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いつも猫な日々  作者: 日野 空
夜兜矢怪談編
6/67

6 夜兜矢怪談

 楽しんで頂けたら幸いです。

 あの後、どうにかこうにか事態を収拾することが出来た。内容は――語りたくないので語らない。俺の威厳にかかわるので、口外することはこの先ないだろう。

 さて、桜花祭でやることになったのは結局演劇だった。ただし、小麦先生主催の『ロープレ戦記』ではなくまたもなものだ。

 昼休みまでの半日は劇の台本探しに当てられ、今は台本をコピーしている。その合間を縫って昨日のメンバーと一と由紀を踏まえて俺は、寝不足になってまで調べたことを話すことにした。

 俺たちは、自分たちの教室ではなく他の部屋を借りることにした。自分たちの教室だと他のクラスメイトに聞かれないようにするためだ。

 教室に入ると備え付けのエアコンの電源を入れ、テーブルを中心に集まった。

 最初に口火を切ったのはマツリだった。

「朝話さなかったんだから早く話してよ!」

「話すから、落ち着け――っとその前に……なんで一と由紀がいるんだ?」

 俺の言った言葉に二人は眼を泳がせながら、

「ま、まあいろいろあってだな……」

「そ、そうですよ!」

 俺はその二人の反応を見て、すぐに目を泳がせる理由を直感した。おそらく、俺とマツリと同じように何かにつられたのだろう。

「買収したんすね」

 俺は半眼で小麦先生を睨みつけながら呟いた。小麦先生は俺に向って、にこやかに言葉を返す。その笑みが人の悪い笑みに見えて仕方がない。

「酷いな、活字くん。買収なんてしてないよ、政治的取引かな」

 政治的ねぇ……と俺は呟きながらも、それ以上の言葉は控えておくことにした。

「まあ、いいや。じゃあ、話を始めるぞ」

 マツリたち一斉に俺の顔に視線を向けた。若干緊張しながら言葉を続ける。

「まず、前置き段階だけど、内容は知らなくても本当の四谷怪談って知ってるか?」

「一応は……」

 申し訳なそうにマツリは呟いた。おそらく、内容までは知らないのだろう。他の三人も、知ってはいるものの、内容は知らないと言った感じだ。

 俺は構わず話を続ける。

「まあ、元々は夫に裏切られた妻の復讐劇なんだけどな。劇――じゃなくて昔にお言い方だけど歌舞伎として初めは行われていたんだ。今は落語とかもやってるんだ」

「へー、そうなんですか」

 感心しているのは由紀だ。

 俺はさらに言葉を続ける。

「初めに行われたってのが江戸時代だ。始めはその時代の書物から調べてたんだけど、歌舞伎の話だから載ってないと思ったんだけど――」

 俺はいったんそこで言葉を切って、全員の顔色を窺った。始めの部分の話だが、一応頭が追いついているかどうかを確認するためだ。

 まあ、さすがに全員ついてこれていたようなので、話を再開した。

「実は別の漢字で載ってたんだ。それがこれ」

 俺は家から持ってきていた昔の本をリュックサックから取り出し、テーブルの上に置いた。そして、全員に俺が見つけたもののページを開いた。

 俺が開いた場所には、大きな鳥の絵が描かれていた。見た目は鴉に似ているが、くちばしの鋭さ、羽の禍々しさが絵からも伝わり、鳥と言うよりは怪鳥と言った方が正しい気がするのは俺だけではないだろう。

その絵の隣には、『夜兜矢(よつや)怪談』と書かれている。

「夜……兜矢怪……談……?」

 一のぎこちない発音に、俺は「そうそう」と頷きながら言葉を続けた。

「俺が見つけたのはこれなんだ。昔この地域を襲った妖怪『夜兜矢』っていう鳥。場所がこの地域だから、これで間違いないと思うけど……」

 そこで言葉を切った俺を不審に思ったのかマツリが話し掛けてきた。

「なに? どうしたの?」

 俺は申し訳ない顔をして、こめかみ辺りを人差し指で掻きながら答えた。

「……ただこの説には二つ問題があるんだ」

「それはなんなのかな、活字くん?」

 小麦先生に尋ねられ、俺はぼそぼそと答える。

「小麦先生言いましたよね? 複数いるから『怪談』じゃなくて『怪団』だって。これは『夜兜矢怪談』で『夜兜矢怪団』じゃないんですよ。それに、この資料に乗っているのは怪鳥だから噂とは違うんです」

