相棒は最弱につき!?
ギルドで『落ちこぼれ』とレッテルをはられている剣士、『優秀』と皆が認める魔導師。
ひょんな事からバディを組むことになった二人。
そんな二人が受けた『依頼』とは?
◇1、冒頭から詰みました◇
ーー長閑な昼下がり。
とある森にて……ーー
「………………」
困惑した顔で金色の綺麗な瞳でジッと見つめる金髪ツンツン頭の青年。
軽量化された甲冑をつけ、腰には剣を装備している。
剣士であろう。
彼の名前は『ギルバード』。
『ギル』の愛称で慕われている。
「………………」
同じく眉間にシワをギュッと寄せ切れ長のコーヒー色の瞳でジッと見つめる。
やや長めの少しボサボサで瞳と同じコーヒー色の髪をした青年。
ローブを纏い、背中には魔石のついたロッドを装備している。
魔導師であろう。
彼の名前は『ブルクハルト』。
愛称は『ブルク』。
「なぁ、いつまで見つめ合うんだ?」
はぁっとギルバードは深くため息をついた。
「結論が出るまでだな」
ブルクハルトは更に眉間にシワを寄せた。
「なぁ、割りとしんどいんだが?」
頭をポリポリとかいてギルバードは言う。
「どうしてこうなったと思う?」
ギルバードに顔近づけ、ブルクハルトは尋ねた。
「さぁ?」
ブルクハルトの顔を遠ざけながら、ギルバードは知らん顔をする。
「さぁ?じゃないよな?
な?」
ブルクハルトは背中かロッドを取り出しグリグリとギルバードに押し付ける。
「僕が悪ぅございました!」
魔攻をぶっこまれたらただじゃすまないと思ったギルバードは謝る。
「……反省してるのか?」
ギルバードが謝ったのを見て、ブルクハルトはそっとロッドを背中に戻した。
「してる、してる。
反省というより猛省かな」
頭の後ろに手を組んでギルバードは言う。
到底、反省しているようには見えない。
「また落ちこぼれだとレッテル張られるぞ?」
ギルバードの態度を見て、ブルクハルトはため息をついた。
「言いたい奴には言わせとけばいい」
ギルバードはフンッと顔をそむける。
「まぁ、その事と今の現状は関係ないがな」
話がそれた事に気づいたブルクハルトは軌道修正をする。
「………………」
くるりと方向をかえ、ギルバードはいきなりテクテクと歩き始めた。
「おい、何処に行く?」
歩き始めたギルバードの背中に声をかけ、ブルクハルトは呼び止めた。
「僕が取り返しに行く」
背中で語るギルバード。
どうやら何かが奪われたようだ。
「行く宛あんのか?」
ギルバードの前に回り込み、ブルクハルトは尋ねた。
「あるわけがない」
何故か威張りながらギルバードは答えた。
「待て。
状況を整理しよう」
ギルバードの肩に手をおき、落ち着かせるブルクハルト。
「……わかった」
ブルクハルトに言われ、ギルバードは落ち着いたのかドカッと座り込んだ。
同じくブルクハルトも座り込む。
ーー閑話休題ーー
「俺たちはギルドの依頼で『魔力の石』を神殿まで持って行く……予定だった。
しかし『魔力の石』はなくなってしまった。
理由は?」
一息ついてブルクハルトはギルバードに尋ねた。
「知らん」
ギルバードは真っ直ぐブルクハルトを見たまま凛として答えた。
なぜか自身満々……。
「それだよ、それ。
意味がわからない。
俺はお前がそのリュックに入れてたのを知っている。
『僕が死守する』ってな。
ところがどうした事か『魔力の石』は行方不明になっている」
立ち上がりブルクハルトはギルバートの背負う青いリュックを指差した。
どうやらここに入れていてなくなったようだ。
「気づいたらなくなってたんだ」
ブルクハルトを見上げながらギルバードは言う。
「ほう」
腕組みをし、ブルクハルトは恨めしそうにギルバードを見ている。
「足が生えたのか?
それとも羽か?
やんちゃな石だな」
気難しい顔でギルバードは考え込む。
「石が自分でいなくなったと?」
ギルバードがわざとなのか天然なのかわからずブルクハルトは顔を曇らせた。
「うむ」
真顔のままギルバードはこくりと頷く。
「俺らが旅に出たのは?」
真顔のギルバードにブルクハルトは尋ねる。
「ついさっき」
何食わぬ顔でギルバードは答える。
「なくなったのに気づいたのは?」
更にブルクハルトは質問を続ける。
「ついさっき」
同じ回答をするギルバード。
「……詰んだ。
序盤から詰むとは。
お前とペアなのがそもそも無理ゲーなんだよな」
ブルクハルトはガクッて膝から崩れ落ちた。
ギルバードは天然だったようだ。
「仕方ないだろ。
ペアにあぶれてたまたま余っていたのが落ちこぼれの僕だったのさ。
それがそもそもの不運。
僕は不運の運び屋なのさ」
ブルクハルトの頭をぺしぺしと叩いてギルバードはにっこり笑う。
「自分で言うなよ」
ギルバードに頭をぺしぺしされた事と謎の笑みを向けられた事にブルクハルトはイラッとした。
「嫌なら固定のペア作れよ」
ふて腐れてギルバードは文句を言う。
「面倒くさい」
体制を整え、ブルクハルトは頭をポリポリとかく。
「んじゃ、仕方なくない?」
ブルクハルトの顔を無邪気に覗き込むギルバード。
「バティシステムやめて欲しいぜ」
ギルバードの顔を押し退け、ブルクハルトは深いため息をついた。
「不正防止のためだから仕方ない。
僕たちはあくまでも傭兵に過ぎないんだぜ?
ギルドのワンワンさ」
ギルバードは四つん這いになってわざと犬の真似をする。
「野良ペアでもいいがお前とは組みたくなかったよ。
金のためだから仕方なくだからな。
お前といるといつも酷い目に合う。
この間もささっと終わる依頼が倍以上時間が掛った。
今だって……」
ブツブツと不満駄々漏れなブルクハルト。
「悪かったよ。
僕だって……迷惑かけたかねぇよ……」
ギルバードは急に汐らしくなる。
「……わりぃ、言いすぎた。
この前も、困ってるおばあさんの薬草採り手伝ってただけだもんな。
お前は困ってる人ほっとけない。
だが、それと今回の件は皆無」
ギルバードの様子を見てブルクハルト内心言いすぎたと反省している。
「僕、嬉しかったんだよ。
最弱で落ちこぼれで引き取り手のない僕とペアになってくれてさ」
虚ろな目でギルバードはブルクハルトを見る。
「そっか……」
ギルバードの言葉にブルクハルトはじーんと心が熱くなった。
「なーんてな。
嫌よ、嫌よならさっさと終わらせちまおうぜ。
僕の顔なんざ見たくないだろうからな」
ケロッとした顔でギルバードは立ち上がる。
「はぁ?」
今までのは何だったのかとブルクハルトはまたイラッとした。
「てことで、僕は追跡する。
見つかったら連絡する」
ギルバードはリュックから小型のアンテナがついた装置を取り出した。
「お前、それ……」
不思議な装置を見てブルクハルトは目を丸くして驚いている。
「追尾のチップつけといた。
僕、魔法苦手だからな。
追尾の魔法かけても作動しない可能性でかかったからな。
いいかい、一言言っとく。
魔法が使えないわけじゃないからな。
苦手なだけだからな」
装置をガチャガチャとセットしながらギルバードは言う。
「あざといな」
ギルバードの行動が予測不能でブルクハルトは困惑しているようだ。
「弱い奴は弱い奴なりのやりかたがあるんだよ。
わかったかい、秀才君」
セットを終えたギルバードはブルクハルトに向き直る。
「頭の回転はピカイチなんだが何故評価されないんだ?」
ギルバードの知識にブルクハルトは驚きを隠せない。
「知らん」
すました顔でギルバードは言う
「そうだよな。
知っていたらこんなのじゃないだろうしな」
腕組みをしてブルクハルトは一人ウンウンと納得している。
「こんなので悪ぅございました」
ブルクハルトの嫌味にジトーッてギルバードは視線を向けて言い返す。
「(コイツは魔力の石の恐ろしさわかってるのだろうか……?)」
危機感を感じていないような素振りを見せるギルバードにブルクハルトは心配の色を隠せない。
「急に黙り込んで気持ち悪……」
黙りなブルクハルトにギルバードは少しびびる。
「気持ち悪いとは失礼な……」
ギルバードの言葉にブルクハルトはムッとする。
「早く終わらせようぜ。
腹減った」
そう言いながらギルバードは装置が差す方角へてくてくと歩き出した。
「(この調子だとわかってないな)」
歩き出したギルバードの後を不安を残しつつブルクハルトはついていく。
◇2、追跡開始!◇
「ムムッ」
森の奥深いところに到達した途端追跡してたギルバードは急に足を止め、装置を凝視している。
「どうした?」
足を止めたギルバードをブルクハルトは不思議そうにみた。
「追跡出来なくなった。
気づかれたか?
