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Let's go to the town.

メリシィは喋ってくれるので楽です。

「記憶喪失!?」


 両肩を掴まれ間近で叫ぶメリシィにルルはたじろぎながら頷く。


 あれから二人は荒くれ者たちから逃げ、砂漠の岩陰で休んでいた。メリシィの話によれば、あと少しで小さな街に着くという。


「えっと、気が付いたら砂漠にいてね、どこから来たのか分からないの」


「名前と魔術が使えることしか覚えてないんだ?」


「うん、そう…」


 嘘をつくのは申し訳ないけれど、違う世界から来たなんて信じてもらえるほうがおかしい。


 ここは自分のいた世界ではないとルルは確信している。


「わたしがあの場所に行ったときにはルルを探してる人は見なかったしなー。どうしよっかなー」


 ふとルルは思いついた疑問を口にしてみる。


「そういえばどうしてメリシィはあそこに来たの?」


「へ?」


 メリシィが一瞬虚をつかれたような顔をした。それから頬に手を当て何かを考え込む。


「うーん…」


「メリシィ?」


「まあ、あそこに良くないことしてる人たちがいるよって聞いたから何かものがあるかなって。たまたま」


「聞いたって誰から?」


「それは…言っていいものかなー…」


 先ほどからメリシィの様子がおかしい。じっと見ていると、一人であれこれ考えているようだった。


「――――よし、決めた!」 


「きゃっ」


 いきなり大声をあげるものだからルルはびくりと身をこわばらせる。


 メリシィは叫んだ勢いのままルルの手をとる。


「行こう、ルル。会わせたいやつがいるの」


「会わせたいやつ…?」


「そう、あいつならもしかしたらルルのこと分かるかもしれないよ」


「それは…」


 分かるわけがない。とは言えなかった。そのかわりに小さく頷く。現状メリシィしか頼れるものがいない以上彼女についていくしかない。


「連れてって」


 ルルがそう言うとメリシィはなんだか嬉しそうにうんと言った。








「ここが…」


 たどり着いたのは本当に小さな街だった。


 砂漠の中に突如現れ、遠くからはなかなか分かりづらい。貴重な水場の周りに自然とできた休憩所が交易の場となったのだとメリシィは言った。


「すぐに戻るからここで待ってて」


 そう言ってルルを街から少し離れた場所で待機させ、メリシィは一人街へと入った。しばらくして戻ってきた彼女が持ってきたのは黒い外套と革のベルトだった。


「これ…」


「買ってきたの。その服、もう服には見えないしね…」


 情けないというかうっかりしていたというか、このとき初めてルルは自分の格好をかえりみた。


「あ…」


 奴らに引き裂かれて肌がところどころ剥き出しとなり、借りていたメリシィの上着からはみでた部分は日焼けして痛い。


 今さらながら、先ほどの光景を思い出して身体が震えてきた。


 そんなルルの肩をいたわるようにメリシィが撫でる。


「ね、だからこれを羽織って全部隠しちゃおう。今現金は少ししかないからとりあえずさ。あいつらから奪ったやつ換金したらちゃんと買ってあげるから」


「あ、そうだお金…!私なんにも…」


「いいのいいの。どうせなんにも持ってないんでしょ?それに久しぶりに会えたお仲間だから私のおごり♪」


「ごめんなさい…」


「そこはありがとうって言ってほしいなあ」


「…うん、ありがとう」


「と、その前にこれ!」


 メリシィはそう言ってベルトを渡す。それからルルが抱えていた『それ』を指差した。


「これで腰に止めて、外套かぶっちゃえばぱっと見わかんないよ。女の子が持つにはちょっと違和感あるからね、その


「――――――――――そう…だね…」


 ルルは複雑な思いで腕の中のフレイアに目を落とした。豪奢な装飾、はめ込まれた紅い宝珠。奇跡的にあの男たちはこれに手を出さなかったようだ。


「それ、ルルのなんでしょ?それ見てなんか思い出さないの?」


「…ううん、なんにも」


「造りは立派だし、それが本当にルルのものなら結構いいとこの出じゃないの、ルルって」


「えっ、あ、えと…どうだろう…」


 確かにそうだけど、どうなんだろう。


 ルルは首を振って思考をやめる。


「こんな感じでいい…?」


「うん、問題なし。じゃあいよいよ街に入るよ」


 自分も外套を羽織ったメリシィが確認しルルは頷く。


「あ、そうだ。言い忘れてた」


「え?」


「街に入ったら私のこと、メリシィって呼んじゃだめだよ。そうだな…マリサでいいや」


「マリサ?」


「そ、偽名。さすがにこんな辺境にまでいないと思うけど、魔女だってばれたらやばいの」


「あのメリシィ、さっきから言ってる魔女ってなに…?」


「っ……」


 メリシィは確かに目を見開いた。


「ルルは本当に知らないの?」


「うん…」


 メリシィは半信半疑でルルを見つめていたが、やがてルルが嘘をついていないことに気付いたのかふっと笑った。


「教えてあげる。あいつにあったらね」









 外套を着込むとむわっとして暑いが、日差しに焼かれるより遥かにましだった。


 水場の周りで休む人々、その中にはちらほらと商人らしき人々が見受けられる。石造りの建物が6,7棟並び、いくつかは高級宿で金持ちの商隊が泊るのだという。


「こっち」


 メリシィに導かれるまま建物の一つに入る。


「ここ、宿じゃないの?入って大丈夫…?」


「大丈夫。顔見知りだから」


 そう言うと奥に座る宿の主らしき人物に近付く。


「こんにちは。あの人いらっしゃる?」


「ああ、あれなら今部屋で寝てるってよ」


 そう言って店主は奥を指さす。ありがとうと言ってメリシィが歩きだしたのでルルはその後に続く。店主は一瞬だけルルを見たが特に何も言ってこなかった。


「…すごいね、メリシィ。さっきの声別人みたいだった」


「ふふーん。わたし女優だもん、ちょろいちょろい」


 ちょろいってどういう意味だろうと思いながらついていくと、メリシィはとある部屋の扉の前で立ち止まり、小さく扉を叩く。


 中から物音がして、扉がゆっくりと開く。


「はーい、だれ…」


「やっほーっ!」


 言うが早いがメリシィはその人物に抱きついた。


「え、ちょっ、お前!?なんでっ!」


「会いたかったよーライ。ふふーん」


 メリシィと、彼女が抱きついたのは若い男。ルルはとりあえず状況が飲み込めずなりゆきを見守っていた。



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