 俺の言ったことに全員が、掌に握り拳を叩くという古いリアクションを見せた。俺は「あほか……」と内心で思いながらも、話の続きを始める。

「だから、この可能性は絶対にはないと言い切れないけど、可能性的には低いかなって。悪いな、調べた結果がこんなんで」

 情けないとしか言いようがない。

 調べた結果が結論付けれることではないのだから。

「実家に帰ればもっといい情報があるかもしれないんですけど……」

 しかし、今の俺は実家に帰ることはできない。

 調べる方法がるとすれば、友好的な母さんに持って来て貰うことなのだが、じいさんが見逃すはずがない。それに、母さんに連絡を取るすべを俺は持っていない。いつもは向こうから家の外から連絡を取ってくるからだ。

「ううん、そこまで調べてくれれば十分だよ」

「そうですか。そう言われると気が楽になります」

 俺はそう言って、書物をリュックサックの中に戻した。

「じゃあ、今度は俺たちが調べたことを話す番だな」

 一がそう切り出すと、由紀がずっと持っていたコピー用紙をテーブルの上に置いた。何十枚もあることから、相当な時間をかけて調べたことがわかる。

「実はさ、俺たちも活字と同じように調べてわかったことは少しだけなんだ」

「そうなんですよ。すいません」

 ぺこりと頭を下げる由紀に「気にすんな」と言葉をかけて、続けてねぎらいの言葉を掛ける。

「そんだけ調べたんだ。俺の情報よりも確かだろ」

「まーね! 私も手伝って調べたことだしね!」

「ごめん、小麦ちゃん……超不安」

 いつもは小麦先生と息の合うマツリが、珍しく本音を呟いた。不満そうに頬を膨らませる小麦先生を見て、俺は必死に笑いを抑えることになる。折れの様子に気が付いた、小麦先生が睨みつけてきていた。

「ハハッ……と、とりあえず話を始めてくれよ」

 言葉の中に笑いが混じっていたが、小麦先生の反応を気にせずに話し始めた。これ以上、話がずれると完全に、始めるタイミングを見失う。

「俺たちが調べたのは、妖怪が現れている場所と時間帯なんだけど。場所も時間帯もばらばらなんだ」

「ばらばら……?」

 俺は眉をひそめた。

 一つだけおかしなことがあったからだ。俺はその疑問を口にする。

「おかしいな。妖怪ってのは基本的に昼間は動かないはずだぞ」

「けど、実際には動いてんだ。ほら……」

 一が由紀に向って目配せして、コピー用紙の一枚を俺に向って手渡した。受け取った容姿を見てみると、この街の地図が映っていて赤ペンで丸と横に数字が記入されている。

 たぶん丸をされている場所が妖怪が現れた場所で、数字が時間なのだろう。

 一通り眺め終えると、確かに時間帯も場所もばらばらだ。だが、それでも疑問に納得がいかない。

「でもさ、可笑しんだよな。妖怪ってのは黒の存在。なら、夜中に月の加護を得ることによって本来の力が使えるはずなんだ。なのに、十分な力でもない昼間に動くかよ」

 今日、どこの町でも一人は陰陽師が存在する。妖怪の方でもそのことは知られていて、力の出せない昼間から動いて、陰陽師と戦おうとはしないだろう。

 ならば、どうして冷静さを失ったような行動をするのだろうか。

 俺の思考が追いつかないまま、さらに一たちの言葉は続く。

「えっと、ですね。他に妖怪に襲われた人たちもいたらしいんですけど、皆さん軽傷で無事です。昨日、その人たちに話を聞いて回って、皆さん口々に奇妙なことを言うんですよね」