それとも僕のお手製だからポンコツだったか?
持ち主に似るからな」
ギルバードは眉間にしわを寄せ困ったような顔をする
そして腹が立ったのか装置を地面に叩きつけた。
叩きつけられた勢いで装置からは煙が立ち上った。
「どうするんだ?
てか、んなモン作れるとかお前頭良すぎるだろ。
俺に秀才と言ったのは嫌味か?」
壊れた装置を拾い上げブルクハルトは装置をしげしげと見る。
装置を破壊してしまったギルバードの気の短さに内心驚いていた。
「そんな事言ったか?
まぁ、いいや。
持ち去られてそんなに時間は経ってない。
近くにあるはずだ」
壊れた装置には見向きもせず、ギルバードは辺りをキョロキョロと見渡している。
「勘か?
(都合が悪いことは忘れる便利なオツムだな)」
ブルクハルトはギルバードの言動に呆れている。
「勘に決まってるだろ?」
何故か威張るギルバード。
「やっぱり。
聞いた俺が馬鹿だった。
仕方ない……」
そっと目を閉じブルクハルトは瞑想を始めた。
「ん?」
ブルクハルトの行動をギルバードは不思議そうに見ている。
「……微かにこっちから魔力を感じる」
フッと目を開きブルクハルトは森の更に奥深くを指差した。
「わかるのか?」
ブルクハルトの目の輝きが変わりギルバードは少し驚いている。
「魔力の石と俺の魔力を共鳴させてるんだ」
真剣な眼差しのままブルクハルトは答える。
「何だ、そんな事出来るなら初めからやってくれよ」
ブルクハルトを肘でぐりぐりとつつきながら、ギルバードは言う。
「出来ればやりたくなかった」
ギルバードの肘を押し退けながらブルクハルトは深く息を吐いた。
「出し惜しみか?
けっ、これだから魔導師様はよぉ」
嫌味たっぷりにギルバードは文句を言う。
「……俺の魔導師生命が絶たれる可能性があるからな」
いつもなら言い返すブルクハルトが静かに口を開いた。
「どういう事?」
ブルクハルトの様子がおかしいのにギルバードは気づいたようだ。
「魔力の石はな……。
強い魔力が大好物なんだ。
強い魔力を持つものの魔力を容赦なく奪う。
そして、魔力を持たないものへ分け与えるのさ」
そういいながらブルクハルトは心なしか足を早めた。
「じゃあ、さっきも吸われていたのか?」
ブルクハルトのことを心配しながらギルバードは尋ねる。
「いや。
石の力は封印されていたからな。
俺自身も防御の魔法をかけていたからな。
しかし、異様な感じがしてな。
一か八かだったが……封印が解かれていたようだな。
今は探すために解放して共鳴させてるから吸われてる」
ブルクハルトの額にはうっすら汗が浮かんでいる。
「吸われてるとこ悪いんだが……お前は魔力の石の秘密知ってるんだろ?」
ブルクハルトの体調を気遣いながらもギルバードは質問を続ける。
気になったらとことん追求するタイプのようだ。
「ああ。
恐ろしいのはこれからさ。
つまり……魔力を持たないものが増量した魔力をまるっともらえる。
しかし、魔導師として訓練されていない肉体は増大な魔力を蓄えれず崩壊する。
魔力があるものは魔力を吸われ、魔力を持たないものは魔力で崩壊するのさ。
要は小さな容器に無理矢理中身を詰めて破けちまうのと原理は一緒さ」
ギルバードにわかりやすいようにブルクハルトは説明する。
「何でそんな危険な石がギルドに?」
ブルクハルトの言葉でギルバードの中で疑問が更に膨らんでいく。
「わからん。
さっきも言ったが石が封印されていたのは間違いない」
ブルクハルトは首を横にふり、難しい顔をしている。
「封印?」
ブルクハルトの言葉にギルバードは首を傾げた。
「ああ。
現に魔力の石の作用を受けてる奴は誰もいなかったからな」
ブルクハルトは額の汗を拭いながら言う。
「ますます謎だな。
何のために魔力の石があったのか、誰が封印していたのか。
そして何故今頃になって神殿に持っていく事になったのか。
この依頼、怪しいとは感じてたがな」
ギルバードも腕組みをし考え込んでいる。
「だからこの依頼、金額よくても余っていたんだろうな」
ブルクハルトは歩みを早める。
急いでいるようだ。
「魔力の石の危険性、知っていたのか?」
急ぎ足のブルクハルトに遅れをとらないようにギルバードもついていく。
「知っていたさ。
俺はこう見えても魔導師なんだぜ。
魔力の石の話くらい知ってるさ。
まぁ、封印されてる限りは安全だと思って引き受けた」
急いでいるブルクハルトだが、息がだんだん荒くなっている。
「こう見えての意味がよくわからないけど……。
理由なんて関係ない。
任務遂行するだけ。
僕らは知らなくていい。
単なるギルド員だからな。
う~、ワン!」
ギルバードはふざけてまた犬の真似をする。
「だが盗まれたら話は別だ。
……危険だ。
うっ……」
限界に達したのかブルクハルトは膝から崩れ落ちた。
「大丈夫……じゃなさそうだな。
くそ……」
立てなくなったブルクハルトにギルバードは肩を貸した。
「魔力……
魔力……
魔力……」
ギルバードの横から急に変な声が聞こえた。
「はぁ?
何言ってるんだ?
ついにとち狂ったか?」
不思議そうにギルバードはブルクハルトを見る。
「………………」
ブルクハルトはとうとう力尽きたようでギルバードの横で気を失っていた。
「……て、気絶してる。
お前が喋ったんじゃなかったのか」
横で項垂れているブルクハルトを見てギルバードは辺りをキョロキョロと見渡した。
「お前らが探してるのはこれか?」
二人の前に突如謎の男が現れた。
黒いローブを纏った男は薄気味悪く感じた。
「それは魔力の石!
誰だお前!」
いきなり現れた黒いローブを纏った男の手には魔力の石が握られていた。
それを見てギルバードは剣に手をかけいつでも抜けるように臨戦態勢に入る。
「ぐふふ……。
強い魔力を感じる……。
そいつを寄越せ!」
黒いローブを纏った男は突如手を伸ばしブルクハルトにつかみかかろうとした。
「くそっ!
コイツに指1本触れさせない!」
間一髪でかわしたギルバードはブルクハルトを後ろに隠し黒いローブの男を睨み付ける。
「生意気だ!生意気だ!生意気だ!」
黒いローブの男は魔力を解放する。
「ぐっ……。
理性を失ってやがる!」
莫大な魔力にギルバードは吹き飛ばされそうになった。
「ぐふ、ぐふ……」
魔力を解放した黒いローブの男はじわりじわりと二人に詰め寄る。
「わりぃな。
お前担いでたら剣抜けないから少し横になっててくれ。
なに、心配はいらん。
僕が守る。
……命にかけてもな。
どうやら僕は魔導師様とは縁があるみたいだ」
ギルバードはドサッとブルクハルトを地面におき剣を抜いた。
「………………ꐦ」
地面に置かれた拍子にブルクハルトはピクリと反応した。
「魔力の石を手に入れるために俺はお前たちを尾行していた。
やっと力を手に入れた。
魔力なきものは無様だと思わないか?
落ちこぼれよ」
そう言って黒いローブの男はにやりと不気味に笑った。
「ギルド員か?」
薄気味悪く笑う黒いローブを纏った男をギルバードは睨み付ける。
「忘れたか?
一緒に仕事してたじゃないか!」
そう言って黒いローブを纏った男は深くかぶっていたフードをあげた。
少しボサボサのほんのり紫かかった髪、切れ長の黒い瞳。
どこか不思議な雰囲気を醸し出している。
「お前は!
