あいつらはどうして、蘇らせた妖怪を従えようとする?」

 俺は少し考えてから、

「そりゃ、自分たちの力を大きく見せたいからだろ」

 マミーちゃんは俺の答えに頷く。

「そうだ。じゃあ、力を大きく見せたら、周りはどうすると思う?」

「そりゃー危害を加えられたくないから――って、まさか⁉」

「そう言うことだ。簡単だろ?」

 俺はマミーちゃんが伝えたかったことがわかった。

 なるほど、そう言うことなら合点が行く。

「つまり、妖怪たちは自分を守るために従う」

「奴らが妖怪を本気で襲おうとしなかった理由はそれさ。僕にしようとする奴らを、傷つけようとはしない」

 ここで奴らが妖怪を本気で襲うおうとしない理由がわかった。

「あとは、俺たちの方か……」


 読んで頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