 俺は先ほどよりも眉の皺を深くして、話に耳を傾ける。

「奇妙なことと言うのが――私はもうすぐ蘇る。お前ら人間どもは蘇った時の餌だ、と」

 俺は顔を顰めた。

 言葉の意味が分からなかったからである。

「ど、どういうこと?」

 マツリは小首を傾げながら、俺の代わりに呟いた。

 仕方がなく俺は尋ねる側から、答える側にへと移る。

「私は蘇るって言ってるとこだよ。複数の妖怪が手を組んで動いてるんだったら、普通なら私たちだろ?」

「でも、個人の為に動いてるってこともあるんじゃないの?」

 マツリの言葉を俺は、首を横に振って否定する。あっさりと否定されたマツリは「じゃあ、どういうことなの?」と尋ねる。

「妖怪ってのはそもそも、集団が個人の為に動くことなんてない。自分の目的を果たすために、似たような目的を持つ奴と組むことはありえるけどな、基本的には後者だ」

「そっか……」

 納得したように呟いたマツリを見て俺は、別の話題を持ち上げる。先ほどの言葉にもう一月になることがあったからだ。

「なあ、妖怪って出会った人全員と言うわけじゃなくても、何人かは襲ってるんだよな?」

「うん、そうだよ。さっき言った通りだよ」

 小麦先生の回答に、俺の下念が確かな疑問へと変化した。

「さっき、由紀言ったよな? お前たちは蘇った時の餌だって。でも、可笑しくないか?」

 俺以外の全員が訳も分からず首を傾げている。

俺は白髪を掻きながら、

「いや、だからさ。蘇った時の餌ならどうして今人を襲うんだ? 奴らにとっては特がないはずだろ?」

 俺の言っていることは確かだ。

 妖怪が人を襲う理由は様々だが、大抵はマツリのように霊力の高い人間を襲い力を強めるというのが多い。だが、今回のこのことについては可笑しすぎる。

 それ以外もそうだ。

 時間帯も考えずに襲うのも集団で動くのもおかしい。どうもこの事件は、不審な点が多すぎる。俺は黙り込んだまま考えるが、とうとう煮詰まり意識を現実に戻した。

「ん~やっぱ、分からねぇな……。謎ばかりで、解くための手掛かりがない」

 適当に髪を掻きながらそう呟いた。

 みんなも同じように、考えがまとまらないようだ。

 その様子を見かねた小麦先生は、勇みよく椅子から立ち上がり言いはなつ。

「考えても仕方がないんだったら、いったん休憩しよう! さあ、栄養補給だよ、みんな!」

 いつもなら呆れてしまう所だが、今回の小麦先生の言動には一理ある。これ以上考えても仕方がないのなら、休んでいったん頭を冷やすべきだ。

 俺はマツリ達に視線を送って、小麦先生の言う通り休憩することにした。ちょうど教室の外では、印刷組の足音も聞こえてきたのでタイミング的には良かった。

「あっそうだ、小麦先生。俺これでもう帰りますね」

「えぇ~どうして~?」

 面倒くさい反応に俺はため息を呟きながら、簡単に説明を施す。マツリたちも何事かと聞きたがっているので。

「これからちょっと、マミーちゃんの所に行こうと思って」

「マミーちゃんの所に? また、どうしていくのよ、活字!」

「妖怪側からも情報を集めてみようと思ってな。何かヒントがあるかもしれないしな」

 全員が得心言ったように声を漏らした。

 まあ、絶対にヒントが掴めるとは限らないのだが。しかし、ここで限ら情報で煮詰まっている要理は幾分かましだろう。

「ちなみにだ。マツリ、お前も着いてくるんだぞ。あいつらはどういう目的人を襲っているのかは知らないけど、お前は霊力があるから襲われる確率が高い。お前を守らなきゃ持行けなしな」

 実際はもう一つ理由があるのだが。

 ここにいると、関係のない人も襲われるかもしれないからだ。

「小麦先生たちは今まで通り調べてください。何か新しい情報が合ったら、知らせてくださいね。じゃあ、行くぞ」

「あ、待ってよ!」

 俺とマツリの二人は新たな情報を得るべく、情報屋の元へと向かった。


 読んで頂きありがとうございました。

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