レンブラントか?」
黒いローブを纏った男の顔を見てギルバードは驚いている。
どうやら知り合いのようだ。
懐かしさと驚きでギルバードは戸惑っている。
「ぐはっ!」
突如、黒いローブを纏った男……レンブラントの背中に光の球体が直撃する。
「!?」
ハッとしてギルバードはブルクハルトの方を振り返った。
「俺が寝てる間にピーチクパーチク喋りやがって!」
そこには立ち上がっているブルクハルトの姿があった。
どうやらブルクハルトが魔法攻撃をかましたようだ。
◇3、魔力の石を巡って……◇
「いつの間に……」
誰にも気付かれず魔法攻撃をかましたブルクハルトにギルバードは驚いている。
「ついさっきお前がドサッと置いた衝撃で目が覚めたよ。
てお前、かっこつけすぎだ」
ため息混じりにブルクハルトは言う。
「聞いてたのかよ。
悪い奴だな。
しかも喋ってる時に狙い打ちとか。
体、大丈夫なのか?」
急に復活したブルクハルトの体調をギルバードは気にかけている。
「ああ。
心配ない。
魔力の石の在りかがわかったから自身に防御の魔法をかけた。
これで吸われる事はない」
ギルバードの頭をがしがしと撫でブルクハルトは言う。
「よかったな」
ブルクハルトの言葉にギルバードはにんまりと笑う。
「よくないな。
早く封印しないとアイツは崩壊する。
完全に魔力の石にとりつかれてる。
不味いぞ……」
そう言ってブルクハルトはふらついているレンブラントを見る。
「封印なんかさせない!」
ブルクハルトの言葉を聞いたレンブラントはよろめきながら立ち上がり物凄い瞬発力でブルクハルトに体当たりした。
「ぐっ、何て力だ……。
魔力を得て力もあがったか?」
レンブラントの余りのパワーにブルクハルトはギリギリ踏ん張った。
「ごふっ!ごふっ!」
ブルクハルトに体当たりしたレンブラントはいきなり膝から崩れ落ちる。
「おいっ!」
苦しむレンブラントをギルバードは支えた。
「崩壊が始まったか。
早く魔力の石を返してくれ」
自我を失いかけているレンブラントを見てブルクハルトは内心焦っている。
「……やっと力が手に入ったんだ。
俺はもう最弱じゃないんだ……」
ギルバードの手を払いのけ、囁くようにレンブラントは言う。
「最弱?」
魔力の石の力を得たにしてもレンブラントから圧倒的なパワーを感じていたブルクハルトは首を傾げた。
「……いいか、魔導師。
いいことを教えてやろう。
あんたの相棒は最弱ではない。
最弱は俺さ……」
ローブからにゅるりと手をだしレンブラントはブルクハルトを指さす。
「意味がわからない」
ギルバードの方をチラッと見てブルクハルトは益々不思議そうにした。
「なぁ、元相棒よ」
黙りのギルバードにレンブラントはにやりと笑い言う。
「はぁ!?」
気絶していて今までの経緯がわからないブルクハルトは少しいらついているようだ。
「無知な魔導師に教えてやる。
俺とバディ組んでギルドで暴れまくってたんだよ」
レンブラントはブルクハルトに説明する。
「お前は最弱じゃない」
静かにそう言うと、ギルバードはレンブラントをじっと見た。
「けっ、お情けはいらん!」
レンブラントはギルバードに向かって容赦なく魔法攻撃をする。
「ぐっ……」
避けもせず、ギルバードはモロに魔法攻撃をくらう。
吹き飛ばされそうになりながらも踏ん張って持ちこたえた。
「ギル!
大丈夫か!
何て事しやがるんだ!
元相棒だろ!
大切な仲間にこんな仕打ちしてるんじゃねぇよ!」
魔法攻撃をくらったギルバードからはうっすら煙が出ている。
ギルバードにした仕打ちが許せずブルクハルトは今にも攻撃しそうな勢いで怒鳴った。
「仲間?
そんな言葉反吐が出る!」
ズカズカとギルバードの近くによりレンブラントはギルバードを思いっきり殴った。
殴られたギルバードは吹っ飛び後ろにあった木で背中を強打した。
「くっ……。
ギルの事何て思ってやがるんだ……。
ギル!
何で抵抗しないんだよ!
やられっぱなしじゃないか!
そこまで最弱じゃねぇだろ!」
ブルクハルトはギルバードを助け起こし両肩を掴んだ。
「………………」
何か言いたそうにしてるも無言でレンブラントを見ている。
「何故避けない?
何故反撃しない?
そこの魔導師は容赦なく攻撃してきたぞ?」
ブルクハルトはギルバードに質問する。
「ああ」
ブルクハルトの問いにギルバードは短く返事し表情を変えない。
「お前俺を馬鹿にしているんだな。
お前の腕だったら俺なんか簡単に指一本でへし折れるだろ?
赤子同然にな!
俺の攻撃をまともにくらって平然としているのが何よりの証拠だ」
ギルバードを指さしレンブラントは言う。
「どういう事だ?」
レンブラントの言葉を聞いたブルクハルトはギルバードをジッと見る。
「………………」
二人の会話を聞いても何も言わないギルバード。
「ふん。
あんた騙されてるよ。
そいつは最弱じゃない。
むしろ、凄腕の剣豪だ。
俺をかばって最弱のフリしてるんだ。
なぁ、ギルバード。
その偽善……虫酸が走る!
ぐぐ……」
レンブラントは話終えると脱力したのか急に体制を崩した。
「わりぃな。
喋ってる間にあんたの魔力を封印した。
死んでしまう前にな……」
レンブラントが話している最中にブルクハルトは魔力の石に吸われ続けるレンブラントの魔力を封印した。
「よ、余計な事を……。
魔導師が魔導師の魔力を封印するとは……。
相当の実力だな……」
魔導師である自分の魔力を封印されレンブラントは内心驚いている。
「この石が全ての元凶……」
今まで黙っていたギルバードが口を開いたかと思うといつの間にか手の中に魔力の石を握りしめていた。
「お前、いつの間に!」
あまりのギルバードの素早さにブルクハルトは目を丸くした。
「ぐぐっ!
何故砕けない?」
ギルバードは渾身の力をこめて魔力の石を握り潰そうとしたが全く変化がない。
「それが魔力の石さ。
どんなに力があっても砕けない。
いや、傷一つつかない。
魔力の石自身の力が封印されてもな」
ギルバードの様子を見てブルクハルトは言う。
「お前の馬鹿力でも無理だ」
レンブラントも首を横にふった。
「くそっ!」
悔しかったのかギルバードは魔力の石を地面に叩きつけた。
叩きつけられた反動で魔力の石が大きくバウンドした。
「おっと。
すまんな、悪さされる前に封印しとくわ。
俺は賢者じゃないから一時凌ぎだがな」
都合よくブルクハルトの前に跳ね返って来た魔力の石を上手にキャッチして魔力の石の力を封印した。
「……俺はまた弱くなった」
自身の力も封印され魔力の石の力も封印され戦う術をなくしたレンブラントは落胆した。
「バカ」
ジロリとレンブラントの方を見てギルバードは言う。
「あ?」
いきなりバカと言われレンブラントはムッとする。
「バカって言ったんだ。
バーカ。
力が全てじゃないっつの。
それを教えてくれたのレンだろ?」
ギルバードはレンブラントに優しい眼差しを向ける。
「……無慈悲なお前からそんな言葉が聞けるとはな。
いや、力があり余ってるお前だから言えるのか」
ギルバードの言葉にレンブラントは疑心暗鬼のようだ。
◇真実◇
「無慈悲?
力があり余ってる?
どういう意味だ?
