Dive into the world.
許さない。赦さない。
凍てついた身体で少女は思い続ける。
どれだけの時を経ても少女の呪詛は終わらない。少女の悲しみも、苦しみも消えはしない。
「……」
その様をもう一人の少女がやるせなく見つめていた。
「…エリサ」
彼女は眼前を覆う氷の壁に手を載せ、慣れてしまった冷たさに額を当てる。
「私が、救うから…」
その声は届かない。それでも彼女は氷の中の少女に呼びかけた。
「私が絶対、あなたを救うから、ね。エリサ…」
体が熱い。いや熱いのは背中だ。浮上する意識と共に身体を横に倒す。それでも熱かった。
ああ、違う。熱いのは床全体だ。柔らかく掴みどころのない床に身体が浅く沈んでいて、そこから熱が容赦なく伝わってくる。
「……ぅ…」
目蓋の裏が明るい。観覧席はこんなに眩しい席だったろうか。
気だるさと共に目を開ける。
「……ぇ…?」
床じゃ、ない。
さらさらとした細かな粒が延々と積み重なってできた、砂だった。
「なっ…」
最大限急いだ緩慢さで身を起こすと、身体のそこかしこから砂が零れ落ちた。
「……う…そ…」
身体中を戦慄が走り抜けた。
見渡せばそこは何もない。ただただ荒涼とした砂の山が広がる、砂漠だった。
誰もいない。何もない。無人の世界で独り、きり。
混乱が口から悲鳴に似た叫びを引きだした。
「誰かっ!誰か…っ、いま、せんか…?っ……!誰か!リドっ!」
言葉はみな虚しく空に溶け込む。強い日差しも心を追い詰めていった。
「う、あぁ…、や…」
頭を抱えぼろぼろと涙を零す。どうしてこんな所に一人でいるのだろう。城にいたはずなのに。側にたくさんの人がいたはずなのに。フレイアに触れてから後の記憶がぽっかりと抜けている。
「……あ」
フレイア。そこで足元の硬い感触に気付いた。
目もとに涙の感覚が残っている。それを拭わず砂の上に目をやれば、横たわっている紅い剣があった。
そろそろと指を伸ばし触れる。何も起きなかった。今度は強く握る。けれど記憶が飛ぶ前の異変は全く見られなかった。ややあって何も起きないことを認識すると、苛ついた動作で砂の上にフレイアを叩き付ける。
「貴方が、私を連れてきたんでしょう?…帰してよ!帰しなさい!」
剣は黙している。怒りは瞬時にかき消えて、途方に暮れて空を見上げた。同じ晴天なのにさっきまでの空よりも残酷な陽射しだ。
「精霊が、いないのよ…。"呪文"が、使えないの…」
既に認識していた。ここはユーキィンではない。それどころかユーキィンのある世界ではない。
「ここは、どこ」
ここは、異世界だ。
書き足す可能性あり。