何を隠しているんだ?」
ブルクハルトはレンブラントをじっと見る。
「………………」
まるで何かを考え込んでいるかのようにギルバードは黙っている。
「チッ、また黙りかよ。
ま、ギルド員は素性何か関係ないからな。
任務さえすれば。
お前がいう通りワンワンさ」
黙っているギルバードにブルクハルトは少しイラついている。
「俺が教えてやる。
こいつはな、力なきものはいらないと思っているのさ」
ギルバードを指差し、レンブラントは言う。
「……本当か?」
少し間を置きブルクハルトはギルバードに確かめる。
「ああ」
ギルバードは否定する事なく静かに頷いた。
「最低だな」
ギルバードの言葉にブルクハルトは愕然とした。
「ああ。
僕は最低さ。
力なきものはいらない。
邪魔だと思っていた。
しかと語尾を聞け。
思っていたと言った。
今は違う。
力なきものは守らなきゃ行けない。
与えられた力は守るためにある。
そう思っているよ」
そう言ってギルバードはグッと握り拳を作った。
「知ってる」
大きく息を吐き出しブルクハルトは言う。
内心、ギルバードの言葉に安堵したようだ。
「へ?」
ブルクハルトの言葉に驚いたギルバードは握り拳をほどいた。
「お前は全力で人を守っている。
見返りなしにな。
だから最弱だって言われてる」
ギルバードの頭をがしがしと撫でてブルクハルトは優しく笑った。
「ふっ……」
二人の様子を見てレンブラントは笑った。
心なしか穏やかな表情をしている。
「何がおかしい?」
ギルバードはキッとレンブラントを睨み付けた。
「いい相棒にであったな。
良き理解者じゃないか」
ブルクハルトを見てレンブラント言う。
「臨時だけどな」
ブルクハルトは補足する。
「俺といた時よりいい顔してやがるのが悔しい」
仲良さげな二人を見てレンブラントは少し嫉妬しているようだ。
「何言ってるんだ?
僕はレンがいたから強くなれた。
野良だった僕をギルドへと導き真の戦い方を教えてくれた。
感謝してる」
ギルバードは寂しそうにしているレンブラントをじっと見ている。
「真の戦い方……ねぇ。
戦いのプロであるブラッティ・クロウからそんな言葉を聞けるとはな驚きだ」
ギルバードの言葉にレンブラントは驚いている。
「ブラッティ・クロウだって!?」
レンブラントがポロリと漏らした言葉にブルクハルトは目を見開いた。
「……関わった奴ら全てにあらゆる不運をもらたす。
だからブラッティ・クロウというコードネームをつけられたのさ」
自身の事を隠す事なくギルバードはブルクハルトに説明する。
「待て。
ブラッティ・クロウはアサシン(暗殺者)だろ?
姿を見たものは全て抹殺されるため誰一人として正体を知らないという……」
ギルバードの言葉がまだ信じられない様子のブルクハルト。
「……昔の話さ。
アサシンの一家に産まれアサシンとして生きてきた。
アサシンだった血生臭い過去を持つ。
不運を持ってくる。
僕を見たら皆死ぬ。
てか、僕が無差別に殺っていた。
死の運び屋さ。
いいことないな」
チラッとレンブラントを見てギルバードは言う。
「俺が不運だと言ったの気にしてたのか?」
ギルバードの視線を感じたレンブラントは少し申し訳なく思った。
「そんなつまらないことは気にしない。
レンと僕はブラッティ・クロウとは知らずにたまたま出会ってギルドに導いてくれた。
人を殺める事しか知らなかった僕に色々教えてくれた。
殺すことが全てじゃないってね。
剣は人を殺めるためにあるんじゃない。
そんなつまらない使い方したら剣が可哀想だと教えてくれた。
だけど、アサシンだった過去は払拭出来ず命を狙われ続けたのさ」
憂鬱そうにギルバードは下を向いた。
「バカやろー!」
ギルバードは渾身の力をこめてレンブラントを殴った。
「ぐふっ!」
不意に殴られた避ける術もなくレンブラントはモロにくらう。
「バカやろ!バカやろ!バカやろ!」
歯止めがきかなくなったギルバードは容赦なくレンブラントを殴り続ける。
まるで今までとは別人のようだ。
「おいっ!
やりすぎだ!
死んじゃったんじゃないか?」
あまりにもギルバードがレンブラントを殴り続けるため、みかねたブルクハルトが止めに入った。
「死なない程度にしといた。
力加減はよくわかる。
アサシンの心得だ」
馬乗りになっていたギルバードはゆっくりと立ち上がった。
立ち上がったギルバードの拳からはポタリポタリとレンブラントの血が流れ落ちた。
「ヒール(他者回復)!
そういう問題じゃないだろ。
(これがアサシンの本性かよ……。
剣技を使わなかっただけまだマシか……)」
レンブラントに回復魔法をかけながらブルクハルトは冷や汗をかいていた。
「こんなのがあるからいけないんだ。
割れて良かったよ。
木っ端微塵のミジンコさんだよ!」
ギルバードの手中に残っていたバラバラになった魔力の石であった物体はパラパラと下に落ち風に吹かれ飛んでいった。
「ひゃあ……」
影も形もなくなった魔力の石にブルクハルトは顔が青ざめた。
「わりぃな。
僕といると不運になって」
真っ青な顔をしているブルクハルトにギルバードは謝った。
「ははっ!」
ダメージが回復したレンブラントがゆっくりと立ち上がった。
「何笑ってやがる」
笑いながら復活したレンブラントをギルバードは睨み付ける。
「相変わらずで安心した。
俺はギルドに向かう。
早く向かわないとお前に消されちまいそうだからな。
砕け散った魔力の石と同じ運命になりそうだからな」
くるりと方向をかえブルクハルトは立ち去ろうとした。
「待てっ!
こんだけ騒いで逃げるのか?」
立ち去ろうとしていたレンブラントをブルクハルトは呼び止めた。
「ご冗談。
俺はちゃんと罰を受ける。
……わりぃな。
再会したのに、もう会うことはないだろ」
そう言い残すとレンブラントはまた去ろうとした。
「レン!」
去ろうとするレンブラント今度はギルバードが呼び止めた。
「何だギル。
やっぱり自分で殺りたいか?
アサシンの血が騒ぐか?」
ギルバードに呼び止められレンブラントは振り返った。
「僕、さよならって言わないよ!」
涙をゴシゴシと吹きながらギルバードは言う。
「は?」
ギルバードのキザな言葉にレンブラントは耳を傾ける。
「またギルドに返り咲きしなよ!」
レンブラントに近づきギルバードはじっと見つめた。
「……どうだろな。
戻ってきた時は宜しくな」
ギルバードがあまりにもまっすぐ見つめてくるからレンブラントは少し後退りした。
「ああ!」
宜しくと言われたのが嬉しかったのかギルバードは満面の笑みを浮かべた。
「同じ魔導師として待ってるからな。
あ、魔力は返しとくよ。
死なれたら後味悪いからな」
吸い取った魔力をブルクハルトはレンブラントに返した。
「ありがとな、ブリリアント」
魔力が戻ったレンブラントは何処と無く元気を取り戻したように見えた。
そして静かに去っていった。
二人はレンブラントが見えなくなるまで見届けた。
***
「行ったな。
アイツ、名前間違えてやがった」
見届けた後、ブルクハルトはふと自分の名前を間違えられていたのに気づいた。
「ブルクが突っ込まないから認めてると思った」
何を今更……とギルバードは頭をポリポリかいた。
「タイミング逃したんだよ」
深いタメ息と共にブルクハルトは答えた。
「成る程ね。
さぁ、僕たちも戻ろう」
んーっと背伸びをしながらギルバードは言う。
さっきまで感情的になっていたとは思えない程である。
「怒られに戻るか!」
何故か意地悪っぽくブルクハルトは言う。
「くわばら、くわばら」
ブルクハルトの言葉を聞いてギルバードは腕をさすった。
二人もレンブラントに続いてギルドへと向かった。
◇4、報告◇
ーーギルドーー
ここは様々な仕事が請け負える国家経営の仕事探しの場である。
受付で仕事を探している者、掲示板をしげしげと見ている者、周りと情報交換をする者など様々な者たちが集っている。
「……お帰り。
待っていたよ」
二人がギルド内に入ると一人の女性が待ちわびていた。
黒く長い髪を下の方で束ねた長身でスレンダーな美人。
胸元の金色のバッチ(エンブレム)がキラリと光る。
黒い大きな瞳で二人を見ている。
その瞳で全てを見透かしているような錯覚を引き起こす。
「うわっ!
いきなり判定員登場!」
いきなりの登場に思わずギルバードは声をあげってしまった。
判定員とは、ギルド員がギルドの仕事を完遂出来たか判定する重要な役割を担う職業である。
判定員の判定次第でランクが決まる。
ギルド内では重役である。
因みにギルド内では非戦闘員である。
ギルド内で働く非戦闘員は金色のバッチをつけている。
「人を化け物扱いするでない」
ポカッ!
判定員はギルバードを軽く小突いた。
「いてっ。
乱暴だな」
小突かれたギルバードはわざとらしく頭を擦った。
「君が直々に来たって事はもう話が行ってるんだな?
アイツか?」
判定員がご丁寧に出迎えてくれたわけではないことを察知したブルクハルトは話をふった。
「ああ。
あたしらじゃ判定不能だ。
ギルドマスターに話はしてある。
既にお待ちだ」
ギルド員が判定不能と判断した場合、ギルドのトップで統括しているギルドマスター(通称・ギルマス)へ判断を委ねる場合がある。
判定はギルド員の人生を左右すると言っても過言ではないため、慎重に処理する必要があるのだ。
判定員はギルドマスターがいる部屋の鍵をブルクハルトに渡した。
「すまないな」
鍵を受け取りブルクハルトは謝る。
「何故謝る?
悪いことしたか?」
綺麗な瞳で判定員はブルクハルトを覗き込んだ。
「いや……」
ブルクハルトの中でさっきまでの事が脳裏を過る。
「あたし個人的には思うところもあるが建前上仕方がない」
判定員は意味深な言葉を言いブルクハルトの肩をポンポンと叩いた。
「もしかしてお前……」
「話は後でじっくり聞く。
今は行け」
ブルクハルトの話を割いて判定員は早く行くように促した。
「……行こうか」
今まで黙っていたギルバードも何かを察したのかブルクハルトの手を引いた。
「ああ」
ギルバードに手を引かれるままブルクハルトも移動した。
***
ーーギルドマスターの部屋ーー
判定員に渡された鍵を使いギルドマスターの部屋へ行った二人。
中にはいると黒い立派な椅子に男が座っている。
彼はギルドマスター。
ギルド内のトップで統括している。
トップの貫禄を醸し出すギルドマスター。
さすがと言っても過言ではない。
二人は事の経緯をギルドマスターに話した。
「ははは!」
長身で筋肉質な茶髪の大きな男、ギルドマスターは大きな口を開けて何故か爆笑する。
「何故笑うんです?」
報告が終わると同時に爆笑し始めたギルドマスターをブルクハルトは不思議に思った。
「気がおかしくなったか?」
ギルドマスターの顔をまじまじと見てギルバードは失礼な事を言う。
「おい!」
ギルバードの発言にブルクハルトは青ざめる。
「すまん。すまん。
魔力の石が割れたとな」
笑いすぎて涙が出たのかギルドマスターは目を擦った。
ギルバードの無礼は気にしてないようだ。
「すみません!」
ブルクハルトはギルドマスターの言葉を聞くや否や瞬時に頭を下げ謝罪した。
「気にするな。
あれはレプリカだ」
謝罪するブルクハルトを見てギルドマスターはにんまり笑う。
「はい?」
ギルドマスターの思いもよらない言葉にブルクハルトは唖然としている。
「と言っても、効力は本物と変わらない。
いや、同等と言っても過言ではない」
笑っていたギルドマスターは急にシリアスな顔になる。
「だから魔力を吸ったり放出したりしていたんですね」
ギルドマスターの顔を見てブルクハルトはゴクリと唾を飲んだ。
「うむ」
ギルドマスターは静かに頷く。
「誰がそんな危険なもの作ったんです?」
おぞましい力を持つ魔力の石……。
そんな石のレプリカを作る何て……。
ブルクハルトは怪訝な顔をしている。
「わからん」
首を横にふり、ギルドマスターは難しい顔をする。
「わからんとか無責任だろ」
黙っていた聞いていたギルバードが口を開いた。
「お、おい!
さっきから雑すぎだろ!」
ブルクハルトはギルバードの口を咄嗟に押さえた。
「構わん。
ギルバードの口の悪さは日常茶飯事だ。
俺の憶測だが魔力の石と同等の力を得たい何者かが作ったんだろうな。
相当な魔力と知力を持ってるであろうな。
危険だからギルドに預けられていたのだろう」
魔力の石のレプリカについてギルドマスターは話す。
レプリカについての情報は知らないようだ。
「(魔力と知力を持つ者……か)」
ギルドマスターの言葉に思い当たる節があるのか、ブルクハルトは考え込んでいる。
「はは~ん」
腕組みをしてギルバードは難しい顔をしている。
「どうした?」
ギルバードの異様な雰囲気にブルクハルトは首を傾げる。
「おかしいと思ったんだ」
眉間にしわを寄せギルバードは口を開く。
「あ?」
ギルバードの考えが全くわからないブルクハルトはジッとギルバードを見ている。
「考えてみろよ。
魔力の石が簡単に封印解かれるなんてさ、危険な代物だってなら簡易な魔法かけないだろ」
右手の人差し指を立ててギルバードは説明を始めた。
「そうだな」
ギルバードの言葉にブルクハルトはコクリと頷く。
「強力な封印をするなら賢者様くらいしかできないしな」
腕組みをしたままギルバードはうんうんと頷いている。
「(……賢者ねぇ)」
賢者という言葉にブルクハルトは反応している。
「簡単に木っ端微塵になったのにも違和感を感じた」
身振り手振りで木っ端微塵になった事を伝えるギルバード。
「確かに……」
ギルバードのリアクションの大きさにブルクハルトは少し驚いている。
「そして、本来なら極秘任務に匹敵する任務が堂々と普通の任務とならんでいた。
受付員も何の疑いも持たず受理していたしな」
ギルバードは淡々と話す。
「何故レプリカを神殿に?」
レプリカならわざわざ神殿に持っていく必要がないんじゃないかとブルクハルトは思った。
「僕の憶測だけど本物と同等に危険だから本物と一緒に封印しとこうという魂胆だろ?
それでたまたま僕らのような金に困った物好きがきたわけさ」
チラッとギルドマスターを見てギルバードは言う。
「は?
魔力の石は神殿にあるという事か?」
ギルバードの言葉にブルクハルトは首をかしげた。
「憶測だって言ったじゃん。
けど、そう考えると辻褄があうんだよね~」
ギルドマスターをじろりと見てギルバードは確信に迫る。
「もう隠せないな。
さすがだ。
その通りだ」
ギルバードの推察力にギルドマスターは圧倒されている。
「隠せてねぇから。
僕に勘づかれる時点でアウトだろ」
ギルドマスターの言葉にギルバードはすかさず突っ込みを入れる。
「うむ……」
ギルバードの突っ込みにギルドマスターは罰が悪そうな顔をしている。
「しかしレプリカと言えども木っ端微塵になったから任務失敗かな?
ほらみろ、僕といると不運になるのさ。
えっへん!」
腰に手をあててギルバードは威張っている。
「えっへん!じゃねぇよ。
威張ることじゃねぇだろ」
何故か威張るギルバードにブルクハルトは呆れている。
「今回はおとがめなしだ」
話がこじれそうなのを悟ったのかギルドマスターは話を進めた。
「ホントですか!?」
ギルドマスターの判断にブルクハルトは思わず歓喜の声をあげた。
「そもそもレプリカだ。
存在したらいけないもんだったからな」
そう言うとギルドマスターは優しく笑った。
「ありがとうございます!」
ブルクハルトはギルドマスターに深々と頭を下げた。
「なぁ、あれレプリカだろ?」
確認するかのようにギルバードはギルドマスターに問う。
「そうだ」
ギルバードの問いにギルドマスターは頷く。
「じゃあさ、アイツも……レンブラントもおとがめなしでいいだろ?」
ギルバードはギルドマスターをジッと見た。
「君たちを襲った彼か?」
ギルバードにギルドマスターは訊く。
「ああ。
レンブラントだよ。
そう言ってるじゃん」
口を尖らせてギルバードはギルドマスターに文句を言う。
「ギル~」
相変わらず無礼なギルバードにブルクハルトは困惑している。
「あー、見えん。
聞こえん」
ギルドマスターは急に目を閉じ耳を両手でふさぎ不思議な動きを始めたブルクハルトは焦る。
「はい?」
ギルドマスターの不思議な動きにブルクハルトは目が点になっている。
「何だ?
ついにとち狂ったか?」
そう言ってギルバードはなめ回すようにギルドマスターをじろじろと見た
「こ、こら!」
ギルバードの失言にブルクハルトは焦る。
「俺には何も見えないなー。
聞こえないなー」
目を閉じ耳をふさいだ状態で棒読みにギルドマスターは言う。
「!
そそ。
何もなかったんだよ。
な?」
ギルドマスターがわざと知らん顔しているのに気付きギルバードはブルクハルトに同意を求めた。
「ああ。
そうだな」
何かを察したのかブルクハルトも相槌を打つ。
「ふっ」
そっと目を開けて意味深にギルドマスターは笑う。
「んだよ」
ギルドマスターの笑みの意味がわからずギルバードは首をかしげた。
「いや、何でもない。
ほら、報酬だ」
ギルドマスターは懐から分厚い封筒を取り出し二人の前に突き出した。
「いいんですか!」
たんまりある報酬に驚いたブルクハルトは思わず一歩後退りした。
「つべこべ言わない。
ほら、依頼は山程ある。
キリキリやれ!
いいな?」
ぐいっとブルクハルトに報酬を押しつけてギルドマスターは半ば強引に渡した。
「はい!
ありがとうございます!」
ブルクハルトはありがたく報酬を受けとりお礼を言う。
「ありがとう」
ブルクハルトの手に納められた報酬を見てギルバードもお礼を言った。
「行くぞ」
いきなりブルクハルトはギルバードの腕をぐいっと引っ張った。
「どこに?」
いきなり腕を引っ張られギルバードは何が何かわからないでいる。
「いーから!
では失礼します 」
ブルクハルトはぐいぐいっとギルバードの腕を強引に引っ張る。
「達者でな」
引っ張られながらギルバードはギルドマスターに挨拶する。
「おう!」
慌ただしく出ていった二人をギルドマスターは優しく見送った。
◇5、腹が減っては戦ができぬ◇
ーー飯屋・GUGUMANーー
冒険者たち御用達の食堂。
格安で品揃えが豊富。
味も絶品と最高の食堂である。
店内は冒険者たちで賑わっている。
「飯だったんだな」
テーブルにずらりと並べられた食事を見てギルバードは言う。
そして思った。
どんだけ腹ペコなんだよ、と。
「腹へったからな」
ガツガツと食べながらブルクハルトは言う。
「なぁ」
がっつくブルクハルトに何か言いたげなギルバード。
「ん?
食わないのか?
腹へったって言ってただろ?」
食事に手をつけてないギルバードをブルクハルトは気にしている。
「食うけどさ……」
もしゃりと一口、口にいれギルバードはブルクハルトを見る。
「んだよ」
ブルクハルトは食べている手を止めてギルバードの言葉に耳を傾ける。
「さっきのギルマスのポケットマネーかな?」
ブルクハルトの顔をみながらギルバードは尋ねた。
「そうかもな。
任務は失敗したわけだし?
仕方ないけどな。
ギルマスは噂では莫大な富があるらしい。
だから気にしなくていいんじゃないか?」
何だそんな事かと言わんばかりにブルクハルトは食事を再開した。
「富、名声、力……。
全てを手に入れてトップに立つもの。
それがギルドマスターだからな」
腕を組んで渋い顔をしているギルバード。
「そんなのじゃ腹一杯にならん。
興味ないね」
肉を持ったままブルクハルトは言う。
「確かにな」
うんとギルバードは頷いた。
その日を生きるため、ギルドの仕事をしている。
だからこそ二人はそう思っているのかもしれない。
「旨いなぁ~」
美味しい料理にブルクハルトはうっとりしている。
「なぁ」
恍惚の表情を浮かべるブルクハルトをギルバードはガン見している。
「まだ何かあるのか?」
うっとりしていたブルクハルトは現実に引き戻された。
そして少し恥ずかしくなった。
「軽蔑してる?」
ギルバードはブルクハルトを覗き込むようにして尋ねた。
「は?」
意味がわからずブルクハルトは首をかしげた。
「だから!
その……あの……。
僕の事軽蔑してる?」
珍しくしどろもどろにギルバードは尋ねる。
「何で?」
まだブルクハルトは意味がわからないようだ。
「アサシンのくせに偽善ぶってるから……」
ボソボソと気まずそうにギルバードは言う。
「ああ。
軽蔑してる」
ギルバードを真っ直ぐ見たままブルクハルトは答えた。
「そっか」
心なしかしょんぼりとしているギルバード。
ブルクハルトの回答にショックを受けたようだ。
「何言ってるんだ?」
ギルバードはわざとぷぅっと頬を膨らませた。
「え?」
やっぱりギルバードは根に持っていたのかとブルクハルトは罪悪感を感じている。
「僕ははじめからブルクと組めて良かったと思ってたよ。
てか、ブルクで良かったってね」
目をうるうるさせながらギルバードはブルクハルトを見ている。
「どういう意味だ?」
散々文句を言ってたのに……とブルクハルトは不思議に思った。
「前もさ、ブツブツいいながらも僕と組んでくれたでしょ?
ブルクはいつもそうさ。
「もう、ギルと組むのはこりごりだ!」って言いながらも僕の面倒を見てくれる。
だから僕はブルクを信頼している」
満面の笑みでギルバードは言う。
「あ、ありがとな。
何かそこまで言われると照れ臭いな」
顔を赤らめてブルクハルトは頬をポリポリとかいた。
「あのさ……」
顔を赤らめるブルクハルトをじっと見るギルバード。
「ん?」
ブルクハルトはギルバードの言葉に耳を傾ける。
「何でブルクはギルド員になったの?」
興味津々にギルバードはブルクハルトに尋ねた。
「んだよ、改まって……」
ギルバードの唐突な質問にブルクハルトは眉間にしわを寄せた。
「いや、話したくないならいい」
ブルクハルトの表情を見て野暮な事を聞いてしまったとギルバードは反省している。
「お前の事だけ知って話さないのはフェアじゃないな」
ブルクハルトは大きく息を吐いた。
「いい奴だな」
ブルクハルトが嫌な気持ちになってない事がわかってギルバードはホッと胸を撫でおろした。
「今更かよ。
俺は……家族のためだな。
俺の両親は早くに他界して祖父が俺と妹を育ててくれていた。
じぃちゃんは俺と同じく傭兵でな。
もう歳で老兵になったから引退した。
で、俺が一家を支えなきゃいけなくなったわけさ。
可愛い妹もいるからな。
可愛いんだよ、妹」
遠い目をして愛しそうにブルクハルトは語る。
「そっか。
僕とは背負ってるものが違うね。
(そしてシスコン……)」
ブルクハルトの意外な一面にギルバードは少し戸惑う。
「どうだろうな。
俺の場合、単なるエゴに過ぎないかもな」
ブルクハルトはため息をついた。
「エゴじゃない!
シスコンだ! 」
ブルクハルトの言葉に反応したギルバードが叫ぶ。
「あ?
シス…… ꐦ」
ギルバードの言葉にブルクハルトは少しムッとする。
いいシーンが台無しである。
「ブルクには守るモンがあるんだよ!
それはエゴなんかじゃない!
(やべぇ、口が滑ったぜ)」
うっかり言ってはしまった事を取り繕うようにギルバードは言う。
「……ありがとな、そう言ってくれて。
(ちょっとイラッとしたがな)」
ギルバードが誤魔化しているのに気づいたがブルクハルトはあえて気づかないふりをした。
ブルクハルトの優しさである。
「僕は……アサシンから足を洗った。
一族から離脱した。
身内とは絶縁した。
ある意味、天涯孤独。
そして、いつ僕を狙う奴らが来るかわからない。
誰かを巻き込むかもしれない。
誰も傷つけたくない」
下唇を噛みしめ、ギルバードは悔しそうにしている。
「心配ねぇよ」
口を丁寧に拭いながらブルクハルトはギルバードは言う。
「え?」
顔を上げギルバードはブルクハルトを見る。
「ギルドにいればな。
考えてみろ。
ギルドはバディシステムをとってる。
つまり、一人になる確率は低いわけだ」
ブルクハルトは顔にソースをつけたまま、真剣な顔をしている。
「巻き込んだら……。
僕は人を殺める事しか知らない。
血の臭いの中……僕は……僕は……血生臭い中で生きてきたんだ……」
グラスに入った水を一気に飲み干し、ギルバードは落ちつこうとしている。
「あー!
ネガティブな意見は却下!
ギル、自分を守るために鍛えてたんだろ?」
顔についているソースに気づいたブルクハルトはごしごしと拭いながらギルバードに言う。
「まぁ、そうだけど。
よくわかったな」
ブルクハルトの観察力にギルバードは驚いている。
「今のお前の話聞いてそうなんじゃないかと思ったんだ」
ブルクハルトはふふんと自慢げな顔をしている。
「なるほど」
自慢げな顔をしているブルクハルトをギルバードはまじまじと見ている。
「だったら己を信じろ。
努力は裏切らない」
ぐぐっと握り拳を作りブルクハルトはにんまり笑った。
「そうだな。
僕、もっともっと鍛え上げるよ」
ムキムキの腕の筋肉を見せながらギルバードはポーズをとる。
「たくましいな」
ムキムキマッチョなギルバードを見てブルクハルトは思った。
ギルバードにパワーで勝つのは皆無、と。
「剣士は剣を失ったら戦う術がない。
だったら自らの肉体を使うしかないじゃん」
うんうんと頷きながらギルバードは言う。
「ちゃんと考えてるんだな」
戦い方を熟知しているギルバードにブルクハルトは武者震いした。
◇5、それぞれの関係◇
「なぁ」
グラスに入った氷をくるくる回しながらギルバードはブルクハルトを見る。
「ん?」
急にギルバードの雰囲気が変わりブルクハルトは不思議そうにしている。
「判定員とはどんな関係ないわけ?」
ギルバードは目を輝かせにやりと笑う。
「どんなって?」
ギルバードの言葉にブルクハルトは首をかしげた。
「いや、やけに仲いいから」
二人の関係をギルバードは知りたがっている。
意外とミーハーなようだ。
「仲良く見えたか?」
そんなつもりはなかったんだが……とブルクハルトは内心困惑しいる。
「うん♡」
ブルクハルトの次の言葉をギルバードはわくわくしながら待っている。
「俺の元バディさ。
同じ町で育った所謂幼馴染みだ。
俺がギルドに入るってわかった時に追いかけて来てくれたんだ」
ギルバードには隠し事できないと悟ったのかブルクハルトは話した。
「え!
じゃあ、あの人がギルド員から判定員になった人?」
ブルクハルトの言葉にギルバードは驚く。
「まぁ、そうなるな」
ギルバードの驚き方にブルクハルトは逆に驚いてしまった。
「凄いじゃないか!
判定員になるには知識は勿論、鋭い洞察力と知能その他色々クリアしないとなれない狭き門なのに!
非戦闘員だからってあなどれない!」
驚きの余りギルバードは立ち上がった。
ギルバードがここまで驚くのも無理はない。
判定員は非戦闘員。
ギルド員は戦闘員。
真逆の存在で転向する事はほぼないからである。
「あ、座ろうか」
立ち上がって周りから注目を集めているギルバードをブルクハルトは落ち着かせる。
「わりぃ、つい……」
顔を赤らめおずおずとギルバードは座った。
「アイツは……エスティアは賢者だからな。
「自分は賢者だから非戦闘員。
戦う事は苦手。
それならその事を生かしてサポーターとして判定員になりたい!」って言った時は正直驚いたがな」
ギルバードが座ったのを確認し、ブルクハルトは話を続けた。
「賢者?
もしかして、魔力の石を封印していたのって……」
ブルクハルトの話を聞きながらギルバードは話をくっつけていく。
「エスだろうな。
レプリカと気づいて簡単な魔法をかけたんだろうな。
エスくらいの力量があれば本物かレプリカなんて簡単に見破れるからな。
この事を聞こうと思ったら阻止されたからな」
腕を組んでブルクハルトは頷いている。
「で、後でじっくり話を聞くとは?」
目を輝かせギルバードはにやりと笑う。
「よく覚えてるな。
俺の嫁だからな」
ギルバードの記憶力にブルクハルトは圧倒されている。
「成る程。
ギルドのバディではなく、人生のバディになったわけね」
うっとりしてギルバードは自分の世界に入っている。
「上手いこというな。
ん?
待てよ……」
うっとりしているギルバードを見てブルクハルトはある疑問が浮かんだ。
「どうかしたか?」
ギルバード、自分の世界より無事帰還。
「ギルは何故ギルド員から判定員になった奴がいるって知ってたんだ?
これは秘密裏なはずだが?」
ブルクハルトはギルバードに疑問を投げ掛ける。
「受付員に聞いた」
平然とした顔でギルバードは答える。
受付員とはギルド員が依頼の受付やバディの登録をするのを担う職業である。
ギルドでは判定員と同じく非戦闘員である。
「それいいのか?」
情報駄々漏れでブルクハルトは心配している。
「許嫁の特権」
さらっと爆弾発言するギルバード。
「許嫁!?」
ギルバードの爆弾発言に驚きブルクハルトはひっくり返りそうになった。
「オーバーリアクションだな。
ピンクのツインテの子僕の許嫁なんだ。
因みに幼馴染みだ」
ブルクハルトとは違いギルバードは意外に冷静である。
「受付員の中でも人気の高いあの子か!」
自分を落ち着かせながらブルクハルトは受付員の顔を思い浮かべる。
「そうそう♡」
なんとなくギルバードは自慢げである。
「ギル、お前天涯孤独じゃなかったのか?」
ギルバードの言葉を思いだしブルクハルトは尋ねた。
「ある意味って言ったでしょ?
しかと聞け」
そう言ってギルバードは肉にかぶりついた。
「確かに言ったな……」
ブルクハルトはギルバードの言葉を思い返す。
「まぁ、唯一の昔馴染みってとこかな」
肉を食べながらギルバードは言う。
「あんな癒し系が許嫁……。
うらやましい……」
受付員の顔を思い浮かべブルクハルトは羨ましがっている。
「癒し系?
何か勘違いしてない?
てか、そんな事言ったら嫁さんに怒られるよ?」
羨ましがっているブルクハルトとは反面、ギルバードは珍しく眉間にシワを寄せた。
「あ?」
あまり見ないギルバードの表情にブルクハルトはきょとんとしている。
「言ったろ?
彼女は僕の幼馴染みって。
彼女も一族に加担してるんだ。
わかるだろ、この意味?」
周りをキョロキョロと見てギルバードは視線をブルクハルトに移す。
「て、事は……」
ギルバードの言っている意味を理解したのかブルクハルトは生唾を飲んだ。
「アサシンだよ。
現役のね」
声を殺してギルバードは言う。
「マジか……」
ギルバードの言葉を聞いてブルクハルトは顔が青ざめた。
「コードネームはブラッティ・ローズ。
可愛いだろ?
血の薔薇だよ~。
僕なんか血のカラスだよ。
だせぇ~」
そう言ってギルバードは軽くやけ食いする。
「げっ、一流のアサシンじゃないか!
血の薔薇可愛くないから!」
ブルクハルトは思わず持っていたフォークを落としてしまった。
「僕が一族から抜けた時、アイツ……イノレアが唯一俺を探しだしたんだ。
完璧に逃げたつもりがあっさり探し出しやがった」
動揺するブルクハルトを気にしながらもギルバードは話を続ける。
「すげぇな」
居場所をあっさりつきとめる能力にブルクハルトは感心している。
「まぁ、イノ程の実力あれば余裕なんだろうな。
遂行能力は群を抜いている。
僕は裏切った僕を殺るんだと思っていた。
許嫁に殺られるなら本望だと思った。
でも違ったんだ。
イノは……一族から抜けてフリーのアサシンになっていたんだよ。
だから一族と関係ないって僕を生かした。
許嫁も破棄したくないと。
どういう意味かわかるか?」
じっとギルバードはブルクハルトを見る。
「一緒に一族から命を狙われる?」
恐る恐るブルクハルトは回答する。
「ご名答。
命を狙われるのを覚悟で追いかけてきてくれたんだ。
泣けるだろ?」
ギルバードはわざとらしく紙ナプキンを目にあて泣き真似をする。
「ああ。
健気だな」
ギルバードが真剣なのかふざけてるのかわからずブルクハルトは反応に困っている。
「だけど、僕たちもアサシン。
身分を隠し身を隠すのも得意なわけさ。
イノにはばれたけどな。
さっきも言ったけどいつ命を狙われるかわからない。
万が一、狙われた時は……」
意味深にギルバードは間を置く。
「狙われた時は……?」
ギルバードの言葉を繰り返しブルクハルトの心音がバクバクと高鳴る。
「殺られる前に殺るだけだ」
目をキュッと細めギルバードは言う。
「………………」
思っていた通りの答えがきてブルクハルトは冷や汗がでる。
「怖いだろ?
アサシンなんてこんなもんさ。
偽りの身分で偽りの生活をしているとんでもない輩さ。
産まれながらの戦闘員さ」
自慢の上腕二頭筋を見せながらギルバードはカッコつける。
「だからネガティブな意見言うなっての。
俺はギルド員のお前しか知らない。
だろ?
それが偽りだろうが何だろうが関係ない。
それがバディ。
だろ?」
ブルクハルトはなにげにギルバードのムキムキな上腕二頭筋に目がいっている。
◇6、決意◇
「ハハハッ!」
ギルバードは笑いながら腕を戻した。
ギルバードの爆笑でいいシーンが台無しである。
「何で笑う?」
折角のいいシーンをぶち壊されブルクハルトはムッとする。
「ごめん、ごめん。
ブルクなら僕らの正体ばらさないって確信もてたよ」
笑いすぎて涙が出たのかギルバードは目をこすっている。
「はじめからそうだったんだろ?
こんだけベラベラ喋ってこっちの方が大丈夫かってヒヤヒヤしたよ」
ブルクハルトは深いため息をついた。
「んだよ。
わかってたのかよ。
面白くねぇな」
ブルクハルトの反応に口を尖らせてギルバードは文句を言う。
「ばらしたら殺されるしな」
ジーッとブルクハルトはギルバードを見る。
「またまた物騒な。
まぁ、なきにしもあらずかな。
なきものにされるだろうね~」
まるで他人事のようにギルバードは言う。
「ゾゾゾ……」
ギルバードの言葉にブルクハルトはわざと怯えたような表現をする。
「ハハッ!
冗談だって!」
手をヒラヒラさせてギルバードは笑っている。
「(俺はギルがアサシンだって知らずに無茶苦茶なこと言ってたのかもしれない……)」
笑っているギルバードを見てブルクハルトはハッと我に返った。
「どうかしたか?」
ブルクハルトの顔がひきつってるのを見てギルバードは首をかしげた。
「いや、別に。
しかし、レプリカ壊れなかったら何も知らずに神殿に行くとこだったんだよな」
ブルクハルトはしれっと話を変える。
「だよな。
で、恐らく神殿に魔力の石があるのに気づいてレプリカだってのに気づいて愕然としただろうね」
話が変わった事を特に気にする事なくギルバードは答える。
「でも、神殿に行ったらレプリカを作った奴がわかったかもしれない」
真相がわかるチャンスを失った事をブルクハルトは悔やんだ。
「どうだろう。
ギルマスですら知らない情報、僕らみたいな単なるギルド員に教えるだろうか」
ムムッとギルバードは眉間にシワをよせ難しい顔をする。
「俺たちは……」
「「ワンワンだからな!」」
ブルクハルトの言葉にギルバードは言葉を被せた。
ものの見事に二人はハモる。
「気持ち悪ッ!
クソハモったわ……」
予測不能のギルバードの言動にブルクハルトはげんなりした。
「わざとだよ」
にやにや笑いながらギルバードは言う。
「だろうな。
タイミング良かったし」
はぁっと息を吐いてブルクハルトは頭をポリポリかいた。
「まぁ、今更どうでもいっか」
切り換えが早いギルバード。
「それに今回の件で、俺たちは互いを知れた」
ブルクハルトはいい方向に持っていこうとしている。
「結果オーライ?」
ブルクハルトを覗き込むようにしてギルバードは問う。
「かな?」
うむとブルクハルトは頷いた。
「なぁ、今度剣技教えてくれないか?」
なんとなく照れ臭そうにブルクハルトは頼みごとをする。
「藪から棒に何だ?
魔剣士にでも転向するのか?」
ブルクハルトのまさかの発言にギルバードは目を丸くした。
魔剣士とは魔法と剣技を同時に使う者をいう。
魔剣士になるには両方のスキルが必要なため、茨の道である。
「ちげぇよ。
今回みたいに魔力を奪われた時、剣術習得しとけば自身を守れるだろ?
まぁ、自身だけじゃないがな」
魔剣士になるのは茨の道だとわかっているブルクハルトは護身用だと説明する。
「真面目だな~」
熱心なブルクハルトにギルバードは感心している。
「魔法使いは……魔力がなければ非力なんだよ。
お前を見習おうと思ってな」
今回、魔力を吸われ魔力を失い力を失ってしまった事。
その事がブルクハルトの中でずっと引っ掛かっていたのだ。
「反面教師?」
さっき自分が剣がなかった時の話をした事をギルバードは思い出していた。
「いや、使い方違うだろ……」
思わずブルクハルトは突っ込みを入れる。
「僕、スパルタだよ?」
わざとギルバードは意地悪っぽく言う。
「フッ、覚悟の上さ」
ギルバードがわざと言っているのがわかったのかブルクハルトは挑発するように笑った。
「じゃあ、僕にも魔法教えてよ。
僕にも魔力あるでしょ?
そしたらWinWinだろ?
さっきも言ったけどさ、剣士も剣がなかったらパワーダウンだからな」
目を輝かせてまるで子犬のようにギルバードはブルクハルトを見ている。
期待しているようだ。
「そうだな。
お前から微かだか魔力を感じる。
鍛えればいける」
フォークを片手にブルクハルトはウィンクする。
「やった!」
嬉しそうにギルバードは立ち上がり喜びの舞いをする。
「現金な奴だな。
(これでアサシンなんて信じられないな……。
無邪気すぎる)」
客の目も気にせず舞うギルバードを見てなんとなくブルクハルトはほっこりしている。
「また依頼あったら組んでくれる?」
ちょっと恥ずかしくなったギルバードは静かに座ってブルクハルトに尋ねた。
「何言ってるんだお前は」
はあっとブルクハルトはため息をついた。
「嫌なの?」
ため息をついたブルクハルトをギルバードはじっと見ている。
今回色んな事あったからバディ組むのが嫌になったんだろうなとギルバードは思った。
「ちげぇよ。
耳腐ってんのか?
さっきも言ったけど俺たちはもうバディだろ?」
そう言うとブルクハルトは斜めかけバッグからぺらりと一枚の紙を出した。
「これは!」
紙を奪うように持ちギルバードは目を見開いた。
「登録用紙。
見たらわかるだろ?」
ブルクハルトが差し出したのは正式にバディを組むための登録用紙である。
「まさかこの話するためにここに?」
ギルバードはブルクハルトがいそいそとここに誘導した本当の理由が漸く理解できた。
「はよ、飯食え。
冷えるぞ」
まだまだ残っている食べ物を指差すブルクハルト。
照れ隠しのようだ。
「うん!」
ギルバードは余程嬉しかったのか肉をロックオンしてがっつきはじめた。
「お前がいいなら……だけど」
登録用紙を渡しときながらブルクハルトは万が一断られたらどうしょうと不安だった。
「嫌な理由なんかあるもんか!
ありがとう!
(アサシンの僕を受け入れるなんてとんでもない兵だよ。
僕の正体知ったら大概の奴は尻尾巻いて去るのにな)」
嬉しさのあまりギルバードはブルクハルトを押し倒しそうな勢いで抱きついた。
「うえっ!
抱きつくな!
俺にそんな趣味はない!
肉が俺のローブについてるから!」
肉を持ったまま抱きついてきたギルバードをブルクハルトは引き離す。
ギルバードの行動でブルクハルトの不安は一気に吹き飛んだ。
「ははっ!
宜しくな相棒!」
持っていた肉をパクリと食べてギルバードは笑っている。
喜びは絶頂のようだ。
「おう。
まさに一期一会だな」
ローブについた肉汁を拭きながらブルクハルトはカッコいいことを言っている。
「うん!」
満面の笑みでギルバードは頷く。
そして何故か二人は肉を持ち肉乾杯をする。
息ぴったりである。
「(すまん、ミリアーノ。
まだお兄ちゃんは当分家に帰れそうにない。
良き相棒に出会ってしまったからな)」
ブルクハルトはギルバードに出会えた事に感謝し、置いてきてしまった妹へ謝罪した。
この後二人はギルドへと登録に向かった。
ーー……
こうして正式にバディとなった二人。
二人が世界を救う程の冒険者になるのはまだ誰も知らない……。
……ーー
決意を固めた剣士・ギルバードと魔導師・ブルクハルト。
それぞれ、色んなものを背負いながら成長していく。




